第167話、桜井弥生の日常生活

 

 2008年10月。六本木にある超高層ビルのワンフロアーにある男子トイレの一室で、桜井弥生(30歳)は眼を覚ました。全裸で、洋式便座の上に座ったまま眠っていたのだ。目の前には夫の桜井真司(33歳)が、同じく全裸でタイルの上にうずくまって眠っている。あの運命の結婚式から5年。この会社、JNテクノロジーのトイレで寝起きするようになってから、3年の歳月が過ぎている。

(今日も明日もあさっても、昨日と同じ日常生活が続く・・・あたし達は、このまま死ぬまで奴隷として生きていくしかないんだわ)

弥生は、まだ少しまどろみながら、そう考えた。眠っている真司を残し、男子トイレの個室の鍵を外すと外に出た。空調が効いているため寒くはない。トイレの洗面所で顔を洗い、掃除道具入れに保管してあったヘアブラシで髪をとかす。長く艶やかな黒髪だ。今日も、取引先の人間をセックス接待しないといけないかもしれないので、鏡を見ながら入念に化粧をし、香水をふりかける。首には5年間外された事のない、奴隷管理用の首輪がはめられていた。首輪は、無制限に他人の命令に従うように設定されており、無視すれば高圧電流が流れる仕掛けになっている。オフィスの時計を見ると午前6時42分だった。

「あなた朝よ、起きて」

弥生は、なかなか起きない真司の肩を揺さぶって起こした。元々この会社の社長だった真司の顔は、今ではすっかり威厳が無くなり、卑屈な奴隷顔になっていた。

「あ・・ああ・・・もう、朝か・・・眠いな」

「何言ってるのよ。早く、朝ご飯を食べて。社員様達が、出社する前に掃除をすまさなくちゃ」

弥生と真司は、休憩室の片隅に置かれた小さなワンドア冷蔵庫を開けた。冷蔵庫のドアにはマジックで『奴隷用の食べ物』となぐり書きされており、中には昨日の昼間に社員達が食べ残した弁当やお菓子が投げ込まれている。二人は、それらを冷たいまま手づかみで食べ、腹ごしらえをした。奴隷夫婦には、電子レンジの使用や、箸の使用は認められていないのだ。もし、社員から寄付された食べ物が少ない時は、近所のコンビニや飲食店のごみ箱を漁りに行くしかない。朝御飯を食べ終え、蛇口から水を直に飲んで喉の渇きを癒した二人は、オフィスの掃除を始めた。

「今日は、あたしがトイレ掃除をするわ。あなたがオフィスをやって」

「わかった」

桜井夫婦は手分けをして掃除を始めた。一番早い社員が出社してくるのは大体8時過ぎくらいである。それまでに掃き掃除と拭き掃除などを一通り終え、エレベーターの前に待機して、土下座で迎えなければならない。弥生は手際よく男子トイレと女子トイレの全ての便器をピカピカに磨きあげ、最後は舌で舐めて仕上げた。そして綺麗になった証明に便座に溜まっている水を一口づつ飲んでいった。この手順は、プログラマーの山川桃子が決めた事だった。5年前、前社長である真司の恋人だった桃子は、その時フラれた腹いせに、より過酷に弥生と真司をいじめるのだった。その日、朝一番に出社してきたのも彼女だった。

「お早うございます、山川課長様」

エレベーターの扉の両脇に真司と弥生は土下座して出迎えた。エレベーターから降りてきた桃子は、颯爽としたビジネススーツに身を包んでいる。年齢は、弥生より一つ年下の29歳だが、プログラミング課の課長を務める彼女は、上場企業幹部のオーラを発していた。

「フンッ」

桃子は、軽侮するような眼差しを、深々と頭を床に擦りつけた弥生に向けると、足元に噛んでいたガムを吐き出した。

「お食べ」

「はい、有り難く頂きます」

弥生は、口で床に落ちたガムの塊を拾い上げると、躊躇わずに嚥下した。

「美味しゅうございます」

「フン」

桃子は疲れているようだった。彼女が制作したネットワークRPGが大当たりし、現在その更新作業に追われているのだ。彼女のおかげでJNテクノロジーは、業務用ソフトから、ネットゲームの分野にも参入し、大きく業績を伸ばしている。去年課長に就任したのも、彼女の功績に報いるためだった。桃子は、仕事が忙しくて恋愛や結婚どころではないらしく、その鬱憤を、日々桜井夫婦をいじめることによって晴らしている。桃子が、オフィスの奥に消えると、桜井夫婦は、次々に出社してくる社員に一人一人挨拶をした。

「お早うございます。お仕事、お疲れ様です」

「まだ疲れてねえよ!」

通り抜けざまに蹴りを入れていく社員もいる。JNテクノロジーは、この超高層ビルの27階部分を賃借しており、手狭になってきたため、もうワンフロアーを借りる計画もあるらしい。社長の根津順平(39歳)が出社してきた。

「お早うございます、根津社長様」

桜井夫婦は、床に額をこすりつけて挨拶をした。順平が、真司には目もくれず弥生に話しかける。

「後で、社長室に来てくれ」

「はい、社長様」

弥生に朝のセックス奉仕をさせるつもりだった。5年前、ひそかに弥生に思いを寄せていた根津順平は、憧れの弥生の肉体を何度凌辱しても飽きが来ないようだった。夫の真司は無表情である。パイプカット手術を受け、種無しにされた真司は、かつての部下に妻を捧げるしかないのだ。

 午前9時、ほぼ全ての社員の出社を見届け、桜井夫婦は、エレベーターの扉前を離れた。真司は、社員達の肩を揉んだり、パシリをしたり、要求に応じてストレス発散のためのイジメを受けたりしなくてはならない。弥生は、社長室に向かった。

「根津社長様。弥生、参りました」

「入れ」

ドアをノックし入ると、社長室には根津順平が一人だけだった。社長専用の豪勢なデスクとチェア、秘書のための少し簡素なデスクが二つ並んでいる。

「ここへ来て、跪け」

「はい」

弥生は、社長の椅子に座ったままの順平の足元に跪いた。正座をした弥生の白い太腿の上に、順平がビジネスシューズの土足を乗せる。両手を伸ばし、無遠慮に弥生のCカップの乳房を揉みしだいた。

「アアン・・・」

順平は、弥生の乳首を捻り上げ苦痛に歪んだ唇にキスをする。舌を差し入れ、ネットリと弥生の舌と絡ませた。弥生の肉体は真司と違い、宇宙人による改造や損傷を全く受けていない。何度か、セックス相手の子供をはらみ、堕胎はさせられているようだったが、肉体自体は5年前と変わらず健全体だった。30歳を迎え、ありとあらゆる凌辱を毎日のように受け続けた弥生の肉体は、熟れ切った妖艶な色気を発散している。元々大手企業の社長秘書を務めていた程の逸材なので知性も高く、正統派美人とも言える美貌の持ち主でもあった。高い身長と長い黒髪、透き通る様な象牙色の肌に浮かび出た血管が、順平の嗜虐心をそそるのだ。

「フェラチオだ、弥生」

「はい、根津社長様」

「社長様でいい。この会社に社長は私一人だから」

「はい、社長様」

弥生は、そのままの体勢で順平のズボンのベルトの留め金と、ファスナーのチャックを外し、赤黒いチンポを引っ張り出した。すでに天を突く程にいきり立っている。

「お前の夫にも、見せてやりたいな」

順平は、片手でデスクの上の電話を取ると内線電話でオフィスに連絡し、真司を社長室に来させるように指示をした。3分ほどして、ノコノコと真司がやってくる。

「馬鹿真司、ここは、社長室だぞ、入る時はノックぐらいしろ」

順平は、真司を怒鳴りつけた。真司は、元々自分の物だった、社長の椅子に座っている順平を恨めしそうに見る。

「す、すみません・・・」

「そこに正座して、お前の愛妻が、犯されるところを見ていろ」

「はい社長様」

真司は、ドアのすぐ脇に正座し、順平と弥生の痴態を直視した。

「目を背けるんじゃないぞ。弥生はお前の妻だが、命令されれば誰とでもセックスをする奴隷女だ。お前はそこで、一人寂しくオナニーでもしているがいい」

順平は、弥生を四つん這いにさせると、背後から、チンポをオマンコに付き入れた。ベットリと付いた弥生の涎が潤滑液になり、スムーズに挿入出来た。真司は、その様子を見ながら、自分の種無しチンポをシゴキ始める。

