第148話、花と豚

 

弁護士、武藤剛志(33歳)は、クライアントである食品会社での面会を終え、事務所への帰途についた。2年前、独立して法律事務所を立ち上げた剛志は、収入を安定させるため、企業の顧問弁護士をいくつか担当していた。

(賞味期限の切れた食品を、再販か・・・難しい事件だな。しかし、経営者の無罪を勝ち取り、会社を存続させれば、報酬は莫大だ・・・)

剛志は、考え込みながら愛車であるトヨタの高級車に乗り込み、キーを回してスタートさせた。33歳にして年収は2000万円を超え、都内に高級住宅を持ち、元ファッションモデルの妻がいる。妻は7歳年下だが、現在、一人目の赤ちゃんを妊娠中だった。食品会社社長との打ち合わせが長引いたため、外は、すっかり暗くなっていた。途中のレストランで食事をすませ、再び愛車に乗り込んだ時、夜の9時を過ぎていた。

(今日は、事務所に戻らず、直接家に帰ろうかな)

クライアントの食品会社の本社は、都心を離れた郊外にある工場と併設されているため,辺りの道路を走る車はすでにまばらである。渋滞に巻き込まれることもなく、快適に国道を都心に向かって走り続けていると、突然周りを暴走族に囲まれた。

「おらっ、止まれよ!」

けたたましく、クラクションを鳴らしながら、運転席のすぐ傍に近づいて来た中型バイクから、女性の声で怒鳴られた。周りを囲んでいるのは女だけの暴走族、レディースらしい。剛志は青くなり、なんとか振り切る方法はないかと考えた。そして、携帯電話を取り出し、警察に通報しようとした時、いきなり側面の窓ガラスを鉄パイプで割られた。

「うわあああ!」

剛志は、パニックになり、急ブレーキを踏んだ。車は急停車し、レディースのバイクも剛志の愛車を囲むように停車する。

「ドア、開けろ!」

レディース達は、バイクから降りると、ドアの取っ手に手をかけたが、内側から鍵がかかっており開ける事が出来ず、逆上して、窓ガラスを叩き割った。

「なんてことするんだ!器物損壊だ。弁償してもらうぞ」

「うるせえよ!このタコ!」

特攻服を着た茶髪の女が、割れた車の窓ガラスから手を入れ、内側からドアロックを外す。そして、剛志の背広と髪の毛を掴み、運転席から引き摺り下ろした。

「痛い、痛い、放せ!傷害罪も追加だ」

剛志は、別のレディースに、手に持っていた携帯電話を取り上げられた。そして路上に引き摺り倒され、数人の特攻服や、ツナギを着た女達に殴る蹴るの暴行を受ける。後続の車は、関わり合うのを恐れて、反対車線に回り込み、追い越して行くだけである。

「畜生!俺は弁護士だぞ。お前ら全員、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金だ!」

「千穂、どうする?こいつ何か言ってるよ」

「通報されるとヤバイ。別の場所へ連れて行こう」

レディース、鬼霊同盟の総長、桂木千穂(19歳)は、メンバーに指示して、手早く、剛志の車の中にあった金目の物と、スーツのポケットに入っていた財布を没収させると、メンバーに押さえつけさせた剛志のズボンのチャックを開け、亀頭をつまみ出した。

「な、何をする、触るな!・・・おい、そのトランクを返せ。クライアントの大事な書類が入っているんだ!」

千穂は、剛志の亀頭を糸で縛り、その先を自分のベルトのバックルに結びつけた。

「大人しく付いて来な!逃げようとしたら、お前の大事なチンポが千切れるよっ」

剛志は、後手にオモチャの手錠をはめられ、千穂の中型バイクの後部シートを跨がせられた。千穂がエンジンをかけ、スタートする。剛志は恐怖で気が狂いそうだった。

「こんなを事したら、俺が、猥褻物陳列罪になっちまうじゃないか!」

「うるせえんだよ!黙って、振り落とされないように、しっかりとオマタでバイクを挟み込んでなっ!」

剛志は、言われた通り、必死に股を締め上げた。両手で捉る事が出来ない以上、振り落とされれば、全身打撲の上、糸で結ばれているチンポも無事では済まない。千穂は、ワザとバイクをジグザグに走らせ、面白がった。

「キャハハハハハ!」

「やめてくれええええ・・・」

剛志は生きた心地もしなかった。遥か遠くで、パトカーのサイレンが聞こえたような気がしたが、すでに暴走族の一団は現場から遠く、走り去っていた。

 

1時間近く、暴走族の集団は国道を走り、ようやくある公園で停車した。剛志が襲われた場所から何十キロも離れた場所だった。

「これくらい走れば、もう警察も追ってこないわ」

総長の千穂は、ヘルメットを脱ぎ、バイクから降りた。ベルトのバックルに結びつけた糸を面白半分に引っ張ってみる。

「ひっ、やめてくれ。俺の大事なものが・・・」

「何だよ、大事なものって!チンポだろ?俺の大事なチンポって、言ってみな!」

「・・・」

剛志が黙っていると、千穂が、不機嫌な顔をし、後ろ向きに数歩下がった。糸がピンと張り、剛志のチンポが引き千切れそうになる。

「俺の大事なチンポが・・・」

プライドの高い剛志は、ギリギリと歯を噛みしめた。別のレディースが、没収した剛志の財布を取り出し、中身を地面にぶちまけた。アメックスやJCBのゴールドカードがバラバラとこぼれ落ちる。

「すげえ、財布に20万円も入ってるよ。こいつ普段からこんなに持ち歩いてるのかよ!」

「返せ。窃盗罪が適用されるぞ」

「おい、こいつ、みんなでボコろうぜ」

暴走族は20人以上いた。全員が10代後半の女性で、特攻服や黒革のツナギで身を包んでいる。服には当て字が刺繍され、腕に入れ墨をしたり、唇や鼻にピヤスをしている者もいる。茶髪で目つきの悪い少女ばかりだった。剛志は、チンポに糸を結びつけられ、後手に手錠を嵌められたまま、地面を転がされた。

「乱暴は、やめろ・・・な、やめてくれ、な・・・執行猶予がつくように検察側に話をつけてやるから・・・な、な・・・」

剛志は必死に少女達をなだめようとした。しかし、それは逆効果で、法律用語を口走りながら哀願する剛志が、面白いらしく、暴行はエスカレートしていった。

「おら、立てよ!寝っ転がってんじゃねえよ!」

剛志は、脇腹を何度も何度も蹴り上げられた。顔面にビンタやパンチを何度も食らう。

「今、グシャっていう感触がしたよ。あっ、きったなーい。鼻血が出てきちゃった・・」

「興奮してんじゃない。こいつ、偉そうな顔してるけど、マゾじゃね」

「チンポ、立たせろよっ!」

地獄だった。鼻がひしゃげ、肋骨にヒビが入ったかと思った。

「真美、こいつの顔の血。オシッコで洗い流してやりな」

「あーい」

千穂の命令で、真美と呼ばれた17歳の少女が白い特攻服のズボンを下ろし、剛志の顔の上に跨った。シャーッと勢いよくオシッコが放出され剛志の顔面の鼻血を洗い流した。

「げほっ、げほっ…おい、なんて事するんだ!」

口に入ったしょっぱい味とアンモニア臭で、オシッコをかけられている事に気付いた剛志がわめく。その様子に少女達は大笑いした。

「真美のオマンコを綺麗にしてやりな。もし噛み付いたら、お前の大事なチンポを糸で引き千切るからね!」

「そ、それだけは、やめてくれ・・・」

剛志は、自分のチンポを傷つけられたくない一心で、顔の上に跨っている真美の割れ目に、渋々舌を伸ばした。顔の上に、どっかりと腰を下ろした真美は、体重をかけオマンコを剛志の口に押し付ける。

「ぐっ・・・苦しい・・・息が出来ない・・・」

必死に隙間から呼吸をしている剛志のチンポを千穂が靴の裏で踏みにじった。

「立たせろって、言ってんだよ!いつまで、待たせんだっ!」

「ぐぎゃっ!」

グリグリと委縮したチンポを靴底で踏みにじられ、剛志の顔が苦痛に歪んだ。生暖かい鼻血が口の中に逆流して息をするのがさらに困難になる。踏むのをやめた千穂は、ライターを取り出し、剛志の陰毛に火をつけた。

「茫々だから、少し燃やしてやるよ」

パチパチパチと音をたてて剛志の股間が勢いよく燃え上がった。

「ひやあああああ!熱ちっ、熱ちちち・・・やめろおお!」

「アハハハハ、バッカみたーい」

暴走族の少女達は、剛志が苦しむ様子を見て大笑いした。

 

 公園での暴行は3時間以上続いた。すでに時刻は深夜なので人気は全くなく、通報する者もいない。この公園は、レディース鬼霊同盟の集会所になっており、近隣住民は、いつもの事だと思って、迷惑に思いつつも、しかし、わざわざ出て来る者はいなかった。剛志は、レディース全員のオマンコを、イクまでクンニさせられ、下半身を嫌というほど踏みつけられた。そして再びチンポの先の糸を引っ張られて千穂のバイクの後部座席に乗せられた。千穂が、自分の携帯電話を取り出し、どこかへ連絡を入れていた。

「もしもし・・・こんな時間にすいません。例の弁護士を今から、お連れします。ええ、今月の上納金の一部と言うことで・・・」

千穂が電話をしているのは、鬼霊同盟の上部組織にあたる暴力団、葉桜組の事務所だった。千穂は、携帯電話を切ると、ボロ雑巾のような姿の剛志を乗せたままバイクのエンジンをかけ、スタートさせた。十数台のバイクがそれに続く。さらに1時間あまり夜道を走り、暴走族の一団は、郊外にある、広い敷地を塀で取り囲んだ邸宅に到着した。外門には夜中だと言うのに外灯が付けっ放しで、看板には葉桜組事務所と書かれていた。千穂がバイクから降り、テレビカメラ付きのドアホンのチャイムを押した。

「先程、連絡しました鬼霊同盟総長の桂木です」

しばらくして、門扉が開いた。現れたのはヤクザ風の男二人を従えた和服の中年女性だった。

「久し振りですわね。武藤弁護士さん」

その中年女性のからかうような口調に、剛志は聞き覚えがあった。以前弁護人として法廷で弁護した葉桜組組長の妻、葉桜麗子(42歳)だった。

「あなたの弁護がヘタクソだった御蔭で、夫は無期懲役の判決を受けてしまったのですわよ。御蔭で、うちの組は崩壊寸前ですわ」

麗子の眼差しは氷のように冷たかった。剛志は憤然とした。

「それは、逆恨みだ。本来なら死刑になる可能性もあったんだ・・・無期懲役で済めばいい方なんだ。法律の専門家に聞けば誰だって、そう言うはずだ・・・」

「まあ、ずうずうしい。裁判での自分の失敗を棚に上げて、言い訳だけは弁が立つのね」

「違う、誤解だ・・・すぐに解放してくれ・・・こんなことをすれば誘拐罪で、無期または3年以上の懲役だぞ・・・」

麗子は、抗議しようとする剛志の頬に、突然ピシャッと強烈な平手打ちを見舞った。剛志はびっくりして口をつぐんだ。

「お黙り!脳無し弁護士の癖にっ!」

暴走族の一団は、門をくぐって邸宅の中に入った。塀の中の敷地は日本庭園になっており、十数台のバイクを止めれる駐車場もある。剛志は、チンポを糸で引っ張られたまま、レディース達と共に屋敷の建物に入り、地下室へと案内された。

「組が傾いた責任は、お前の体で償って貰うわ」

剛志本人を目の前にして、麗子は、怒りに震えていた。江戸時代より続いた葉桜組が、自分の代で潰れてしまうかもしれないのだった。麗子と服役中の夫の間には子供はいない。葉桜組のシマも組長不在の間に、他の暴力団や、中国マフィアにすっかり荒らされ、縮小してしまっている。剛志の案内された地下室は、SMプレイ用に作られた部屋で、逮捕されるまで前の組長が、若い女を調教するのに使っていた部屋だった。麗子自身、元々は葉桜組傘下のSMクラブの女王あがりである。

「弁護士の服を脱がせて」

「はい」

麗子の指示で、千穂は剛志のチンポに結びつけていた糸を外し、配下のレディース数人と共によってたかって剛志を抑えつけた。

「離せ!」

剛志は、ワイシャツ、ズボン、下着をビリビリに引き千切られて全裸にされた。体中に、公園で受けた暴行の青痣がある。

「開脚台に縛り付けるのよ」

和服姿の麗子が仁王立ちのまま指示をする。剛志は生まれたままの姿で、SMプレイ用の開脚台に、仰向けにM字開脚で固定された。周りをズラリと取り囲んだヤクザやレディースに、あられもない姿を覗きこまれて、プライドの高い剛志は、恥ずかしさの余り顔が真っ赤になった。

「フフフ・・・いい格好ね、弁護士さん」

麗子は数年来の望みが適って御機嫌のようだった。部屋に完備されていた赤い極太ローソクに火をつけると、剛志の無防備に広げられた股間に、ポタポタと熱蝋をたらし始めた。

「ギャウッ!ギャウッ!」

一滴垂らされる度に剛志の体が反り返った。体中で最も敏感な、皮膚の薄い部分に熱蝋を受けているのだ。

「オラッ、チンポを立たせろよっ!」

千穂が、委縮した剛志のチンポを握りしめ、手荒く上下に動かした。

「うっ・・・うう」

剛志の目にうっすらと涙が浮かんでいた。焼けつくようなローソクの痛みと、ピストン運動の快楽が混ざり合い、不覚にも剛志は自らのチンポをムクムクと膨張させた。

「あっ、大きくなってきたよ。やっぱ、こいつマゾなんだ」

「アハハハ、マゾ男の弁護士だ」

一同が囃し立て大笑いした。剛志は身をよじったが、手足をガッチリと拘束されているため、灼熱の痛みから逃れることは出来なかった。

「あああああ!」

膨張して、さらに薄くなったチンポの皮膚に容赦なく赤い熱蝋が降り注ぐ。やがて、蝋が固まり、張り形のようになって熱を感じなくなると、麗子は、一旦手を止めて凝固した蝋を取り除いてから、再び垂らし始めるのだった。剛志の救いのない悲鳴が、防音壁に囲まれた地下室に、夜通し木霊した。

