第152話、アルテミスの日常生活

 

「起床!」

全館に響き渡るスピーカーからの号令と共に、さざなみ刑務所の1日が始まった。2007年9月某日、午前6時。ようやく猛暑も収まってきた季節である。囚人ナンバー999番、通称、鉄仮面ことアルテミス(30歳)は、2畳の狭い独房で目を覚ました。手足は鎖でつながれ、冷たいコンクリーの床上に全裸で直接寝かされている。布団はない。頭部は、銀色の超合金で制作された鉄仮面がかぶせられており、3年間、他人に素顔を晒したことはなかったが、仮面の下は金髪碧眼の非常な美人だった。アルテミスは、目を覚ますと自分のスベスベした白い肉体を見下ろした。シミ一つない美しい肌である。昨日付けられた激しい拷問の跡は、完全に治癒している。普通の人間なら一生消えないような傷を毎日、体に付けられているのだが、DNA変換によって、驚異の治癒能力を持つことになったアルテミスは、いかなる深い傷を受けても、数時間で、もとの完璧な肉体に戻るのだった。

(今日は、どんな拷問を受けるのかしら。ゾクゾクするわ)

想像しただけで、アルテミスのオマンコはじっとりと湿り始めた。元々重症マゾだったアルテミスの精神は、約1年間にわたる長期の拷問でさらに蝕まれ、狂い始めていた。アルテミスが、部屋の隅にある排泄口の上にしゃがみ込み、朝のオシッコとウンチをしていると、扉の投入口から、看守の手で無造作に朝食の栄養チューブが投げ込まれた。両手は後ろに鎖で拘束されているため、口でトイレットペーパーを咥え、床の上に敷いて、その上に汚れた肛門とオマンコをこすりつける。排泄器官が奇麗になると投げ込まれたチューブの蓋を後手で外し、胡座をかいて両足の間に挟み込んで立て、手を使わずに口で吸い出すのだ。栄養はバランスよく配合されているが、無味無臭で、味も素っ気もない食べ物だった。

(お腹が空いたわ。これだけじゃとても足りない・・・)

昨日の拷問で大量の出血をしたためにタンパク質が足りないのだ。驚異の治癒能力で怪我を治せば治すほどカロリーを大量に消費し、常人の数倍の食物を摂取しなくてならない。ガチャリと扉の鍵が開けられ、警棒を持った看守が現れた。

「鉄仮面出ろ。デザートの時間だ」

アルテミスは、鎖を外され、看守と共に独房を出る。これから男囚のいる雑居房を回って、特別食を頂くのだった。

「食事の制限時間は、8時までだからな」

「わかってます」

アルテミスが雑居房に面した通路を歩くと、一斉に男囚達がズボンとパンツを脱ぎ、鉄格子からいきり立ったチンポを突き出してきた。刑務所内ではオナニーは禁止で、全員溜まりに溜まっている。

「鉄仮面ちゃーん、こっちこっち!」

「たまには、俺のもしゃぶってくれよ!」

「俺の精液、濃くて栄養たっぷりだぜ!」

男囚達は、口々にアピールした。アルテミスは端から順番にしゃぶっていく。制限時間内になるべく多くのチンポを射精させ、少しでも多くのタンパク質を補給しなくてはならない。鉄仮面の口枷の部分はロックが外されており、金属の隙間からアルテミスのふくよかな桜色の唇と舌が覗く。毎朝、数十本のチンポをしゃぶっているアルテミスの舌裁きは達人の域にあり、男囚達はあっという間に昇天していった。日によって違う棟を回るため、どの男囚人もかなり濃い精液だった。

「そこまでだ、鉄仮面!」

腕時計の秒針を見つめていた看守が叫んだ。8時丁度でアルテミスのデザートタイムは終了である。今日は、23人分の精液を胃袋に収める事が出来た。

(お腹いっぱい。これで今日も、元気に、思いっきり拷問していただけるわ)

アルテミスは、精液を提供してくれた男囚達に、土下座で三つ指をついて深々と頭を下げて、お礼を言うと、拷問室へと向かった。

 

 拷問室には、既に先客がいた。スパイ容疑で逮捕されたアメリカ人のジョーイ・ファレル(23歳)と北朝鮮人の朴秀姫(25歳)が、早朝から逆さ吊りにされ、厳しい責めを受けている。拷問しているのは、さざなみ刑務所で最も恐れられている主任刑務官のシンディ・スコットランド(24歳)だった。

「キャハハハ!もっと苦しめ!もっと苦しめ!」

シンディは、狂ったように二人の男女の裸体に一本鞭をあびせかけていた。彼女が使っているのは、SMプレイ用の柔らかい鞭ではなく、軍事用の強烈な鞭である。アルテミスのように不死身の再生力を持っている訳でもないジョーイと秀姫の若い肉体は、1年間に及ぶ拷問で、傷と痣に埋め尽くされ、ボロボロになっていた。シンディの鮮やかな鞭裁きで、傷の上に、さらに傷が塗り重ねられていく。

「うっ・・・資本主義の犬め・・・」

秀姫は、欝血した顔で歯を食いしばりながら呻いた。これほどの拷問を長期に渡って受けていながらも、まだ反抗心が残っているようだ。子供の頃から刻み込まれた、祖国と、その指導者に対する忠誠心が彼女を支えているのだった。

「ひっ・・・ひっ・・・もうやめてくれ・・・これ以上痛めつけないでくれ・・・」

対照的にジョーイ・ファレルは泣きじゃくっている。もともと苦痛が苦手な上に、最初の尋問で前歯を折られ完全に屈服していた。

「お前の自慢のハンドパワーはどうしたんだい?」

シンディがせせら笑うように言った。

「こんな手じゃ、もう、ハンドパワーも使えないよう・・・」

ジョーイの両手は、この一年間の間に何度も何度もシンディのブーツで踏みにじられボロボロに潰されていた。生爪も剝され、指先は無残な肉塊と化している。骨までは折れていないようだったが感覚はほとんど麻痺していた。シンディは、拷問室に入ってきたアルテミスに気付くと、狂気に満ちた冷たい視線を投げかけた。

「お前に今日は、どんな拷問をしてやろうかね。この二人じゃ、さっぱり物足りなくてねえ」

「本日もよろしくお願いします、シンディ様」

アルテミスは、拷問室のコンクリートの床の上に土下座をし、三つ指を突いて挨拶をした。重症マゾであるアルテミスを最も満足させてくれるのが、このシンディなのだ。

「そうだねえ、今日は、オマンコに爆竹でも詰めてやるよ」

シンディは、アルテミスに足を開かせ、股間に中国製の爆竹の束をねじ込んだ。導火線に火をつける。ジジジジジと導火線が燃え、オマンコの内側で数十発の爆竹が連続して炸裂した。

「ひぎゃああああ!」

激痛だったが、アルテミスには心地よい痛みだった。三十秒程かけて全ての爆竹が炸裂し終わると、アルテミスの股間はジーンと痺れ、皮膚が裂けて血がダラダラと流れ出していた。

「お前には、こんなもんじゃ物足りないだろう?」

シンディの言葉に、アルテミスはうなずいた。最近は、どんな傷を受けても必ず再生するという安心感もあってか、多少のことでは満足しなくなっている。現に、アルテミスの傷ついたオマンコは1分も経たないうちに出血が止まり、元通り傷が塞がっていった。