「馬鹿真司、お前の代わりに弥生を妊娠させてやるよ」

順平は、腰を振り始めた。前社長の妻を背後から犬のように犯し、種付けをする。男としてこれ程の征服感が、他にあろうか。弥生のオマンコもグチョグチョに濡れ、すぐに抵抗感が無くなった。スイングする度に順平の亀頭が子宮を突き上げ、弥生は快楽に身をゆだねた。

「アアン、アン・・・社長様、とっても気持ちいいですわ。もっと・・・もっと、激しく突いて下さい・・・」

「お前の夫の馬鹿真司と、どっちがいい?」

「もちろん・・・社長様ですわ・・・アアン・・・」

真司には、聞こえている筈だった。順平が、真司の方をチラ見すると、真司は念仏を唱えるような顔で、一心に自分のチンポをしごいていた。こういったシチュエーションには、慣れ過ぎているのか、あまり怒っている風でもない。逆に妻を、目の前で寝取られている事に、倒錯した快感を覚えているのかもしれない。

「寝とられマゾめ。感謝の言葉を述べてみろ」

真司は、オナニーをしながら叫び始めた。

「種無しの、私に代わり、妻の弥生を犯して頂き、まことに有難うございます。弥生も、私の租チンを咥え込むより、社長様の立派な物を挿入頂いて、心から喜んでいる事でしょう。今後とも、我ら奴隷夫婦を、お見捨てなきよう、心行くまで苛め抜いて下さい」

真司は、そう言いながら絶頂に達した。精液が床に飛び散る。

「床を汚してしまいました。申し訳ございません」

「オナニーを続けろ。床は、後で弥生に舌で清めさせる」

「ははあっ」

真司は、オナニーを続行し、順平も、しばらくして弥生の子宮に精液を注ぎ込んだ。

「ふう、朝からいい運動になった。」

順平は、愛液で汚れたチンポを弥生の口で清めさせると、チャックとベルトを元に戻した。

「弥生、午後2時から来客がある。ゲーム雑誌の編集者の方だ。我が社の新作RPGを、大きく取り上げて貰わなければならないから、接待に手を抜くなよ」

「はい、社長様。」

弥生は、舌で、真司が床に撒き散らした精液を一滴残らず舐め取ると、夫を伴い退室していった。

 

 山川桃子は、朝からずっとパソコンに向かい、キーボードを打ち続けていた。既存のRPGの更新作業は部下に任せ、自分は、新作の構想を企画書に書いている。仕事柄、肩が異常に懲り、肩から首筋、目にかけては常にダルさを感じていた。

(今度の、新作は今までにない画期的なものにするわ。インターネットの概念を覆すような・・・)

桃子が、取り組んでいるのは、インターネット上における本格的なバーチャル空間の創出だった。人々はそこで、第二の人生を送ることが出来る。米国で始まり、失敗したリンデンラボ社のセカンドライフの桃子版だった。

(なんでも有の世界にするわ。どんな鬼畜なことでも許される世界よ。人々はここで、現実には発散出来ない、ドス黒い欲望を吐き出す事が出来るの。素敵だわ)

リンデンラボ社の物は、アダルトコンテンツに制限がかかり、紳士的なルールがあるため、心から楽しむ事が出来ない。道徳に縛られ、普通に暮らすだけなら現実の世界で、事足りる。人々がバーチャル空間に求めているのは、現実では体験出来ない無秩序な世界なのだ。そこでは人々は、殺し屋になったり、テロリストになったり、独裁者になったりする事が出来る。もちろん、娼婦になったり、人犬になったりして飼われる事も可能だ。

(ファンタジー風の世界にしたい。剣と魔法と科学が入り乱れた夢のような世界。現代と未来と中世が混在する世界。暴力とセックスが支配する究極の世界・・・)

桃子は、企画書を書きながら、自分が一つの世界を創造する神になったかのような錯覚を覚えた。

 

昼12時。根津順平は、テナントビルの最上階にある展望レストランで食事をした。弥生が、全裸で犬のように待機している他は、連れはいない。展望レストランには、他のフロアーに入居している会社の社員や、経営者達も多勢食事に来ていた。

(入れ替わりの激しい御時世だな。3年前、一世を風靡したファンド会社やIT企業も、このビルから出て行った。そして先月、アメリカ資本の、あの証券会社が破綻するとはな・・・)

資本主義の象徴とも言える、その証券会社は、このビルを舞台に若手の日本人実業家をけしかけ、日本の経済界に揺さぶりをかけていたのだ。今や世界は、宇宙人の侵略とは関係なく、経済恐慌の一歩手前の状態にある。

(今のうちに会社の保有資産を、全面的に金か円に切り替えておいた方が得策かな・・・)

順平は、漠然と考えながら、皿に残った料理を弥生に差し出した。

「食べろ」

「いただきます、社長様」

弥生は、礼を言うと、犬のように口だけで残飯を食べ、皿や食器を奇麗に舌で舐めあげた。その後、食後のタバコをくゆらせている順平の傍で口をあけ、落ちてくる灰を受け止める。しばらくすると、ホットコーヒーを飲んだ順平は、尿意を催したようだった。

「弥生、オシッコ」

「はい、社長様」

弥生は、テーブルの下に潜り込むと、他の客やウェイトレスに見えないように、長い黒髪で順平の股間にカーテンを作り、チャックを開けてチンポの先端を口に含んだ。順平は顔色一つ変えず、タバコをくゆらせながら放尿する。周囲の客からは、まさか順平が美女の口に用を達しているなどとは、到底伺い知れない。弥生は、ほのかにカフェインの苦い味がするオシッコを一滴こぼさず飲み下し、何事もなかったかのように、チャックを元に戻した。

「弥生、吸いがら」

「はい、社長様」

順平は、短くなったタバコの吸い殻を火の付いたまま、弥生の口に放り込んだ。

 

 弥生は、順平と別れるとJNテクノロジーの社員休憩室へ向かった。順平の食べ残しと、皿を舐めただけでは、とても空腹は収まらない。奴隷用のワンドア冷蔵庫を開けたが空っぽだった。休憩室のテーブルで楽しそうに雑談している事務職OLの一グループが、そんな弥生の様子に気付いたようだった。

「弥生が、こっち見てるよ」

「何か、食べたいんじゃない?」

経理課の新人OLが、食べていたポテトチップスを数枚、床にバラまいた。

「おいで、弥生。食べなよ」

「はい、ありがとうございます」

弥生は、はるかに年下のOLに丁重に礼を述べ、屈んで、落ちているポテトチップスを拾い上げようとした。

「えいっ!」

その弥生の目前で、新人OLは、パンプスを振り下ろし、ポテトチップスを踏みにじった。

「あらら、こんなになっちゃった」

粉々になったポテトチップスのカケラを見て、呆然としている弥生の表情に、OL達は、大爆笑する。

「あたし、さっきトイレに行って来たの。そのパンプスの底で踏み潰したのよ。これでも、あなた食べれる?」

「はい・・・有り難く頂きます」

弥生は手で、埃まみれになったポテトチップスのカケラをすくい上げ、口に運んだ。

「あははは、やっぱり食べたわね。ほら、これもあげるから」

OL達は、飲み残しのジュースやアイスコーヒーの入った紙コップを、弥生の前に突き付けた。氷しか入っていないものもある。

「全部あげるから、残さないでね」

「はい。いつもいつも、食べ物を頂き、感謝しております」

弥生は、紙コップの底に残った氷を噛み砕き、飲み残しと共に嚥下した。

(甘い・・・)

一円のお金も持つ事が許されない奴隷にとって、他人に恵んでもらう以外に、自動販売機のジュースを買って飲む事すら出来ないのだ。毎日毎日、妖艶な肢体を他人に弄ばれ、もし弥生が風俗嬢なら、既に一財産作っていただろう。しかし奴隷は、どれほどリスクのある仕事をこなしても、全てが、ただ働きなのだった。

