第145話、火星の生贄妻

 

バルスームと呼ばれる架空世界の火星では、地球人に似た赤色人と、モンスターのような緑色人の国家が絶えず、戦国時代さながらの闘争を行っていた。ネオガイア星人の時空砲によって、この世界に迷い込んでしまった埼玉県立高校2年C組の生徒達は、過酷な環境でクラスのメンバーの半分以上を失いながらも、バルスームの最強国家ヘリウム帝国の王女であるデジャー・ソリスや、南北戦争時代のアメリカからやって来た、謎の軍人ジョン・カーターと巡り合い、冒険の旅を続けている。

「また、捕まるのかよ」

ゾダンガの空中戦艦に捕虜となった片田準一がため息をついた。担任の大川伸介(32歳)がなだめる。

「そう言うな。この物語は、捕まったり脱走したりの繰り返しなんだ。それが無限に続くんだよ」

「面白くねえよ。ワンパターンじゃねえか。よくそんな小説が大ヒットしたな!」

「テレビの水戸黄門と同じだ。お決まりのセリフとお決まりのストーリー。そして最後に主人公が勝つ。そんな単純なストーリーの方が、馬鹿な大衆には喜ばれるんだよ。」

「納得できない。もっとヒネリが欲しい。例えば、俺がジョン・カーターの代わりに、ヘリウムの王女の婿養子になるとか」

準一が、言ってみた。大川先生は、何とも答えようがないようだった。

「ここは、単なる歴史が分岐したパラレルワールドとは違うんだ。明確に一人の人間の想像の産物だ。しかし、俺達の存在が、ストーリーに何らかの影響を及ぼすかもしれん」

「俺にとって、ハッピーエンドだと、いいけどな!」

空中戦艦は、ゾダンガの発着場に着陸態勢に入ったようだった。

 

 ヘリウムの王女、デジャー・ソリスは、着陸後、他の仲間達と引き離され、一人でゾダンガ宮廷のサブ・サン王子の寝室に連行された。身体検査で身に付けていた武器を没収された後、サブ・サン王子と二人きりになった。

「デジャー・ソリス姫。私と結婚する気になったかね」

「いやよ!あなたと結婚するくらいなら、緑色人皇帝タル・ハジュスの妻になった方がマシよっ!」

気丈に拒むデジャー・ソリスの様子に、サブ・サン王子はクックッと笑った。

「本気で言ってるのかい?緑色人は君を妻にするよりも、拷問して嬲殺しにする方を選ぶだろうな」

「それでも、あなたよりマシだわ」

「ヘリウムの国民を助けたくないのかね。もし、君が拒むなら、ヘリウムの双子都市に無差別爆撃を加えて一般市民を、とことん殺戮するよ。降伏後は、生き残った人間は、全て奴隷として諸外国に売り払う。数ヵ月後に、君の故国は誰も住まない廃墟となるだろうな」

「この、けだものっ!」

絶叫するデジャー・ソリスの目の前に、サブ・サン王子は、ズボンを下ろし、勃起した赤黒いチンポを突き出した。

「しゃぶりたまえ、デジャー・ソリス姫。そうすれば、ヘリウムはゾダンガの属国として今後も細々と存続させてやる」

誇り高い王家の血を引くデジャー・ソリスは葛藤に苦しんでいるようだった。しかし、観念したようにサブ・サン王子の足元に跪いた。

「約束してください。わたくしの体と引き換えにヘリウムの国民を救ってくださると」

「約束しよう。クックックッ・・・・」

デジャー・ソリスは、かつて袖にも引っ掛けなかった男のチンポを口に含み、丹念にしゃぶり始めた。瞳からはうっすらと涙が滲んでいるようだった。

 