「けど、こいつらにとっちゃ、地獄の恐怖なのさ」

シンディは、同じ爆竹の束を、逆さ吊りになっている秀姫のオマンコとジョーイのアナルにも押し込んだ。

「やめてくれ・・・こんな酷い事しないでくれ・・・俺達はこの人とは違うんだ・・・怪我をしても、すぐに治らないんだよう」

ジョーイが、無駄だとわかっていても必死に哀願した。しかし、これまで哀願して、シンディが拷問を途中で止めたことは一度もない。秀姫は無言で歯を食いしばって恐怖に耐えていたが、顔はひきつり、体はガクガクと震えていた。

「いくよ」

シンディは無造作にライターで、二人共ほぼ同時に点火した。ジジジジと導火線が短くなっていく。

「いやだああああ!オー、マイ、ゴッド・・・マミー!マミー!」

「将軍様、マンセー!」

二人のオマンコと尻穴で爆竹が炸裂した。パンパンパンパンと数十秒にわたって破裂音が続き、拷問室にいるもの全ての鼓膜が破れそうだった。

「あぎゃあああ!」

「ああああああっ!」

二人は、それぞれオマンコとアナルから血を流しながら気絶した。秀姫は、爆発のショックで失禁したようで、逆さまになった傷だらけの裸体を自分自身のオシッコが、伝い落ちている。もうもうとした煙が拷問室に立ちこめ、シンディとアルテミスはむせた。

「これくらいで気絶するなんて、なんとも不甲斐無い奴らだね。お前なら、手足を切断して内臓を引きずり出したって死なないってのに」

アルテミスは、そのことで最近悩んでいた。不死身であるがゆえに、かえって恐怖心が薄らぎ、この所、どんな苦痛にも慣れてしまって不感症になっていたのだ。シンディに連日のように体をバラバラにされても満足できず、欲求不満の日々が続いていた。

(もっともっと、おとしめて欲しい。肉体と一緒にあたしの精神も壊してほしい・・・)

アルテミスは切実に願ったが、元々エリート軍人であるアルテミスの精神は人並み外れて強靭で、しかもマゾであるため、簡単には壊れないのだった。

 

 「起きろ!いつまでも寝てんじゃないよ!」

シンディは、気絶しているジョーイと秀姫の最も敏感な箇所にスタンガンを押し付けた。

「ぎゃうっ!」

二人は、再び地獄の現実へと引き戻される。シンディは二人の足首を結んでいる逆さ吊りのロープを解き、床の上に下ろした。

「眠いようだから、目が覚めるようにお互いの顔をビンタしな」

ジョーイと秀姫は向かい合い、まずジョーイが秀姫の頬を右手で叩いた。次に秀姫がジョーイの頬を反対側から叩く。

「もっと、力を入れて!手加減せずに叩くのよ!何度でも何度でも、あたしが止めていいというまでね」

ジョーイと秀姫に逆らうことは出来なかった。逆らえば、従うまでスタンガンを当てられ、食事を抜かれるのだ。ジョーイと秀姫は、互いの顔を代わる代わる叩き続けた。脳震陶でクラクラし、頬が真っ赤に腫れ上がってくる。シンディはキラキラした瞳で楽しそうに眺めているだけで、いつまでたってもストップの合図を出そうとしない。アルテミスはコンクリートの床に正座して待機したまま、うるんだ瞳で二人の囚人の様子を眺めていた。

(あたしも叩かれたい。顔が変形するくらいに・・・)

アルテミスの顔は、絶対に外れない鉄仮面に覆われているためビンタする事は物理的に不可能である。一時間後、シンディがようやくストップの許可を出した時、二人の顔は左半分だけが紫色に変色し、一回り大きく膨れ上がっていた。叩き続けていた右の掌もジーンと痺れて感覚がなくなっている。

「キャハハハハ、いい顔になったねえ。とってもキュートよ」

シンディは、笑い転げた。二人には、悪魔の嘲笑に聞こえる。

「次は、シックスナインをしなさい。あたしが止めていいって言うまで、お互いに何度でも、イカせ合うのよ」

秀姫とジョーイは、腫れ上がった頬を抑えながら命令に従った。ジョーイが下になり、秀姫がその上に、逆向きに跨る。秀姫のオマンコとジョーイのアナルは、先程の爆竹挿入で傷つき、出血していたが、何があってもシンディの命令に逆らう事は出来ないのだ。

「つ・・・痛・・・」

ボロボロのオマンコを舐められて秀姫の顔が苦痛に歪んだ。ジョーイは泣いている。

「キャハハハハ、惨めだね、諜報部員なんて!命がけで国家のために働いても、捕まったら、そんな人間は、うちの組織には、いないって言われるんだから!」

「う・・・ううっ、サンフランシスコの家に帰りたいよう・・・マミー」

ジョーイは、自分にハンドパワーなんてなければ良かったと、心の底から思った。それがなければ、CIAのESP研究所にスカウトされることもなかった。

「そろそろ、こいつらは、放っておいて、お前を拷問してやるよ。痛めつけられたくてウズウズしてたんだろう?鉄仮面」

「はい、シンディ様」

アルテミスは、期待感に、鉄仮面の隙間から覗く青い瞳を潤ませた。

「こっちに来な」

アルテミスが連れて行かれたのは、軍用ドーベルマンの檻だった。牙をむき出し、よだれを垂らした数十頭のドーベルマンが飼育されている。シンディは、ナイフを取り出し、無造作にアルテミスの裸体を浅く切り刻み始めた。

「・・・・」

アルテミスは、このくらいの事では、表情一つ変えない。たちまちアルテミスの体は血まみれになったが、傷自体はすぐに塞がってしまう。人間の、流れたての血の匂いを嗅いで檻の中のドーベルマンが騒ぎ始めた。

「鉄仮面、この檻の中に入ってドーベルマンに体を引き裂いて貰いなさい」

「はい」

アルテミスは、鍵を外された入口から、檻の中に入った。たちまち数匹のドーベルマンが飛びかかってきた。

「ガルルルル!」

1匹がアルテミスの左腕にかみつき、肉を引き千切ろうとする。別のドーベルマンは尻肉に喰らい付き、爪で背中を引き裂く。

「あおっ!」

さすがのアルテミスも、悲鳴を上げた。

「反撃しちゃダメよ、大事な軍用犬なんだから。防御もしちゃダメ」

シンディの指示に、アルテミスは為すがままに、裸体を投げ出すしかなかった。

「ガウッ!ガウッ!」

十数匹のドーベルマンが、アルテミスに群がり、とうとう重みに耐え切れなくなったアルテミスは膝をついた。鉄仮面で守られている頭部以外は、爪や牙でズタズタに引き裂かれ、肉が食い千切られる。乳房や性器にも容赦なく鋭い牙が立てられる。それでも傷は急速に治癒するためアルテミスが死ぬ事はなく、まさに永遠の生き地獄だった。

「あおっ!あおっ!もっと!もっと、体を引き裂いてえええ!」

久し振りに鮮烈な快感が、アルテミスの重症マゾの魂に走った。どんどん強い刺激を求め続ける自分に戸惑いながら、砂漠でコップ一杯の水を飲み干すように、懸命に湧き上がってくる快楽を貪った。

「キャハハハハ、どうだいマゾ女?少しは、満足したかい?」

「あっ、ありがとうございますっ、シンディ様!」

アルテミスは、無数のドーベルマンの下敷きになりながら御礼の言葉を叫び続けた。

 