「ピーナッツもあげるよ」

人事課の女が言った。

「口を開けて、受け止めな」

菓子袋からピーナッツを取り出し、放り投げた。放物線を描いて落ちてくるピーナッツを弥生は、素早く動いてパクリと口に入れる。宇宙人に捕まって曲芸をやらされていた時の経験が役に立った。

「あははは、面白ーい。ホラッ、ホラッ、もっと食え」

人事課のOLは、次々にピーナッツを投げた。弥生は、普段のおっとりした彼女の雰囲気からは、想像も出来ないような速さで動き回り、ピーナッツを口でキャッチしていく。

「ねえ、弥生。この、おにぎり欲しい?」

また別の広報課のOLが言った。弥生は、よだれを垂らさんばかりの表情で、OLの手元にある、おにぎりを見つめる。それを食べれば、空腹は満たされるだろう。

「はい、欲しいです。頂けるのでしょうか?」

「手を使わずに、お前のマンコで、お願いの書面を作成出来たらね」

広報課のOLは、胸ポケットに入っていたボールペンを弥生の足元に放り投げた。弥生は、休憩室の隅に置いてあった新聞紙の束の中から、裏面が白紙のチラシを一枚抜き取ると、床の上に広げた。そしてボールペンを拾い上げ、柄の部分を自分のオマンコにズブリと突き刺す。そして両脚を思い切り広げて中腰になり、チラシの裏に文章を書き始めた。

「クッ・・・」

無理な姿勢のため、足の内側の筋肉が痙攣し、ペン先が震える。しかもオマンコを力一杯締め付けていないと、ボールペンが子宮を突き上げて、抉りそうだった。

『どうか、哀れな弥生に、おにぎりを恵んでください』

割と達筆な字だった。宇宙人に捕まっている間、芸人として血の滲むような練習をしたのだ。

「へえ、やるじゃない。でも、ダメよ。『お願いします』が抜けているわ。それに、名前だけじゃなくて、『元大手電子機器メーカーの秘書、元社長夫人のマゾ奴隷、桜井弥生30歳、血液型何型、星座何座』と、ちゃんと自己紹介文も書きなさい」

「はい」

弥生は、別のチラシの裏に書き直しを始めた。ペンを秘所に挟み、腰をクネクネと小刻みに動かす姿は、まさに女として最低の恥晒しである。

『どうか、哀れな、元電子機器メーカーの秘書、元社長夫人のマゾ奴隷、桜井弥生30歳、血液型A型、おうし座に、おにぎりを恵んでください。お願いします』

弥生は、慣れない部位に神経を集中するあまり、額から汗を垂らしながら書面を書きあげた。少し震えているが達筆な字体だった。

「出来ました」

「ふーん。おうし座かあ。モウモウって鳴いてみ」

「モウ・・・モウ・・・」

弥生は、言われた通り、牛の鳴き真似をした。

「あははは。じゃ、やるよ。食いな」

広報課OLは、おにぎりを思い切り、弥生の顔面に投げつけた。鼻柱に直撃し、顔が米粒だらけになる。

「キャッ!ありがとうございます・・・・ありがとうございます・・・」

弥生は、何度も礼を述べながら。顔面から指で米粒をはがし、口に運んだ。塩味が効いた余りの美味しさに涙が出そうになった。

「おい、弥生、こっち来いよ。いい物やるぜ」

その様子を横目で見ていた営業課の山崎聡史が声をかけた。執拗に桜井夫婦を苛めたがる若手の平社員である。弥生が怯えた目で聡史を見つめながら近寄って行くと、彼は、近くのコンビニで買って来たアップルパイを差し出した。

「欲しいだろ?」

「はい」

アップルパイは、弥生の大好物だ。

「じゃあ、顔を10発殴らせろ」

聡史は、残忍な笑みを浮かべると、直立不動で歯を食い縛った弥生の横っ面を力任せに平手で殴った。パシーンと小気味のいい音がする。

「ううう・・・」

弥生は、目を閉じ、衝撃に耐えた。

「数えろよ。もう一回、1からだ」

「1・・・2・・・3・・・」

弥生は、衝撃に耐え続けた。10まで数えたが、聡史は止めなかった。

16・・・17・・・お願いです・・・・もう止めて下さい・・・午後から、セックス接待の仕事が、あるんです・・・顔が腫れちゃいます・・・」

弥生は、たまりかねて懇願した。

「あ、お前、今、反抗したな?」

「い、いえ、そんな・・・お願いをしただけですわ・・・」

「いや、お前は今、確かに反抗した。奴隷のくせに俺の命令に反抗した」

聡史は、弥生の付けている首輪の音声認識システムに判別され易いように、ゆっくり、はっきりとした口調で言った。次の瞬間、弥生の奴隷管理用の首輪から高圧電流が流れた。

「ぐぎゃああああああ!」

弥生は、両手で首元を抑え、絶叫しながら、休憩室の床を転げまわった。電流で、長い黒髪がほつれ、逆立っている。

「あっはっはっはっ、愉快、愉快。さ、外回りでも言ってくるか」

聡史は、アップルパイをゴミ箱に投げ込んだ。

「欲しけりゃ、拾って食べな」

電撃は、5分間続いた。通電が止まり、弥生が気付いた時、昼休みの時間が終わったのか、休憩室に人の姿は無くなっていた。

「うう・・・2時から、セックス接待だわ。それまでに化粧をやり直さなくちゃ・・・」

弥生は、まだ帯電して、痙攣を続けている肉体をさすりながら、ゴミ箱に投げ込まれていたアップルパイを拾い上げて頬張った。それは、甘く、美味しかった。食べ終わると、どうにか立ち上がり、トイレの掃除道具入れの中から化粧品を取り出して、女子トイレの鏡の前で化粧を始める。電撃で逆立った髪の毛を、丁寧にブラシでとかし、顔にファンデーションを塗り、口紅をつけ、眉を書き直した。仕上げに香水を振り掛ける。全裸の肉体を鏡に映し、ポーズを取って、チェックした。

(気のせいかしら、体のラインが、崩れてきているような気がするわ。なんだか、お腹も出てきたみたい・・・)

下腹部に脂肪が付き、ポコリと出ていた。

(もう、あたしも30歳だから、気をつけなきゃ・・・セックス接待が出来なくなったら、奴隷としての価値が下がってしまうわ・・・そしたら、転売されて、最後は廃棄処分されるかも)

支給品の化粧道具の他は、何一つ自分の財産を持っていない弥生だったが、命まで取られるのだけは嫌だった。

(本気でシェイプアップしなくっちゃ)

弥生は、社長室へ向かいながら決意した。

 

「弥生でございます」

2時少し前に、社長室のドアをノックした。

「入って」

中から秘書の声がし、ドアを開けると根津社長の姿はなく、女性秘書が社長デスクの隣のデスクに座っていた。20代後半の若く綺麗な女だった。紺地に白の縁取りをした高級そうなスーツを着ている。全裸の弥生は今更ながら屈辱感を感じた。

(昔のあたしを見ているみたいだわ)

「社長は、応接室よ。来客は一人、ゲーム雑誌の編集者の方よ。粗相のないように接待してね」

秘書は、文書を作成中のノートパソコンから顔も上げず、弥生に素っ気なく言った。アルバイト以下の接待奴隷には、興味もないらしい。

「失礼しました」

弥生は、社長室のドアを閉めると、すぐ隣の応接室のドアをノックした。入ると、ソファに座った根津社長と、雑誌の編集者が、熱心に打ち合わせをしている。弥生が以前にも何度か接待をした事のある市川という40代前半の男だった。弥生は、話の邪魔をしないように、応接室の隅に直立不動の姿勢で立って待つ。

「今回の企画には、わが社の社運をかけています。ぜひ、特集を組んで貰えませんか」

「ええ、それは、もちろん・・・ですが、もう少し詳しい内容を、教えて頂かないと」

「この資料が、現段階での、全てです。今、プログラミング課の山川の方で最終的な、企画書の詰めをやってます。来週には、もっと詳しい資料をお出し出来ます」

どうやら、山川桃子が制作しているバーチャル空間の話らしい。セックス奴隷に落ちた弥生には詳しい内容は、もう理解出来ない。弥生も以前は電子機器のトップメーカーに勤務していたのだが、5年の奴隷生活の間に世の中は激変してしまっている。弥生の今の仕事は商談が終わった後に、市川を、自分の肉体を使って喜ばせる事だった。打ち合わせは2時間以上続き、弥生の足が痺れて、貧血で倒れそうになってきた頃、ようやく話が終わった。

