第169話、牧畜惑星ア・ムー

 

大沢涼香は、ぼんやりとした明かりのついている薄暗い部屋で目を覚ました。起き上がろうとすると手足の鎖がジャラジャラと音をたてた。

(もう、起きる時間なのかしら)

家畜である涼香には、昼も夜も関係ない。ブロイラーの様に飼育されている彼女には、もう一生太陽の光を浴びたり、青い空を見たりする事は出来ない。全裸の涼香は、立ち上がると、妊娠4か月のお腹をさすった。

(あたしの、7人目の赤ちゃん・・・また、小林君の子供かしら・・・)

涼香は、自分の赤ちゃんを見た事がない。分娩するとすぐに、牧童アンドロイドによって取り上げられ、保育カプセルに入れられてしまうのだ。そして、すぐに涼香は、次の赤ちゃんを孕むために種男とセックスに励まなければならない。

(早く、赤ちゃんを産んで、また小林君に会いたいわ)

涼香が、飼育されるようになって5年くらい経っている筈だ。時計は無いので調べようがないが、常に間断なく妊娠と出産を繰り返しているので、それが歳月を計る時計の代わりだった。つまり、7人×10か月という訳である。

(って事は、あたしもう22歳になったのね)

宇宙人に攫われた時、涼香は17歳の高校二年生だった。2003年の9月まで、まさかこんな人生を送る羽目になるとは夢にも思っていなかったのだが。

(本当なら、大学に進学にして、今頃就職活動をやってる頃よね・・・何年か働いて、彼氏見つけて結婚して、子供を生んで、お母さんになって・・・)

子供は、すでに生んでいる。子孫を残すという目的で言えば、普通の人生を送るよりも恵まれている。ただし、家畜の優良品種としてだ。

「お腹が空いたわ」

涼香は、鉄格子から首をのばして溝を流れるドロドロした液体をすすった。毎日食べている栄養満点の飼料だ。ホルモン剤も入っているようで、涼香の乳房は、年中張っており、乳人間としても搾取されていた。

「家畜619号。搾乳ノ時間ダ」

牧童アンドロイドが巡回してきた。涼香は、天井からぶらさがっている搾乳機を自分の両乳房に装着する。同時に、スティック状の愛液吸引機もオマンコに挿入させた。今日も一日中、繰り返し繰り返し、母乳と愛液を絞り取られるのだ。グレイにとって哺乳類型生物である地球人の雌が分泌する母乳と愛液は、食卓に欠かせない嗜好品なのだった。ウィーンとモーター音が鳴り、機械的な動きで乳房が揉まれ始めた。優しさも何もない単調な動きに、涼香は顔をしかめる。同時に股間のスティックも震動を始めた。

「ああ・・・ああんっ・・・」

涼香は声を出し、なるべく感じようと努力した。分泌量が少なければ、いきなり屠殺されるかもしれない。無理に絞り出される乳房が痛かった。

(小林君・・・クラスのみんな・・・まだ、生きているわよね・・・)

牧畜惑星ア・ムーに、遠い地球から救助が来る事は絶対にない。

 

 小林誠二(22歳)は、厩舎の中で目を覚ますと、ドロドロの液体状の飼料を腹一杯食べて、朝食を済ませた。優良種である誠二には、毎朝精力剤が配給される。

「今日ノ種付ケ、ノルマハ20人ダ」

牧童アンドロイドが無針注射器で、誠二の腕の血管に精力剤を注入した。昨日のセックスの疲れが残っていて、まだ体がだるく、頭がガンガンする。

「立テ、家畜327号」

誠二は首輪を付けられ、牧童アンドロイドに引き立てられた。最近の交配相手は、清林館高校の女子生徒ではない。人間牧場の経営者は、セイリンカンのブランドとは別に、もう少し安価で生産性の高い、交雑種の繁殖も考えているようだった。誠二は、清林館高校の生徒達が収容されている厩舎を離れ、家畜搬送用のエアカーで、少し離れた場所にある別の厩舎へ連れて行かれた。そこには、2000年前地球から誘拐され、数百億匹に数が増えた、古代ギリシャ人の子孫である白人が飼われている。彼らは、ネオガイア星人の同類なのだが、運よく独立を勝ち取って文明人に戻ったのはごく一部であり、大多数は家畜化されたまま、現在も養殖されているのだ。

「マズハ、コノ雌カラダ」

今日の一人目の交配相手は、若い巨乳の栗色の髪をした白人女だった。虚ろな眼をしており言葉は喋れない。生まれながらの家畜であるため、全く人間らしい教育を受けていないのだ。

「オー、オー、オー」

誠二の姿を見ると白人女は、わけのわからない呻き声をあげた。

(年齢は20代の後半くらいか。わりと美人だな・・・この女も今まで何人も、子供を産まされてきたんだろうな)

誠二は、白人女に抱きついた。2000年間に渡り、品種改良されてきただけあって肉付きが良く、巨乳である。尻にグレイの楔形文字で家畜番号456687号と焼印されている。誠二がFカップはあるかと思える巨乳を揉みしだくと、ピュッピュッと白い母乳が噴き出した。

「オー、オー、オー」

白人女は、呻きながら本能に駆られ、誠二に股間を押し付けてきた。少し体に触れただけなのにオマンコからは、夥しい愛液が、すでに洪水のように溢れ出しており、誠二は、いつもの事ながら辟易した。

(ヌルヌルのガバガバじゃねえか。これだけ締まりが悪くちゃ、やりにくいぜ)

母乳と愛液の分泌量が多いのも品種改良の結果だった。しかし、誠二とて、早漏を評価されて生き残ってきた種男である。どれだけ締まりが悪いオマンコでも、1分と経たないうちに射精した。

「ナカナカ、イイタイムダゾ、家畜327号」

牧童アンドロイドに褒められたが、別にうれしくもなかった。

「今日は、まだ朝の一発目だからな」

牧童アンドロイドは、チンポが引き抜かれた後の白人女のオマンコを、検査用のマニピュレーターで調べ、精液がちゃんと注入されているかを確認している。白人女から生まれる交雑種には、生長促進剤が使われ、短期間に大量生産されるという話だった。