 長い時間が過ぎ、アルテミスはドーベルマンの檻から出るように指示をされた。全身が引き裂かれ、肉が喰い千切られていたが、みるみるうちに回復していく。再生にカロリーを消費したため、体脂肪が激減したアルテミスは、げっそりとやつれた。

「便利な体だね。傷痕一つ残らないんだね」

シンディは、アルテミスの体をジロジロと観察し、感心した。そしてまた残忍な笑いを浮かべる。

「次の拷問を用意してある。ついて来な、マゾ女!」

シンディは、快楽の余韻に浸っているアルテミスを連れて別の拷問室へと向かった。その拷問室には、一人の十代半ばの少年がいた。色白で見るからに大人しそうな印象である。グレーの囚人服を着ている。

「この少年はね。こう見えても、両親を寝ている間に金属バットで殴り殺した凶悪犯さ。」

さざなみ市に刑務所は一ヵ所しかなく、大人も子供も罪状にかかわらず、全て収容されている。少年は、高校受験のイライラからノイローゼにかかり、発作的に教育熱心な両親を殺害したのだった。

「さ、これを持つのよ」

シンディは、少年に金属バットを渡した。少年は無言で渡された凶器を握り締める。感情が死んでいるかのようで、特に何の反応もない。

「お前の大好きな金属バットで、この女を好きなだけ殴りなさい」

シンディの命令で、少年はノロノロとバットを振りかぶった。アルテミスは、新たな拷問に、瞳を潤ませ、衝撃に備えて足を踏ん張る。

「でやああっ!」

少年の口から雄叫びがほとばしった。金属バットがアルテミスの鉄仮面を直撃し、ぐわーんという鐘の鳴るような音が響いた。アルテミスは衝撃で首の骨が折れたのではないかと思った。

「はぁ、はぁ、はぁ・・・・」

あまり運動したことがない少年は、息を切らしていた。超合金製の鉄仮面には、かすり傷一つ付いていない。

「もっと殴るのよ」

「うおおおおおっ!」

少年は、金属バットを振り回し、無抵抗なアルテミスの裸体を滅多打ちにした。

「あああああっ!」

グキッと嫌な音がして、腕の骨が折れ、あばら骨が砕ける。アルテミスの体を激痛が駆け抜けた。

「死ね!死ね!俺は、勉強なんかしたくないっ!ゲームを返せっ!」

少年の頭の中では、両親に対する怒りの記憶がフラッシュバックしているようだった。アルテミスは金属バットで左足の太腿の骨を砕かれ、床に倒れ込んだ。

「もっと、もっとおおお!あたしの全身の骨を粉々にしてえええ!」

マゾのアルテミスは叫び、少年は異常な興奮に取りつかれて、バットを振り下ろし続けた。アルテミスの背骨が折れ、内臓が破裂した。

「キャハハハハハ!こんなのが気持ちいいのかい、この変態女め!普通なら死んでるよ。キャハハハハハ!」

シンディは、笑い転げた。

 

 アルテミスへの拷問が一段落したシンディは、最初の拷問室へと戻った。そこでは、ジョーイと秀姫が、シックスナインの体勢で絡まり合い、互いの性器を口で貪り続けている。この行為を始めてから、かれこれ、4時間は経っている筈だった。

「途中で、サボっていなかっただろうね。この部屋には監視カメラが付いているんだ。再生して、もしサボっていたら、3日間食事抜きだよ」

シンディは、カメラのハードディスクを早送りで再生し、チェックした。二人とも手を抜いていた様子はない。

「何回、イッたんだ?言ってみな」

「わ、わかりません・・・・10回以上はイッたと思います・・・」

ジョーイが痺れる顎をガクガクさせながら答えた。

「お前は?秀姫」

「22回よ。だからって、あんた達、アメリカの快楽主義者と一緒にしないでね!」

秀姫は、キッとシンディを睨みつけた。長期間、凌辱されても祖国への忠誠心は、変わらないようだった。

「フンッ、もうすぐ地球は、宇宙人のものさ。アメリカも、北朝鮮も関係なくなる。全ての国は、日本のように、宇宙人の支配下に入るのさ」

「将軍様が、宇宙人なんかに屈服するはずがない・・・」

「大した愛国心だねえ」

シンディは、元喜び組の女スパイを、麻薬中毒患者のような眼で見つめた。シンディ自身は、拷問官の立場と引き換えに、あっさりと祖国アメリカを裏切っている。

「あたしは、拷問が出来ればそれで満足なのさ。さあ、シックスナインは終わりだよ。次は、あたしがストップをかけるまで、本番をやりな!」

疲労困憊したジョーイが、のろのろと秀姫の体に正常位でのしかかった。

「もう、立たないよう・・・」

ジョーイが萎んだチンポを、血まみれの秀姫のオマンコへ擦りつける。なんとか勃起させようと懸命に、秀姫の胸に顔をうずめ性欲を掻き立てた。

「何よ、そのザマは?もっと、気合を入れな!」

シンディが、ジョーイの背中に一本鞭を振り下ろした。

「ぎゃっ!」

ショックで、ますますチンポが縮んだ。ジョーイが、秀姫の唇に舌を入れようとしたが、彼女は、歯を喰いしばり拒んでいた。

「ハリーアップ!もたもたすんな!」

ジョーイの背中に何度も何度も鞭が振り下ろされ、尻にはスタンガンが押し付けられる。

「OHHHH!」

ジョーイにとって地獄だった。勃起しないまま、板挟みになって苦しんでいると、しばらくして別の刑務官が入って来た。

「軍からの命令です。この二人の囚人に招集がかかりました」

「こいつらに?」

シンディは、不可解に思い、ネオガイア語の楔型文字で書かれた命令書に目を通した。書類に間違いはない。

「いいわよ、連れて行って。あたしはそろそろ昼食にするから」

シンディは汗をぬぐい、火をつけたタバコを咥えると、拷問室を出て行った。

 度重なる拷問でボロ雑巾のようになった二人の元スパイは、刑務所内にある手術室へと連れて行かれた。そこには医療用アンドロイドと一人のネオガイア人科学者が待っていた。

「君たちは、地球人でありながら、栄光あるロボット兵器のパイロットに選ばれたのだよ」

科学者・・・メビウス博士は、得意気に言った。事情が呑み込めないジョーイと秀姫は、お構いなしに、刑務官達の手で手術台に固定される。

「私の作ったロボット兵器は、まだ試作段階・・・というか操縦系統に問題があってね。正規のネオガイア人のパイロットを搭乗させることに、軍が許可を出してくれんのだよ。そこで、仕方なく地球人の君達を招集したというわけだ」

「これ以上、どんな酷い目に合わせようってんだよ・・・」

ジョーイが泣きべそをかいた。

「まず、反抗しないように、脳にコンピューターチップを埋め込ませてもらう。操縦中に反乱を起こされてはたまらんからね」

「嫌だ・・・嫌だ・・・怖いよう、マミー、マミー!」

ジョーイは暴れたが、全身を固定している拘束具は、ビクともしない。秀姫は話を聞きながら、険しい顔で、じっと手術室の天井を睨んでいる。

「おやおや、囚人の中でも、過去にある程度、戦闘訓練を受けた事のある、性根のある人間を選んだつもりだったんだがな。まあいい、やってくれ」

医療用アンドロイドが、レーザーメスで手術を始めた。麻酔なしで、頭部を切開し、ジョーイと秀姫は恐怖のあまり絶叫する。コイン大のチップが手際良く埋め込まれ、小一時間で、手術は完了した。有機接着剤と細胞回復促進剤の効果で跡形もなく傷は塞がった。