「市川さん、では、よろしく頼みます。今日はお急ぎではないのでしょう。ゆっくりして行って下さいよ。おい、弥生」

根津社長に呼ばれて、弥生は進み出た。ようやく自分の出番だ。痺れ切った足が棒のようで感覚がない。

「サービスさせて頂きますわ」

弥生は、市川の座っているソファの前にしゃがみこみ、両足を開いてオマンコを見せ付けた。市川がゴクリと唾を飲み込む音が聞こえる。この編集者は、有能なのだが婿養子であるため、女遊びなど、ここ以外では全くするチャンスがない欲求不満のムッツリスケベな男なのだ。市川は、最初平静を保っていたが、弥生の体から香る、フレグランスとマンコ臭の入り混じった甘酸っぱい匂いを嗅ぐと、理性を失った。

「では、私はこれで」

根津社長が応接室から出ていくなり、市川は弥生の体にむしゃぶりついた。形のいい乳房を片方ずつ舌で舐めあげる。刺激を受けたピンク色の乳首が勃起し、市川は、それを舌の先でコロコロと転がした。

「ねえ、編集長様。オマンコに指を入れて下さらない?」

弥生は、市川の右手を掴み、自分のオマンコへと導いた。男の指が、割れ目をまさぐり、子宮の奥へと侵入してくる。淫乱なメス奴隷として暮らしている弥生は、感じ易くなっており、市川の指が動き始めると、すぐにオマンコは愛液でグチョグチョになった。

「ああん、ああん・・・とっても気持ちいいですわ、編集長様。テクニシャンで、いっらしゃるのね」

接待用のお世辞だったが、市川は自信を持ったのか、調子に乗って、さらに激しく指を動かしてきた。

「ああん、ああん・・・」

弥生が悶えていると、ドアがノックされ、女性秘書が、よく冷えたオレンジジュースを運んできた。軽侮するような眼差しをセックス奴隷の弥生に送っている。

「プレイ後に召し上がって下さい。こちらに置いておきますわ」

「ああ・・」

市川は、プレイに夢中で、女性秘書の言葉にも、一言頷いただけだった。女性秘書は、お辞儀をして退室していく。

「編集長様の子供が産みたいわ」

弥生が、決まり文句を言った。このセリフに、大抵の男は舞い上がる。セックス奴隷とは言え、市川が普段目にする女の中でも、ハイクラスの美女が自分の子供を産みたいと、せがんでいるのだ。

「困っちゃうな、そんな事言われると・・・俺、家に中学生の息子と娘がいるんだけど」

市川は、本気で照れている。

「ねえ、入れて。編集長様のおチンポ、早く弥生のマンコに入れて。もうあたし、我慢出来ないの。ねえ、早くぅ」

弥生は、グチョグチョに濡れたオマンコを、市川の下腹部にズボンの上から擦りつけた。

「あ、ああ、判ったから、ちょっと待ってくれ」

市川は、ベルトを外し、ズボンとパンツをずり下げた。ソファに仰向けに座った市川の股間にそそり立つチンポに、弥生は騎乗位で跨った。

「うっふん・・・ああ・・いい・・・いいわ、編集長様・・・」

弥生は、大げさに悶えながら、腰をくねらせた。市川の亀頭が、膣の内壁に擦れて気持ちがいい。弥生の性感は日々のセックス接待で開発され尽くしているのだ。溢れるばかりの愛液を垂れ流し、たちまち接合部分は水浸しになった。弥生の愛液は無味無臭に近く、いくら流れ出しても、それ程、強烈な匂いはしない。

「編集長様・・・好き・・・」

弥生は、市川の唇にキスをし、舌を差し入れて口を吸い合った。タバコ臭がしたが、いちいち気にしていては、セックス奴隷は務まらない。

「中で・・・・中で出して・・・」

市川の呼吸が荒くなってきたのを感じ、フィニッシュが近いと思った弥生は、キスをやめ、耳元で囁いた。

「弥生の子宮に、編集長様の精子をぶちまけて。弥生、編集長様の子供が欲しいの・・・」

「ううっ」

市川は、低く呻き下半身を痙攣させた。ドクドクと精液が注ぎ込まれてくる感触を、弥生は体内に感じる。市川のチンポが、オマンコの中で脈動していた。

「いい・・・・いい・・・」

市川の体が、突然、今までの緊張感を失し、ぐったりとなった。セックスが終わったのだ。弥生は、まだ物足りなかったが、セックス奴隷が、自分の性欲を満たすために、疲れている相手にプレイの延長を求めることなど許されない。どうしても、最後までイキたければ、後で自分の住処であるトイレの個室に戻り、オナニーをして慰めるしかない。一息ついた市川は、ズボンを上げ、テーブルの上のオレンジジュースに手を伸ばした。

「ふう、疲れた・・・・全く、根津社長は羨ましいな。いつも、こんな美人のセックス奴隷とヤレルなんて。俺なんか、接待以外じゃ、妻のチェックが厳しくってキャバクラも行けねえんだもんな」

そう言いながら、市川は服装の乱れを直し、細心の注意を払って、浮気の痕跡が残っていないかを確かめている。彼にとって、それは何よりも最優先される事らしい。

「俺の赤ちゃん、出来てたら教えてくれよな。絶対に、引き取ったり、認知したり出来ないけどさ」

市川は、そう、冗談ぽく言い、オレンジジュースを飲み干すと、出版社に帰るために、アタッシュケースを持って、応接室を出て行った。弥生は、ガラスコップの底に少し残ったオレンジジュースをすすりながら思った。

(本当に妊娠していたら、また堕すしかないわ。セックス接待の仕事が出来なくなっちゃうもの・・・一体、今まで何回、堕ろしたのかしら)

数えてみると、5年間で7回だった。ネオガイア星の医療技術で堕しているため、今の所、後遺症は残っていない。夫の真司は、種無しで、弥生は妊娠中絶の常習者だった。

(あたし達、この世で、最も惨めな夫婦だわ・・・自分達の子供を残すことも出来ず、一生他人のオモチャとして生きていかなくちゃいけない夫婦なんて・・・)

弥生は、絶望の余り、吐き気を覚えた。

 

弥生は、股間から愛液と精液を垂らしながら応接室出ると、住処である男子トイレに向かった。掃除用のホースを蛇口につなぎ、冷水で自分の体を洗う。エアコンが効いているとはいえ、心臓が止まる程冷たかった。

(よく洗っとこ)

ベットリと体液の付いたオマンコの内側に水流を当て、特に念入りに洗った。涎で乱れた化粧を直し、キスで滲んだ口紅を引き直す。

「あっ、ああん・・・」

指で、手早くオナニーをして、不完全燃焼の欲望を沈めると、社員達が働くオフィスに向かった。時計は夕方の5時前である。いくつかのブースに仕切られたオフィスでは、JNテクノロジーの社員達が、終業時間前に仕事を終わらせようと忙しく働いていた。

「これ、コピーとって」

「この書類を経理に回して」

「コーヒー」

「肩をもめ」

夫の真司が、全裸でコマネズミのようにパシっていた。弥生もそれに加わる。5時を過ぎると、退社する社員をエレベーターの前に土下座して見送らなければならない。

「てめえ、間違えやがったな!」

何かやらかしたらしく、真司が男性社員に殴られている。外回りの営業部員は、まだ大半が戻って来ていない。弥生は、彼らの要請で、セックス接待のために社外に連れ出される事も多い。5時ちょうどに終業のアナウンスが流れた。