 

ロウソク責めの後、剛志はM字開脚のまま放置された。夜も遅いので、その日は全員眠る事にしたようだった。翌日に仕事のない暴走族達の大半も葉桜邸に宿泊し休息した。剛志は、ヒリヒリする股間と、全身の打撲傷に悩まされながらもやっと解放された安心感で眠りについた。

「おい、起きろ弁護士!いつまで寝てんだよ!」

剛志は、千穂の平手打ちで目を覚ました。地下室なので朝なのかどうかわからない。M字開脚のまま眠っていたので、体中の筋肉が強張っていた。

「朝飯だ。食え」

千穂の手で顔の前に突き出されたのは、ドッグフードの缶だった。強烈な匂いに思わず吐き気がする。

「嫌がってんじゃねえよ。お前はこれから毎日ドッグフードを食べて、M字開脚のまま裸で眠るんだって麗子さんが言ってたよ」

「こんなことして、ただで済むと思っているのか!今に警察が踏み込んでくるぞ!」

「決まり切ったセリフを吐くな。つまんねえよ、弁護士の兄ちゃん」

千穂は指で、ドッグフードをすくい上げると無理矢理、剛志の口に押し込んだ。もう片方の手で、無防備な金玉をギュッと握りしめる。

「大人しく食べないとタマタマを潰すわよ」

「そ・・それだけは、やめてくれ・・・」

剛志がドッグフードを食べさせられていると、手下を従えた麗子が地下室に入ってきた。昨日の和服姿とは違い、女王様風の黒レザーのボンデージファッションに身を包んでいた。42歳とは思えない若々しい肌に、龍の入れ墨がのぞいている。

「久しぶりね、こんな格好をするのも。SMクラブを経営していた頃を思い出すわ」

手にはバラ鞭が握られていた。

「葉桜さん。頼む、バカな考えはやめてくれ」

剛志は哀願したが、麗子は蔑むような眼で見降ろすだけだった。

「まずは、オチンチンの毛を綺麗にそってあげましょうかしら。アナルも拡張しなくちゃね」

数人のレディースが髭剃り用のジェルと剃刀を持ってきた。昨日ライターで焼かれて半分くらいは縮れていたが、まだ半分くらい残っている。少女の手で陰毛を剃られる屈辱に、剛志は赤面した。

「ほうら、見てみなさい。小学生のオチンチンみたいになったわよ」

剛志は、顔をあげて自分の股間を覗き込んだ。陰毛が完全に無くなっている。次に、麗子は特大のバイブレーターを取り出した。

「お前のケツの穴にブチ込んでやるよ」

麗子は、剛志の目の前でスイッチを入れ、黒い樹脂で作られた電動式の男根を振動させて見せた。剛志の顔が青ざめる。

「やめろ。そんなデカい物、入るわけがない・・・」

「入れるの!そんな弱気なこと言ってるから、裁判でも負けたのよ」

麗子はバイブの先にローションをたっぷりと塗り、先端を剛志のアヌスに押し当てた。そして、ゆっくりと力を入れ押し込んでいく。剛志の顔が苦痛に歪んだ。

「うぐぐぐ・・・裂ける・・・やめてくれ・・・ケツの穴が裂ける・・・」

麗子はやめなかった。復讐したい一念でバイブを押し込んでいく。長い断末魔の後、バイブが根本まで沈むとスイッチを入れた。ウインウインと音をたて、バイブが剛志の肛門の内部でうねり始める。

「おわわわわわわああああ!」

剛志が、妙な叫び声を上げた。声が震えている。ヨガっているのか苦しんでいるのか分らない声だった。

「そのうち、腕が入るくらいに拡張してやるからね」

麗子は、1歩下がると、叫び続けている剛志にバラ鞭を浴びせかけた。

「オーホホホホ!苦しいかい?気持ちいいかい?このマゾ弁護士め!」

バイブに前立腺を刺激されて剛志のチンポが、そそり立ち、亀頭の先から透明な先走り液がほとばしっている。

「お前は、今日からあたしのオモチャだよ」

麗子は、狂ったように剛志に鞭を浴びせかけ、たちまち腹、肩、足の皮膚が赤く腫れ上がった。

 

鞭打ちの後、剛志は、開脚台から降ろされて別の部屋へと連れて行かれた。アナルには特大バイブを挿入されたままである。全身の皮膚がヒリヒリと痛む。暴れ出さないように、後手に手錠も掛けられた。

「これ以上、もうひどい事はやめてくれ・・・」

「何言ってるの、こんなのは、まだ序の口よ。みっちりとしごいて、お前を本物のマゾ男に鍛えて上げてあげるから」

連れて行かれた部屋は、トレーニングルームだった。ルームランナーやエアロバイク、ぶら下がり健康機などのトレーニングマシンが揃っている。葉桜邸に詰めている組員の暇潰しや、体力作りに使われている部屋だった。

「責め甲斐のある筋肉ムキムキの体を作るのよ。こんな、痩せこけたヒョロヒョロじゃ、責めても面白くないからね」

麗子に言われて剛志は、自分の全裸の体を見下ろした。学生時代はバスケットボール部で鍛えていたのだが、司法試験に受かってからは仕事に忙殺されて碌に運動もしていなかったため、筋肉が落ち、アバラが浮き出ている。

「まずは、これをつけて、スクワット50回よ」

麗子が、千穂に指示をした。千穂は手渡された、分銅二つを、糸で剛志の左右の睾丸に根本から一つずつ結び付け、ぶら下げる。

「うっ・・くくっ・・・」

剛志は、内臓を突き上げられるような苦痛に顔を歪めた。男にしか分らない痛みである。睾丸が下に引っ張られ、玉袋が千切れそうなくらいに伸びている。

「ほら、どうした、マゾ弁護士?その姿勢のままスクワット50回だよ!回数は自分で大声をあげて数えな!」

麗子が、バラ鞭から持ち変えた竹刀で、剛志の背中を一撃した。

「ぎゃおっ!・・・1・・・」

剛志が、恐る恐る屈伸する。アナルにはスイッチが入ったままのバイブが蠢き、股間では、糸でぶら下がった二つの分銅がブラブラと揺れている。手錠は後手に嵌められたままだ。

「2・・・3・・・4・・・5・・・6・・・7・・・8・・・」

「こら、もっと、深く膝を曲げろよ!最初からやり直しだ!」

麗子の竹刀が、容赦なく剛志の背中に炸裂する。

「ぎゃっ!・・・1・・・2・・・」

「もっと、早く・・・やり直し!」

123・・・」

「声が小さい、やり直し!」

「1!2345!・・・」

剛志の全身から汗が噴き出した。長らく使っていなかった脚の筋肉が、突然酷使したために痙攣寸前で悲鳴を上げている。背中が痛み、金玉からも下腹部をえぐるような痛みが襲ってくる。アラルのバイブの振動がもたらす快楽だけが唯一の救いだった。

「オーホッホッホッ、その調子よ!」

バシッバシッと麗子が、スクワットを続ける剛志の、汗まみれの背中を竹刀で叩き続けた。

「45、46、47、48、49、50!」

剛志は、激しく息を切らし、朦朧としながら50回のスクワットをやり切った。目の前が真っ赤になり、こめかみが血管の膨張でズキズキと痛んでいる。足に力が無くなりヘナヘナとその場に崩れ落ちると、麗子が大激怒した。

「誰が休んでいいと言ったの!立ちなさいっ!もう50回よ!今度は、千穂を肩車したままスクワットよ!」

「ハァ・・・ハァ・・・無理だ・・・・少し休ませてくれ・・・」

「ダメ!やらないと金玉潰すわよ!」

「ひいっ・・・それだけは・・」

最後の殺し文句に剛志は、全身の気力を振り絞り、ヨロヨロと立ち上がった。手錠を外され、首に跨ってきた千穂を持ち上げ、肩車する。

「ほれっ、始めっ!」

竹刀の一撃を合図にスクワットが始まった。剛志は死力を振り絞り、どうにか浅い屈伸を7回までやり遂げたが、それが限界だった。8回目に膝を曲げたまま立ち上がれず、床に尻餅をついた。すると、アナルに挿入されていたバイブが二人分の体重をもろに受けて、剛志の肛門内部をえぐった。

「ぎゃああああ!」

「危ないじゃないの!」

一緒に転倒しかけた千穂が、怒りに我を忘れて剛志の髪の毛を掻きむしり、頭を殴りつける。精神力の限界に来ていた剛志は、殴られたショックで気絶した。

「マゾ弁護士を起こして」

「はい、麗子様」

千穂が、仰向けに倒れた剛志の顔に、何度も何度もビンタを見舞った。

「う・・うう・・・水をくれ・・・」

剛志が目を瞑ったまま、うわ言の様につぶやいた。昨晩、拉致されて以来、ドッグフード以外何も口にしていないのだ。スクワット運動で大量の汗をかき、深刻な脱水症状に陥っているようだった。

「誰か、オシッコしたい人いない?」

麗子が、見物していたレディースのメンバーに尋ねた。3人が手を挙げる。

「マゾ弁護士に飲ませてやりな。こいつのこれからの水分補給は、オシッコの直飲みだけだ。一生、ペットフードとオシッコだけで暮らすのさ」

麗子は、心底楽しそうだった。3人のレディースは代わる代わる剛志の顔に跨り、口の中に放尿した。脱水症状で、半ば意識の朦朧とした剛志は、自分が口にしているのがオシッコと気付かず、咳き込みながらも、まるで清涼飲料水を飲むかのようにゴクゴクと飲み下していった。

「極限状態に置かれた人間は、何でもするって本当ね」

元SM嬢でもある麗子の頭の中には、まだまだ剛志の調教プランが沢山計画されていた。

 

執拗なビンタを受け、意識がハッキリした剛志には、次のトレーニングメニューが用意されていた。

「次は、腹筋よ。お前には腹筋マシーンは、勿体無いから、床の上でやりなさい」

麗子は、後手に嵌められていた剛志の手錠を一旦外し、頭の後ろで組み直した。

「亜由美、ズボンとパンティを脱いで、マゾ弁護士を跨いで立ってくれない?」

麗子がレディースの一人、島田亜由美(18歳)に指示した。亜由美は言われた通りにし、見上げている剛志に眼を飛ばす。ふさふさとした陰毛に覆われた股間が挑戦的だった。

「腹筋、50回よ!起き上がる度に、亜由美のクリトリスにキスしなさい」

「う・・うう・・・」

「返事は?判ったの?」

麗子は、竹刀で剛志の鳩尾をグリグリと突いた。

「ぐふっ・・ぐふっ・・判りました・・・」

剛志は、腹筋を始めた。歯を食いしばり、起き上がる度に唇をすぼめて亜由美の股間にキスをする。陰毛に顔を埋める度に生臭い女の匂いを嗅いだ。

「嫌がってんじゃねえよ!舌も出して真剣に舐めろよ!」

亜由美の罵声が飛んだ。剛志は苦しさと悔しさで涙をこぼす。再び全身が汗でびっしょりになった。

「48!49!50!ハァ、ハァ・・・終わりました・・・」

「終わりじゃないわ!次は亜由美のケツの穴にキスしながら腹筋50回よ!」

今度は、後ろ向きに仁王立ちで跨った亜由美の肛門に向けて腹筋を始めた。尻の割れ目に顔埋める度に、ほのかにウンチの香りがする。23回目に剛志が顔を埋めた瞬間、亜由美がプスッと放屁した。

「喰らえ!キャハハハハ・・・どう、いい匂い?」

「う・・・くくく・・・」

「答えなさい!マゾ弁護士!弁護士のくせに、きちんと答弁も出来ないの!」

麗子の竹刀の先が剛志の胸板を叩く。

「ぐふっ・・・いい匂いです・・・」

それ以外の答えは剛志には許されなかった。別の応えをすれば、どんな暴力を受けるか判らない。合計100回の腹筋をやり遂げた剛志は、精根尽き果て、しばらく起き上がる事が出来なかった。

「そろそろ、お昼の時間ね。あたし達は上で、イタリア料理でも食べてくるから、あなたは、キャットフードでも食べてなさい。午後からも調教の続きをするから、食べ残したら承知しないわよ」

レディースとヤクザ達は、ぞろぞろとトレーニングルームから出て行った。剛志が逃げ出さないように外側から鍵をかけていく。首の後ろに手錠をはめられたままの剛志は、目の前の皿に盛られたキャットフードを見つめながら、むせび泣いた。

 

夜遅く、一日のハードな調教と筋力トレーニングを終えた剛志は、再び開脚台にM字開脚の姿勢で固定された。秘部を晒しながら眠るのだ。剛志に与えられた朝昼晩の食事は、全てペットフードで、飲み物は全て、レディースかヤクザのオシッコだった。剛志自身の排便、排尿、オナニーは禁止され、命令された時に命令されたスタイルで行うよう、強制された。どうしても我慢出来ない時は、させて下さいと、哀願するしかなかったのだが、大抵は交換条件を出され、排泄の代わりに。苛酷な責めを追加された。剛志は、警察による救出に望みを託し眠りに落ちていったが、一晩中悪夢にうなされ、翌朝目覚めた時は、全身汗びっしょりだった。大量のオシッコを飲まされていたため、汗にアンモニア臭が混じっているような気がする。昨日、苛酷なトレーニングを受けた両足と、腹筋が熱を持ち、筋肉痛でこわばっていた。

(救出されたら、あいつら全員刑務所にぶち込んでやる!)