 ゾダンガの飛行艦ドックで、王女と引き離されたジョン・カーターはいてもたってもいられないようだった。

「私は、いますぐ王女を救いにいくぞ!」

彼の頭の中は、デジャー・ソリスがサブ・サン王子と愛し合っている妄想でいっぱいだった。準一は、大川先生に相談した。

「あいつ、相当イカレてるぜ。どうすんだよ、先生?」

「放っておけ。好きにやらせとけばいい。あいつは、俺達と違って、E・R・バロウズの考えたストーリーに沿って行動するんだ。俺達がとやかく言う筋合いじゃない」

話している間にも、ジョン・カーターは、見張りのゾダンガ兵を殴り倒し、武器を奪って逃走していった。突発的な行動の割りには、手馴れた様子だった。

「もう、いっちまったぜ」

「そういうキャラクターなんだ。バロウズのキャラは、どんな状況からでも、簡単に脱出してしまう」

「俺達は、どうなるんだ?」

「しばらく、我慢していればいい。やがて、あいつが流浪の果てに、大軍を引き連れて戻ってくる筈だよ」

2年C組の生徒達は、ゾダンガ宮廷で、奴隷としてこき使われる事になった。

 

 デジャー・ソリスは毎晩のようにサブ・サン王子に犯された。王子は、火星一ともてはやされた絶世の美女の肉体に夢中になり、様々な体位で体中の穴という穴を犯し続けた。毎日、夜通しセックスにのめり込んでいるので、軍司令官も務める王子の業務に支障が出る程だった。

「ふっふっふっ、どうだね、ヘリウムの王女の抱き心地は。やはり、あそこの締まり具合も格別かね?」

サブ・サン王子の寝室にズカズカと遠慮も無く入ってきたのは、父であるゾダンガ皇帝サン・コシスだった。赤色人の寿命は千年を超えるため、親子でも同年代に見えてしまう。サン・コシスもサブ・サン同様、地球の青年のように若々しかった。

「これはこれは、父上・・・このような所に」

ベッドの上に起き上がったサブ・サンは全裸で、傍らのデジャー・ソリスの裸体も汗でヌラヌラと光っている。余程激しい夫婦の営みを重ねていたのだろう。

「お前が、オナニーを覚えた大白猿のように、王女とイチャついている間にも、ヘリウムとの戦争は順調に進んでいるぞ。ところで、息子よ、相談があるのだが、火星一と言われた美女をわしにも貸してくれんか」

「そうですねえ・・・ま、父上の望みなら仕方ありませんな。父上あっての私ですから。女好きはゾダンガ王家の血を引くものの宿命みたいなものですからね」

サブ・サンもサン・コシスも、離婚と結婚を繰り返し、何度も正妻を取り替えている。その他にも、常に愛人や、側室を無数に抱えていて、父子の間でのスワッピングなども日常茶飯事なのだ。サン・コシスは豪華な装飾入りのベッドに近寄り、デジャー・ソリスの豊満な両乳房を背後から揉みしだいて、手の平で感触を楽しんだ。

「おお、たまらん!この柔らかな手触り、気品に満ちた首筋。さすがに長い歴史で洗練されたヘリウム王室の女だ・・・」

「うっ・・うう、そんなっ。約束が違います。あたしはサブ・サン王子の妻になると・・・」

「ふん、お前は、故国と引き換えにゾダンガに嫁いだ生贄妻だよ。偉そうな事を言うんじゃない!」

サン・コシスは、強引に首をねじってデジャー・ソリスのふくよかな唇に吸い付いた。サブ・サン王子は、ベッドから降り、装身具を身につけながら、自分の父親の痴態を呆れたように眺めている。

「わしの野望は、この世界を支配し、バルスームの三大美女と呼ばれているヘリウムのデジャー・ソリス姫、プタースのスビア姫、デュホールのヴァラ・ディア姫を、全てわしの足元に跪かせる事なのだ!」

サン・コシスは息子のベッドに、そのままデジャー・ソリスを押し倒し、組み敷きながら叫んだ。我が父親ながら、あさましい、とサブ・サンは思った。

「父上、では、ごゆっくりと。私は久しぶりに作戦司令部へ顔を出してきます」

サブ・サン王子が退室した後、デジャー・ソリスはオマンコをサン・コシス皇帝のチンポに貫かれ、切ない表情で悶えた。

「よい体じゃ、よい体じゃ、想像した通り、締め付け具合も絶品じゃ・・・これだけの上玉はゾダンガ国内をいくら探しても見つかるまい」

ゾダンガ皇帝は、鼻息も荒く、息子の嫁の乳房にむしゃぶりつき、ヨダレでベットリと汚しながら、うわ言のように呟いていた。

 