『皆様、本日の業務お疲れ様でした。仕事が残っている従業員の方も、なるべく早く、お済ませになられ、帰宅されますよう、お願いします』

美人の社長秘書の声だった。弥生と真司は、エレベーター前へと飛んでいく。定刻通りに退社するのは、ほとんどが事務系のOLか、派遣社員だ。

「お疲れ様でございます」

「気を付けて、お帰りなさいませ」

私服に着替えて退社する従業員達を、桜井夫婦は土下座で見送った。彼女達は、お洒落なファッションに身を包み、これからアフターファイブを楽しむのだろう。

「ねえ、ちょっと、スペイン料理の店、寄ってかない?」

「ごめん、今日、彼氏とデートなの」

桜井夫婦は、楽しそうなOL達の会話を無表情で聞いている。彼女達は、別世界の人権を持った人間なのだ。以前は社長夫妻として、遥かに下に見ていたOLや派遣社員にすら及ばない奴隷なのである。入れ替わりに山崎聡史が、外回りから戻ってきた。

「お帰りなさいませ。お疲れ様です」

「おう、弥生。来週セックス接待を頼むぜ。俺の大口顧客だから、気合を入れてな。商業ビルのオーナーで、かなりのSMマニアだそうだ」

「わかりました、山崎様」

SM、スカトロ、レズプレイ・・・接待のためなら、弥生にNGはない。常に全裸で街中を歩いているので、露出プレイも自然体でやっている。その日、もっとも夜遅くまで残業をしていたのは、やはりプログラミング課の山川桃子と、根津社長だった。夜の10時過ぎまで、バーチャル空間について打ち合わせをしていた。

「この空間で、アカウントを取得する際には、ユーザーに指紋認証を義務付けます。アカウントは、一人一アカウントを徹底し、一度バーチャル空間内でアバターが死亡したユーザーは、二度とアクセス出来なくします」

「間口を狭めるわけか」

「はい、こうする事によって、ユーザーに緊張感が生まれ、ゲーム中でも自分の身を守るために武器を持ったり、仲間を増やしたりしなくてはいけなくなります。キャラが何度でも生き返るのでは、無法地帯にする意味がありません」

桃子の意見に根津社長は唸った。

「ソフトとセットで、指紋認証の外部機器も販売しないといかんなあ。オンライン通販にしてもいいが・・・」

「アバターが、怪我や病気、人体改造をした場合も、現実世界と同じ基準で、元に戻せないものとします」

「そこまでやるのか?」

「趣味で四肢切断をし、人間犬になった者は永久に、その姿で生活しなくてなりません。ただし、病気や怪我を治す高額な薬や医療技術は、用意します。サイボーグ手術なんかもね」

「その金は、どうやって稼ぐんだ?」

「ゲーム中で働くか、犯罪を犯すか、ですね」

「つまり、手っ取り早く稼ぎたければ、銀行強盗をすればいいのか?」

「その通り。ただし、警官に撃たれて死ねばゲームオーバー。売春して性病が移って死んでもゲームオーバーになります。全ては自己責任で」

「本物の第二の人生だな・・・」

根津社長は、桃子の発想と才能が恐ろしくなった。

 

 午後11時過ぎ。終電に間に合うように根津社長と桃子が退社すると、桜井夫婦の長い一日が終わった。休憩室のゴミ箱と奴隷用の冷蔵庫を漁って夕食を終えると、寝室である男子トイレの個室に戻る。一日のうちで、夫婦がホッと一息つける唯一の時間だった。

「なあ、弥生。たまにはヤラせてくれよ。俺達夫婦だろ?」

種無しの真司が迫ってきた。

「ごめん。あたし、今日はセックス接待もあったし、疲れてるの。それよりあなた、体洗ったら?あたしは、今日昼間、接待の後に洗ったから」

弥生は連れなく断った。真司と違い、弥生は一日中、セックス接待や、男子社員相手に性欲処理をこなしているのだ。真司は、不満気に頷くと、トイレのホースで冷水を浴び始めた。冬も間近だというのに、温かい風呂に浸かるどころか、温水の使用すら許されない。弥生は、洋式トイレに座ったまま、うつらうつらと眠り始めた。毛布やシーツすらなく、全裸での睡眠である。

(後、何年、セックス奴隷として働けるかしら・・・廃棄処分は嫌・・・どんなになっても、生きたい・・・)

桜井弥生、30歳の不安は尽きない。

 

第168話、1945年(ファシズムの終焉)

 

1945年1月。Uボートの大船団が、ドイツ北部の軍港を出発した。20数隻からなる大型潜水艦には、若い純粋ドイツ人の男女や、食糧、生活必需品、開発途中の兵器類などが、積載能力の限界まで詰め込まれている。旗艦には、第三帝国総統アドルフ・ヒトラーやロンメル元帥の姿もあった。

「あとは、我々のクローンがうまくやってくれるだろう」

艦内の執務室で、ワインを傾けながらヒトラーがロンメルに言った。

「表の世界の次期総統には、カール・デーニッツを指名しておくよ。彼も、事が終わり次第クローンとすり替えて南極に引き揚げさせるがね」

「連合軍のやつら、いよいよドイツ領内に進攻してきます。私の力が足りないばかりに・・・」

ロンメルが悔しそうに言った。先月、バルジ作戦が実施され、ドイツにとってはそれが最後の反攻作戦となった。ポーランドはすでにソ連の占領下にあり、アウシュビッツ収容所も解放されたと聞く。

「戦後の国際社会は、共産主義のソ連と、資本主義のアメリカの対立となるだろうな。ユダヤ人のシナリオ通りの世界が実現するわけだ」

「シオン議定書ですか。ですが、彼らにも、計算出来ない要因があります。我々の存在です」

ロンメルが拳を握り締めた。

「米ソは、いずれ第三次世界大戦を引き起こすだろう。どちらが勝利しても、世界は、荒廃する。その時、戦力を温存していた我々が介入し、疲弊し切った世界の支配者となるのだ。そしてユダヤの支配は終わりを告げる・・・」

「我々が生きているうちに実現するでしょうか?」

「それは、なんとも言えん。第二世代、第三世代に託さなければならないかもしれん」

ロンメルは、これから訪れる南極の分厚い氷と、遠い未来の最終戦争を思い描き、気が遠くなるような思いだった。

 

 ヒトラーの旗艦には、久石千鶴も同乗していた。船団には日本へ帰る伊500型潜水艦も混じっている。桃次郎は、ある日突然ベルリンの下宿先から姿を消したまま行方不明で、伊500には乗っていない。

(死んだのかしら。もし、生きていたとしても、もう多分会う事はないわ。あたしは不死・・・永遠に生きなければならない・・・)

女性専用のキャビンで、千鶴は、スカートの中に小指のない左手を入れ、オナニーをしながら考えた。クリトリスもないため、イキにくい。

(あたしに指を詰めさせた、あのヤクザの組長・・・そう、真藤とか言ったわね。あいつも、もうすぐ生まれてくるのね。許せない・・・宇宙人と同じ位、許せないわ)

自分自身も、もうすぐ生まれてくる。21世紀初頭の世界で生きていた友達や、公安調査庁の同僚達も、もうすぐ生まれて来るのだ。

(あたしが、過去に飛ばされたのは2004年の春。その後、世界に何が起こったのか、あたしは知らない。反撃の狼煙をあげるなら、いつのタイミングがいいのだろう?2004年より前か、後か・・・ミッシェルには、悪いけど、作戦によっては歴史を改変しなくちゃいけないかもしれないわ)

千鶴は、Gスポットを探り当て、指で刺激した。2000年間のオナニー経験で自分の性感帯は知り尽くしている。最近、男日照りが続いており、元々性欲旺盛な千鶴は欲求不満気味だった。

(ドイツ人は、有色人種を抱きたがらないし、桃次郎は、あたしの子孫だからヤル気になれないし・・・田辺艦長くらいしか、相手がいないのよね)