「オーケーダ。次、行クゾ家畜327号」

「ああ」

誠二は、うんざりした口調で答えた。今日は、あと19人の知性のカケラもない白人女とセックスをしなくてはならない。

 

 元国語教師、鈴木景子(32歳)は、厩舎の中で愛液と母乳を絞り取られていた。この人間牧場に拉致されて5年、不妊症のためか、とうとう一人の子供も産む事が出来なかった。

「ああん・・あああん!」

絶え間なく、両乳房を吸引され、オマンコにバイブレーターを突っ込まれているため、数十分置きにオルガスムスに達している。しかし、母乳の出具合も、愛液の分泌量も、他の女生徒と比べて少ないという牧童アンドロイドの評価だった。最近は、牧場側も景子への種付けを諦めたらしく、種男もあてがわれなくなった。その代わり、栄養価の異常に高い食糧を大量に食べさせられるようになり、体重が100キロを超えてきた。

(嫌な予感がするわ・・・もしかしてあたし、屠殺されるのかしら)

景子は、恐怖に震えた。しかし、食事を拒否しようとしても、牧童アンドロイドの手によって強制的に口をこじ開けられ、胃に液体状の飼料を流し込まれるのだ。

(嫌!死にたくない・・・屠殺されて食べられるのなんか絶対に嫌っ!)

景子は気が狂いそうだった。すでに男子生徒と男性教師のほとんどが、食肉用に屠殺されたと聞く。

「家畜574号。出ロ」

牧童アンドロイドが、吸引機から景子の丸々と太った体を外し、厩舎から引き立てようとした。種男の誠二と違い、自分の檻から出されるのは、景子が、この厩舎に来てから5年間で初めての出来事である。言いようのない恐怖が、景子の背筋を凍らせた。

(まさか・・・)

自分は、厩舎の外にある屠殺場に連れて行かれようとしているのだ。

「いやああああっ!助けてええええ!誰かあああ!殺されるうううう!」

景子は、渾身の力で暴れ、逃げ出そうとした。しかし牧童アンドロイドの2本のアームが、がっしりと景子の両型を抑え、ほんの僅かも緩める事が出来ない。叫び声を上げる景子の両眼から涙がこぼれ落ち、両頬を伝った。

「助けてえええ!」

いくら泣き叫んでも、一万光年以上離れた地球から助けが来ることは絶対にありえなかった。屠殺場では、太らされた白人達が並んで屠殺機に入るのを待っていた。言葉は喋れないようだったが、全員が、獣じみた呻き声を上げながら恐怖に震えている。

「ギャアアアア!」

「グエエエエエエ!」

屠殺機のゲートの向こうからは、死んでいく白人の断末魔の叫びが、絶え間なく聞こえている。ここには、牧場主であるグレイの姿はなく、一切の作業が牧童アンドロイドと自動機械によって行われているのだ。景子の前に並んでいる白人の列が次第に短くなっていき、とうとう景子の番になった。

「入レ」

ゲートの向こうに、回転する超合金の刃がチラリと見えた。牧童アンドロイドが、景子の両手をベルトコンベアの吊金に繋いだ。

「いやあああああああっ!」

景子の巨体がゲートをくぐった。金属の刃が瞬時に景子の首の頸動脈を切開し、絶命させた。

 

 命を失った景子の肉体は、ベルトコンベアで運ばれ、逆さ吊りにされた。血を抜くためである。自動解体機のマニピュレーターで皮をはがれ、内臓を抜きとられて行く。貴重なブランド肉『セイリンカン』だ。捨てる部位は全くない。骨はだしを取るのに使われ、脳は脳味噌スープとして販売される。元々、グレイが地球の実験場で類人猿の知性を高め、人間に進化させたのは、脳味噌スープを大量に取るためだった。景子の体は、最終工程で手足を切断され、脂肪、筋肉、内蔵などの肉質別に分けられた。命を失ったばかりの肉は新鮮で、まだ細胞の大部分は生きており、桃色の筋肉や内臓がピクピクと脈動している。牧場主の宇宙人グレイ、ジ・モル・モンは、景子の肉体が解体されて行く様子を、管理室のモニター越しに眺め、満足そうにダークブルーの目を光らせた。

「あの雌の肉は、中枢惑星グ・レイの政治家達に試食品として送ってみるか」

あと十年もあれば、セイリンカンの生産は軌道に乗る。それ以前に生長促進剤を使った交雑種の出荷は、来年にも始められるだろう。

「それにしても、地球人の肉は、全宇宙の食用肉の中でも、もっとも我々の口に合う。二十万年前に地球に最初の養殖場を建設した先人に、感謝せねばならんな」

食肉ギルドの記録によると、その養殖場は地球のアフリカ大陸の赤道付近にあり、エ・デンと呼ばれていたという。そこで生まれた現生人類は、後に科学技術を身につけ、思いあがって成層圏に届く、起動エレベーターまで建設した。一万二千年前の出来事である。当時、オリオン渦状腕を管轄していた銀河警察の第二十六管区司令官は、地球人を野生動物の状態に戻すために、徹底的な破壊を行った。世に言うアトランティス戦争である。今また地球人は、同類であるネオガイア星人と偶然にも接触を果たし、科学文明の階段を急速に昇りつつあると聞く。

(近く、また、地球人の肉をめぐってドンパチがあるかもしれんな。ま、それは、銀河警察の仕事だ。食肉業者の私には、関係の無いことだがな)

ジ・モル・モンの関心は、いかに、より美味しい地球人の肉を、銀河中に流通させるか、という一点だけだった。

 

第170話、1945年(満州)

 

1945年8月8日。キャサリン・フォスター(30歳)は、満州国の奉天郊外にある細菌兵器研究所の実験棟の中で横たわっていた。3年間の実験体生活で、彼女の肉体は切り刻まれ、もはや人間の原形を留めていない。それでも彼女の意識だけはしっかりしており、正気を保っていた。

(戦争は、まだ続いているのかしら・・・・今は、一体いつ?アメリカが勝ったのなら、あたしは解放されるはず・・・)