「起きろ!手術は終わりだ。ロボット基地へ行くぞ」

電気ショックで二人を目覚めさせたメビウス博士は、囚人をアンドロイド兵士に連行させて、地下の転送室から、彼の研究所へと移動した。

「遅かったな」

そこには、ピタゴラス総督と、ペルセウス長官が待っていた。金属バットの拷問から回復したアルテミスもいる。アルテミスは消耗したカロリーを補給するため、昼食時に再び男囚の収監されている雑居房を回り、大量のザーメンを飲んでいた。

「お前達は、あれに乗るんだ」

ジョーイと秀姫は、格納庫にズラリと並んだ十数体の巨大ロボットを見せられた。いずれも、同じ型の人型ロボットで、全長は20メートルほどだったが、手足と胴体が極端に細くまるでマッチ棒を繋ぎ合せたような外見だった。

「量産型キュクロプス3号型だ。一台あたりの生産コストは1号機の20分の一。攻撃力は、ほぼ同等だが、防御力が極端に弱く、格闘戦には向かない機体だ。」

「パイロットの死傷率も高くなる。これでは到底、ネオガイア人兵士は、乗せられませんよ」

ペルセウス長官が、メビウス博士を横眼で見ながら皮肉っぽく言った。

「そう、言わんでくれ。わしは、これからロボット兵器が戦争の主役になると信じておる。まだ試行錯誤の段階なんだよ」

メビウス博士が弁解をするように言った。

「乗りたまえ」

ジョーイと秀姫は命令されて、それぞれ指定された機体に歩み寄った。操縦席はロボットの股間の部分にある。メビウス博士のリモコン操作でロボットがしゃがみ込むと、操縦シートが二人の目の前に来た。それは、剥き出しの自転車のサドルのようなもので、座席の中央にペニス型のバイブが1本突き出しているだけだった。

「今回は、操縦席もコストダウンでね。パイロットは装甲に守られたコクピットではなく、外気に剥き出しの操縦席に座るだけだ。スクリーンは無いから、肉眼で敵を視認しなくてはならん」

メビウス博士は説明した。つまりパイロットは全裸で操縦シートに座り、恥ずかしい姿を人目に晒しながら操縦するのだ。

「早く、操縦桿に腰を沈めたまえ。女はオマンコに、男はアナルに挿入するんだ」

コンピューターチップを埋め込まれたジョーイと秀姫に逆らう事は出来なかった。自転車のサドルのようなシートに跨り、バイブ型の操縦桿を、それぞれの秘部に押し当てる。

「アウッ・・・ククッ・・・」

「痛・・・」

爆竹責めと、強制シックスナインで痛めつけられたオマンコとアナルに操縦桿を無理矢理押し込んでいく。塞がっていた傷口が再び開き、血が流れ出した。

「ギャハハハハハ!いい格好だぞ、地球人ども!」

ピタゴラス総督が大笑いした。パイロットの生身が剥き出しのため、ロボットの股間を狙撃されれば終わりである。

「パイロットが死ねば、自動的に安全圏まで退却するようにプログラムされています。地球人パイロットの代わりなどいくらでもいますから」

アルテミスが説明した。彼女はこの新設されたロボット軍団の隊長を務めることになっている。

「立て!」

メビウス博士が、ジョーイと秀姫に通信機で命令した。ロボットの操縦の仕方は、脳に埋め込まれたコンピューターチップから引き出すことが出来る。ペニス型の操縦桿を、アナルとオマンコの括約筋の力で、締め上げたり、前後左右に動かしたりして操縦するのだ。二人が戸惑っていると、操縦シートの背後に設置された自動鞭打機が作動し、パイロットの裸の背中を鞭打った。

「ぎゃっ!」

「早くせんか!」

2体のロボットはどうにか立ち上がった。まるでヒョロ長い針金人形のようだった。

「今日は、日が暮れるまで、訓練よ」

アルテミスが言った。彼女自身も隊長機であるキュクロプス1号機に乗り込む。1号機は、3号型と違い、装甲も厚くパイロットの肉体は外界から保護されている。3体のロボットは、格納庫から出て、訓練のため、野外演習場へ出た。新米パイロット二人は歩くのもままならないようだった。

「寒い・・・」

秀姫は、裸体を外気に当てられ、思わず呟いた。剥き出しなので冬は寒く、夏は暑い。水中戦をやる時には、パイロットは酸素ボンベを咥えるそうだ。恐ろしくパイロットの肉体に負担がかかる設計思想だった。

(この機体を奪取して、祖国に持ち帰れば、北朝鮮の軍事技術に計り知れない恩恵をもたらす事が出来る・・・)

秀姫は秘かに考えた。しかし、脳にコンピューターチップを埋め込まれている以上、脱走は絶望的だった。秀姫の機体は3−1号機、ジョーイの機体は3−2号機の番号が割り振られていた。残りの機体にも、さざなみ刑務所の囚人の中から、順次パイロットが選抜される予定で、数日中には、強力なロボット軍団が編成されるだろう。後はパイロットの練度が問題だった。

「右手を上げて!次、左手!そう、そうよ、その調子よ。そのまま、ぐるっと回転してみて」

元白兵戦コマンドの隊長だったアルテミスは、部下の訓練も手慣れたものだった。とても重症マゾとは思えない指導ぶりだ。

「さすがですな、彼女は」

ピタゴラス総督が感心した。ペルセウス長官もうなずく。

「オリンポスで私の部下だった頃は、彼女がまさか、生まれついての重症マゾだとは、全く気が付きませんでした」

感慨深げに答えながら、ペルセウスは、このロボット軍団が、戦力不足の地球駐留軍に、少しでも足しになれば有り難いと考えた。

 

 アルテミスの長い1日が終わった。拷問と訓練でクタクタに疲れ果てたアルテミスは刑務所に戻り、粗末な夕食の後、三度、男囚房を回りザーメンを補充した。彼女の体はシミ一つなく、本日何度もエクスタシーを極め、艶々と輝いていた。反対に治癒能力のない普通の人間であるジョーイと秀姫の肉体は、ボロボロで、半死半生のまま、それぞれの雑居房へ戻された。

「就寝!」

午後21時丁度に、館内のスピーカーから号令がかかった。刑務所内の照明が一斉に消され、囚人は眠りにつく。眠くなくても寝なくてはならない。号令を無視して起きていたり、話声を立てようものなら、たちまち懲罰の対象になる。アルテミスは狭い独房で、手足を鎖につながれ眠りについた。ウトウトとしながら、エリート士官だった頃の事を夢うつつに思い出す。ネオガイア星の知識階級の家庭に育った彼女は、知能と決断力、運動能力にも優れ、軍に入隊してからは、白兵戦の天才と言われていた。もしも、マゾでさえなければ、不覚をとって地球人のレジスタンスに捕まる事はなく、洗脳されて同朋を裏切る羽目にもならなかったのだ。しかし、アルテミスは、この拷問漬けの毎日が幸せだった。ネオガイア星人の市民権を抹殺された彼女は、実験材料として不死身の体を手に入れ、いくら激しい拷問を受けても死ぬことはない。物理的手段で彼女を殺すには、一瞬で全細胞を焼き尽くすか、ブラックホールにでも投げ込むしか方法はないのだ。どんなウイルスも、毒ガスも効かない。逆に、それは、年老いて、寿命が尽きるまで、マゾの痴態を晒さなければならない事を意味していた。それに、解除パスワードの消失してしまった超合金の鉄仮面を外すことも一生ないだろう。