その田辺艦長も別の潜水艦に乗ってしまっている。ヒトラーの旗艦に乗っているのは、ロンメルや、イルマ・グレーゼ。ヒトラーの妻となったエヴァ・ブラウンや、ヨーゼフ・メンゲレなどのドイツ人ばかりだ。彼らは一様に人種的偏見を持っており、日本人である千鶴を見下している。千鶴の性欲は、しばらくは自分の手で慰めるしかなさそうだった。千羽鶴教団の本部で、若いイケメン信者を、とっかえひっかえ奉仕させていた頃が懐かしかった。Uボートの船団は、連合軍に封鎖された大西洋を、細心の注意を払いながら南下していった。南米の沿岸や無人島に建設された、ナチスの秘密の潜水艦基地で補給を受けながらの航海である。南米では既に戦後の活動を見越し、地下組織や犯罪ネットワークが立ち上げられつつあり、その指揮系統はベルリンから南極の地下要塞に移管されていた。ヴァルハラと名付けられた地下要塞では、先行しているヨーゼフ・ゲッペルスが、ヒトラーの移民船団の受け入れ準備を整えている筈だ。船団は、何度も連合軍の哨戒機や駆逐艦に捕捉されそうになりながら南進し、伊500は赤道を越えたあたりで一隻だけ別れて日本へ帰って行った。

(田辺艦長も、この戦争で死ぬのかしら。伊500は、日本で、最後の特攻作戦に参加しなくちゃいけないって言ってたわ)

千鶴の知っている歴史では、5月にドイツが降伏し、8月に日本はアメリカによる核攻撃を受ける筈だった。伊500は軍の機密事項らしく、後世に記録が残っていないため、千鶴にも彼らの運命はわからない。

(歴史には、一般には知られていない闇の部分が数多くある・・・)

それは、実際に2000年を生き抜いた千鶴の実感だった。Uボート船団は、無事に南極大陸に到達し、ロス氷棚の下にある海底トンネルをくぐり抜けて地下要塞へと到着した。そこは、潜水艦が発明されていなければ絶対にたどりつけない場所だった。地底の港は広大で、天井が発光物質によって青白く光っていた。

「南極なのに寒くないのね」

接岸した潜水艦のタラップを降り、天井を見上げた千鶴は、イルマ・グレーゼに話しかけた。金髪碧眼のサディスト女は、いつも尊大な態度だった。

「そうね。アトランティスの古代技術が使われているって話だからね」

イルマは、有色人種の千鶴とは、口を訊くのも嫌そうだった。彼女のクローンは、戦後のニュルンベルク裁判で処刑される筈だ。

(アトランティス・・・一体、どのくらいの技術水準だったのかしら。恒星間飛行やタイムマシンを実用化していた事は、判っている。少なくとも21世紀の地球よりは、遥かに進んでいるわ。それでも、グレイとの戦争に勝てなかった。グレイ・・・銀河系の支配種族、3000万年前から全銀河を支配している・・・)

3000万年という時間は、不死の千鶴にとっても気の遠くなる数字だった。不死と言っても、たかだか、2000年を生きたに過ぎない。数十年の寿命しか持たない普通の人間などには、想像も出来ない時間だろう。

(グレイ=神なの?アトランティス以前に、人類を遺伝子操作で進化させたのもグレイだと言っていた・・・神には、自分達が造り出した人類を狩る権利があるの?)

千鶴には、プライドの高いアトランティス人が、グレイとの戦争に至った気持ちが容易に理解出来た。

(人間は、食糧じゃない。人間はハンティングの獲物じゃない。人間は生体実験の材料じゃない)

それは、時代を超えた人類共通の心の叫びだ。千鶴が滞在する事になった地下要塞は広大だった。いくつもの農業プラントや工業プラントがあり、ベルリンの町を模した地底の街もあった。千鶴達を運んできた潜水艦隊は、燃料の補給と整備を終えると再びドイツ目指して出港していった。終戦までに出来る限りの純粋ドイツ人や補給物資をピストン輸送する計画らしい。地底の町の一角にアパートを借りた千鶴は、イルマ・グレーゼと、ヴァルハラを見学して回った。

「ハウニヴよ」

イルマが言った。地下格納庫では、様々なタイプの円盤機がズラリと並べられ、ナチス版UFOの研究開発が進められていた。

「現在の円盤機は、大気圏内しか飛行出来ません。しかし、元々の設計図では宇宙も飛べるように書かれています。将来的には、月や火星に飛行できる機体を造る予定です」

ドイツ人技術者が二人に説明した。ドイツ人ではない千鶴にも情報を開示するようヒトラーから通達が回っている。

「古文書によると太陽系内の他の天体にも、アトランティスの遺跡があるようなのです。火星や、月の裏側にね」

「他の恒星へは、飛べないの?」

千鶴は尋ねた。

「さあ。残念ながら、われわれの科学は、ようやくプロペラ機からジェット機へ切り替えを始めた段階です。古文書を、もっと根気よく探せば設計図は見つかると思うのですが」

他の研究施設では、原子力や人体改造技術の研究もおこなわれていた。実験材料にするための非ドイツ人の若い男女も、少数だが運びこまれているようだった。

「ここには、あたしが拷問してもいいユダヤ人や連合軍の捕虜がいなくて退屈だわ」

イルマが不平を洩らした。彼女は、捕虜が断末魔の悲鳴を上げるのを聞いて、オルガスムスに達するタイプだ。ヴァルハラの事を良く知るにつれ、この地下要塞にはドイツ人が、まだ手をつけていない区画が、たくさんある事に気づいた。

「ここから先の区画へは進入出来ません。連絡口の様なものはあるのですが、扉がどうしても開かないのです」

千鶴が、巡回している兵士に尋ねると、そういう答えが返ってきた。

「何があるのかしら?」

「それは、わかりません。爆薬を使って扉を破壊しようとしましたが、傷一つ付けられませんでした」

千鶴は、諦めるしかなった。

 

 1945年7月。久石重隆大佐(40歳)は、奉天郊外の研究施設の収容所を見回っていた。裸の白人捕虜や中国人捕虜が恐怖の眼差しで、見回りに来る日本兵を見つめている。

「御苦労さまです!」

「うむ、御苦労」

596部隊特有のあいさつを終えると、重隆は、手渡されたレポートに目を通した。

「一号棟の白人捕虜は、85パーセントが発症し、うち79パーセントが1ヶ月以内に死亡しました。同じ棟に収容されている中国人捕虜の感染率は0パーセントです」

「白人だけに作用するのは、間違いないな。だが、死亡率が100パーセントでないのは、気に食わん」

重隆は、神経質そうに顔をしかめた。彼の開発しようとしている白人殺傷ウイルスは、滅びようとしている大日本帝国、最後の切札だった。

「完成には、今しばらくかかりそうだ」

感染し、発症した白人捕虜はもがき苦しんでいた。性欲が異常に昂進し、オルガスムスが止まらなくなり、いずれ衰弱するか、心臓麻痺で死にいたる。同じ房に入れられている捕虜は、感染者に襲われレイプされる。感染者の欲望に男女の区別はなく、レイプされた人間が白人であれば、ほぼ確実に感染する。

「空気感染では時間がかかる場合でも、性交による接触感染では、ほぼ100パーセントの割合で発症しています」

「感染者自身が、病原菌を広めてくれると言うわけか」

重隆は、房内で乱交にふける捕虜達を見つめた。男女別々に収容されているため同性同士のセックスである。感染していない中国人捕虜は、色情狂と化した白人に、ただケツを犯されるしかない。

「大本営の久石少将から、暗号電文が届いております」

別の兵士が、封筒に入った書類を持ってきた。

「親父か」

重隆は、解読された命令書に目を通した。それによると、ドイツから帰国する伊500を大連に寄港させ、それにウイルスを積み込むようにとの指示だった。

「まだ、完成していないってのに!もう、待ってられないんだろうな」

核実験に成功したアメリカは、それを日本に投下し、日本民族の絶滅を計画しているらしい。最後の希望を託して、沖縄に特攻した戦艦大和も沈み、日本にはもう、まともな兵器は残っていなかった。ソ連が、参戦してくるという噂もある。5月にドイツは降伏し、総統ヒトラーは自殺したと聞く。

「仕方ない。一番新しい細菌を、大連に運べ」

重隆は、渋々命令した。

 

 伊500の田辺艦長は疲れ切っていた。2年ぶりに日本の土を踏めると思っていたのに、九州沖を素通りし、満州国の大連に直行するように命令を受けたのだ。乗組員達の士気も低かった。

(お国のためだ、仕方ない)

長い航海を終えた伊500も、そろそろ、潜水艦ドックに入り、本格的なオーバーホールが必要な時期だった。大連の港で、出迎えた海軍の将官にその事を告げると、激しい叱責を受けた。