悪魔のような研究所所長、久石重隆は、実験棟内になんらかの細菌を撒き散らしたらしい。感染した囚人は男女を問わず、別の囚人に襲い掛かりセックスに狂っている。数日間、寝食を忘れてセックスかオナニーに狂った後、彼らは決まって衰弱死するのだ。なぜか、感染者は白人ばかりで、中国系や朝鮮系の囚人には影響がないようだった。キャサリンも猛烈な性欲に襲われているのだが、体が不自由なため、他の囚人とセックスすることが出来ず、オナニーしようにも、両手が凍傷実験で切断されておりオマンコを触ることすら出来ない。時折、他の感染した囚人が彼女の体を凌辱していく。ボロボロの下半身を犯されながら、キャサリンは、新聞社ニューヨークポストの特派員として東京に来たばかりの頃を思い出していた。

(まさか、着任してすぐに戦争が始まるなんてね。あたしも運がないわ・・・こんな体じゃ、もし戦争が終わってアメリカに帰れても、もう新聞記者にはなれない・・・)

キャサリンの眼から、大粒の涙がこぼれ落ちた。込み上げてくるのは、戦争への悲しみと、自分の体を様々な実験で、切り刻んでいった久石重隆を始めとする日本人への憎しみばかりだった。

(黄色いサルなんか、皆殺しにしてしまえばいい)

開戦前は、日本文化に好意を寄せていたキャサリンも、有色人種が根絶やしにされることを望んでいた。

 

「ハルピンの731部隊から、お電話です」

久石重隆が出ると、隊長の石井四郎からだった。

『ソ連が、参戦した。すぐにすべての施設を爆破して、研究資料も焼却しろ』

「来るべき時が、来たようですな。マルタはどうしますか?」

『ソ連軍が来るまでに全員殺害して、焼却炉に投げ込め。一片たりとも証拠は残してはならん』

「仕方ありませんね。我々はどうしますか?全員自決でもしますか?」

重隆は皮肉っぽく尋ねた。

『出来れば、そうして欲しいが出来るか?』

「やってみます」

重隆は、受話器を下ろすと溜息をついた。今までの研究成果が水の泡になったのだ。もちろん重隆には、自決する気も、資料を焼却する気もなかった。

「研究資料を全て、飛行機に積み込め、内地の親父の元へ送る」

重隆は部下に非常呼集をかけ、矢継ぎ早に指示を与えた。ソ連軍の進軍スピードがどれ程のものかは判らないが、一刻の猶予もならないのは明白である。

「マルタには毒入り饅頭を配り、全員殺害後、各種実験での感染者を優先的に焼却。焼却しきれないものは塹壕に埋めろ。同時に全ての車両を集めて退却準備。施設の爆破が終わり次第、大連に向かう」

ソ連軍に捕まれば、シベリアでの強制労働と抑留生活が待っている。身分を問わず、女は強姦され、男は極寒の地で終わりのない重労働が課せられるのだ。情報によれば、降伏したドイツの東半分は、ソ連の支配下におかれ、数百万のドイツ兵がシベリアに送られたと聞く。慌ただしい作業が始まった。

「研究資料は、全て3機の飛行機に積み込みました。内地まで数時間で飛べます。ただ、パイロット以外の人員を乗せる余裕がありません」

「仕方あるまい。我々は、陸路で脱出するしかないな。満州鉄道にかけあってくれ。退却用の列車を用意しろと」

昼夜を徹しての作業だった。時間との戦いである。満洲各地からソ連軍が迫っているとの情報が入ってくる。逃げ遅れた日本人開拓民は、ソ連軍と中国民衆の両方に襲われ、身ぐるみはがれて、凄惨な略奪暴行を受けているらしい。

「隊長、毒入り饅頭が足りません」

「銃剣でマルタに止めを刺せ」

重隆自身も、実験棟を回った。愛着のある実験体に、自分の手で止めを刺すためである。

「気分はどうだね、ミス・マルタ、キャサリン・フォスター」

実験棟の中に横たわっているアメリカ女の白い裸体は、傷まみれだった。切断された両手は無く、体中にメスで切り裂かれ、再び縫合したムカデ状の手術跡がある。冬場の凍傷で付いた醜い痣で皮膚が、まだらになっていた。

「また、何かの実験にあたしのボディを使うの?」

「残念だが、もう終わりだ。最後の時が来たんだ。3年間、楽しませてくれたな。礼を言うよ」

重隆は、ピストルを構え、キャサリンの心臓を狙った。

「そう、連合国が勝ったのね。いいザマだわ。ジャップなんて絶滅されればいい。アメリカ大陸のインディアンみたいにね・・・」

キャサリンは、最後まで喋り終えることが出来なかった。銃声が響き渡り、重隆が正確に一発で、キャサリンの心臓を撃ち抜いたのだ。彼女の遺体は、部下の日本兵が他の死体とまとめて、焼却炉に投げ込むだろう。

(日本は、3000年の歴史を育む神国だ。白人なんかに滅ぼされてたまるか。他の国とは違うんだ!)

久石一族は国粋主義者の家系である。一族に共通する性質としては、冷酷非道、自己中心的で、命令無視や上司を影で葬る事など当たり前のように行う。他人を犠牲にする事に眉一つ動かさず、自分の理念に基づいてのみ行動する。重隆は、命を失ったキャサリンの死体を足蹴にし、人種的優越感を持って有色人種を見下している、白人全てへの憎悪をこめて踏みにじった。

 

8月15日、すべてのマルタの処刑と施設の爆破を完了した596部隊は、撤退を開始した。隊員とその家族、約300名がトラックに分乗して奉天市内の中央にある満州鉄道の駅を目指す。途中、久石重隆は、トラックのカーラジオで、日本の降伏を告げる天皇の玉音放送を聞いた。