剛志は怒りに燃えた。しかし、それまでは麗子達の言いなりになるしかない。今日も、昨日と同様のハードな調教の1日になるだろう。

 

第149話、介入

 

「第63時空域カラ転属ニナリマシタ」

第68時空域のタイムパトロール支部に新しいパトロール員が転属してきた。女性型モンゴロイドの容姿をしたそのパトロール隊員は、他の隊員と同様、高性能アンドロイドである。それは、かつてイエスイという名で13世紀のモンゴル族の間に駐在していたアンドロイドだった。

「御苦労、コノ第68時空域ハ、最モ不安定ナ時空域ノ一ツダ。特ニ1938年カラ1945年マデノ間ハ、歴史ノ分岐点ニ成リ得ル事象ガ、相当数存在スル。多元宇宙カラノ介入者モ多イ」

「歴史ハ、マスターノ予言通リ、進メナクテハナリマセン」

「ソノタメニ、我々タイムパトロールハ、歴史ヲ常ニ監視シ、逐次介入ヲ行ッテイル。歴史ハ、人ノ意思ニ左右サレル不安定ナモノダ。放置スレバ、マスターノ予言トハ違ウ方向ニ流レテシマウ」

イエスイには、どうしても気になる事が一つあった。

「コノ時空域ニ、時間犯罪者11532号ガ存在スル筈デス。直接介入ニヨル抹殺ヲ提案シマス」

「ソレハ許可出来ナイ。コノ時空域ノマスターヨリ、保留ノ支持ガ出テイル」

「ナゼデスカ?私ニハ理由ガ認識出来マセン!第一、我々ノ真ノマスターハ、1万2000年前ノアトランティス大陸ニイマス。例エ同一人物デモ、コノ時空域ノマスターノ命令ニハ、ソレホドノ重要性ヲ認識出来マセン」

イエスイは、どうしても時間犯罪者11532号を逮捕、もしくは抹殺したかった。600年以上前から追っているのだ。

「ソノ理論ニハ同感ダ。コノ件ニツイテハ本部ニ照会中ダ。ソレマデハ手出シヲスルナ」

「了解シマシタ」

イエスイは、とりあえず引き下がる事にした。イエスイも不老不死のボディを持っている。チャンスはいくらでもあった。

 

1941年8月。山梨県奥滝村を一人の男が訪れた。地味なスーツを着たその男は、まだ若かったが、常に鋭い眼光で周囲の様子をうかがっている。東京から汽車に乗ってやってきたその男は、山川桃次郎(30歳)だった。

(久石千鶴か・・・どんな女なんだろう)

桃次郎は、駅前からは、円タクに乗った。

「千羽鶴教団の本部まで頼む」

「へーい」

タクシーの座席に座った桃次郎は、ポケットから教祖久石千鶴の写真を取り出して眺めた。白黒写真だが、よく写っている。まだ若い美しい女だ。

(江戸時代から生きているなんて、そんな馬鹿な事があるはずがない。きっと何代かに渡って名前だけ襲名しているに違いない。それにしても久石か・・・)

桃次郎は十年程前、兵役に就いていた頃、同じ部隊で戦った久石光隆という戦友を思い出した。同い年で、同期の桜だったその男とは、妙に気が合った。

(そう言えば、どことなくあいつと面影が似ているぞ。ひょっとして親戚か?東京に戻ったら、その線からも当たってみようかな)

久石光隆は冷酷な男で、中国人や満州人を同じ人間とは思わず、虫ケラのように殺していた。彼は、その非情さを買われてトントン拍子に出世し、2年間の兵役が明けた後も下士官として軍隊に留まったと聞いている。その点は、桃次郎も同じで、兵役中に満州特務機関にスカウトされて以来、情報畑を歩き、現在は新設された陸軍中野学校に所属していた。

(日本の情報機関は、忍者の流れを組んでいる。この仕事は俺にはうってつけだ)

桃次郎の先祖は、戦国時代、織田信長や豊臣秀吉に仕えた伊賀忍者だった。山川家に残っている伝承では、武田信玄や上杉謙信は、彼の先祖が暗殺した事になっている。さらにその先祖をたどると、最初に山川家を起こしたのは、あのお伽話に出てくる桃太郎だったらしい。

「着きましたよ、旦那」

桃次郎は、財布から一円札を抜き出して運転手に渡すと、タクシーから降り立った。目の前には巨大な鳥居と、鶴の銅像が建っており、本殿に向かう砂利道の両側の木々には、所狭しと折紙で折った千羽鶴がぶらさげられていた。

(あまり趣味が、いいとは思えないな)

桃次郎は、油断なく周囲に目を配りながら、猫のような足取りで本殿への道を進んで行った。

 

蝉が鳴き、小鳥のさえずりが聞こえる。本殿の周囲には、全国から集まった出家信者が住む建物があり、年齢も様々な男女が中庭の到る所で、白装束をはだけて乱交セックスにのめり込んでいた。

(戦時下だと言うのに、よくこんな事が見逃されているな)

桃次郎は眉をひそめた。戦時下でなくても問題だ。事前に調べて来た情報では、千羽鶴教団は、国の戦争指導に協力的で、出家信者の中から美女を選び出し、進んで従軍慰安婦として前線に送り出しているらしい。軍関係者や政治家に多額の献金も行っている。そのため、他の新興宗教のように国家権力による弾圧は、全く受けていない。

「東京から来ました山川です」

桃次郎は、本殿の受付けで名刺を取り出した。中野学校の隠れ蓑である貿易会社の肩書きが書いてある。事前にアポを入れてあったため、すぐに教祖との面会の許可が下りた。

「こちらへどうぞ」

案内されて通された茶室で、巫女姿の若い女が待っていた。

「はじめまして、陸軍中野学校の山川と申します」

桃次郎は、千鶴には、正式な肩書を書いた名刺を差し出した。

「山川桃次郎さんですね。お話は伺っております。貴方の御先祖には、500年前に会った事があります」

女は平然と話した。桃次郎は、まじまじと女の顔を見つめる。物腰は落ち着いており、眼差しは深い海のようだったが、まぎれもなく20代の女だった。

(この女が久石千鶴か。噂通り、妙な能書きを垂れる・・・)

「500年前・・・ですか?」

「そうです。それは、桃之介と桃江という忍者の兄妹でした。あたしと一緒に武田信玄を暗殺しましたのよ。忍法マン締めの術という技でね。懐かしいですわ」

桃次郎は驚いた。その事実は山川家に伝わる巻物には書いてあったが、門外不出であるため、他人には絶対に知られていない筈だった。

「本当ですか・・・」

「ええ。と言うより、もっと遡れば、あなた達、山川家の元祖にあたる桃太郎を1200年前に生んだのは、このあたしなのよ。つまりあなたは、あたしの遺伝子を持つ子孫ってわけ」

桃次郎は、この女は、気が狂っているのではないのかと思った。千鶴は、大空に舞う鶴を描いた掛け軸を背にして、妖しく微笑んでいた。

「信じられません」

「そうね。なかなか信じられないわね。でも、石原中将は信じて下さいましたわよ。貴方をここに、よこして頂いたのも、石原中将にお願いしての事です」

石原莞爾は、この時すでに軍を退役していたが、まだ陸軍内部には信奉者が多数おり、強い影響力を持っていた。中野学校を影で操っている上月大佐もその一人である。

「な、何のためにですか・・・」

珍しく桃次郎は動揺していた。

「あなたに協力して頂くためです。今から62年後の2003年の夏に、宇宙人が襲来します。その時までに、侵略者を迎え撃つ準備をしなくてはなりません」

「宇宙人?空想科学小説に出てくるタコみたいな代物ですか?」

「そう言うのもいますが、その時、地球を襲って来るのは、ネオガイア星人という人間そっくりの宇宙人と、グレイという爬虫類型の宇宙人です。彼らは地球人を生体実験の材料にしたり、ハンティングの獲物にして食べたりします。戦わなければ、いずれ全ての地球人は、食用の家畜か、生体家具、セックス奴隷にされてしまうでしょう」

「話についていけません・・・地球人って言うのは、日本人とか中国人とか、欧米の白人も含めてですか?」

「当たり前です。この星に住む人間全てを地球人というのです。このあたしも、ネオガイア星人の生体実験の材料にされた上、時間の彼方に置き去りにされました。あの恐怖と屈辱は2000年経った今も忘れる事が出来ませんっ!」

急に女教祖は怒り出した。桃次郎は慌てて話題を変えた。

「で、この私に何をしろと?」

「世界中に、あたしの子孫が散らばっています。彼らを見つけ出し、反ネオガイア星人の迎撃ネットワークを構築して下さい。教団も全力を挙げて支援します。世界中の教団施設と人員は自由に使って頂いて構いません。あと62年しかないのです!」

「62年って・・・かなり先じゃ・・・俺、多分生きてないし」

「62年なんて、あっと言う間よ。あたしは、2000年待ったのです。それから、転生者と預言者の動向にも気をつけなくてはいけません。この時代での転生者は、おそらくドイツ総統ヒトラー。預言者はミッシェルという不老不死の男です。判りましたか?」

「さっぱり判りません」

「もう!ですから・・・」

桃次郎は、千鶴から何時間も説明を聞かされた。とにかく62年後の反撃計画に向けて準備をしないといけないらしい。石原を通じて中野学校にも千羽鶴教団に便宜を図るよう根回しされているそうだ。その晩、桃次郎は教団本部に宿泊する事になり、選りすぐりの女性信者から接待を受けた。飲めや歌えの宴会の後、美女3人を伴って寝床に入る。教団ではいつもこうして、政治家や軍のお偉い方々を接待しているそうだ。

「君、どうして教団に入ったの?」

桃次郎は、セックスの相手を務める女の一人に聞いてみた。その女は元華族のお嬢さんだそうだ。

「お花の先生が、ここの信者で、一度説明会に行かないかって誘われたんです。そこで壺とか千羽鶴とか、いろいろ買わされて・・・で、何回か奉仕活動をしているうちに、親にばれて家出しました」

(かなり、悪どくやってるな。いいんだろうか、こんな得体のしれない宗教団体に協力しちゃって・・・)

桃次郎の気持は、釈然としなかった。次の朝、帰り際に千鶴から忠告を受けた。

「リヒャルト・ゾルゲという新聞記者に注意しなさい。彼はナチス党員ですが、実はソ連共産党のスパイです。日本がソ連に宣戦布告するのか、米英に宣戦布告するのかを探るために日本にいるのです」

「はあ、聞いた事もない名前ですが、帰ったら調べてみます・・・現在、ヨーロッパ戦線ではドイツ軍が破竹の勢いでソ連軍を破り、モスクワを目指しています。日本にもヒトラーから、早く対ソ戦に踏み切ってくれと、矢のように催促が来ているらしいので、もうすぐソ連と戦争するんじゃないですか」

「なぜか、そうはならないのよ・・・」

千鶴はつぶやくように言った。桃次郎は、それ以上聞かずに、円タクに乗り、教団本部を去って行った。

 

 1941年夏、ロシアの平原でドイツ軍300万人が、抵抗するソ連軍と死力を尽くして戦っていた。突如、独ソ不可侵条約を破棄されたソ連側は大混乱に陥り、碌な防御態勢も整わないまま、敗走に次ぐ敗走を重ねた。

「どれだけの被害が出ようとも退却は許さん!」

アルコール中毒の独裁者スターリンは、モスクワの陥落だけは避けたかった。

「部隊を2段構えに配置しろ。最前線の部隊の兵士が退却しようとしたら後ろの部隊からライフルで狙撃しろ」

「味方を撃つのでありますか?」

「そうだ、それ以外に戦線を維持する手段はない。ドイツ軍と戦って死ぬか、味方に撃たれて死ぬか・・・もちろん、逃げようとして味方に撃たれて死んだ兵士の家族は、反逆罪で全員シベリア送りだ!」

ソ連軍の死傷率はウナギ登りに上った。ドイツ軍に物資を渡さないために焦土戦術が取られ、家を失った民間人も大量に野垂れ死にをした。ドイツ兵が一人死ぬ度に、ロシア人が10人死ぬ計算だった。それでも、ドイツ軍の進撃を止めることが出来ない。

「この状況で、日本に参戦されたら終わりだ!ゾルゲからの報告はまだか?日本が対米戦の方向に向かうなら、極東の兵力をモスクワ防衛に回せる。」

「残念ながら、ゾルゲからの報告はまだです」

秘密警察長官のベリヤは、苦しげな表情で言った。スターリンは、人生最大の危機に直面していた。

 

その頃、ベルリンのドイツ軍大本営では、ヒトラーが参謀達と、ロシア平原の鳥瞰模型を取り囲んで悦に入っていた。

「中央軍集団グデーリアン将軍の突破力には、いつもながら感心させられる。あれよあれよという間に、モスクワは目前だ。この調子でいけば9月中にもモスクワを落とし、対ソ連戦を終結させる事が出来る!」

ヒトラーは、スターリンのように酒を飲む事も滅多になく、健康とコンディションには細心の注意を払っていて頭脳も明晰だった。その時、それまであまり目立たなかった参謀が突然口を開いた。

「南方軍集団の進撃が遅れています。このまま中央軍集団が突出すれば、後方を遮断される恐れがあります。一旦進撃を中止し、戦線を整理してから、再度モスクワを目指すのが最良かと思われます」

戦術理論に適った最な意見だった。几帳面なヒトラーが名前も覚えていないその参謀は、余程影の薄い存在だったのだろう。無表情で、どこか機械的ですらある。

「ふむ、そうだな、その意見には一理ある。グデーリアンには、どこまでも突進したがる傾向があるからな。誰かが止めてやらねば、シベリアを突っ切ってウラジオストックまで進撃してしまいそうだ」