「ぬるい事を言ってんじゃない!今の日本のどこを探しても、充分に整備された軍艦など一隻もないぞ。まだ、しばらくは動くんだろ?」

「はい、なんとか・・・ですが。このところエンジンの音が気になりまして」

「動くなら、いいじゃないか。内地は、今、連日の空襲で、どこもかしこも焼け野原だ。下手に帰国すれば、爆撃で沈められるぞ」

田辺艦長は引き下がるしかなかった。ドイツから持ち帰った土産品や、新兵器の設計図を陸揚げし、代わりに596部隊から運ばれてきたウイルス兵器のアンプルが詰まったカバンを受け取った。

「なんですか、これは?」

「白人だけを殺す、細菌だ。これを君の潜水艦でアメリカ本土へ運び、バラ撒けば我々の逆転勝利だ」

細菌と聞いて、田辺艦長はギクリとした。

「心配しなくていい。日本人には害はないそうだ」

田辺艦長は新たな命令書を受け取った。それによると、太平洋を東進し、ハワイ、カリフォルニアの順で細菌をバラまき、南米を回って最後にニューヨークとワシントンに到達するようにと書かれていた。

(やれやれ、家族にも会えず、また地球を半周するのか)

この命令を伝えた時の部下達の落胆ぶりが目に浮かんだ。

 

 1945年7月。アメリカ南部のニューメキシコ州に広大な陸軍の実験場が開設された。同州ロスアラモス研究所で開発が進められてきた原爆を始めとする数々の兵器を、テストするためである。ドイツの降伏で、多くの優秀な科学者がこの地に連行され、ミサイルやジェット機、コンピューターなどの次世代の科学技術の開発に携わっている。

「この実験が成功すれば、人類の歴史は、新たな一歩を踏み出すだろう」

ロスアラモス研究所所長、オッペンハイマーは、アメリカ陸軍のグローヴス中将に語った。白い砂の砂漠の真ん中には、巨大な実験塔が建設されている。その中に世界最初の原子爆弾『ガジェット』が設置されているのだ。

「完成した原子爆弾は、3つか」

「はい。ガジェット、リトルボーイ、ファットマンと命名されています」

「すでにドイツは降伏した。日本が降伏する前に完成させねば、核兵器を実戦に投入する機会を永遠に失ってしまうぞ」

「敵国に使用すれば、都市が丸ごと灰になるでしょう。数十万人の民間人が一瞬で焼き尽くされます」

「かまわん。有色人種の日本人などいくら死んでもかまわんのだ。そんな事よりも、この実験で、近隣の町への影響は本当にないのだろうな?」

「大丈夫です。アラモゴード、ロズウェル、アラバカーキ、サンタフェ・・・いずれも充分に離れています」

「そうか、ならば、ゴーサインを出そう」

カウントダウンが始まり、1945年7月16日。ホワイトサンズ実験場に地球上で最初のキノコ雲が立ち上った。恐ろしい衝撃波と熱波が、オッペンハイマー達のいるベースキャンプを襲った。

「動いた・・・・我は死なり、世界の破壊者なり・・・・」

遮光ガラス越しに、閃光を感じながらオッペンハイマーは、ぼそぼそと呟いた。

 

 銀河系オリオン渦状腕、第二十六管区を受け持つ、銀河警察のヤ・グ・オイは、パトロール船からの恒星間通信による報告を受けた。

「地球で、核爆発が確認されました」

「また密猟者の仕業か?全く、自然保護地区で核爆発を起こすとは、けしからん。多分、火の不始末だな」

「それが、グレイ製のものではないようです。もっと原始的な、プルトニウムを使った爆発のようです」

「プルトニウム?どこの星の奴だ、そんな陳腐な道具を使ってる奴は?」

「今の所、不明です」

「調査してくれ。逮捕して厳重に注意しなくてはならん」

平均身長120センチ。3本の指と巨大なダークブルーの目を持つ宇宙人グレイは、銀河系の支配者である。高度な医療技術により、彼らの寿命は、数千年に延び、男女の性別もなくなった。3000万年前に銀河系を征服した時点で既に、生殖器官はなく、遺伝子の直接配合によるクローン技術で子孫を残している。植物性の野菜は嫌いで肉食であり、好物は、地球人をはじめとする知的生命体の肉だ。現在の中枢惑星は、銀河系の中心部に位置する惑星グ・レイ。過去に何度か、中枢惑星を変えているが、支配者の座に就く3000万年前より以前の歴史は、彼ら自身にもよく判っていない。銀河の数ある知的生命体の中でも、その生態系の頂点に立つ種族だ。

「一瞬また、ギ・アン・ガスの仕業かと思った。あ・・・奴は、今、留置場の中か」

地球は、人気のある狩猟スポットの一つである。ここで狩猟するためには、高額な会費と、面倒くさい申請が必要なため、密猟者が後を絶たない。

(地球人は美味いからな。特に天然ものの地球人の味はたまらん。滅多に手に入る代物ではないが・・・)

惑星ア・ムーなどの牧畜惑星では、数百億匹の地球人が養殖され、銀河中に流通している。グレイの食卓には欠かせない食品だ。

(地球が、核で汚染されるとなると、美食家協会が、黙ってはおるまい。第二十六管区の責任者としては、気をつけなきゃいかん)

ヤ・グ・オイは、尖った口をさらに尖らせ、ダークブルーの目を不気味に光らせた。

 

 第68時空域の時間管理局支部でも、核爆発が確認されていた。

「北米大陸、ニューメキシコ州デ、核爆発ガ確認サレマシタ」

「史実通リダ。引キ続キ、監視ヲ続ケテクレ。広島、長崎ニモ無事、原爆ガ投下サレルヨウ、注意ヲ怠ルナ。ドンナ時空連続体カラ、妨害者ガ現レルカ、判ラン」

「了解」

「核爆発ハ、時空連続体ニ影響ヲ与エ、タイムマシンノ航行ニモ支障ガ出ル。1945年7月16日カラ、1945年8月9日マデノ、時間ヲ航行スルタイムマシンニ注意喚起ヲセヨ」

「了解」

「念ノタメ、B29『エノラゲイ』ト、重巡洋艦『インディアナポリス』、テニアン飛行場ニモ、タイムマシンヲ貼リツカセロ」

「了解」

 

「クロノス博士。もう少しです。あと少しで出発時点の現代に戻れます」

ネオガイア星人のオデュッセウス隊長が、時間航行機のパイロットシートに身を沈め、計器盤を見ながら歓声を上げた。3年間の時空放浪の末ようやく。現代に戻れるのだ。18世紀のラ・コスト城を出発してから一時間以上が過ぎていた。

「今度こそ、戻れる。心配するな。私が造った時間航行機を信頼してくれ」

クロノス博士が、そう言った瞬間、機体が激しい震動に包まれた。

「な、なんだ!」

オデュッセウスは、悲鳴をあげカウンターを見た。地球の西暦換算の表示が1945年8月6日午前8時15分となっていた。

「機、機体が実体化します!」

オペレーターが叫んでいる。

「どういうことですか、博士?」

「現実世界で、強力なエネルギーが発生したのだ。我々は、たまたまそのエネルギーの渦に引っかかった。前回、過去に遡った時は、時空ナビゲーションがしっかりしていて、機体が安定していたから影響がなかったか、あるいは、あっても気付かなかったのだろうな」

クロノス博士は、冷静にコメントした。岩波教授が、横からカウンターを覗き、呟いた。

「この日付は・・・まさか・・・」

強制的に実体化した時間航行機のスクリーンには、巨大なキノコ雲が立ち上っていた。

「きゃあああああ!」

「悪魔じゃ!悪魔じゃ!」

静の御前や、卑弥呼がパニックになり悲鳴を上げる。

「バリアを張れ、バリアを!それから、現在位置を割り出せ!」

「現在位置。極東、日本、広島上空・・・」

閃光と衝撃波にもまれ、時間航行機は墜落して行った。

「人が死んでおる・・・何万人もの人が、焼かれ、断末魔の叫びを上げておる・・・」

卑弥呼が、苦しんでいた。彼女は、超能力者の素質を持つシャーマンで、多少の精神感応力は持ち合わせているのだ。

「怖いよう」

3歳の牛若丸と、テムジンが珍しく怯えていた。

 