 

第153話、ニイタカヤマノボレ

 

1941年12月。北太平洋を、日本の空母艦隊が、静かに東進していた。大型空母6隻を含む史上空前の大艦隊で、各艦の間には厳重な無線管制が敷かれ、航路上で遭遇した船は、全て拿捕するため、哨戒艦が周囲を用心深く固めている。択捉島を出港した艦隊は、天候の悪い冬の北太平洋を大回りし、ハワイ諸島の北方から、突如、進路を変えて全速力で南下を開始していた。

「こんな戦法は、前代見聞だ。俺は、胃が痛いよ」

旗艦、赤城の艦橋で、艦隊司令官の南雲忠一中将が、愚痴をもらした。傍らの草鹿龍之介参謀長が苦笑する。

「山本長官は、言い出したら聞きませんからなあ。飛行機に魚雷を積ませて、戦艦を沈めるなどと、欧米の軍事専門家が聞いたら、腹を抱えて笑い転げますよ」

二人は、山本の立てた作戦に懐疑的だった。彼の立案した作戦によれば、アメリカへの宣戦布告の30分後に、ハワイの真珠湾に停泊しているアメリカ太平洋艦隊を、数百機の艦載機で空襲し、開戦と同時に消滅させるという作戦らしかった。成功すれば、太平洋からインド洋にかけての制海権は日本のものとなり、アメリカはすぐにでも和平交渉に応じてくるだろう、という山本の見込みだった。

「どう考えても、そんなに上手く行く筈ないよなあ。失敗すれば、現場の責任者である、俺が責任を取らされるんじゃねえの?」

南雲中将は、暗い面持ちだった。上官の命令がいかに、理不尽でも、軍人たるもの、全力を尽くさなくてはならない。

「攻撃に失敗して、空母を失えば腹切りものです」

「俺が、腹を切って済めばいいが、大日本帝国の命運が・・・」

「余計なことは考えずに、奇襲が成功する事だけを考えましょうよ」

草鹿参謀長になだめられて、ようやく南雲中将は愚痴をやめた。

 

同じころワシントンのホワイトハウスでは、ルーズベルト大統領が、謎のフランス人、ミッシェルと密談をしていた。

「12月8日に、パールハーバーが空襲を受けます。空母を退避させて下さい」

ミッシェルの言葉に車椅子の大統領は、不思議そうな顔をした。

「なぜ空母を?どうせなら戦艦を退避させた方がいいのでは?」

「これからの海戦に、戦艦は、無用の長物になります。海戦には、空母と飛行機さえあれば十分。あと弾道ミサイルとね」

「君の言っている事は、さっぱりわからんが、とにかく言う通りにしよう。私が、この地位に昇れたのも、君のおかげなのだから」

若い頃より下半身不随のルーズベルト大統領は、ミッシェルの言葉に従う事にした。彼の助言を受けて、現在マンハッタン島で、原子爆弾も開発中である。ヨーロッパでは、枢軸国のドイツ軍がモスクワを攻略寸前であり、もし日本が、アメリカに宣戦布告すれば、ルーズベルト大統領は日独伊三国同盟に対して、敢然と戦いを挑むつもりだった。この戦争の後、アメリカは世界の覇権国家となるだろう、とミッシェルは予言している。

(もっとも、あんたは、この戦争が終わるまで、生きちゃいないけどね)

ミッシェルは皮肉っぽく考えた。

 

 1941年12月8日、運命の日。ワシントンの日本大使館では、野村駐米大使が、東京からの暗号電文を受け取り、愕然としていた。

「13時までに、アメリカに宣戦布告しろ、だって。おい、もう時間がないじゃないか!」

慌てふためく駐米大使に、普段あまり目立たない、影の薄い外交官の一人が、そっと耳打ちした。

「東京に、一度、確認を取った方がよいのではないでしょうか?もし、間違いなら大変な事になります。少しくらい、時間に遅れても、間違うよりマシです」

「そ、それもそうだ・・・」

野村駐米大使は、まさか、この瞬間にも、ハワイに奇襲が行われようとしている事など、全く知らされていなかった。

 

 「ニイタカヤマノボレか・・・けっ、本当にやるのかよ」

南雲中将は、悪態を付いた。作戦決行の暗号電文である。とうとう中止にはならなかった。渋々、攻撃隊に出撃命令を出し、第一次、第二次合わせて300機余りの航空機が、6隻の空母から飛び立っていく。山本長官が設計に口を出したというゼロ式戦闘機は、防御を軽視し、極端なまでに攻撃とスピードに特化した異常な戦闘機だった。訓練に訓練を重ねたパイロット達は、一糸乱れぬ編隊飛行で手際よく発艦し、ハワイ諸島の方角へと消えていった。

「もう、取り返しがつかない・・・」

消極的な南雲中将の意思に反して、2時間後、攻撃隊から、奇襲成功の暗号電文が送られてきた。

「トラトラトラ・・・・我、奇襲ニ成功セリです!」

赤城、艦橋の通信士が歓声を上げた。曇っていた南雲中将の顔が、さっと晴れる。

(そうか、よし、やったぞ!これで、もう、俺の責任は果たした。後はなるべく早く離脱するんだ)

しかし、大戦果をあげ、帰還した攻撃隊の隊長は、再度の出撃を要求してきた。

「再出撃の許可を、お願いします」

「馬鹿か!モタモタしていたら、やられるぞ!余計なことはせずに、さっさと逃げるんだよ!」

「しかし、湾内のドックや、石油の備蓄タンクが無傷のままです。それに、空母が一隻も見当たりませんでした」

「放っておけ、そんなもん!戦艦は全部撃沈したんだろうが!それでいいじゃないか!何をグズグズ言っておるか!」

南雲は一喝し、断固出撃は認めなかった。

 

 野村駐日大使がノコノコと、ホワイトハウスに宣戦布告にやって来た時、すでに、パールハーバーは火の海になっていた。

「騙し打ちですな、これは!」

応対した国務長官の態度は冷たかった。

「怒りますよ、うちの国民は!血の気が多くて正義感の強い奴らばかりですから。こう言うの一番嫌いなんです。あなた、エドガー・ライス・バローズのヒーロー物の3文小説を読んだことがありますか?」

「いえ・・」

「ハリウッドで活動写真にもなりましたよね。ターザンとか、火星シリーズとか。あんな感じなんですよ、うちの国民は」

宣戦布告の時間を厳守出来なかった駐日大使は、アメリカでは卑怯者呼ばわりされ、日本では、非国民扱いされる事になった。とにかく、この一戦で、アメリカの太平洋艦隊は、空母を残して壊滅し、怒りに我を忘れたアメリカの国民は、熱狂の渦に飲み込まれるかのようにルーズベルト大統領を支持し、日独伊3国同盟に対して宣戦布告をしたのだった。

 