『朕深く、世界の大勢と帝国の現状とにかんがみ・・・』

「本土決戦をやるんじゃなかったのか!親父め、和平派に押し切られたな」

重隆は、舌打ちをして悔しがった。ソ連参戦と原爆攻撃のダブルパンチを受けて大本営が弱気になったに違いない。奉天市内は、避難を急ぐ日本人でごった返していた。

「ソ連に侵攻された地域では、日本人狩りが始まっているそうです」

隣の席の副官が言った。

「くそっ、ここは我々が造り上げた国だ。なぜ、ロシア人なんかに渡さねばならん?」

満州国は、日本の統治下で、中国大陸全土で最もインフラが整備され、工業が発達した地域となっている。中国共産党と中国国民党も競って日本軍が敗退した満州領土への所有権を主張し始めたらしい。596部隊は、奉天駅に到着すると、無事最後の退却列車に間に合った。

「この列車、大連には向かいません。大連には既に、ソ連の落下傘部隊が降下しました。釜山へ向かいます」

列車が動き出すと、車掌が告げた。列車にはハルピンから脱出してきた政府高官や、関東軍の上級将校と、その家族でスシ詰め状態である。わずか8両編成の蒸気機関車に1000人以上の日本人が乗っているのだ。

「ソ連軍に追いつかれませんかね」

「大丈夫だ。前線の部隊には、持ち場に踏み止まって、我々が脱出する時間稼ぎをするように命令を出してきた」

軍の将官らしき男達が話しているのを重隆は聞いた。ソ連兵は、日本人とみれば、皇族であろうが、政府高官であろうが、お構いなしに捕まえ、シベリアで強制労働をさせる気らしい。女は、ソ連兵にレイプされた揚句、中国人や朝鮮人に売られる運命が待っている。列車には、高級将校の妻子や、満州政財界の貴婦人らも乗り合わせており、無事日本に帰りつけるのを祈るばかりだった。奉天を出て二日後、列車は、上空から襲って来たソ連戦闘機の銃撃を受けて機関車が破壊された。停車し、夜間だったので夜が明けるのを待っていると、朝方にはソ連の機甲部隊に周りを包囲されていた。

「無駄な抵抗はやめろ。日本は降伏した。武器を捨てて出て来い」

司令官のミハイル・コワルスキー大佐は、通訳を介して、震え上がっている日本人に呼びかけた。小銃を持ったソ連兵が、車内に押し入り武装解除を始める。乗客のほとんどは将官クラスか、上流階級の人間達ばかりで、戦闘能力のある兵士は、596部隊の隊員くらいだった。

「女だ。上玉の女が大量にいるぞ」

ソ連兵が、ロシア語で歓喜をあげていた。何年もの間、極限状態で泥にまみれてドイツ軍と死闘繰り広げた兵士達は、溜まりに溜まっている。やっとドイツとの戦争が終わったと思った途端、シベリア鉄道に乗せられ、ユーラシア大陸の反対側へ送り込まれたのだ。

「うへへへ、たまんぜ、このオッパイ」

「いやああ!」

満州銀行の頭取の娘が、ソ連兵に衣服を引き毟られ、寄ってたかって乳を揉まれていた。

「天皇陛下万歳!」

ソ連兵に犯されるのを潔しとせず、隠し持っていた包丁で自決する女もいる。日本人の男達は、なすすべもなく妻や娘達がソ連兵に弄ばれるのを見守るしかない。

「久石大佐、どうしますか?」

596部隊の副官が、重隆に囁いた。

「心配するな。研究資料は、先に飛行機で内地に送ってある。我々は、悪くても戦犯として処刑されるだけさ」

重隆は、飄々と答えた。自分の命ですら、惜しくないらしい。

(光隆は、どうしたんだろうな。サイパン戦以来、音沙汰がないが、死んだかな・・・)

重隆は、ふと弟の事を思った。

 

 ソ連軍の侵攻により、国境は封鎖された。朝鮮半島の38度線を境に、朝鮮南部と日本列島は、アメリカの占領下に、朝鮮北部と満州国はソ連軍の占領下に分割された。ソ連軍の占領下に取り残されたに日本人の数は百数十万人。彼らは帰国する事さえ許されず、ソ連兵と中国人、朝鮮人による過酷な日本人狩りの対象となった。中国人、朝鮮人は、それまで十数年に渡って支配階級だった日本人に対する憎悪が一気に噴き出し、日本人を見つけては壮絶なリンチを加え、若い女は生かしておいて妾にしたり、貧農の嫁として売られたりした。生きて捕まった男は、ことごとくソ連軍によってシベリアに送られ、老人や赤子は路上に打ち捨てられて餓死した。日本人女ばかりを集めた売春宿も開かれ、大人気になった。

「陳さんの店に行ってみるっぺ。日本人の女、好きなだけ抱けるあるよ」

中国人の男達は、連れ立って売春宿に出かけた。

「この女、憲兵の妻だったあるよ。思いっきり泣かせたら、気分がスーッとするあるね」

店主の陳好健が、客に日本人女を勧めている。人気があるのは、やはり元軍人や、憲兵の身内の女だった。

「お前の、亭主、散々威張り散らしていたあるね。でも、今は、お前、中国人のチンポしゃぶる運命ある」

日本人の女は、悲しげな表情で、あまり風呂に入っていない、汚い中国人のチンポをしゃぶり上げていた。幼児を伴った人妻もいる。

「あの女は、ハルピン大学の教授の後妻ある。あっちの上玉は、満州歌劇団の女優ある」

売春宿のオーナーである陳は、得意満面だった。陳は、ついこの間までは、日本軍に尻尾を振り、満州帝国の役人や、関東軍の軍人に賄賂をばらまいて便宜を図ってもらっていた商人だった。商魂逞しい彼は、日本の敗戦と共に、それまで、やっていた朝鮮人慰安婦の斡旋から、逃げ遅れた日本人女の売買に切り替え、大成功を収めた。いくら日本人を虐待しても、アメリカの占領下にある日本政府からは、なんの抗議も受ける心配はない。

「さあ、お前達、せっせと客のチンポを慰めるある。稼ぎの悪いやつは、メシを食わせないあるよ」

女達は、生きるために、来る日も来る日も中国人のチンポに奉仕し続けるしかなかった。日本に帰れる見込みはなく、日本政府にも見捨てられた彼女達は、現地の好色な中国人の慈悲にすがるしかなかったのだ。満州歌劇団の日本人女優達が、裸で踊り歌っていた。数年前、新天地での栄達を夢見て、内地から渡って来た可憐な乙女達も、よもや、自分達の人生の結末が、このようにして終わるなどとは、夢にも思っていなかっただろう。