珍しくヒトラーが冗談を言った。参謀達が愛想笑いを浮かべる。発言した参謀だけが無表情のままだった。

(ウマクイッタ。我々ガ介入シナケレバ、コノ状況デハ、ドウシテモ枢軸国側ガ勝ッテシマウ。ソレデハ予言ト違ウ歴史ニナッテシマウ)

影の薄い参謀は、時間管理局、調整班所属のアンドロイドだった。こうして快進撃を続ける中央軍集団に停止命令が出され、ドイツはモスクワを攻略する最大のチャンスを失っってしまった。

 

その頃、日本でも戦局の行方を左右する重大な会議が天皇の御前で行われていた。

「ドイツから、何度も対ソ戦に参加するよう催促がきています。直ちに大日本帝国は、ソ連に開戦するべきだ!」

陸軍大臣の東条英機が息巻いた。

「日独伊三国同盟を結んでいる以上、ドイツの要請を断るのは信義に反します」

外務大臣も、賛成のようだった。その時、目立たない大臣の一人が口を開いた。

「ソ連と戦うには、石油が必要です。そのためには、先に南方に進出し、インドネシアの油田地帯を抑えるのが先決と思われます」

その言葉に米内海軍大臣が、きっとなって、口を挟んだ。

「そんな事をすれば、米英と戦争になるぞ。私の口から言うのもなんだが、今の連合艦隊の戦力ではアメリカ海軍に勝てない・・・」

「完全に勝つ必要は無いのです。短期決戦で勝利をおさめ、アメリカとは有利な条件で講和を結べば良いのです。そうでしょう、山本長官?あなたは、そのための秘策も持っている筈だ」

目立たない大臣に突然振られ、それまで沈黙していた連合艦隊司令長官の山本五十六は戸惑った。なぜ、その事を知っているのかといぶかりながらも、渋々うなずいた。

「実は、ある作戦を立案中です。本来、駆逐艦に積む魚雷を、飛行機の腹に抱かせて、長距離を飛ばせ、空中から敵艦に発射します。この戦法だと、こちらは、全く損害を受けずに敵の戦艦を沈める事が出来ます」

御前会議の一同は、山本の突拍子もない発言に引き込まれていった。そのような戦法は欧米にも先例がない。従来の戦争常識を覆すようなアイデアだった。

「日本は現在6隻の空母を保有しています。これは、アメリカ太平洋艦隊や、伝統あるイギリス海軍をはるかに上回る数です。これを使って、隠密裏にアメリカ太平洋艦隊が集結しているハワイの真珠湾に奇襲をかければ、一瞬で全滅させる事が出来ます・・・」

静まり返った会議の席で、一人山本だけが熱弁を奮っている。全員がこの作戦に夢中になり、空気は対米宣戦布告の方向へと傾いて行った。

(ウマクイッタ。コレデ日本ハ、勝ツ見込ミノナイ戦争ニ引キ摺リ込マレ、最後ニ予言通リ原爆ヲ落トサレテ、無条件降伏ヲスルコトニナル)

目立たない大臣は、時間管理局の工作員だった。こうして歴史は、自然の流れからは、あり得ない方向へと、無理矢理捻じ曲げられたのだった。

 

1941年、10月。リヒャルト・ゾルゲは、渋谷の洋風カフェで、一人の女と会っていた。女はゾルゲの数多い愛人の一人で、外務省でタイピストをしている女だった。ゾルゲが日本に構築した諜報網の中で、もっとも重要な情報源の一人である。

「日本は対米宣戦布告を正式に決定しました。開戦時期は12月です」

「ありがとう。でも、よくそんな重要機密を調べられたね?」

「あなたのためですもの。決死の覚悟で盗み読みしましたのよ」

女は美しいが目立たない、大人しそうな性格だった。いかにも事務職といった控えめな雰囲気である。ゾルゲは、女の手を取ると甲にキスをした。この時代の日本人で、公衆の面前でこんな事をする者はいない。

「ハリウッドの活動写真でも見に行こうか」

ゾルゲは、支払いを済ませると女の手を取ってカフェを出た。この情報を暗号電文に組み替えて、自宅にある無線機でモスクワに送れば、スターリンは狂喜し、直ちに極東に張り付けていた戦力を、モスクワ防衛に回すため、シベリア鉄道で移送を開始するに違いない。賑やかな通りを歩いていると、いきなり一人のサラリーマン風の男に声をかけられた。

「ゾルゲさんですね。困りますね、大切な情報を国外に垂れ流して貰っちゃあ」

男は、山川桃次郎だった。千鶴に警告を受け、その後リヒャルト・ゾルゲを尾行していたのだ。その時、連れの女がいきなり目にも止まらぬ速さで、桃次郎の背後に回り込み、羽交い絞めにした。

「逃げて!」

ゾルゲは臆面もなく女を見捨てて走り出した。スパイは非情なのだ。桃次郎は女を振り解こうとするが、恐ろしい力で突き放す事が出来ない。

(くそっ!俺とした事が。この女、なんて馬鹿力なんだ・・・)

情報部員としての訓練を受けて来た桃次郎は、武術にも自信がある。それが、あっさりと背後を取られ、しかも女一人に押さえ付けられるなどありえない。

「今、ゾルゲヲ逮捕サセルワケニハイカナイ。彼ガ逮捕サレルノハ、情報ヲ、モスクワニ送ッタ後ダ」

女は時間管理局のアンドロイド、イエスイだった。モンゴル人と日本人は身体的特徴が似ているため、13世紀モンゴル高原にいた時以来、外見は変えていない。

「何者だ、貴様!」

「オ前ガ、知ル必要ハ無イ」

「くっ・・・忍法縄抜けの術!」

桃次郎は一瞬にして肩の関節を外し、次の瞬間スルリと女の拘束から抜け出した。数メートルを飛び退り、受け身で転がりながら外れた関節を元に戻す。

「忍者カ・・・データベースニヨルト、コノ時代デハ、絶滅寸前ダトアル」

「余計な御世話だ」

桃次郎は拳銃を取り出し、イエスイに向けて3発撃った。正確な射撃で胴体中央に命中したが、倒れる気配もない。女は、ゾルゲが逃げ切ったのを確認すると、急に桃次郎に興味を失ったようだった。

「オ前ハ、D級歴史上人物ダ。ココデ殺ス訳ニハイカナイ。失セロ」

「何を!」

桃次郎が、続けて引き金を引くより早く、女の姿は超スピードで移動し、人混みに紛れていた。

 

 1941年11月。時間管理局支部では、独ソ戦の監視が行われていた。

「ナゼ、ドイツ軍ハコンナニ強イノダ。マダ戦局ガ変ワラナイ。コノママデハ、ソ連ガ負ケテシマウゾ」

「転生者、ヒトラーノセイデショウ」

「歴史ヲ変エナケレバ」

「最後ノ手段デス。気候ヲ、ソ連ニ有利ナヨウニ、コントロールシマショウ」

「許可スル」

数十機のタイムマシンがロシア平原の上空を舞った。冷却ガスを大量に散布する。この年、ヨーロッパは歴史上類を見ない寒波に襲われ、ドイツ軍の進撃速度を鈍らせた。

 

1941年12月。アメリカの首都ワシントンにあるホワイトハウスを一人のフランス人青年が訪れた。

「やあ、君か。久しぶりだな。君も戦火を避けて大西洋を渡って来たのかい?」

フランクリン・ルーズベルト大統領は、懐かしそうにミッシェルを出迎えた。二人は旧知の間柄なのだ。

「まあ、そんな所かな」

ミッシェルは数十年前に会った時のまま、年を取っていないようだった。

「今日は、助言をしようと思ってね」

「君の助言なら、いつでも大歓迎だよ。私がアメリカ大統領になれたのも君の御蔭だからね」

ルーズベルト大統領は、ミッシェルの言葉を一言も逃すまいと耳をそば立てた。

「実は、今、北太平洋を日本の空母機動部隊が東に向かっているよ。12月8日に宣戦布告と同時に航空機で、真珠湾のアメリカ太平洋艦隊を奇襲するつもりだ」

「ええっ!それは本当か!すぐにホノルルに警告を出し、艦隊を避難させねば!」

ルーズベルト大統領は慌てふためいた。ミッシェルはそんな彼を押し留める。

「まて、落ち着け。最後まで話を聞け。いいかいフランクリン、この事は知らないフリをするんだ。これからの戦争に戦艦は、無用の長物になる。いくら沈められたって惜しくはない。虎の子の空母だけを演習の名目で真珠湾から退避させておけばいい。卑劣な日本の騙し打ちに正義感の強いアメリカ国民は怒り狂って、戦争に参戦する口実が出来る」

「・・・・そうか!その手があったか!日本とドイツは軍事同盟を結んでいる。これでイギリスを助けてドイツと戦えるぞ。ファシストどもを叩き潰す正義の戦いだ」

ルーズベルト大統領の目が輝いた。この事を知ればイギリス首相のチャーチルは、どれ程喜ぶだろう。世界大戦は、ドイツ、日本、イタリア対、アメリカ、イギリス、ソ連の戦いになる。アメリカとソ連は超大国で、イギリスは世界中に広大な植民地を持っている。これでパワーバランスが一気に連合国側に有利になるだろう。

「これで連合国に、負け、はなくなった。馬鹿な日本人め。さすが東洋のサル国家だ。戦局の分析も出来んらしい」

ルーズベルト大統領は、早速、開戦時に国民に向けて演説する、スピーチの草案を考え始めた。ミッシェルは静かに微笑んでいた。

(やれやれ全く、世話が焼ける奴らだ。ここまでお膳立てしてやらねば、転生者一人に勝てないものかね?)

まだ油断は出来ない。連合国に勝たせるために、1945年の終戦まで、何度か介入しなくてはならないだろう。

 

第150話、ピタゴラス博士の日常生活

 

2007年8月。さざなみ市のネオガイア植民地総督府の最上階にある自室で、ピタゴラス博士は目を覚ました。3代目植民地総督を務めるピタゴラス博士は、総督府ビルの最上階のフロアー全部を自分の居住区にしている。彼は、すでに老境にさしかかっているが、妻はいない。正常なセックスよりも悪魔的な拷問や生体実験にしか興味がないのだ。

「おはようございます。御主人様」

肉ベッドが声をかけてきた。それはピタゴラス博士の作品の一つで、4人の日本人女性を繋ぎ合せて作った代物だった。

「うーん・・・」

ピタゴラス博士が背伸びをして肉ベッドから起き上がると、二人のメイドが寝室に入って来た。

「おはようございます。御主人様」

メイドは、全裸で首に奴隷管理用の首輪をつけ、皮膚にメイド服の刺青をしている。彼女達も徴用された日本の女子大生だった。二人がかりでピタゴラス博士の着ているパジャマを脱がせ、植民地総督の制服である銀色のスペーススーツに着替えさせる。ピタゴラス博士は眠そうにアクビをするだけで何もしない。やがて、着替えが終わるとキッチンへと向かった。そこには様々な生体家具が並べられている。全てピタゴラス博士が、地球人女性を素材にして作った作品だった。彼は、人間椅子に腰かけ、人間テーブルに並べられた食事を食べ始めた。最近は地球の料理に凝っており、徴用した地球人の一流のシェフに作らせている。その朝は、本場イタリア風のピザだった。

「うまいぞ。お前にも一切れ食べさせてやろうか?」

ピタゴラス博士は、料理が並べられている人間テーブルを構成している美女のうちの一人の顔に、ピザの切れ端を近づけた。通常生体家具は、肛門や口に挿入されたチューブを通して栄養剤が直接消化器官に送り込まれるため、食べ物を口にする事はない。テーブルの表面の一部となっている美女の顔が、かすかにうなずいた。ピタゴラス博士が、美女の口にピザの切れ端を押し込むと、涙ぐみながら貪り食べる。何ヶ月ぶりかに、自分の舌で味覚を味わったのだった。

「ふう、お腹いっぱいだ。トイレにでも行くか」

メイドの一人が先回りし、トイレのドアを開ける。当然トイレも人間便器で、それは生体家具の中でも最も美しい、元アイドルタレントのなれの果てだった。

「トイレは、一番奇麗じゃないといけないからな。ギャハハハハ!」

ピタゴラス博士は爽快に笑うと、悲しげな目つきで口を開いている人間便器に跨った。人気絶頂の頃に徴用されたアイドルタレントは、舌をかまないように歯を全部抜かれ、手足も捻じ曲げられて接着されていた。排泄物の吸引は、毎日の事なので、むせる事もなく、ピタゴラス博士の大便と小便を嚥下していく。排泄後は、舌で奇麗に舐めてくれるので、ウォシュレットやトイレットペーパーを使う必要はない。

「今日は、何の歌を歌いましょうか?」

人間便器は、徴用される前、CDデビューをした事もあり、時々、ピタゴラス博士のお通じが悪い時など、歌って気持ちをリラックスさせているのだ。

「いや、いい。お前の歌は、もう飽きた」

そう、ピタゴラス博士は冷たく言うと、ズボンを引き上げ、バタンとドアを閉めて出て行った。元アイドルタレントだった人間便器は、暗いトイレの個室でシクシクと泣き濡れた。

 

ピタゴラス博士は、自宅になっている最上階から執務室のある階へとエレベーターで降りた。すでに何人かのネオガイア人の職員が出勤している。執務室には、人間インクジェットプリンターの山瀬梨奈(26歳)が待機していた。梨奈は1年前までは上級職の市役所職員だったのだが、ピタゴラス博士の総督就任と同時に目を付けられ、人間インクジェットプリンターへの改造手術を受けたのだった。