 山梨県奥滝村にある千羽鶴教団の総本部では、教祖、久石千鶴が、ラジオを聞きながら新聞を読んでいた。

『帝国陸海軍は、太平洋上にて米英軍と交戦状態に入れり』

『真珠湾の米太平洋艦隊全滅』

『マレー沖海戦にて英不沈戦艦、レパルス、プリンス・オブ・ウェールズ撃沈』

このところ、連日、日本軍の華々しい戦果が報道されていた。

(歴史は、正しい方向へと進んでいる。このまま、時が過ぎれば元いた現代へたどりつく。そのためには、歴史を監視しなければ)

千鶴の思いは、奇しくも、ミッシェルや、宿敵である時間管理局と同じものになっていた。

「教祖様、東亜連盟の石原様が、お見えです」

使徒の称号を持つ、側近の一人が告げに来た。

「わかりました。茶室へお通しして」

「はい」

千鶴は、白装束の襟を正し、来客の応対に使用している茶室へと向かった。茶室では、初老にさしかかった石原莞爾と、随伴の山川桃次郎が待っていた。石原は、軍を退役し、今は、もっぱら政治団体である東亜連盟の顧問としての活動をしている。

「お茶がいいですか?それとも御神水を召し上がりますか?」

「お茶をお願いします!」

石原が、答える前に、桃次郎がきっぱりと言った。御神水とは、千鶴のオシッコを何百倍にも薄めた液体で、教団が在家信者に高額で売りつけている代物だ。

「いよいよ、世界最終戦争が始まりましたな」

石原が切り出した。

「ええ、閣下のお考え通り、航空機の運用が、戦争の勝敗を左右するでしょう」

「それと、原子爆弾だ。戦況の優劣にかかわらず、原子爆弾を先に開発した国家が、最終的に勝利を手にする」

「残念ながら、日本は負けます」

「ちっ、東条め。戦争の開始時期が早すぎる。あと10年は国力を蓄え、それからアメリカに戦争をしかけるべきだった・・・・奴には、総理大臣の器などない。せいぜい上等兵だ」

石原は、忌々しげに言った。かつて大日本帝国の指導者の地位を争い、敗れた政敵に、余程、腹が立つらしい。

「あたしは、日本に勝ってもらっては困ります。歴史が変ってしまいますから」

「戦争には、勝てないかもしれんが、この戦いを通じて、欧米の植民地支配を受けているアジアの国々を独立させる事は出来るかもしれん」

石原の所属する東亜連盟は、まさにそのための政治団体だった。そこに、桃次郎が口を挟んだ。

「現在、中野学校の卒業生が、東南アジア諸国に散らばって、民族独立のための工作を行っています。日本軍の侵攻とともに、現地の人間で結成された義勇軍が一斉に蜂起する予定です」

「欧米の植民地支配の終焉だ。新しい時代の幕開けだよ。日本が中心となり西洋人の世界支配に終止符を打つのだ」

「その目的は、達成されるでしょう。戦後、アジアだけでなくアフリカでも、独立運動がおこりヨーロッパ諸国は全ての植民地を放棄する事になります」

千鶴が、断言した。

「ほう、そうかね。それは愉快だ。私の今やっている事も、全くの無駄ではないと言うわけだ。しかし、君が未来から来たという話が、どうも信じ難いなあ」

石原は、悪戯っぽく笑いながら言った。

「では、特別に御神体をお見せしますわ」

千鶴は、二人を伴い本殿のさらに奥にある、御神体が祭られている社へと案内した。数人の信者によって常に見張られている社の扉を開けると、そこには金属で造られた異様な乗り物が鎮座していた。

「何ですかこれは?」

桃次郎が尋ねた。

「SH60Kという、21世紀の日本で使用されている航空兵器です。80年前にこの村に教団本部を開設した際に、あたしはこれに乗って、初代の使徒達と共に飛来しました」

千鶴が説明すると、石原は興味深そうに、その物体を観察した。

「ふむ、これは、イギリスで研究中のヘリコプターという乗り物だな。おや、この機体に書いてある『海上自衛隊』というのはどういう意味かね?」

「つまり、海軍の事です。アメリカとの戦争に敗れた日本は、軍隊を持つことを禁止されています。だから海軍とは呼ばずに、別の名前に言い換えているのです」

その話を聞いて、石原は、泣き出しそうな顔をした。

「情けない話だ・・・軍隊を持つことが出来ない・・・・つまり、日本は、植民地にされていると言う事かね。」

「いえ、一応は独立国家という体裁になっています。しかし、外交は全て、事前にアメリカにお伺いを立てねばならず、独自の判断で軍事行動を起こすことは出来ません。もしも、武力衝突があった際は、無条件でアメリカの指揮下に入る条約を結んでいます」

石原は愕然として言葉を失ったようだった。

「・・・何たる事だ。やはり、この戦争には、なんとしてでも勝たねばならん」

「たとえば、戦後、独立した朝鮮には、領土問題で恫喝され、謝罪を要求された揚句に、国民を拉致される始末です」

「ありえん!」

さすがに、石原に、この話は聞くに堪えなかったようだった。

「私は、日本を、アジアのリーダーシップをとる中心国家にしたいのだ」

「21世紀のアジアの中心国家は、日本ではなく中国で、あたしが、最後にいた2004年では、最終的にアメリカと衝突するのは、米中関係だと言われていました。」

「・・・」

石原は激しい眩暈に襲われているようだった。

 

 南雲機動部隊の真珠湾攻撃で、太平洋の制海権を握った後、日本軍は欧米に植民地支配されている東南アジア諸国へと同時侵攻を開始した。マレーシアではイギリス軍が、フィリピンではアメリカ軍が、インドネシアではオランダ軍が次々と降服した。本国から喜望峰を回って救援に来たイギリスの空母機動部隊も、セイロン島沖海戦で粉砕し、もはや大日本帝国の行く手を阻むものは何もなかった。

「何か、おもしれえ事はねえか?」

久石光隆曹長(31歳)は、征服したシンガポールの駐屯地で暇を持て余していた。彼は、20歳で徴兵されて以来、兵役が明けた後も陸軍にとどまって中国各地を転戦し、それが生きがいのように残虐行為を働いていた。久石家は、代々軍人の家系で、彼の父親や兄弟は全員士官学校を出て将校になっているのだが、落ちこぼれの彼だけは下士官なのだった。それでも軍上層部に身内がたくさんいるため、上官にも一目置かれている。

「華僑狩りにも、飽きちゃったしなあ。久しぶりに慰安婦でも抱きに行くか」

光隆は、ブラブラと持場を離れ、慰安所へと向かった。彼は、所属する分隊内ではナンバー2で、ナンバー1の分隊長は士官学校出の新人だから、光隆の行動には見て見ぬふりをし、誰も咎める者はいない。何百人も虐殺してきた光隆には、古参兵としての異様な気迫が漂っている。よく訪れる慰安所の管理人とは顔見知りだった。