 バスガイドの桑田直美(22歳)は、ゾダンガ宮廷の謁見の間に跪いていた。彼女の役割は痰壷奴隷である。ヘリウムとの戦争が始まって以来、ゾダンガ駐在の諸外国の外交官がひっきりなしに、情勢を把握しようと宮廷へ挨拶に来るのだ。皇帝の謁見を待っているガソールの外交官が直美の方へ手招きをした。痰が咽喉に絡んで吐き出したくなったのだ。直美の額には、痰壷奴隷であると一目でわかるように火星語で焼印が押されている。直美は身をかがめ、摺り足で外交官の方に近寄ると、うやうやしく足元に跪き、顔を上げて大きく口を開いた。ガソールの外交官は、咳払いをし、痰を切った。

「ゴホン、ゴホン・・・カーッ、ペッ!」

吐き出した痰は、狙い通り直美の口の中に落ちる。直美は口を閉じると、表情一つ変えずに目をつぶり、痰を飲み下した。吐き気がこみ上げて来るのを気合で押さえ込み、顔に出さないようにする。直美は、頭を床に擦り付けて無言で礼をすると、再び摺り足で、元の位置へと戻っていった。次の人間に呼ばれるまで、気配を消し、装飾品の一部であるかのようにじっとしていなくてはならない。一日中、これを繰り返すのが痰壷奴隷としての直美の役割なのだ。

 

 片田準一(16歳)に与えられた役割は、寝室奴隷だった。大暴れして抵抗したが無駄で、額に寝室奴隷の身分を表すマークを焼印されてしまった。

「うぎゃあああっ!アチイイイッ!・・・お、お前ら、ぶっ殺すぞ!」

「威勢のいい小僧だ。ピョンピョンと良く跳ね回る。ジャスームから来たと言うのも本当らしいな」

地球人の筋力は、火星人を軽く上回る。準一は大勢のゾダンガ兵によってたかって取り押さえられ、その動きを封じるために手と足に鉄球と鎖のついた枷を嵌められた。

「寝室奴隷に、毛はいらん。全身の体毛を剃らせてもらうぞ」

「く、くそっ!」

準一は押さえつけられ、頭の先から足のつま先までの全ての体毛を剃り落とされた。髪の毛、眉毛、腋毛、陰毛、など全てである。スキンヘッドになった準一は、気味の悪い、つるつるのオブジェのようだった。寝室奴隷とは、赤色人の夫婦やカップルがセックスをした後、愛液や精液で汚れた接合部分を口と舌で清めるための奴隷である。数日間、奴隷訓練所での研修を受けた後、新しい王太子妃である、デジャー・ソリス付けとされた。

「まあ、準一、なんて姿に・・・」

デジャー・ソリスは変わり果てた準一の姿に驚いたようだった。

「俺は、あんたの寝室奴隷らしい」

「敵ばかりのゾダンガ宮廷で、身近に味方がいるなんて心強いわ」

「この有様じゃ、役に立てるかどうか、わからないけどな・・・」

準一は、デジャー・ソリスの寝室の片隅に首輪をつけられて繋がれた。王太子妃と言えど、彼女もこの寝室に軟禁状態らしい。一日のうち、サブ・サン王子とサン・コシス皇帝が、入れ替わり立ち代わり寝室を訪れ、デジャー・ソリスとのセックスを堪能していった。

「おい、終わったぞ」

サブ・サン王子が鷹揚に声をかけると、待機していた準一が、うやうやしくベッドに這いより、ネットリと酸味がかった匂いを発している二人の性器を舌で掃除する。心を込め、全神経を集中し、細心の注意を払って奉仕しなくてはならない。少しでも主人の機嫌を損なえば、人権のない奴隷は、恐ろしい刑罰を受け、最悪の場合、処刑されるのだ。バルスーム世界では、人命は、火星全体を覆っている薄い大気よりも軽い。準一は、吐き気をこらえながら、デジャー・ソリスのオマンコの最深部に舌を伸ばし、放出されたサブ・サン王子の精液を舐め取った。さらに屈辱的なのは、愛液まみれの男のチンポも口に含んで綺麗にしなくてはならない事だった。

(畜生!大川先生、我慢してれば、本当に、あのジョン・カーターが、緑色人の大軍を引き連れて戻って来て、俺達を解放してくれるのだろうな!)