「おはようございます、総督閣下」

「おはよう。早速、朝の定例会議の資料を印刷してくれ」

「かしこまりました」

梨奈はコンピューター端末のケーブルを口に咥えた。地球製のパソコンにも対応しており、USBケーブルを口に咥えても印刷データを読み込む事が出来る。梨奈はデスクの上に飛び乗ると、スカートを捲り上げ、パンティを下してA4のコピー用紙の上にしゃがみこんだ。クリトリスが印字ヘッドに改造されている。

「うっ!ああっ!いく!」

梨奈は、背中をのけぞらせて叫ぶと、オマンコを紙に押し付け、小刻みに腰を振り始めた。梨奈の脳髄に埋め込まれたコンピューターチップが快楽中枢に刺激を与え、潮を吹かせているのだ。着色された潮がインクの変わりとなって、カラー印刷が出来る。ちなみに、補助機能として、梨奈の目で見た光景をそのまま写真印刷したり、脳裏に想像したイメージや記憶を写真に印刷したりも出来る。人間カメラとしても使えるため、最近ピタゴラス博士は、どこへ行くにも梨奈を連れ歩いている。

「出来ました、総督閣下」

ピタゴラス博士は、出来上がった人数分の資料を受け取ると会議室へ向かった。インクは無臭であるため、普通のプリンターで印刷したものと、なんら変わらない。会議室では、植民地総督府の主だったメンバーが集まっていた。お馴染みのメンバーである。

「何か変ったことがあったかね?」

「何もありません。日本政府は従順で、地球の諸外国は我々に対して静観しており、辺境星域では、百足星人やゴルァ星人との小競り合いが続いていますが、その他は、いたって平和です」

軍の最高責任者であるペルセウス長官が報告した。続いてソロングループのクセノフォン支社長が報告する。

「外宇宙からの観光客は、着実に増えています。地球人奴隷の輸出も順調に伸びています。ただ、このところ輸出単価の下落が気になりますが」

ピタゴラス博士が顔を曇らせた。

「売れそうな日本人を、我々が、誘拐しすぎたせいで、日本の社会では、目立って若者が減ってきているらしい。もっと、まんべんなく世界中から誘拐しなくてはいかん」

「その件で、日本の総理大臣が、本日、総督閣下に面会を求めております」

「総理大臣?面倒くさいなあ」

会議が終わった後、ピタゴラス博士は別室で日本の総理大臣と面会をした。総理大臣は足元に全裸で土下座をしている。

「選挙に負けてしまいました」

会うなり、そう言った総理大臣は、今にも泣き出しそうだった。ピタゴラス博士はうんざりした。

「興味がないね、地球の政治には。政権が誰に移ろうと、我々との不平等条約さえ遵守してくれればそれでいいよ」

「そんな、身も蓋もない・・・高齢化問題やら、年金問題やらで我が国は大変なのです・・」

「そんなもの、解決するのは簡単だ。60歳以上の人間だけを殺傷するウイルスをばら撒けばいい。何なら、わしが作ってやろうか?」

「そ、そんな無茶な・・・」

「それが嫌なら、年金の給付年齢を80歳以上に引き上げるとか、いくらでも方法はあるぞ」

「それでは、年金を貰う前に、ほとんどの人間が死んでしまいます・・・」

「ギャハハハハ!それが狙いだ」

「内政だけではなく、外交も大変なのです。最近、諸外国が冷たくて・・・特に北朝鮮は最悪です」

「ほう、奴らのミサイルの発射は、こちらでも何度か確認したが」

「彼らは、いくら言っても、地下核実験や日本海へのミサイル発射をやめません。それどころか、日本人の誘拐がこの所、急増しています。つい先日など、海水浴客で賑わう海岸に、大量の工作船で押し寄せ、善良な一般市民を根こそぎ連れて行ってしまいました。海上保安庁や海上自衛隊の船が追跡しましたが、人質を殺すと脅されて手を出せずじまいです」

「多分、連れ去られた日本人は、その時、死んだ方がマシだったと思うくらい、北朝鮮で悲惨な目に合うと思うぞ」

「日本海を航行中のフェリーや漁船も、何隻も拿捕されています。正式に外交ルートで抗議しても誰も返してくれません」

「当たり前だ。舐められているのだよ。日本は、独自の判断で軍事力を行使出来る独立国家ではなく、鎖で繋がれた従属国家だと思われているのだ。せいぜい情報をコントロールして国民の不安を最小限に抑えることだな」

総理大臣は、うなだれたまま、すごすごと東京に帰って行った。

 

日本の総理大臣との会見を終えたピタゴラス博士には、その後、特に予定がなかった。退屈なので、視察と称してテレビ局を見学に行くことにする。秘書兼人間カメラの山瀬梨奈と護衛のアンドロイド兵士二人を連れて、さざなみ放送局のイソップ局長の元を訪れた。

「局長、何か面白いことはないかね?暇なんだ」

「これはこれは、総督閣下。それでは、バラエティー番組の収録でも御覧になられますか」

局長が直々に案内をして、スタジオ見学をする事になった。イソップ局長も退屈で時間を持て余しているようだ。収録中のスタジオでは、電車の車内を模したセットが組まれており、イチオシのマゾ芸人、成瀬美咲(23歳)が、車掌役の関西芸人と絡んでいた。

「何や、お前、こんな所で、股広げやがって!」

ピンクのラバースーツを着た美咲が、電車の座席でオナニーをし、それを車掌が注意するという設定のコントだ。美咲の陰部とオッパイの部分は、ラバーの生地がくり抜かれてピヤス付きの乳首とクリトリスが剥き出しになっており、鼻はフックで釣り上げられ、豚顔になっている。

「クリちゃんが気持ちいいの」

「気持ちエエやあらへん。他のお客様に迷惑やろ。大体なんやその格好、恥ずかしくないんか?」

「美咲は、見ての通りのハードマゾでっす!」

「お前、アホか!」

車掌役の関西芸人が、美咲の頭を思いっきり、どつく。

「ああん、気持ちいい!もっとぶって!」

お決まりのセリフで美咲が身をくねらせると、車掌は、無言で容赦なく美咲の顔や頭に本気で平手打ちを始め、たまりかねて、顔をかばうようにして座席に倒れ伏した美咲の体に、強烈な蹴りを入れた。

「ちょ、ちょっと、ま・・・待って・・・」

いきなりの激しい攻撃に、美咲は、素に戻ってストップをかける。しかし、関西芸人はやめようとしない。

「なんでや。もっと、ぶってくれって言うたやないか!あれはウソか」

「ヒッ、ウ・・ウソじゃないです。でも、ちょ・・・待って・・」

美咲は涙ぐみながら哀願した。車掌は美咲が座席の横に置いていたボストンバッグを勝手に開け、入っていた鞭やらローソクやらを取り出す。

「なんやこれ。こんなもん、いつも持ち歩いとるんか?」

「だって、美咲は、見ての通りのハードマゾでっす!」

「わかったちゅうねん。これ、どないして使うんや?」

車掌が美咲にバラ鞭を手渡す。美咲はグリップの方をオマンコにねじ込み、股を開いて立ち上がる。枝分かれした鞭の先が、簾のようにぶらんと垂れ下がる。

「ナイヤガラ」

「やかましいわ。おもろないねん!」

美咲は、どつき回され、少し離れたところに座っていたエキストラの女子高生やサラリーマンも失笑した。

「ほな、これはどうするねん?」

次に車掌は、ローソクを手渡した。美咲はローソクの先にライターで火をつけ、胸の谷間に挟み込む。

「山奥の灯台」

「意味がわからへん。海にあるのが灯台ちゃうんか。ほなこれは?」

バイブを手渡した。美咲は、ローションを塗り、アナルに挿入してスイッチを入れる。ブーンと音が鳴り、美咲は両手を広げて羽のようにバタバタと上下させながら、車内を走り回った。

「おいおい、何がしたいねん。もしかして蜂のマネか?」

「違うわ。御尻にバイブを入れたまま、氷の上を走り回る、南極ペンギンよ」

「わかるかそんなもん!」

そこでコントは終了だった。ピタゴラス博士はニコリともせず、真顔である。

「あの女芸人、才能はあるのかね?」

とイソップ局長にたずねた。

「彼女は、元清純派女優で、お笑いの才能は、ほとんどありません。ただモデル出身の美形なので、そのギャップと体を張ったマゾキャラで、今のところ、かなりの人気はあります」

「ふーん、そのうち消えていきそうな芸人だな」

ピタゴラス博士は冷たく言った。

 

「そう言えば、昔、わしがプロデュースしたアイドルグループはどうなったのかね?」

突然、思い出したようにピタゴラス博士がイソップに訪ねた。

「ひょっとして、軟体ガールズの事ですか?」

「そんな名前だったかな・・・」

「彼女達は、結成後、何度もメンバーを入れ替えましたが、最近では全く人気が無くなり、もっぱら地方巡業に行ってます」

イソップは、すぐに無線端末から担当のマネージャーに電話をし、軟体ガールズの今日のスケジュールを確認した。

「今日は、さざなみ市にいるようです。下町の小さなライブハウスで握手会をやっているそうですが」

「行ってみよう、どうせ、暇なんだ」

アンドロイド運転手付きの専用エアカーを回させ、下町へと行ってみる。到着した小汚いライブハウスはガラガラだった。

「空いてるな」

「ええ、人気の無くなったアイドルグループなんて、こんなものです」

舞台の上では、様々な姿勢に体を折り曲げられた少女達が熱唱しながら踊っていた。初期のI字開脚組や、Ω屈曲組に加え、T字逆立ち組や、]交差組、W合体組までいる。グループ自体は、新メンバー追加の美少女誘拐を繰り返し、かなりの大人数に膨れ上がっていたが、それでも人気を維持することは出来なかったらしい。

「こんにちは、リーダーの長澤葉子です。今日は、こんなにたくさんのファンの皆さんに来て頂いて、とってもうれしいです!」

曲が終わると、I字に脚を固定された年増の女が言った。結成以来3年間、この姿勢で生きてきたのだが、今では、さほど苦痛を感じていない。ピタゴラス博士は客席を見渡したが、どう見てもガラガラで、下手をすると舞台上の軟体ガールズのメンバーの人数の方が多いかもしれなかった。

「今日は、大サービスしちゃいます。アンコールがあったらドンドン言ってね!」

軟体ガールズが次の曲を歌い始めると、2、3人の客が席を立ち、出て行った。メンバーは動揺を隠すため、なるべく客席を見ないようにして、歌に専念している。

「駄目だな、こりゃ」

ピタゴラス博士がつぶいやいた。

「局に帰りましょうか」

「梨奈、記念に写真だけ撮って置いてくれ」

人間カメラの梨奈は、バッグからフォト用紙を取り出すと、床の上に置き、パンティを脱いで、その上にしゃがみ込んだ。そして、じっと舞台上の軟体ガールズを食い入るように見つめ、光景を網膜に焼き付ける。視覚と連動している脳内コンピューターが作動し、ビクンと梨奈の体が痙攣した。

「あっ、あっ、いくっ、いくぅぅ!」

梨奈は、フォト用紙にクリトリスを押し付け、小刻みに腰を動かし始める。着色された淫液が、印字ヘッドに改造されたクリトリスを通して、用紙表面に高精細な写真を印刷していく。写真一枚印刷するためには、一度オルガスムスに達しなくてはならず、梨奈の肉体は汗びっしょりになった。

「いくううううう!」

髪を振り乱し、喘ぎながら梨奈は、出来上がった写真を、ピタゴラス博士に手渡した。それは、地球上のどんなデジタルカメラで撮ったよりも奇麗に仕上がっていた。

「10枚くらい焼き増ししてくれないかな。軍の奴らにも配りたいから」

「はい、総督閣下」

梨奈は、顔を引き吊らせて承諾した。高精細の写真を10枚印刷するためには、10回イカなくてはならないのだ。帰りのエアカーの中で焼き増しを終えた梨奈は、疲労困憊のため、気を失いそうだった。

 

「教育現場でも視察に行くか」

テレビ局でイソップ局長と別れた後、暇を持て余したピタゴラス総督は、さざなみ市の教育委員会に出向くことした。総督府ビルのワンフロアーにある教育委員会のトップは、かつて、宇宙母艦オリンポスで娯楽施設を運営していたペリクレス教育長官だった。

「これはこれは、総督閣下。今日は、どういった御用で?」

揉手でペリクレスが出迎えた。民間の娯楽施設を経営していた頃の性分が抜けないらしい。

「我々に支配されている地球人が、どういう教育を受けているのか、この目で見たくなったんじゃ」

「そうでしたか、では早速御案内いたしましょう」

ペリクレス教育長官は、彼の妻が校長をしている、さざなみ第一高等学校へと、エアカーで一行を案内した。この高校は、もともとトップレベルの進学校で、占領後も偏差値の高い生徒ばかりが、強制入学されている。ピタゴラス博士とペリクレス、そして校長のパンドラは授業の行われている教室を見回った。生徒は地球人ばかりだが、教師の半分以上はネオガイア星人である。本国で定職につかず、フリーターや引き篭りをやっていたニートのネオガイア星人達が地球に流れてきて教師をやっているのだった。