「いい娘はいるかい?」

「ええ、いますよ。昨日の船便で着いたばかりのムチムチの朝鮮娘がいます」

「朝鮮娘は、飽きたなあ。なあ、オヤジ、噂で聞いたんだが、捕虜にしたイギリス人女を、高級将校用の慰安婦にしているって、本当かい?」

管理人のオヤジの顔から笑みが消えた。光隆の耳に顔を寄せ小声になる。

「これは、重要機密ですがね。実は本当です。しかし、国際法上問題になるらしくって、この事は絶対に口外しちゃいけねえって、お偉いさん方に言われてます」

光隆の眼がキラリと光った。

「オヤジ、一つ俺にも、イギリス女を抱かせてくれないかなあ」

「そ、それは、旦那、バレたら懲罰ものですぜ。それにイギリス女を犯せば、戦争が終わった後、軍事裁判にかけられる心配もあります」

「バーカ、軍事裁判ってのは、勝った国が負けた国に対してやるもんだ。日本が負けるわけねえだろうが」

光隆は執拗に食い下がった。オヤジがなかなか首を縦に振らないので、さりげなく軍刀の柄に手を伸ばす。光隆が直接言葉に出して脅迫したわけではなかったが、オヤジは彼の全身から発散されている殺気に、命の危険を感じて、とうとう承諾した。

「しょうがねえなあ、久石の旦那。どうぞ、こっちです。ジェニファーって女で、イギリスの植民地総督府の書記官の人妻だったって話です。亭主は、日本軍に抵抗して射殺されたそうです」

「ほう、年はいくつだ?」

「28です」

光隆は、久し振りにゾクゾクするような胸の高鳴りを覚えた。まだ昼間なので、慰安所に兵隊の姿は少なかった。個室に分かれているわけではなく、慰安婦が待機している場所は、粗末な衝立で仕切られているだけである。板張りの床に布団が一枚敷かれているだけの狭い空間にイギリス人女性、ジェニファー・クロフォードはいた。ライトブラウンの長い髪と、灰色の瞳を持っている。乳房をはじめ東洋人には無い肉付きの良さだった。元は上品そうな、くたびれたブラウスとスカートを履いている。洋服のあちこちに、今までに蹂躙した男達が飛び散らせたのか、黄色いシミがついていた。

「たまんねえな。本物の白人女だぜ。俺、白人とヤルのは初めてなんだ」

光隆は興奮していた。今まで、各地の戦線で、日本人、中国人、朝鮮人の慰安婦なら数限りなく抱いてきた。中国の占領地で一般市民の女をやりたい放題に強姦した事もある。しかし、以前から願望はあったものの、白人女を犯すのは初めてだった。ジェニファーは、布団の上に座り込み、虚ろな目で光隆を見上げた。彼女は、シンガポールが陥落して以来、高級慰安婦として無数の日本人将校に犯され、自暴自棄になっていた。

「高い鼻だな。」

光隆は珍しそうに、ジェニファーの、日本人にはありえない形状のノーブルな鼻をつまみ上げた。

「ジャップ!イエローモンキー!ドント、タッチ、ミー!」

いきなり無礼な仕打ちを受け、ジェニファーが、我に返って叫んだ。気の短い光隆は、カッとなって殴りかかった。

「何だとこのアバズレが!狐みたいな顔しやがって!」

「旦那・・・商品に傷がつくとマズイでさあ」

オヤジが止めに入り、ようやく光隆は、殴る手を止めた。暴力を受けたジェニファーは、目に涙を浮かべている。光隆は、問答無用でジェニファーを布団に押し倒し、覆いかぶさった。荒々しくブラウスのボタンを引き千切り、脂肪の良く付いた柔らかい体にむしゃぶりつく。

「ブヨブヨだぜ。なんて柔らかいんだ」

ジェニファーは、決して肥満している訳ではなかったが、引き締まった日本人の女とは違い、幼いころから牛肉をふんだんに食べているため、皮下脂肪が厚かった。東洋人のように胴長ではなく、スラリと足が長い。光隆は、ぷよぷよした唇に吸い付き、舌を吸った。途端に、欧米人特有の体臭が鼻をついた。

「くせえ!何だ、この匂いは」

「それが、白人女の体臭でさあ。匂いのしない女もいるみたいなんですが、このジェニファーは、割ときつめです」

「ちっ、たまらん。香を焚いてくれオヤジ」

光隆は文句を言いながらも、セックスを止めようとはせず、スカートもむしり取って下着を脱がせた。

「おっ、アソコの毛も栗色だぜ」

光隆は、目を丸くし、オヤジがさりげなく手渡そうとした、『突撃一番』とパッケージに書かれたゴム製の避妊具を払いのける。

「俺は、そんなもの使わねえ。白人女に俺の子を孕ませてやるんだよ」

「病気がうつるかもしれませんよ、旦那」

「かまわん。俺は不死身だ。今まで性病には罹ったことがない」

光隆は聞く耳を持たず、ジェニファーに生で挿入しようとする。それに気付いたジェニファーが必死に抵抗した。

「ノー!アイ、ドント、ワンツ、トゥ、ボーン、イエローチャイルド!」

ロンドンの上流階級に、貴婦人として生まれ育ったジェニファーにとって、黄色人種の子供を孕まされるなど、恐怖以外の何者でもなかった。日本軍のシンガポール占領がなければ、数年の後に高級官吏の夫と共にイギリスに帰国する筈だったのだ。結婚3年目の彼女には、子供がまだいなかったが、夫はすでに処刑され、戦争が続く限り帰国の望みは断たれていた。

「オヤジ、この女、なんて言ってるんだ?」

「日本人の子供なんか産みたくないって、言ってます」

「何だと、日本人をなめやがって!大和魂をみせてやる!」

光隆は、ジェニファーの豊満な乳房を鷲掴みにし、荒々しくチンポをオマンコに突き入れた。

OHHHHH・・・AHAAAA!」

「鬼畜米英!」

光隆は、泣き叫ぶジェニファーの体を貫き、渾身の力で突き上げた。敵の陣地に突撃するような気分で白人女を征服する愉悦に浸り込んでいった。

 

 ベルリンの総統官邸では、アドルフ・ヒトラーが、世界各地からの報告を聞いて激怒していた。

「日本人め。私は、ソ連の背後をつけ、と奴らに命じたのだ。なぜ、勝手に米英相手に戦争など仕掛けるのだ!そもそも、黄色いサルが、アーリア人であるイギリスとアメリカの領土を侵すなどと、まことにけしからん!今すぐ、同盟を破棄して、日本人を皆殺しにしてやりたいくらいだ。しかも、アメリカの参戦で、私の計画は、全て御破算になってしまったぞ・・・」

「アメリカの情報部員からの報告によりますと、現在、アメリカ本土では、ヨーロッパ侵攻へ向けての、大規模な軍団を編成し、着々と準備を進めているようです」

宣伝相のゲッペルスが注進した。

「上陸地点は、3か所が予想されます。北アフリカ、イタリア半島、ノルマンディーのいずれかです」

「北アフリカ戦線のロンメル将軍は、健闘しているようだが」

「はい、最近、ひっきりなしに、補給の強化と、スエズ運河への進出許可を求めてきています」

「スエズ運河への進出は許可しろ。補給は残念だが、ロシア戦線が優先だ。ロンメルの要望には沿えないかもしれん」

ヒトラーは、申し訳なさそうに言った。ソ連との戦いは、冬将軍の到来とともに膠着状態に陥り、極寒で、前線のドイツ兵はバタバタと倒れているらしい。モスクワの攻略はついに果たせなかった。

「ロシア戦線のグデーリアン将軍が、退却許可を求めています」

「何、グデーリアンが?」

ヒトラーは驚いた。グデーリアン将軍と言えば、いつも強気で、敵に突撃することしか知らず、ヒトラーはいつも、突出し過ぎないように止めてばかりだったのだ。そのグデーリアンが、退却許可を求めてくるのは初めてだった。