「少し・・・少し休ませて下さい・・・」

三日三晩、一睡もせずに、次から次へと客の相手をさせられていたハルピン大学の教授の後妻が、ついに根を上げた。しかし、陳は許さなかった。

「ダメある、ダメある。客が、まだまだ順番待ちしているある。お前の稼ぎ悪いと、子供、寒空の下に放り出すある。」

「うっ、それだけは・・・」

後妻は、腫れ上がったオマンコを抑えて、再び客引きに戻った。店頭で顔を出し、待っている中国人男達に、品定めをして貰うのだ。

「さあ、いらはい、いらはい。今日、入荷したこの女、奉天運輸局の局長の娘ある。正真正銘の日本人の令嬢あるよ!」

陳は、自ら店頭に立ち、大声を張り上げていた。

 

中国共産党軍と、中国国民党軍も先を争うように旧満州帝国領内に乗り込んできた。狙いは、日本人の残したインフラ設備と武装解除された日本軍の武器弾薬だった。ソ連軍は、彼らの略奪を見て見ぬふりをした。元々、ヤルタ会談で、中国東北部は、中国人の手に返還する事に決まっていたのだ。長い戦いに疲れた末端のソ連兵達は、一日も早く退役し、故郷に帰る事だけを夢見ていた。奉天の日本軍慰安施設にいた朝鮮人慰安婦、崔春玉も32歳になっていた。

(故郷の光州に帰りたい)

彼女は、ソ連軍によって解放されたのだが、朝鮮南部にある光州は、ソ連ではなくアメリカの占領下にある。すでに東西冷戦が始まっており、アメリカとソ連の間には、越え難い壁が築かれつつあった。

(でも、日本人に15年間も穢され続けた、こんな体で、父母に合わせる顔がないわ・・・)

元慰安婦と知られれば、結婚相手が見つかるはずもなく、それ以前に、もう32歳で、とっくに婚期を逃していた。38度線を越える手段もない。

(死のうかしら)

崔春玉は、迷った挙句、奉天の街角で見かけた募集ポスターを頼りに、中国国民党軍の慰安婦として再就職することに決めた。

 

1947年5月。故郷の山形県に帰っていた石原莞爾(58歳)は、GHQによって開かれた軍事裁判に召喚された。

「満州事変を裏で画策したのは、この私だ。この戦争の責任は私にある。私をA級戦犯として処刑しろ」

石原は、法廷でいきまいた。

「あなたは、日米開戦当時、すでに予備役に回っていた。この法廷で、戦争責任を問うことは難しい」

検事の回答に、石原はさらに激昂した。

「ならば、この戦争の最大の責任は、1853年に浦賀に来航したペリーにある。ペリーが、黒船に乗って、我が国にやって来なければ、日本の近代化は、なされず、この戦争もなかった!」

法廷は、失笑するしかなかった。長い尋問が終わり、退席した石原の元を、その夜、一人の男が訪れた。

「ああ、君か。生きていたか」

「お久しぶりです、将軍」

上月飛輔だった。地味な労務者風の格好をしている。どこからどう見ても、元高級将校には見えない。

「GHQは、天皇制を存続させるようです。天皇に戦争責任はないという方向で話が進んでいます」

情報は、GHQに潜り込んでいる、元中野学校のスパイからのものだった。

「我々が、日本国内で決起する必要は、もうないでしょう」

「そうか、それは、よかった」

石原は、安堵したようだった。必要以上に人が死んだ。もう、これ以上血が流れるのは、たくさんだった。

「アジアの状況はどうだ?」

「東南アジア各地に残留した元日本兵が、現地人部隊と協力して、独立運動を始めつつあります。生き残った私の部下も裏から工作に当たっています」

「ようやく、私の夢見た大東亜共栄圏が実現するのか」

石原は、感慨深げだった。

「こういう形で実現するとはな・・・これで人種間のパワーバランスが、白人至上主義から、少しは緩和されるだろう。アジア諸国、インドが独立を勝ち取れば、やがてアフリカ諸国もそれに続く。植民地主義の時代は終わり、各民族が各々の国を持ち、国際機関で同等の立場で発言出来る理想の時代が来るのだ。これこそ、わたしが十数年前、満州国で夢見た五族協和の社会なのだよ・・・」

石原は、自分の死期が近い事を悟っていた。肺病が悪化していたのだ。上月飛輔は、黙って聞いていた。

「だが、一つだけ、心配な事がある。核だ」

「米ソが軍拡競争に走っています。両国は旧ナチスドイツの科学者を、先を争って確保し、新兵器の開発に当たらせています。噂ですが、人間を宇宙へ送り出す計画もあるそうです」

「宇宙か・・・宇宙人が攻めてくる・・・確か、そんな事を言っていた女がいたな。はははは、さすがの私も、そこまでは予測できんよ」

石原は、窓の外に顔を出し、満天の天の川を見上げた。そして、その2ヶ月後、地球は宇宙からの訪問者を招く事となった。

 

第171話、2009年元旦

 

2009年、元日。北川稔(35歳)は、東京日比谷公園に開村された、年越し派遣村にいた。ボランティア団体によって設営された簡易テントの中で震えながら、炊き出しのおにぎりを頬張っている。所持金は325円で、二日ぶりの食事だった。

(寒い・・・足の感覚がない・・・)

テントの外からは、視察に来た政治家が演説を行っている声が聞こえる。しかし、稔にはどうでもいい事だった。10月に派遣社員として働いていた自動車メーカーの派遣切りに合って寮を追い出され、以来ネットカフェを泊まり歩いていたが、とうとう所持金も少なくなり、県外から飲まず食わずで歩いて、この派遣村にたどり着いたのだった。

「美奈子・・・」

稔は、ある女の名を呟いた。6年前、脅迫電話でいたぶった、女刑事だ。彼女が半裸で要求に従う、無様な姿が目に焼き付いて、今も離れない。結局、足がつかない完全犯罪で、稔自身に捜査の手が及ぶことはなかった。