「佐々木さん、105ページの5行目から朗読しなさい」

ある教室で、指名された女子生徒は、椅子から立ち上がり、朗読を始めた。教科書は、団鬼六作の『花と蛇』から抜粋した一文である。

「静子は、泣き崩れ大粒の涙を流した。『堪忍して下さい、もうこれ以上酷いことはしないで下さい』しかし、男達はビールを片手に囃し立てるだけだった」

女生徒は、顔を赤らめもせず、淡々と朗読をしている。現代文のテキストは全て地球のポルノ小説なのだ。

「では、質問です。この場面での静子の心境を想像して下さい。静子は何を思いながら、責めに耐えていたのでしょう?」

ネオガイア星人の女教師の質問に、パラパラと生徒達の間から手が挙がった。

「では、大倉君」

「はい・・・静子は、新入りの女奴隷にライバル心を持っていたと思います」

「川下さんは?」

「マゾに目覚めて、ただ、気持ち良かっただけなんじゃないでしょうか」

「はい、先生!私は、静子夫人は、いつか、自分が警察に救出されるのではないかという、一縷の望みを心の支えにしていたのではと考えます」

ネオガイア人の女教師は、生徒達の間から活発な意見が出たので喜んでいた。

「いろんな意見が出たわね。せっかくだから、この問題をグループに分かれてディスカッションしましょう。皆さん、席を動かして6人づつ班に分かれて下さい」

生徒達は、一斉に立ち上がり、机の並べ変えを始めた。その様子を覗いていたピタゴラス博士の一行は、別の教室へと移動する。その教室では、授業は行われておらず、十数人のネオガイア人兵士が、生徒達を凌辱していた。

「このクラスでは、何をやっているのかね?」

ピタゴラス博士がパンドラ校長に尋ねた。

「軍への奉仕活動ですわ。女生徒はネオガイア製の避妊薬を常用しているので妊娠の心配はありません。ネオガイア星宇宙軍の兵士達が、部隊ごとに学校を訪れて、性欲を発散したり、SMプレイを楽しんだりしているのですわ。軍の福利厚生と、これから社会へ出ていく地球人に奴隷意識を叩きこむ教育の一環でもあります」

この行事は授業のカリキュラムに組み込まれ、日常的に行われているらしく、生徒達は兵士に抵抗することもなく従順に凌辱されている。当然、美人の女子生徒にネイガイア人兵士が集中するため、不細工な女子生徒や、男子生徒は指をくわえて見ている者が多い。まれに女兵士や、ホモの男性兵士が、男子生徒の一部を犯しているだけだった。

「奉仕活動で協力しているのは軍だけではありません。ネオガイア人小学校の体験学習にも協力しています」

次にパンドラに案内されたクラスでは、ネオガイア人の小学生数十人が、王様のような態度で、地球人の高校生を奴隷のように扱っていた。

「小学生のころから、支配者としての心構えを、実習を通じて身につけるのですわ」

椅子に座ってふんぞり返ったネオガイア人小学生の靴を、地球人の女子生徒が舐め、別の男子生徒が、うやうやしい態度で、肩を揉んでいる。

「お前、態度がでかいぞ。土下座しなよ」

指で刺された男子生徒は、言われた通り土下座をし、額を床にこすりつけた後頭部を小学生がグリグリと踏みつけた。

「薄汚い地球人の癖に、僕らを反抗的な目つきで見るなよな!」

「申し訳ございません・・・・申し訳ございません・・・」

数人の小学生に蹴りを入れられた男子生徒は、ひたすら謝り続けた。別の場所では、殴り合いをやらされている女子生徒もいる。

「もっと、本気でやってよ。面白くないじゃん」

殴り合っている二人の女子生徒の顔は腫れ上がり、服は破れて口の端から血を流していた。一番悲惨なのは、ストリップをやらされたあげくオナニーをさせられている男女だった。

「セックスってどういう風にやるのか、やって見せてよ」

宇宙人とは言え、小学生なので、全員、まだセックスをした経験はないようだった。地球人の高校生は言われるがままに、様々な体位でセックスをしたり、レズったり、ホモったりさせられていた。

「なかなか、面白そうな授業をやってるじゃないか。それにしても、いつになったら、さざなみ市だけではなく、全世界を、このように我々の直接支配下におけるのだろうな」

ピタゴラス博士は溜め息をついた。地球はグレイの自然保護地区に指定されているため、これ以上、強引な軍事行動をとるには、グレイとの政治的決着を図らなければならない。科学力にも軍事力にも劣り、圧倒的に弱い立場にあるネオガイア星人にとって、グレイとの交渉は長い道のりだった。

「ありがとう、また来るよ」

教育現場の視察を終えたピタゴラス博士は、次に、友人でもあるメビウス博士のロボット研究所を訪れることにした。

「やあ、研究は、はかどっているかい?」

メビウス博士は、巨大ロボット2号機の暴走事故以来、意気消沈したのかと思いきや、すでに3号機の開発にとりかかっていた。

「ああ、今度は、巨大ロボットを量産化しようと思ってね。なるべくコストがかからないように、基本機能だけに絞って制作してみたのだが」

案内されて見せられた試作機は、全長20メートルと、大きさは前作までと同じだったが、胴体は細長い棒状で、手足も骸骨のような棒状になっていた。頭部はモノアイだけである。

「えらく削ったな。まるで骸骨みたいじゃないか」

「コストは、1号機の二十分の一だ。戦闘に必要な基本機能は、全部残してあるし、ヒョロ長いから、敵の弾にも当たりにくいぞ」

メビウス博士は、枯れ枝のようなロボットを誇らしげに自慢した。

「それで、軍は採用したのか?」

「まだだ、打診はしているのだが一向に返事が来ない。審査に思ったより時間がかかっているんじゃないかな。」

ピタゴラス博士は溜め息をつき、次にデメテール女史の研究室を訪れた。女科学者である彼女は、クロノス博士の娘であり、時空砲の発明者でもある。

「何か、新しい研究成果でもあるかね?」

「ええ、今、父の残した設計図を基に大型のタイムマシンを建造中です」

「ほう」

ピタゴラス博士は興味をそそられた。

「時間旅行には、父が試作したような小型のものではなく、巡洋艦並の戦闘力をもった大型のタイムマシンが必要です。なぜなら、過去や未来にはどんな危険が待ち受けているか判らず、未知の敵が攻撃を仕掛けてくるかもしれません。無防備なままでは、父のように未帰還になる可能性が高いからです」

「いつ頃、完成しそうかね?」

「今、軍の宇宙艦ドックを借りて建造して貰っているのですけれども、肝心の時空エンジンの設計が、なかなか難しくって・・・」

「そうか、期待しているよ。二台目のタイムマシンが完成すれば、父上を捜索に行く事も出来るかも知れん」

ピタゴラス博士の頭の中にある計画が浮かんだ。3000万年にも及ぶグレイの銀河系支配を覆すことが出来るかも知れない。ピタゴラス博士は、思索に夢中になりながら、総督府ビルの最上階にある自分の家へと戻った。

「お帰りなさいませ、御主人様」

地球人のメイド二人が出迎える。ピタゴラス博士は、地球人奴隷を歯牙にもかけず、無言で部屋に上がりこむと、肉ソファにどっかと座りこんだ。

(今日も一日、疲れた、疲れた。総督の仕事も大変じゃな。生体実験と拷問三昧だった昔が懐かしいわい)

こうして、ピタゴラス博士の多忙な一日が終わったのだった。

 

第151話、女刑事

 

2003年5月、上級職の国家公務員試験に合格した古賀美奈子(23歳)は、1年間の警察大学での研修を終え、現場に配属された。新人ではあったが、階級はすでにノンキャリの課長クラスと同じ、警部だった。

「お早うございます。本日よりお世話になります、古賀美奈子です。よろしくお願いします」

美奈子は、配属先である八光署の刑事課の課長に挨拶をした。小野課長(51歳)は、自分と同じ階級である女性刑事に対してオドオドした態度を見せた。

「どうも、こちらこそ、よろしくお願いします。そんなに堅苦しい所でもないので、気楽になさってください」

東京大学法学部を卒業した美奈子は、理知的な美人で、エリートのオーラを発していた。キャリア組である彼女は、数年後には、自分よりも上の立場になるに違いない。交番勤務から叩き上げの小野課長は、今のうちにゴマをすり、コネを作ろうと考えたのだった。

「こちらにデスクを用意しました。もし、場所が気に入らなかったら遠慮なく言って下さいね」

「ここで結構です」

「それから、コンビを組んで頂く刑事を紹介します。おーい、モグさん!」

のそのそとやって来たのは、徹夜の張り込みで疲れ切った中年の刑事だった。

「実は、うちの刑事課では、お互いにニックネームで呼び合っていましてね。この野崎刑事は、もぐもぐ喋るので、モグさんと呼ばれています」

「ど、どうも・・・野崎です・・・」

「どうも、古賀です」

美奈子は、眠そうな、その刑事をまじまじと眺めた。どこかモグラに似た風貌でもある。

「ちなみに私は、ボスと呼ばれています。もし、モグさんで判らない事があれば、遠慮なく私に聞いて下さい。うちの課にいる間は、快適に過ごして頂かないと」

キャリアは、短期間に様々な部署を回って経験を積む。そして将来本庁で、日本の警察機構そのものを支える要職に就くのだ。美奈子のニックネームはキャリアと呼ばれる事になった。

 

美奈子が、八光署に配属されて1カ月程が過ぎたころ、管内でコンビニの立て籠り事件が発生した。美奈子とモグさんが現場に着くと、すでに機動隊がコンビニを包囲していた。駐車場に面した部分がガラス張りのコンビニは、中の状況が一目瞭然で、ナイフを持った犯人の男がアルバイトの女店員を人質に取っている。店内には、取り残された数人の男女の客が隅の方に固まって座り込んでいる。

「これじゃ、うかつに突入出来ないわね」

生まれて始めての立て篭もり事件の現場であるというのに、美奈子は冷静そのものだった。合気道と柔道の有段者で、拳銃の腕前もかなりのレベルである。もちろん、現場で発砲した事は一度もなかったが、それが危険に直面しても内なる自信となって平常心を保たせている。現場の指揮は、駆けつけた課長代理の中原が取っていた。中原のニックネームは『天下り』である。収賄で本庁から飛ばされて来た刑事だ。

「おーい、お前は完全に包囲されているぞ!もう逃げられん。人質を解放しなさい。要求は一体何だ?金か?」

中原課長代理が、ハンドマイクで犯人に呼びかけた。犯人は女店員の胸に手を入れ、オッパイを触りまくっている。

「うるせえ!金じゃねえ!俺は、こんな世の中に嫌気が差したんだ!必死こいて勉強して、いい大学を出たのに、就職も出来ねえし、彼女もいねえ。いつか景気が良くなると思ってフリーターを続けて来たってのに、いつまで経っても、ちっとも良くならねえ!もう、俺、来年で30、超えちまうんだよっ!」

犯人は激晃していた。中原課長代理は、なんとか説得しようとする。

「それは、君、逆恨みだぞ。人間努力すれば、なんとでもなる。君も、馬鹿なことは止めて真面目に生きていれば、いつか、いい事もあるぞ」

「奇麗ごとは、たくさんだ!」

男は、ナイフを振り回し、人質の女店員の太腿を切り付け、女店員は、鋭い悲鳴を上げた。

「課長代理!このままでは、人質が危険です」

美奈子が険しい口調で言った。中原は困った顔をする。

「SATに出動を要請したが、到着までには、まだ、しばらくかかる。犯人の姿は丸見えだから、狙撃すれば、それで事件は解決するのだが」

「あたしが、代わりに人質になります」

「待て、君。それは危険だ・・・」

美奈子は、課長代理が止めるのを無視し、両手を上げて、一人で前に進み出た。犯人は、動揺した。

「止まれ!止まらないと人質を殺すぞ!」

美奈子は犯人を刺激しないように、ピタリとその場所に立ち止った。

「怪我をした人質を解放しなさい。あたしが身代わりになるわ」

「待て!お前、刑事だろ。拳銃とか、持ってるだろ?信用できない。そこで、裸になれ」

思いがけない犯人の要求に、美奈子は一瞬たじろいだ。しかし、冷静な美奈子はすぐに、平常心を取り戻す。

「わかったわ」

美奈子は、その場で服を一枚一枚脱ぎ始めた。犯人、人質、そして包囲している警察官全員がその様子を、息を呑んで見守っている。

「これでいいかしら」

下着だけの姿になった美奈子は、冷たい口調で言った。

「駄目だ、下着も脱げ!」

美奈子は仕方なく、ブラジャーとパンティも脱ぎ去った。

「これでいいかしら」

「まだ、駄目だ。こっち向きに穴を広げて見せろ。女刑事が、オマンコに小型拳銃を隠し持っているっていうXシネマをこの前、見たんだ!」

仕方なく、美奈子は言われた通りにした。恐るべき自制心で、羞恥心は感じない。正義感の強い美奈子は、人質の命を救うために警察官としての任務を全うしているのだから。

「よし、こっちへ来い」

犯人は、ようやく安心したようだった。美奈子は、歩きながら、ほくそ笑んだ。犯人の傍にさえ近寄る事が出来れば、例え素手でも、男一人を取り押さえる自信があった。美奈子が、コンビニに入り、両手を上げたまま、カウンターの影でナイフを構えている犯人の傍に立つと、犯人は女店員を離した。

「行けよ」

太腿から出血している女店員は、片足を引きずるように駐車場に走り出て、警官隊に保護された。一方、美奈子は右手にナイフを持った犯人に、左手で全身を触られ、ボディチェックを受ける。

「いい、オッパイしてるじゃねえか。実は俺、まだ童貞なんだ」

「気安く触らないでよ。あなた、これから刑務所に入るから、この先もずっと、童貞ね」

美奈子は、嘲笑うように言った。その言葉に犯人は激晃した。

「なんだと!てめえ、ちょっと、可愛い顔してるからって、調子に乗りやがって!」

犯人は、腹いせにナイフで美奈子の白い体を切り裂こうとした。しかし、美奈子はその右手首を抑え込むと、後ろ側にひねり上げ、同時にひざ蹴りを犯人の鳩尾に叩き込む。

「うっ・・・」

ナイフは床に落ち、犯人はうめき声をあげた。

「他愛もないわね」

さらに首筋に手刀を打ち込むと、頸動脈が打撃を受け、犯人の体は力を失って、お菓子の陳列棚に倒れ込んだ。その様子を見ていた警官隊がコンビニに突入してくる。その他の人質になっていた客たちも恐怖の表情から安堵の表情へと変わり、美奈子の活躍を心から感謝した。