 1945年8月9日、東京中野学校では、生き残った諜報部員達に非常招集がかけられていた。

「昨日、ソ連が参戦した。満州国境を突破し、破竹の勢いで南下している」

上月大佐が、説明した。

「日ソ中立条約は、無視ですか?」

「ドイツ降伏時点で、米英との間で、3ヶ月後に、対日宣戦布告をするという密約が交わされていたらしい」

諜報員達は、悔しがった。彼らの仲間は、アジアの占領地域をはじめ、世界中に散らばっているため、東京に残っている人間は少ない。ゲリラ作戦で死んだものも多い。

「関東軍は、かつての関東軍ではない。武器や精鋭は、大部分が南方戦線に引き抜かれているから、張子の虎状態だ。碌な抵抗は出来んだろう。あと、満洲に残っているのは開拓民と、行政官ばかりだ」

「彼らは、どうなるのです?」

「救うことは出来ない。占領されたドイツでは、ソ連兵は各地で徹底的に強姦や略奪、破壊行為を行ったらしい。捕虜のドイツ兵は、シベリアに強制連行されて重労働を強いられているそうだ」

諜報員達は沈黙した。昨日まで満洲は、B29による爆撃の続く内地よりも、安全な場所とされていたのだ。わざわざ、疎開していった者までいる。

「それから、ついさっき入った情報だ。広島に続いて、長崎にも新型爆弾が落とされた。米軍に潜り込んでいるスパイの情報によると、次の投下地点は、大阪だそうだ。日本が降伏するまで、一つずつ都市を消していく腹積もりらしい」

上月大佐の言葉は、衝撃的だった。降伏しなければ日本列島は、放射能にまみれた土地になり、日本民族は滅びてしまうのだ。

「今、臨時の御前会議が行われている。おそらく数日内に、日本はポツダム宣言を受諾し、降伏するだろう。日本は、占領され、国家機能は解体される。天皇は戦争責任を追及され、戦犯として処刑されるだろう」

「そんな・・・現人神である天皇が、白人の手で処刑・・・・」

それは、1945年当時の日本人にとって想像を絶する事だった。上月大佐は、言葉を続けた。

「いいか、ここから先は、心して聞け。私からの最後の作戦指令だ。中野学校は終戦と同時に表向きは解散する。しかし、本作戦は、国家解体後も無期限に継続する。忍法で言う『よもがみの術』・・・かつて、織田信長に侵攻された伊賀忍者が使った手段だ。各員は、一般人として日本各地に潜伏し、占領軍の動向を見極めつつ、ゲリラ戦に備えよ。英語の得意な者は、通訳として占領軍に潜り込み情報を流せ。金塊と武器も確保して隠す。天皇家廃絶に備え、皇位継承権のある人間を、各地にかくまうのだ」

諜報部員達は、普通の軍人とは違う。知能指数が高く、柔軟な理解力をもった者ばかりが採用されている。忍者の流れをくむ者も多く、上月大佐自身、猿飛佐助の子孫だ。その彼らでも、作戦内容を理解するのに、しばらくの時間が必要だった。

「日本は、なくなるのですか?」

「ああ。だが、日本民族まで消滅させる訳にはいかない。国滅びて山河あり・・・だ。例え、政府や軍隊が消滅しようとも、我々の手で国体だけは、守らねばならん」

重苦しい沈黙に包まれた。

「君達の新しい戸籍だ。こんなもの、今なら、いくらでも用意する事が出来る。占領軍の戦犯狩りを逃れて、表向きは、一般市民として生きてくれ」

上月大佐は、一人一人に別人の経歴と名前が書かれた書類を渡していった。偽造ではなく、本物の政府機関が発行した戸籍である。占領軍に見破ることは不可能だろう。

「もう一度言う、作戦期間は無期限。君達が老衰で死ぬまで効力は消えない。自決も許さない。了解したか?」

「了解です」

「了解しました」

「では、解散!」

諜報部員達は、目に涙を浮かべ、新しい戸籍と、新生活を始めるための資金を貰って散っていった。

 

 1945年8月15日、伊500は、硫黄島沖、北300キロの海域を東へと航行していた。この辺りは、米軍の哨戒機がひっきりなしに飛び交っているため、海中に潜航しての前進である。田辺艦長は、乗組員全員を司令室へ集め、天皇の玉音放送を聞かせていた。

『朕深く、世界の大勢と帝国の現状とにかんがみ、非常の措置をもって時局を収拾せんと欲し、ここに忠良なる、なんじ臣民に告ぐ。朕は帝国政府をして、米英中ソ4国に対し、その共同宣言を受諾する旨、通告せしめたり・・・』

以外に若い、天皇の肉声だった。誰もが現人神である天皇の肉声を聞くのは初めてである。所々噛みそうになりながらの棒読みであったが、誰も気にする者はいない。言い回しが難し過ぎて、ほとんどの乗組員には、意味がわからない。

「何と言っているのですか?艦長」

「日本は、降伏した・・・」

茫然自失の表情で田辺艦長は呟いた。全員が驚愕する。

「ええっ!そんな馬鹿な!」

「日本が負けるなんて・・・最後の一人が玉砕するまで戦うのではなかったのですか!」

「我々の・・・我々の作戦は・・・どうなるのです?」

乗組員達が口々に叫んだ。田辺艦長は、しばらく悩んだ末答えた。

「中止するしかないだろうな」

「くっ・・・ここまで来て・・・なんのために我々は・・・」

乗組員の中で泣き出すものもいた。

「泣くな。お前ら帝国海軍の軍人だろう。戦争は、終わった。日本へ帰るぞ、全員持ち場に付け」

「ううっ・・・うう・・」

伊500は、艦首を北に向けた。母港である横須賀の海軍基地へと帰るのだ。実に2年ぶりの帰国だ。伊500は浮上し最大航海速度で海上を走り始めた。

「南南東に敵機!」

しばらくして掌帆長が叫んだ。

「心配するな、戦争は終わったんだ」

田辺艦長は、そう言いながらも嫌な予感がした。

「敵機爆雷投下!」

上空を通りぬけ様に、米軍の哨戒機は、バラバラと爆雷を伊500の周囲に落とした。

「なんだってんだ!敵は、聞いてねえのか、玉音放送を!」

「判りにくい日本語の言い回しですからね。我々にも、すぐに理解出来なかった程ですから」

「急速潜航!」

爆雷が炸裂し、艦体が揺れた。

「艦尾に被弾。浸水します!」

「エンジン損傷!停止しました」

電気系統がやられたのか、艦内の照明も消えた。

「くそ、ボロが!戦争が終わったってのに、こんな所で死んでたまるか。浮上だ。エンジンが止まったのなら浮上するしかない」

「排水ポンプ、動きません」

伊500は、ゆっくりと沈み始めた。なおも爆雷が投下されてくる。

「ひょっとして、ここは日本海溝の上じゃないのか?」

「そうです」

「おい、それじゃ、どこまで沈むかわからん。水圧で、押しつぶされるぞ」

田辺艦長が、必死に助かる方法を模索した。

「魚雷だ!魚雷に鎖をつけて発射しろ。魚雷で艦を引っ張るんだ。海溝に沈むのだけは避けなければならん」

「そんな、無理です」

「無理とか言うな。生きたければやるんだ!」

暗闇の中、ランプの明かりだけを頼りに作業が始まった。傾いた船内で魚雷に鎖を巻きつけ、発射スイッチを押すと、全員、魚雷室から退避した。鎖のため、エアロックが閉まらず浸水してくるからだ。

「成功です、やりました。艦体が、前進しています!」

「そうか、だが浮上出来んな・・・」

伊500は、文字通り鉄の棺桶と化した。やがて全員を襲った酸欠の中、田辺艦長は、国に残した妻子を思い浮かべ、そして次に、何度かセックスをした千鶴の事を思い出した。

(千鶴さん・・・今、どこで何をしているんだろうな・・・)

薄れ行く意識の中、田辺艦長は、伊500が、無事、水圧に押し潰されずに海底に着床する衝撃を感じた。

 

トップページへ戻る

無料 アクセス解析RMT

風俗 デリヘル SMクラブ