「古賀美奈子・・・今頃、どこで何をしているのだろう。俺のせいで警察を首になっちまったみたいだったな。プリペイド携帯も登録制になっちまったし、もう二度と、あのゲームは出来ないな・・・」

稔は、35歳になった今も独身だった。派遣社員の乏しい給料では、その日を暮らすのが精一杯で貯金をする余裕もない。女とは無縁の生活を送り、これからも無縁だろう。

(俺達は、社会の捨て駒にされた・・・こんな世界、無くなってしまえばいい・・・)

稔のその思いは、長年に渡って心の底に蓄積し、結晶石のように固まって、信念になりつつあった。

 

 総理大臣が、新年の挨拶に、さざなみ市の植民地総督府を訪れた。ネオガイア星人の総督ピタゴラスの前に、全裸で土下座をした総理大臣の顔は、苦渋のために口元が引き歪んでいる。

「新年、明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします」

総理大臣は、深々とお辞儀をした。ピタゴラス総督は、キョトンとしている。

「お前、誰だっけ?」

「日本国の総理大臣でございます」

「この前は、別の男が来ていたぞ。メガネを掛けた、やる気のなさそうな男だった。そのちょっと前は、また別の男だった。お前ら、ネオガイア星人を、おちょくっているんじゃないだろうな?」

ピタゴラス博士は、不快感を露わにした。彼が総督に就任してから3年しかたっていないが、その間、挨拶に来る日本の総理大臣は、来る度に違う奴だった。

「滅相もございません。我が国にも色々と事情がありまして、現在は、私が正式の総理大臣に間違いありません」

「ふーむ。ま、どうでもいいがな。せいぜい頑張ってくれ。わし達に反抗さえしなければ、それでよい」

「ははーっ、有り難き幸せ」

総理大臣は、全身に汗をびっしょり掻きながら、新年の挨拶を終え、ヘリポートに待機させてあった政府専用ヘリに乗り込んだ。服を着ながら同行してきた秘書官の報告を受ける。

「新年の第一回目の調査で、内閣支持率が20パーセントを切りました」

「あ、そう」

総理大臣は、怒りに満ちた表情で、素っ気なく答えた。自分自身の置かれた理不尽な立場に憤慨しているようにも見えた。

 

 お笑い芸人、成瀬美咲(25歳)は、毎年恒例の新春かくし芸大会に出演していた。

「レディピッグ美咲です。いやーん、うっふーん、もっといじめて、お・ね・ね・が・い」

美咲が、挨拶代わりに、身をくねらせて、お決まりのセリフを吐くと、観客席から笑いが起こった。手枷足枷に鼻フックは、いつものスタイルだが、体中に墨汁で『迎春』『謹賀新年』『あけましておめでとう』などの書き初めをしている。クリトリスと両乳首には、24金のピアスが光っていた。

「今日は、どんなアホな芸をやってくれるんや?」

司会者の関西芸人が、マイクを向けた。

「肛門で、お皿を回します」

美咲は、逆立ちをし、バニーガールの格好をしたアシスタントの女性が、美咲の肛門に棒を突き刺した。頭に血が上った美咲の顔が苦痛に歪む。

「ホンマに大丈夫か、お前?」

「大丈夫です。鍛えてますから」

アシスタントのバニーガールが皿を棒の先端に乗せると、美咲は尻をフリフリさせ、器用に皿を回し始めた。観客席から拍手が沸き起こった。

「ちょっと待て。おい」

司会者が、棒を美咲の肛門から引き抜き、サカサマにした。皿はくっついて落ちないような仕掛けになっていた。

「インチキやないか!」

司会者が、逆立ちをしている美咲の腹に蹴りを入れ、美咲はひっくり返った。

「キャッ!」

「逆立ちして、尻ふってるだけやん」

司会者が、怒った。審査員席からもブーイングが飛ぶ。かつて2年前、美咲が清純派女優だった頃、人気を二分していた女優の永沢エリカがコメントした。

「視聴者をだますなんて、許せないわ。ちっとも面白くないし。サイテー」

芸人になった美咲と違い、永沢エリカは今も、ドラマやCMに引っ張りだこのトップ女優である。彼女は、お高く止まった態度で、審査員席から芸人たちを論評する立場なのだ。

「全国の視聴者に謝りなさいよ」

エリカに言われて、美咲は唇を噛み、カメラに向かって土下座した。

「インチキをして、すみませんでした」

美咲は、エリカに言われて、本心から悔しかった。

「面白くなくてすみません、もでしょ!」

「面白くなくて、すみませんでした」

「来年は、ちゃんと笑わせてよね。あ、でも美咲ちゃん、来年までに、芸能界から、消えてそう」

泣きそうな美咲の表情に、観客席から笑いが起こった。

「そんな事ありません。今年も、体を張った芸で頑張ります!」

「こんな風にか?」

司会者が、美咲の顔をビンタした。

「いや〜ん、うっふ〜ん。もっと、い・じ・め・て」

「小学生みたいなギャグやな。もうええわ」

美咲の出番の収録が終わった。

 

 矢萩麻衣(23歳)は、さざなみ市のストリートにある電気店のショーウィンドウでテレビを見ていた。新春かくし芸大会での成瀬美咲の芸に腹を抱えて笑った。

「アハハハハ。この芸人、バッカみたい」

麻衣は、ボロボロのTシャツとミニスカートに、かっぱらってきたコートを上から羽織っている。今年の冬も寒かったが、路上生活も5年目に入り、感覚も麻痺していた。

「テレビを見ている場合じゃないわ。商売しなくちゃ」

麻衣は、路上に座り込むと股を広げて、ミニスカートの奥が見えるようにし、通行人に声をかけた。

「ねえ、あたしのマン毛、一本100円で買ってよ。マンコの写メも撮っていいからさ」

ミニスカートの下はノーパンだった。寒風が吹き込み、たまらなく寒い。それでもこの商売をしないと、もう、お金がないのだ。

「ねえ、おっちゃん。一発千円でやらせてやるよ」

土気色で、生気のない浮浪少女の呼びかけに反応する通行人は、ほとんどいない。何より、見るからに不潔そうなので、いくら安くても、麻衣とエッチをしようという勇気のある男は、ほとんどいなかった。その日は、結局一日かけてマン毛が7本売れただけだった。