 

コンビニ立て篭もり事件から3日後、八光署の刑事課では逮捕された犯人の取り調べが続いていた。美奈子は小野課長にやんわりと注意を受けた。

「危険なマネはしないで下さい。古賀警部はキャリアなのですよ。万が一の事があったらどうするのです?危険な仕事は他の人間に任せるようにして下さい」

「はい、以後気をつけます」

美奈子は素直に謝った。課長と言い争ってもしょうがない。その時、デスクの上の電話が鳴り、モグさんが受話器をとった。

「キャリアにお電話です」

「え?あたし?」

「名前は名乗りませんが、ボイスチャンジャーを使っています」

課内に緊張が走った。ボスが、右手の人差し指をクルクルと回して逆探知の合図を出す。美奈子が、顔をこわばらせながら電話に出た。

「もしもし、古賀ですが」

「はじめまして。突然ですが、町に爆弾をいくつか仕掛けました」

声は、男女の区別すらもつかない。耳に障る電子音だった。

「どういうこと?あなた誰?」

「僕は、ただのニートです。本名は名乗れないので、ミスターニートとでも呼んでください。一つめの爆弾はあと5分ほどで爆発します」

ガチャリと電話が切れた。美奈子は、課長の方を見る。課長は首を横に振った。

「逆探知は無理だ。通話時間が短すぎる!」

恐ろしい緊張の中、5分が過ぎた。管内の全派出所、交番、パトカーに警戒するよう指示が出されるが、どこで爆発するか判らない以上、対策の立てようがない。10分後、予想していた通報の電話がかかってきた。

「八光駅のコインロッカーで爆発がありました。現場に居合わせた一般市民、十数人が巻き込まれたようです!」

「なんだと!すぐに鑑識を現場に向かわせろ。天下りと窓際も現場に行ってくれ」

「あたしも行きます!」

美奈子が名乗り出た。課長がそれを止める。

「キャリアとモグさんは、署に残ってくれ。また犯人から電話がかかってくるかもしれん」

1時間後、再び犯人から電話がかかってきた。

「また、キャリアを指名しています」

「出るわ」

美奈子が出ると、さっきと同じ、ボイスチェンジャーの声だった。

「僕が本気だって、信じてくれたかい?」

「要求は、何なの?」

「5000万円、明日の12時までに用意しろ。あんたが一人で持って来るんだ。場所は、後で指定する」

「待って!なぜ、あたしの事、知ってるの?」

「3日前、僕はあのコンビニにいたんだよ。あなたの裸、きれいでカッコ良かったなあ。あなたが、あんまり美しいんで、ちょっとからかってみたくなったんですよ。それだけです」

ガチャリと一方的に電話が切れた。今回も逆探知は無理だった。

「愉快犯か。モグさん、あの日のコンビニの監視カメラに写っていた人間を全員洗ってくれ。犯人はニートだと名乗っている。断定は出来んが、おそらく20代から30代前半の男性だろう」

「・・・了解、です・・・」

もぐもぐとモグさんが答え、刑事部屋を出て行った。

「メンパンは、取り調べ中のコンビニ事件の犯人の交友関係を洗ってくれ」

メンパンというニックネームで呼ばれているのは、いつもメンパンを履いている天然パーマの刑事だった。美奈子は、嫌な予感を感じて鳥肌が立った。

 

翌日、昼の12時。美奈子は5000万円の現金が入ったボストンバッグを持ち、指定された場所に行った。そこは、昨日一度目の爆発があった八光駅の前のバスターミナルだった。美奈子が、重いボストンバッグを持ってウロウロしていると、一人の老いた浮浪者が近寄って来た。

「これ、あんたに渡してくれって」

浮浪者が差し出したのはプリペイドカード式の携帯電話だった。

「誰に頼まれたの?」

「知らねえ、兄ちゃんだ。千円やるから渡して来てくれって」

美奈子は、素早くあたりを見回した。かなりの通行人がいる。犯人は特定出来ない。おそらく、もう視界から消えているのだろう。浮浪者が立ち去っていった。彼の身柄は、張り込みをしている別の刑事が確保するだろう。やがて渡された携帯電話の着信音が鳴った。

「こんにちは、ミスターニートです。約束を守ってくれましたね」

携帯電話の着信は非通知だった。あと何年かすればプリペイドカード式携帯電話も登録制になるという噂もあったが、現時点では所有者が誰かは、調べようがない。犯人がかけている電話もおそらく、プリペイド式だろう。

「どこにいるの?出てこないと5000万円は渡せないわ」

「慌てないで下さい。本当はお金なんてどうでもいいんです。僕はあなたと遊びたかっただけです」

「ふざけてるの?」

「僕は真面目です。ゲームをしましょう。まずその場所でズボンとパンティを脱いで下さい。僕の出す課題を全てクリア出来たら、爆弾の仕掛けてある場所を教えてあげます」

「・・・・」

周りには通行人がたくさんいた。その中には、大勢の刑事も紛れている。美奈子のブラウスの襟元に隠し持った高性能マイクから、犯人との会話の内容は全て、近くに駐車している覆面パトカーの中で、現場指揮をしている天下りが聞いている筈だ。

「さあ、早く。脱がないと罪の無い大勢の一般市民が死にますよ」

美奈子は悔しさのあまり唇を噛みしめ、ズボンとパンティを下ろした。何も知らない通行人達がギョッとして足を止める。美奈子は十分間そのまま、その場所で立たされ、周りに人垣が出来た。

「おい、露出狂の女だぜ」

「AVの撮影じゃないの」

「誰か、お巡りさん呼んで来いよ」

お人好しな通行人が、駅前の交番に通報に行ったようだが、八光署から連絡が入っているので、交番勤務の警官は動かない。一旦切れていた携帯電話が再び鳴った。

「いい格好だね。そのまま、大きな声で歌を歌ってよ。そうだなあ、吉幾三の『おら東京さ行くだ』がいい」

美奈子は従うしかなかった。屈辱に顔を真っ赤にしながら歌を歌う。

「おら、こんな村いやだあ〜おらこんな村いやだ〜」

通行人の人垣から爆笑が起こった。

「頭おかしいんじゃねえの!」

「欲求不満なんじゃね?お前、相手してやれよ。結構美人だぜ」

「馬鹿、やだよ!」

美奈子は眼を瞑り、耳をふさぎながら歌い続けた。

「電話もねえ〜電気もねえ〜車もそれほど走ってねえ〜」

いつも間にか、冷やかしで通行人の女子高生が合唱している。歌い終わった時、美奈子の神経は限界に達していた。

「歌詞を何か所か間違えたね。ペナルティだ。そこで立ったままオシッコしろ」

「こんな事して、何が面白いの!」

「面白いよ。たまんないね。だって古賀さん、東大出のエリートなんだって?僕も、結構いい大学出たんだけど、不景気でまともな会社に就職出来なかったんだよ。あのコンビニ事件の犯人と同じさ。僕らの世代はね、第二次ベビーブーム世代って言うんだ。一学年当たりの人数が多くって大学に入る時も苦労したよ。本当なら、もう少し早く生まれるか、遅く生まれるかしていれば、あんたと同じ東大だって合格したんだ」

「逆恨みよっ!」

「それだけじゃない。ランクを落として大学に入ったって言うのに、今度は、卒業する時には就職氷河期さ。それでも、めげずに何社も回って、やっと内定をもらった会社はドキュンな会社でね。ワンマン社長と、馬鹿な上司にこき使われるのは嫌だからすぐに辞めちゃって、それ以来フリーターから抜けられないんだよ。」

「そんなの、あなただけじゃないわ。みんな頑張ってる。こんな事する理由にはならない」

「あんたみたいな恵まれた少子化世代に何がわかる?でもこんな僕でも、日用品を使って時限爆弾を作ることだって出来るのさ。作り方はネットに出ているし、材料はホームセンターに売っているしね。こう見えても大学は理工系なんだ。さあ、早く、公衆の面前で立ちションしなよ!」

「畜生!」

美奈子は、顔に似合わない悪態をつくと、仁王立ちになって膀胱からオシッコを絞り出した。チョロチョロと遊歩道のアスファルトの上にオシッコが流れる。人だかりから大歓声が上がった。

「汚ねえ!何考えてんだこの女」

「イカレてるぜ。次はウンコするんじゃね」

美奈子は23年間培ってきたプライドが取り返しのつかない勢いで崩れていくような気がした。

 

「次は、マラソンだよ。市役所まで10分以内で走るんだ。もし、1秒でも遅れたらドカーンだよ」

美奈子は市役所までの道順と距離を考えた。約2キロの距離だ。

「ほら、よーいドン!」

携帯電話が切れた。美奈子は弾かれたように走り出す。1秒も無駄に出来ない。下半身丸出しで、人垣をかき分け、全力疾走で駅前の商店街を走り抜けた。5000万円の入ったボストンバッグが重く、たちまちショルダーベルトを掴んでいる右腕と肩が痺れてくる。交差点では、信号が赤でも止まるわけにはいかない。信号無視で横断歩道を突っ切り、急停車した自動車のドライバーから怒声があがった。

「あぶねえじゃねえか!」

「死にてえのかよ!」

美奈子に答える余裕はない。ぜえぜえと息を切らし、肺と喉が焼けつくように痛い。こめかみがズキズキと脈打ち、頭が貧血でガンガンする。天下りの指示で覆面パトカーが美奈子の行く先をフォローしているはずだった。

「ハァ・・ハァ・・・ハァ・・・」

ようやく市役所の玄関にたどり着いたとき、美奈子は酸欠状態で、その場に崩れるようにしゃがみこんだ。全身から滝のように汗が噴き出している。トゥルルルルと携帯電話が鳴った。

「さすが、エリート刑事さんだ。9分32秒でクリアだ。ちょっと課題が簡単すぎたかな。陸上でもやってたのかい?」

「ハァ・・ハァ・・あなたに関係ないでしょ・・・ハァ・・・ハァ・・・」

「じゃあ、次は八光署まで15分で走ってよ。よーい、ドン!」

「畜生!」

美奈子は立ち上がり、再び走り始めた。八光署までは、約3キロの距離だ。スタミナを消耗している分だけ、どんどん状況は悪くなる。

(なんとかしなきゃ。このまま犯人の要求に従い続けていても、そのうち破滅してしまう)

「古賀警部、お疲れ様です」

八光署では大勢の制服警官が敬礼で出迎えた。口にこそ出さないが、下半身丸出しのエリート女刑事に好奇の視線を送っている。下っ端の彼らにとってキャリア組の新人がひどい目に合されて、いい気味だと思っている者も多いはずだ。

「ハァ・・・ハァ・・・水・・水くれる・・・」

「どうぞ」

美奈子は、差し出されたコップの水を一気に飲み干し、その場に大の字にひっくり返った。体力が限界に達していた。また携帯が鳴った。

「また、クリアしたね。そうやって、いつも出された課題や試験を100点満点でクリアして生きてきたんだ」

「ハァ・・・ハァ・・・だから、どうだって言うの・・・ハァ・・ハァ・・・あなたは、どうなのよ・・・」

「僕も昔はそうだったよ。でもね、今はもう、この社会のシステム自体に嫌気が差したんだ。政治家、経済界、そして警察、全部薄汚れている。無理に適応しようとは思わないね。そんな事をしても虚しいだけさ。こんな社会はいっその事、宇宙人にでも侵略されて滅んでしまえばいいんだ」

「ハァ・・ハァ・・・もっと、現実に目を向けなさいよ・・・ハァ・・・ハァ・・」

「その言葉は、そっくりそのまま、あんたに返すよ。さあ、休息はこれくらいで、次の課題だよ。例のコンビニ事件の犯人を拘置所から出して、お互いの片手と片足を手錠で繋ぐんだ。そして、2人3脚で、隣町の駅まで走ってよ。制限時間は1時間、よーい、ドン!」

「課長!」

美奈子が悲痛な声で叫ぶと、隠しマイクでやりとりを傍受していた小野課長が、特別措置で、コンビニ犯人を拘置所から連れ出してきた。言われた通りに片手片足を美奈子と手錠で繋ぐ。

「古賀警部、もう少し頑張ってください。今、会話の内容から、犯人のプロファイリングを行っています。天下りにバックアップはさせますから、なるべく犯人の要求に従って、刺激しないようにして下さい」

「わかりました・・・ハァ・・・ハァ・・・」

美奈子は立ち上がり、二人三脚で走り始めた。コンビニ犯人は相当、非協力的だった。

「俺が、何でこんな事しなくちゃなんねえんだよ!」

「罪もない人の命がかかってるのよ・・・お願い、協力して」

「オッパイ、触らせてくれるかい?」

「い、いいわ・・・だから協力して」

コンビニ強盗犯は、美奈子のブラウスに手を入れ、汗でヌルヌルになった乳房を走りながら触り始めた。この異様な二人三脚に、すれ違う通行人達はポカンとした表情で見つめ、美奈子は気が狂いそうだった。

 

「ボス!下半身裸の女が走り回っているという通報が、市民から何件も入っています」

八光署の刑事部屋で、メンパン刑事が小野課長に報告した。課長は顔をしかめる。

「無視するしかない。事件解決が最優先だ」

その時、刑事部屋の片隅でテレビを見ていた、窓際刑事が叫んだ。

「あっ、ボス。キャリアがテレビに映っていますよ」

「なんだと!」

マスコミが嗅ぎつけたのか、お昼のワイドショーの番組で、美奈子が走る姿が映っていた。下半身丸出しで、である。

『只今、住宅街を、下半身を露出した20代前半の女性が走っています。どうやら、となりを並走する男とは手足を手錠か何かで繋がれているようです』

レポーターが嬉々とした声で、生中継していた。視聴率が欲しいワイドショーには、ぴったりの異常な事件なのだ。

「あちゃー、最悪だ。全国中継されちまってるよ」

課長は絶句した。事件の対応に追われ、マスコミへの報道規制が後手に回ってしまった。もはや、現場で犯人がボロを出し、張り込んでいる刑事の誰かが捕まえてくれるのを待つ以外に手立てはなかった。