「退却は許さん、とグデーリアンに伝えろ。一歩たりとも陣地を後退させる事は許さん!」

「はっ!」

ヒトラーは、すべての歯車が狂い出したような、嫌な予感を感じた。戦況が悪化する前に、ユダヤ人の絶滅計画を急がなければならない。

「占領地のユダヤ人を、一人残らず収容所に叩き込んで、虐殺しろ。銃殺では間に合わん。毒ガスで皆殺しにするのだ。奴らのDNAは、一分子たりとも地球上に残してはならんのだ・・・」

ヒトラーの目に狂気が宿り始めていた。元々、異常な思想の持ち主だったのだが、日本の開戦以来、強度のストレスで精密機械のようなヒトラーの頭脳に狂いが生じて来ているようだった。

 

 山川桃次郎は、東京拘置所で、ソ連の二重スパイ、リヒャルト・ゾルゲが尋問される様を見学していた。千鶴から得た情報で、ゾルゲは、開戦の2か月前に逮捕され、以来、特高警察による厳しい取り調べを受けている。

「お前に、情報を提供していた外務省の女性タイピストって言うのは、一体何者なんだ?」

刑事が、ゾルゲを殴りながら尋ねた。逮捕される前は、超然としたクールな雰囲気を漂わせていたスパイも、連日の容赦ない拷問で、ただの怯えた、オドオドした人間になり下がっている。

「そのことは、何回も答えただろう。米谷正子という名前の女だよ。向こうから俺に近付いてきて、肉体関係と引き換えに、いろいろと情報を流してくれたんだ・・・日本人の女は、外国人に滅法、弱いからね」

しゃあしゃあと言ってのけた、ゾルゲの口上に、日本を馬鹿にされたような気分になった特高刑事は激怒して、再び殴りつけた。

「外務省に照会したが、そんな名前のタイピストはいない!」

「俺が知るかよ。実際に彼女のくれる情報は、恐ろしく正確だった。御蔭で、ソ連は、モスクワを落とされずに済んでいる」

桃次郎は、尋問のやり取りを聞きながら思い出していた。

(ゾルゲが連れていた、あの女、普通の人間ではなかった。俺の撃った弾丸は確かに命中していたのに平然としていた・・・千鶴さんが言っていた、時間管理局の人造人間・・・・まさか、空想科学小説の読み過ぎだ)

桃次郎は、取調室を出て拘置所内をぶらついた。ここには、開戦時に、たまたま日本にいて、スパイ容疑で、逮捕された外国の特派員や、商社マン、その家族が拘置されている。彼らは、例外なく、激しい拷問を受けていた。

「何度言ったらわかるの!あたしは、スパイじゃないわ!」

アメリカ新聞社の女性特派員、キャサリン・フォスター(26歳)も、真珠湾攻撃の翌日に逮捕され、取り調べを受けていた。日本の文化に憧れ、観光気分で東京行きを志願したのだが、赴任二か月で、運悪く戦争が始まったのだ。

「じゃあ、この写真はなんだ?」

「あたしは、新聞記者よ。写真を撮るのが仕事なの」

「それが、スパイ行為だって、言ってんだよ!」

キャサリンは、全裸で取り調べられている。ほとんどは、自供済みなのだが、刑事が面白がって何度も、不必要な取り調べを繰り返しているのだ。西洋コンプレックスのある、この時代の日本人にとって、敵国の白人女に屈辱を味あわせる程、楽しい事はない。キャサリンは指の間にペンを差し込まれ、ギュッと上から力任せに抑え込まれた。

「ギャアアアア!」

「ほらほら、早く白状しないと、お手々が、使い物にならなくなっちゃうよ」

裸電球のスタンドを、真近で、顔に向けられ、眩しさのあまりキャサリンは顔をそむける。

「ウウッ・・・これは、不当な尋問だわ。いくら戦争状態でも、国際法違反よっ!」

「前線では、大勢の兵士が血を流しているんだ。んなもん関係あるか!」

特高刑事が、サディスティックな笑みを浮かべ、何度も何度もキャサリンの顔をビンタした。

「今日は、眠らせないからな。お前を、取り調べたいって刑事が、山ほどいるんだ。素直に喋れば、御褒美に、かつ丼だけは食べさせてやる。ただし、箸を使ってだ」

「箸は苦手よ。スプーンかフォークを貸して」

「駄目だ。箸が使えなければ、犬食いするんだな」

特高刑事は、無意味に白人女を虐めるのが楽しくてならないようだった。

 

 東京拘置所から、中野学校に戻った桃次郎は、上月大佐から呼び出し受けた。

「君に、ドイツへ渡って貰いたい」

「ドイツへ?」

桃次郎は、驚いた。近々、アジア民族独立運動支援のため、東南アジアへ派遣されるものと思っていた。

「これから、話す事は、最高レベルの機密事項だ。日本でも、この事を知っている者は数人しかいない。実は、ナチスドイツは数年前、南極で古代文明の遺産を手に入れたらしい」

「古代文明・・・」

桃次郎は、大して驚かなかった。千鶴と接触するようになって以来、超科学的な話題には鈍感になっている。

「その古代文明の遺産に基づき、ドイツでは数々の新兵器が開発中だそうだ。中でも、恐ろしいのが、原子爆弾という代物だ。これは一発で都市を丸ごと焼き払う威力があり、もし、敵艦隊のど真ん中で炸裂させれば、一瞬で敵の戦力は消滅する」

機密事項を語る上月大佐の顔は、無表情だった。桃次郎と同じく伊賀忍者を祖先に持つ、筋金入りの特務機関員である大佐は、感情を表に現す事は、滅多にない。

「原子爆弾の存在は、石原閣下からも聞きました。アメリカとドイツで開発中とか・・・そんなものが登場したら、もはや戦争にはなりませんな」

「そうだ。だからこそ、是が非でも、わが日本も、その爆弾を手に入れなければならん。そのために、貴官にドイツへ渡って欲しい」

「しかし、どうやって?シベリア鉄道も、通商航路も連合国に遮断されています」

「心配するな、ドイツへの渡航には、潜水艦が検討されている。今、呉の海軍工廠で、極秘に新型潜水艦の建造が行われている」

「潜水艦、狭そうですな」

「そんな事はない。全長150メートル、完成すれば、世界最大級の潜水艦だよ。航続距離は、無補給で地球を2周出来る程だそうだ。山本元帥の発案で、折り畳み式の航空機5機を搭載し、これを使ってパナマ運河や、アメリカ東海岸のニューヨーク、ワシントンを爆撃する構想らしい。これが、その資料だ」

桃次郎は、パラパラと企画書に目を通した。「伊500型潜水艦、建造計画」と書いてある。それには、原子爆弾が手に入れば、ホワイトハウスの頭上に落とす作戦案も追記されていた。

「壮大な作戦ですな」

皮肉っぽく桃次郎が言った。

「常識外れだが、不可能ではない。真珠湾攻撃だって成功したんだ。この作戦も実現するだろう。太平洋艦隊を全滅させ、首都に新型爆弾を落とせば、いくらアメリカでも弱気になって和平交渉に応じるだろう」

「リメンバー、パールハーバーと言うのが、アメリカ国民の合言葉だそうですが」

「なら、ついでに、リメンバー、ワシントンと叫ばせてやればいい」

桃次郎も、上月大佐も、この時点では、机上の理論にしか過ぎない原子爆弾の本当の恐ろしさを、まだ知らなかった。

 

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