「今日の売上700円か。メシはいつものスーパーのゴミ箱から調達するとして、酒でも買おうかな」

麻衣は、自動販売機でカップ酒を買い、飲んだ。体の中心がカーッと熱くなり、一時的に寒さを忘れることが出来る。温かい缶入りのコーンスープも買って飲む。それは、麻衣の唯一の贅沢だった。公園のテントに戻ると、ケーブル人間の木之本恵美(30歳)がいた。

「ほら、舐めさせてやるよ」

麻衣は恵美の口元に、空になったカップ酒のガラス瓶を押し当てた。ケーブル人間である恵美は、物を食べたり飲んだりは出来ないが、舐めて味わう事だけは出来る。

「うっ、うっ・・・ありがとうございます」

恵美は、ドス黒く変色して角質化した舌で日本酒を舐めた。靴磨きの仕事で舌の表面はひび割れ、日本酒が染みる。恵美は生命維持装置にセットされた栄養カートリッジで生きているのだが、残量が残り少ない。もう一人の気が狂ったケーブル人間、原田慶介を殺して奪ったカートリッジも、もう残っていなかった。

「あたし、後どれくらい生きれるの?」

恵美が、麻衣に尋ねた。

「わかんないよ。カートリッジ買う金もないし、盗むったって、普通のスーパーとかには、売ってないし。ネオガイア製品の取り扱い専門店じゃなきゃあ手に入らない。そういうところは、万引き防止装置も半端じゃないんだ」

恵美は泣き出した。

「お前、死にたいんじゃなかったの?念願叶って、よかったじゃん」

「死にたい・・・死にたい・・・あたしの人生、こんな筈じゃなかった・・・死にたくない・・・」

麻衣は、イライラして恵美の頭を蹴飛ばした。

「どっちなんだよ、てめえ!」

麻衣は、毛布にくるまった。温かくして寝ないと、今日は冷え込みがきつい。今晩辺りまた、路上生活者の中でも凍死するものが出るだろう。

 

 朝鮮半島の北部にある国の首都では、この国を治める将軍が、顔色も良く、側近たちに指示をしていた。

「今度のアメリカ大統領は、腰ぬけニダ。早速、テポドンで脅してやるニダ」

「将軍様、お体の御加減は、もうよろしいので?」

「心配ない、完全復活だ」

将軍は、前アメリカ大統領の人形に靴を投げた。一発で命中し、首がもげる。

「愉快、愉快!」

「仰せの通り、テポドンの発射準備を勧めます。今回は、どの辺りに落としましょう?やはり、日本海辺りで?」

「馬鹿もん!どうせ、やるならアラスカを狙うニダ。ついでに、日本の、さざなみ市も狙うニダ」

「宇宙人を狙うのですか?」

「我、偉大なる共和国が、何者にも恐れない事を全世界に知らしめるニダ!」

「ははーっ!」

側近は、軍のミサイル施設に、テポドンの発射準備をするように電話をした。

「今日は、私の全快祝いだ。喜び組を総動員して宴会を催せ」

将軍の鶴の一声で、早速、宴会の準備が進められた。政府高官や軍の上層部の人間も呼ばれ、やがて、ドンチャン騒ぎが始まる。喜び組のダンサーも呼ばれ、伝統舞踊を踊りながらストリップを始めた。

「飲め!歌え!」

将軍は、声を張り上げた。拉致されている日本人女性や、韓国人女性、アメリカ人女性も連れて来られる。全裸に首輪をはめられた彼女達は、侮蔑の眼差しを注がれた。

「堕落した資本主義者の女に鞭を与えたい奴はいないか?」

「では、私めが」

将軍に気に入られようと、党幹部の一人が進み出た。乗馬鞭を取り、怯えきっている日本人女の尻に鞭を入れる。

「あおおおっ!」

「謝罪しろ!謝罪しろ!我が国にした過ちを、お前の体で償うのだ!」

党幹部は、狂ったように鞭を浴びせ続けた。日本人女は絶叫し、拍手喝采が沸き起こる。

「ひっ!申し訳ございません!日本の歴史認識は間違っております!あぎゃあああ!」

日本人女は、泣き叫びながら謝罪した。1980年代に生まれた彼女自身は、何の事か理解していないが、取り敢えず、教え込まれたセリフを言わなければ、もっとひどい目にあわされる。女は、元OLで、ゴールデンウィークに香港を旅行中、工作員によって拉致されて、この国に連れて来られたのだった。宴会の参加者達は、か弱い日本人の女が虐待されているのを見るだけで、たまらない優越感を感じるている。韓国人の女達も鞭打たれた。

「同胞の癖に、アメリカ人になどに尻尾を振りやがって!この恥知らずめが!」

「ひいいいっ!将軍様こそ、我民族で唯一の偉大なる指導者でございます!ひぎゃああ!」

拉致されてきた女達は、背中や尻が真赤になるまで鞭打たれた。彼女達は、この国の指導者達の憎悪を受け止めるためだけに、拉致され、生かされているのだ。

「いやあ、今宵は、愉快、愉快、ニダ」

将軍は、アメリカ人女に靴を投げつけた。靴は、白人女の顔面にヒットし、悲鳴が上がる。

「OH!HELP、ME!HELP、ME!誰か、あたしをこの地獄から救い出してええ!」

「無駄無駄。お前の国の今度の大統領は、対話をしたいと言ってるニダ。当分戦争する気は、ないみたいニダ。諦めなさい」

将軍は、ウイスキーを飲みながら勝利の笑みを浮かべた。

 