 

美奈子は、意識を朦朧とさせながら住宅街を走っていた。いつの間にか、傍らをテレビ局の中継車が並走していたが、気にするゆとりは全くなくなっていた。

「おい、ちょっと休もうぜ・・・息が、苦しい・・・」

コンビニ犯も息が上がっていた。美奈子は煙草を吸わないが、コンビニ犯はヘビースモーカーで、もともと肺機能が落ちているのだ。

「お願い・・・休んでいる時間はないの・・・協力して。人の命がかかっているのよ・・・あなたが、情状酌量で減刑されるように検察に話してあげるから・・・」

美奈子は必死だった。下半身丸出しで走っている恥ずかしさも、だんだん、どうでも良くなってきている。指定された場所までの三分の一くらいの距離をこなした頃、携帯電話が鳴った。

「クックック。今、テレビでとっても面白い番組をやってるよ。古賀警部、あんたが出演しているんだ。それにしても、まだ、ペースが落ちないようだね」

「ハァ・・ハァ・・・あたり前じゃない・・・人生を途中で挫折した、あんたとは違うのよ・・・」

「言ってくれるね。じゃあ、このままだと面白くないからさ、ペナルティをつけてあげよう。近くの薬局で、イチジク浣腸を買って自分の尻に注入するんだ。量は5個くらいでいいかな。ゴールに到着するまで我慢するんだよ」

「どれだけ、人を馬鹿にすれば気が済むの!」

「どんだけ〜ってか」

ガチャリと電話が切れた。美奈子には従う以外に逃げ道はない。少し走って、真っ先に目についた薬局に駆け込んだ。店番をしていた薬剤師の中年男が、汗だくの下半身丸出しの女と手錠で繋がれた男に、びっくりして目を剥く。

「な、な、なんだ君達・・・」

「ハァ・・・ハァ・・・警察です。イチジク浣腸を5個売って下さい・・・ハァ・・・ハァ・・・」

美奈子は上着から警察手帳を出して薬剤師の男に見せた。男は、動揺していたが、のろのろと商品棚を探り始める。

「早く!」

「は、はい・・・全部で2380円です」

「お釣りはいらないわ!」

美奈子は自分の財布から千円札を3枚抜いて渡すと、ひったくるように商品を受け取り、その場で開封して、しゃがみこみ、自分の御尻に注入を始めた。

「お客さん・・・こんなところで、困ります・・・警察沙汰に」

「だから、あたしが警察だって言ってるでしょっ!ほら、あなたもボーッと見てないで手伝いなさいよっ!」

美奈子は、とうとうヒステリーを起こした。その気迫に押されて、非協力的だったコンビニ犯も、渋々イチジク浣腸を手に取り、御尻を突き出した美奈子のアナルに注入していく。5個全部を注入し終わると、お腹がギュルギュルと鳴り出した。

「悪いけど、これ捨てておいて!」

空になって床に散乱したイチジク浣腸の容器を指さして、美奈子は、薬剤師にそう言い残すと、薬局を飛び出した。今ので、どれくらいのタイムをロスしただろう。全身の疲労に加えて耐え難い排泄感が下腹部から駆け昇ってくる。美奈子は自然と、内股の変な走り方になった。

「あっ・・・お腹が苦しい・・・出ちゃう・・・駄目っ・・駄目ええええ!」

美奈子は必死に肛門の筋肉を引き締め、激流を塞き止めた。意志の崩壊は、美奈子一人のプライドの問題だけではなく、多くの人命が失われる事につながるのだ。

(あたしは、今まで、子供の頃から、どんな難しい試験も課題も、クリアしてきたわ。こんなことくらい何でもないわ)

美奈子は暗示をかけるように自分にそう言い聞かせた。目の前の視界が狭まり、赤いモヤがかかっているように見える。便意以外の感覚がシャットアウトされ、ミスターニートが指定した目的地を、うっすらと思い浮かべる以外は、何も考える事すら出来なくなっていた。

「もう、疲れたよう。休もうよう」

コンビニ犯が、ひっきりなしに文句を言っているが、なだめる気力もない。排泄の欲求だけが美奈子の意識の全てだった。無事ゴールについて排泄出来たら死んでもいい、と美奈子は思った。永遠とも思われる数十分が過ぎ、美奈子とコンビニ犯は、隣町の駅にたどり着いた。正面の改札口の前で倒れ込む。携帯電話が鳴った。

「またまた、クリアだね。頑張るね、エリート刑事さん」

「ね・・ねえ・・・もう、許して・・・トイレに行かせて・・・」

「まだ、駄目だよ。まだウンチを漏らしちゃだめだ。その前に隣の男のチンポをしゃぶってイカせるんだ」

電話が切れた。美奈子に思考能力はなく、言われるがままにコンビニ犯のズボンのチャックを開け、チンポを引っ張り出す。

「お、おい、何するんだ。刑事が容疑者をレイプしていいのかよ!」

コンビニ犯は、抗議して抵抗しようとしたが、美奈子は強引に押し倒し、顔を股間に埋めた。周りに人垣が出来、見かねた駅員が止めに入る。

「邪魔しないで!警察よ!」

美奈子は、コンビニ犯のチンポをしゃぶりながら、片手で上着のポケットから手探りで警察手帳を取り出し、駅員に突き付けた。駅員はどうしていいか分からずオロオロするしかない。

「う・・・ううっ・・」

コンビニ犯は美奈子の口の中に射精した。遠くからその様子を見ていたかのように携帯電話が鳴る。

「男のザーメンはおいしいかい?吐き出しちゃ駄目だよ。次は普通にセックスをやって見せてよ」

美奈子はゴクリと精液を飲み下すと、射精したばかりで委縮したコンビニ犯のチンポを手で摩擦した。

「おい、もう止めてくれ。俺、強盗犯だけど、あんたを訴えるぞ」

コンビニ犯は、辛そうな声で悲鳴を上げたが、男の性には逆らえず再び勃起した。美奈子は、騎乗位でチンポの先をオマンコの入り口に押し当てそのまま、ぐいっと腰を沈める。

「うっ!」

子宮を突き上げられる感覚に、思わず肛門の筋肉が弛みそうになった。

 

 美奈子は、便意と戦い、半狂乱になりながら腰を上下させ続けた。弛んだ肛門から黄金色の液体が少しずつ漏れる。駅員が、付近の交番に通報し、お巡りさんが飛んできた。ここは隣町で、八光署の管内ではないため、脅迫事件の連絡が遅れているのだった。

「おい、そこの二人!離れなさい!猥褻物陳列罪で、現行犯逮捕する!」

「あたしは、警察官だって言ってるでしょ!爆弾犯人に脅迫されてるのよっ!」

美奈子は背後から羽交締めにしようとする制服警官の手を荒々しく振り払った。そこへ、覆面パトカーで追跡して来ていた天下りが、見るに見かねて車から降り、所轄外の警官に事情を説明する。その時、美奈子の携帯電話が鳴った。

「まだ、イカせられないのかい?もう、僕、待てないよ」

「待って!もう少しだから!」

美奈子は腰を上下させるスピードを上げた。

「痛え!もう止めてくれ・・・頼む、チンポが折れちまうよう」

コンビニ犯が泣き言を漏らした。

「お願い、早くイッて」

「ひいっ!」

コンビニ犯は、涙ぐみながら射精した。美奈子のオマンコに締め上げられ、無理矢理、精液を絞り出されるような苦痛を味わった。

「イッたわよ!次は何をすればいいの?」

「その場で脱糞だ」

ブリブリブリ・・・と美奈子は肛門から黄金色のドロドロとした固形物をまき散らした。地獄のような便意から解放された余りの気持ちよさに、美奈子は放心状態になり、うっとりとそのまま爽快感に身をゆだね、気を失いそうになった。

「おわっ!臭せえっ!」

「刑事だってよ?本当か。駅前でウンチを垂れ流す刑事なんているかよ!」

「ただの変態じゃん」

「離れろ!この匂いたまらん!」

見物していた人垣は、一斉に鼻をつまみながら後ずさりした。美奈子の意識には、通りすがりの市民達の浴びせる罵声はすでに聞こえていなかった。

「次は何をすればいいの?」

「そうだなあ、そのウンチを顔に塗りたくってタコ踊りでもやってもらおうか」

「タコ踊りって何よ?」

「あんたエリートなんだろ。そのくらい自分で考えなよ。ようするにタコみたいな踊りさ」

美奈子は言われた通り、ウンチをコンクリートの地面から手ですくい上げ、美貌の顔に塗りたくった。そして手足をクネクネとうねらせ、踊り始める。

「ありえねえ!」

「写メ撮っとこ」

「キャハハハ、何、この変な動き!」

テレビ局の中継車が少し離れた所に止まり、しっかりこの様子を全国に生中継していた。レポーターがカメラに向って必死に何か解説している。美奈子は余りの恥辱に正気を失いかけており、目がうつろで表情が死人のように蒼白になっていた。約30分間踊り続け、ようやくミスターニートからの次の指示が来た。

「コンビニ強盗の犯人から、オシッコを飲ませて貰うんだ」

コンビニ犯は美奈子と手錠で繋がれたまま、しゃがみ込んでいる。美奈子がタコ踊りを踊っている間も険しい表情でうつむいているだけで、注目している市民達の視線に耐られず、押し黙っていた。

「オシッコ飲ませて」

「何だってんだよう。もう、こんなんじゃ無罪放免にしてもらわないと割が合わないぜ・・・」

コンビニ強盗犯は立ち上がり、口を開けて上を向いている美奈子の口腔めがけて放尿した。1時間のマラソンでたっぷりと汗をかいていたため、オシッコはいつもより濃い黄色で、味がきつそうだった。

「オエッ!オエエエエエ・・・」

成績優秀で日本でもトップクラスの教育を受けてきた美奈子は、人間のオシッコを飲む事など、生まれて初めてだった。こんなにマズイものだとは思わず、咳き込んで半分以上こぼしてしまった。

「お願い・・・もう許して・・・もう、こんなゲーム終りにしましょうよ・・・」

とうとう美奈子は泣き出した。気丈で、正義感に燃える女刑事の精神が屈服した瞬間だった。

「そうだな、もう、さすがに僕も飽きてきちゃったし、そろそろゲームオーバー・・・いや、一旦セーブかな。じゃあ、手錠を外して、5000万円の入ったバッグをコンビニ強盗犯に持たせて逃がしてよ」

美奈子は、泣きながら預かっていた手錠の鍵を上着のポケットから取り出し、手と足と両方を外した。そして札束の入ったボストンバッグをコンビニ犯の腕に押し付ける。

「これを持って走るのよ」

コンビニ犯は、しばらく戸惑っていたが、逃げるチャンスだと気付くと、いきなり人垣を押し除け、後ろも振り返らずに全力で走り去っていった。美奈子は携帯電話に話しかけた。

「お金は渡したわ。爆弾の仕掛けてある場所を教えて」

「そうだな。約束だから教えてあげるよ。爆弾を仕掛けてある場所はね・・・」

電話の向こうのミスターニートは小声になった。美奈子は聞き逃すまいと、耳に神経を集中し、ゴクリと唾を飲み込む。これを聞き出すために数々の恥辱に耐えてきたのだ。

「君が今、手に持っている、携帯電話の中さ」

美奈子の手が凍りついた。思考が停止した。次の瞬間、我に返り、手に持っていた携帯電話を人のいない方角へ、思いっきり放り投げる。

「みんな、伏せてっ!」

耳をつんざく爆発音が響き渡った。ミスターニートが遠隔操作で起爆スイッチを入れたのだろう。たちまち辺りは地獄と化し、市民達の悲鳴と、もうもうとした爆煙と、飛び散ったコンクリートの破片で上へ下への大騒ぎになった。

 

 数日後、八光署の刑事部屋では、脅迫事件の検証が行われていた。結局、5000万円を持ち逃げしたコンビニ犯は、3日間逃げ回った挙句に再逮捕された。ミスターニートは本当にお金目当てではなかったようで、一度もコンビニ犯と接触しようとしなかったため、捜査本部は、尻尾を抑えることすらも出来なかった。これだけの大事件にもかかわらず、迷宮入りになる公算が高かった。最後の爆発現場では、7名の一般市民が爆発に巻き込まれ重軽傷を負ったが、幸いにも死者は出なかった。痴態を全国中継された古賀美奈子警部は、爆発直後に警察病院に収容され、現在は、マスコミの取材攻勢から逃げ待っている有様だった。

「とんでもない犯人ですな。我々、警察機構を愚弄するにも程があります」

天下りが、忌々しげに言った。刑事部屋の片隅では窓際刑事が、いつものように仕事をせず、のんびりと新聞を読んでいる。

「政府が、りそな銀行への公的資金投入を決めたそうです。竹中大臣も、なかなかやりますなあ。これで景気も良くなりますかなあ」

小野課長が、冷たい眼で窓際を見る。彼に真面目に仕事をしろと言っても無駄なのだ。

「そうなればいいがな。考えてみれば、ミスターニートも可哀そうな奴だ。もう少し、何年かズレて生まれていれば、ニートになんかならなくて済んだだろうに」

メンパンが、顔を引きつらせる。連日の聞き込み捜査で機嫌が悪い。

「そういう事は、犯人を捕まえてから言って下さいよ。捕まえないと、またやられるかもしれませんよ」

「うーん。それより、古賀警部、立ち直れないんじゃないですか?もう警察を辞めるとか言い出したりして」

「嫁には行けんだろうなあ」

宇宙人来襲の3か月前の出来事だった。

 

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