準一は、ゾダンガ宮廷に囚われた他の生徒達の運命や、大気製造工場に残してきた最上美登里の身の上が心配でしょうがなかった。

 

 ゾダンガを脱出したジョン・カーターは、一人乗りの小型飛行艇を強奪し、数週間前に脱出してきたばかりの緑色人の都、サーク市を目指していた。別の次元の地球から来た大川先生に、今後のストーリーの一部始終を聞いていたのだ。原作では、タルス・タルカスにクーデターを起こさせ、緑色人の皇帝の座を手に入れさせてから、彼を扇動してゾダンガを襲撃させるらしい。そんなにうまく、事が運ぶのか、と普段、自信に満ち溢れているジョン・カーターも、ついつい不安になった。

(俺は主人公だ、俺は主人公だ。大丈夫だ、自分を信じろ。俺はまだ生きている。俺なら必ずやれる)

必死に自分に言い聞かせた。原作通りに事が運べば、救国の英雄としてデジャー・ソリスとの結婚を許され、ヘリウム王室に迎え入れられるのだ。飛行艇の遥か下方の赤茶けた大地で、緑色人の部隊同士が戦闘に明け暮れているのを発見した。

(いよいよ、正念場だ。あの中にタルス・タルカスがいる・・・着陸して、彼を危機一髪で助け、そして恩を着せて、さらに緑色人皇帝タル・ハジュスを倒すようにそそのかす・・・)

ジョン・カーターは緊張の余り、手の平にベットリと汗をかき、咽喉がカラカラに渇いた。そして、ゴクリとツバを飲み込むと、飛行艇を戦場めがけて急降下させていった。

 

 ゾダンガのヘリウム双子都市に対する包囲戦は3ヶ月目を迎えようとしていた。かつて最強を誇ったヘリウム艦隊は王女捜索のために分散しているところを各個撃破され、ヘリウム上空の制空権はゾダンガに握られている。連日の爆撃で、都市のあちこちが火災で焼け爛れていた。

「デジャー・ソリス、あなたの故国の国民は、なかなかしぶといですな。このままでは、双子都市は、廃墟になってしまいますよ」

ゾダンガ空中艦隊の旗艦上でサブ・サン王子がデジャー・ソリスに言った。彼女に見せ付けるために、わざわざ戦場に連れて来たのである。

「我々は、あなたとの約束どおり、何度もヘリウムに降伏勧告を行ったのですが、彼らは一向に受け入れようとしない。強情な国民にあなたからも言ってもらえませんかね。ゾダンガの軍門に下るようにと」

デジャー・ソリスは唇を噛んだ。身体を好き放題に蹂躙されてきたのだが、今度は、最後勝利を信じて、苦しい戦いを続けている故国を裏切れと言われているのだ。

「敬愛する王女殿下に懇願されれば、彼らも大人しく降伏するでしょう」

「私に売国奴になれと」

「そうです。でなければ、本当にヘリウム国民は、バルスームから一人もいなくなりますよ」

「わかりました」

バルスーム世界では、分野によってはひどく科学が遅れている。特に通信技術が遅れているため、テレビやラジオは全く普及していない。各艦の連絡を取るのに手旗信号を使っている程だった。デジャー・ソリスは全裸で旗艦の舳先に吊り下げられ、低空飛行でヘリウムの街の上を回りながら叫ぶ事になった。事前にビラが撒かれ、もし旗艦に対空砲火が加えられれば王女の身の安全が保障は無い、と警告されていたため超低空飛行で飛ぶ戦艦は、何の妨害も受けなかった。