新春かくし芸大会も、終盤に差し掛かってきた頃、成瀬美咲(25歳)に、リベンジと称して再び、出番が回ってきた。

「レディピッグ美咲です!いや〜ん、うっふ〜ん、もっといじめて、お・ね・が・い」

「また出るんか、お前、ええ加減にせえや!」

関西芸人の司会者が、美咲の頭を張り倒す。

「永沢エリカさんに笑って頂こうと思って、今度は、別の芸を考えてきました」

「永沢さん、こいつ、こんな事、言ってますよ」

審査員席からエリカが腕組をしながら睨みつけた。

「今度面白くなかったら、土下座じゃ済まないからね!」

プレッシャーをかけられた美咲が、後ろを向き、裸の尻を突き出した。肛門が鼻、オマンコを口に見立ててマジックで顔が書いてある。

「尻話術、やります」

スタジオが静まり返った。美咲が裏声で喋り始める。

「こんにちはー、あたしの名前は、デカ尻エリカです。あたしのお口、いつも湿ってるの。今日は、お髭が伸びて来たから剃ろうと思います」

美咲は、電気シェーバーを取り出し、髭に見立てた陰毛に押し当てた。ジジジジジと音がし、陰毛が剃られて行く。その振動がクリトリスを刺激し、美咲が喘いだ。

「ああ〜ん、いや〜ん。なんか気持ちいい」

オマンコからピューッと潮が噴き出した。いつもやっている潮吹き芸の応用だった。

「デカ尻エリカ、鼻が詰まっちゃった。あ、くしゃみが出そう」

美咲が綿棒の先で、鼻に見立てた肛門を刺激する。プスッと音がして放屁した。余りの下品さに、観客席からは、失笑が漏れるだけだった。

「終わったんか?」

司会者がドスの聞いた声で尋ねた。美咲がうなずくと、永沢エリカがブチ切れた。

「殺すぞ、てめえっ!」

「いや〜ん、うふ〜ん、エリカ様。あたしを、いじめ殺して」

美咲が、おちょくるように尻を振った。

「もう、許さない!終わったら、楽屋に来いっ!絶対よっ!」

普段、ツンと澄ましているエリカの顔が般若の形相に変わっていた。

 

 さざなみ市の総督府ビルの最上階にある自宅で、ピタゴラス博士は、人間椅子に座って、テレビを見ていた。新春かくし芸大会での、美咲の尻話術に呆れ返る。

「地球人は、なんて馬鹿なんだ。こんなくだらない事が平気でやれるなら、羞恥系の拷問をやる意味は、全くないな」

ピタゴラス博士の自宅は、自らが、地球人の美女を素材に作り出した人間家具で溢れている。人間椅子に人間テーブル、人間ベッドに人間シャンデリアなどだ。その他、メイド奴隷やアンドロイド数体が家事に当たっていた。ピタゴラス博士自身は独身で、同居している家族はいない。彼は、一生を拷問研究に捧げているのだ。博士は、テレビの音量を下げると、科学研究所のデメテール女史に電話をした。

「大型時空戦艦の完成具合はどうだね?」

「はい、宇宙軍の協力もありまして、艦体は、ほぼ完成しています。ですが、やはり、エンジン部分が・・・」

デメテール女史は、ネオガイア人で最初にタイムマシンを発明したクロノス博士の娘である。クロノス博士が行方不明の今、彼女が時間研究の第一人者だった。

「そんなに、難しいのかね。一体、クロノス博士は、どこから時間理論のヒントを得たのだろう?」

ピタゴラス博士は、首をかしげた。

「おそらく父は、グレイの技術資料の中から、それを見つけ出したのだと思います。ですが、その資料がどこにあるのか、父しか判りません」

おそらく、発明を自分一人の手柄にするために、元の資料は他人に見つからないよう隠したのだろう、とピタゴラス博士は推測した。

「引き続き、時間エンジンの開発を頼む。どうしても、地球の過去に戻って、確認したい事があるのだ」

「はい、判っています。父を捜索するためにも、何が何でも、時間エンジンは完成させます」

デメテール女史の電話が切れた。ピタゴラス博士はため息をつき、素肌にメイド服の絵を刺青した奴隷メイドを呼んだ。彼女が差し出す葉巻に火をつける。ネオガイア星の技術で改良された、その葉巻は、健康に全く害のない葉巻だった。

(地球の過去には、何か重大な秘密があるような気がしてならん)

ピタゴラス博士の科学者としての勘がそう告げていた。

 

 新春かくし芸大会の最後、審査員の特点で最下位を記録した美咲に、罰が行われる事になった。美咲は、逆さ吊りにされ、舞台の正面にクレーンで吊られて現れた。

「お前、今日は、ホンマにオモロなかったから、覚悟しとけや」

「いや〜ん、うふ〜ん」

司会者の合図で、美咲の体が真下に置かれた墨壷に降ろされた。顔と頭がどっぷりと墨に漬けられる。引き上げられた美咲が、真っ黒な顔でむせた。

「けほっ、けほっ」

そのまま、クレーンで真横にスライドし、巨大な和紙の上に再び降ろされた。

「人間書初めや」

クレーンは、著名な書道家の先生が操っている。『あけましておめでとう』と書くために、美咲の真っ黒な顔が、和紙に押しつけられ、無様に歪んだ。

「顔が、潰れちゃう・・・あ、待って、鼻フックが痛い・・・」

司会者が、紙の上を動いている美咲の顔にマイクを近付けると、彼女は、か細い声で訴えた。スタジオは爆笑である。美咲は何度も、吊り上げられては、墨壷に顔を漬け直され、長い髪に墨汁を含まされた。4度目の漬け直しで、ようやく書初めが完成した。最後まで、書き上げられた和紙が、垂直に吊られ、披露される。

「ヘタクソな字やなあ。先生が悪い訳やないけど」

「筆が悪いんだ、筆が」

審査員席から、突っ込みが入る。美咲は降ろされ、今度は、全身で墨壷に入った。

「何する気や?」

「もう一枚、書かせて下さい」

「巻きが、かかってるねん。もう時間が、あれへんど」

「すぐ書けますから」

全身に墨汁を浴び、真っ黒になった美咲の裸体が、壁に貼られた巨大な和紙に突進した。そして、両手両足を広げてジャンプすると、和紙に体当たりした。ボテッと鈍い音がする。

「ここまでやる芸人も、最近は、あまりおらんなあ」

美咲が、紙から離れると『大』の字が描かれていた。

「どうですか、永沢さん。これで、少しは、胸がスーッとしましたか?」

「別に」

永沢エリカは、澄ました顔で、プイと横を向いただけだった。

 

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