「ヘリウム国民の皆さん。ただちにゾダンガに降伏するのです。ヘリウム軍の兵士は武器を捨てて投降して下さい。それが唯一の生き残る道です!」

デジャー・ソリスは、開脚縛りで吊り下げられていた。オマンコ剥き出しの屈辱的なポーズである。自分の全体重を支えている荒縄が肌に食い込んで痛い。ヘリウムの国民は、敬愛する王女の痛ましい姿に動揺した。

「お願いします。降伏して下さい。私は、ゾダンガのサブ・サン王子と結婚します。今、降伏すれば、ヘリウムは属国として、これからも存続する事が出来るのですよ!」

デジャー・ソリスは黒髪を吹き付ける風になびかせ、悲痛な表情で懇願した。宣伝飛行は半日余りも続き、その間、叫び続けたデジャー・ソリスは、咽喉を枯らして後半は、ガラガラ声になっていた。声が潰れて、ほとんど出なくなった頃、いきなり戦艦は方向を変え、都市上空を離れた。甲板に引き上げられたデジャー・ソリスは、指揮を取っているサブ・サン王子に尋ねた。

「どうしたのですか?」

声が、ハスキーボイスに変っていた。

「ゾダンガ本国が、緑色人の大軍に攻撃されているらしい。ありえない・・・あの部族同士で争う事しか頭になかった野蛮な緑色人が、一致団結して赤色人の大都市を襲うなどと・・・」

王子の顔面は蒼白になっていた。ヘリウム攻撃にほとんどの兵力を割いていたゾダンガは本国に最低限の軍備しか残していない。南の荒野に住む緑色人は1〜3万人ほどの小集団に分かれており、太古よりまとまった戦力に結集する事はなかったのだ。しかし、今、情報によると20万人もの緑色人戦士が、サーク族の新皇帝タルス・タルカスの下に結集し、ゾダンガの都市を蹂躙しているらしい。もはや、ヘリウムとの戦争どころではなかった。

 

 ジョン・カーターは、長剣を振るい、右に左にゾダンガ兵を切り倒していた。ゾダンガは炎上している。呵責を知らない緑色人たちが一般市民を八つ裂きにし、略奪の限りを尽くしていた。罪もない非戦闘員の女子供が、サディストの緑色人戦士に、遊び半分で拷問され、絶叫している声が町中から聞こえている。タルス・タルカスは戦勝後のゾダンガの自由略奪を餌に、他部族を協力させたのだ。戦国時代の火星に、正義も何も存在しなかった。

「デジャー・ソリス!私の王女様!」

タルス・タルカスから借りた緑色人の一部隊を率い、宮殿を陥落させたジョン・カーターは、ひたすら愛しいデジャー・ソリスの姿を探し求めた。しかし、発見したのは、奴隷の境遇に落とされた2年C組の生徒達ばかりだった。床磨き奴隷に落とされていた大川先生を発見し、デジャー・ソリスの行方を尋ねた。

「おお!やっぱり、戻ってきたか。原作通りだな。姫ならサブ・サン王子とヘリウム攻囲軍に同行しているよ」

「何っ、ここにはいないのか!」

ジョン・カーターは、あの王子のキザな態度を思い出して怒りに震えた。王女をあいつの好きにはさせない。タルス・タルカスの本陣に駆け戻ると、ゾダンガ本国防衛任務に付いていて、接収した空中艦隊を、ヘリウムに進軍させるよう提案した。

「ヘリウム攻囲中のゾダンガ軍は、本国救援のためにこちらへ引き返してくる筈だ。それを迎え撃てば、残存ヘリウム艦隊とで、ゾダンガ軍を挟み撃ちにする事が出来る」

「お前は天才軍略家だな、我が友よ」

タルス・タルカスは、ジョン・カーターを親友だと思っているようだった。彼にそそのかされて皇帝になり、ゾダンガを攻撃して勝利したのだ。タルス・タルカスの名は歴史に残る事だろう。そして、その後に起こった最後の戦闘は、原作通りだった。ゾダンガ艦隊は激戦の末、壊滅し、サブ・サン王子とサン・コシス皇帝は逃亡した。ヘリウムは解放され、ジョン・カーターは救国の英雄として玉の輿に乗る事になった。

「ジョン・カーター万歳!」

「ヘリウム帝国に栄光あれ!」

ヘリウム国民は、デジャー・ソリスとジョン・カーターの結婚式を熱狂的に祝福し、物語はこのままハッピーエンドに終わるかに見えた。

 

 片田準一、大川先生、桑田直美他、2年C組のメンバーは崩壊したゾダンガ宮廷から救出され、ヘリウム宮廷へと移された。しかし、ヘリウム皇帝タルドス・モルスは、額に奴隷の焼印を押された見慣れない黄色人種を、平民としてヘリウムに迎え入れることを渋った。

「お父様、この方達は、獰猛な緑色人から、私を助けてくれたのです」

「しかしなあ、緑色人とヘリウムは、対ゾダンガ戦で同盟を結んだ事だし、政治的配慮から、それ以前に起きた事は水に流さんといかん」

タルドス・モルスは可愛い孫娘に懇願されて、困った顔をした。デジャー・ソリスは、すっかり元気を取り戻し、以前のプライドと幸福なオーラを身にまとっていた。

「そこをなんとか」

「宮廷付の奴隷としてなら、置いてやってもかまわん。丁度、ゾダンガで奴隷の訓練も受けているようだし」

「・・・おじい様。取り敢えずは、それで、結構ですわ」

2年C組の運命が決まった。準一は、寝室奴隷。大川先生は床磨き奴隷。直美は痰壷奴隷として生きていく事になった。

「畜生!これじゃ、ゾダンガに居た時と同じじゃねえか!ジョン・カーターの野郎!恩を仇で返すような事をしやがって!」

準一は、わめいた。しかし、ヘリウム王室の決定に、婿養子に入ったばかりのジョン・カーターには、異議をはさむ事は出来ないようだった。

「すまん、準一。俺の立場も考えてくれ。婿養子というのがこんなに居心地の悪いものだとは、思わなかった。皇帝や皇太子の目が気になって、他の奇麗な女がいても、直視することすら気が引ける・・・」

「チッ!それでも主人公かよ」

準一の仕事は、ジョン・カーターとデジャー・ソリスの寝室で、二人のセックスの後始末をする事だった。サブ・サン王子の時とは違い、ベッドではデジャー・ソリスが主導権を取っている。

「あっ、そこ、そこ、そこもっと舐めて。ジョン、とっても気持ちいいわ!いっ、いくぅ。そこもっと!」

ジョン・カーターは、デジャー・ソリスの股間に顔をうずめ、王女を喜ばせようと懸命に舌を使っていた。

「ああ、私の王女様。クリトリスが一番、感じるのですか?」

「あ・・そうよ、でも、もっと奥の方も舌を伸ばして!」

心底、惚れているジョン・カーターは、デジャー・ソリスが喜ぶ事なら何でもした。王女の足の裏まで舐め、足の指を一本一本、丁寧に舐めあげる。一旦射精した後も、王女に求められれば、何度でも自分を奮い立たせ、情事に励んだ。

(見てられねえぜ)

準一は、奴隷らしくベッドの傍に跪き、頭を垂れて二人のセックスが終わるのを待ちながら、心の中で毒付いた。

 

 やがて2年の歳月が過ぎた。その間、特にこれといって重大な事件も起こらず平和な日々が続いた。ジョン・カーターは、時折勃発するヘリウムの対外戦争で手柄をたて、婿養子の汚名を返上しつつあった。王家とも次第に打ち解けて来ているようだ。デジャー・ソリスが妊娠し、卵を産んだ頃、火星全体を揺るがす大事件が起こった。

「大変だ。大気製造工場が活動を停止している!」

ヘリウム皇帝タルドス・モルスが、緊急閣僚会議を招集した。

「管理人の科学者と連絡は取れないのですか?」

皇太子モルス・カジャックも慌てている。

「取れない、こちらの呼びかけに応答せんのだ」

「とにかく、大気製造工場に技術班と特殊部隊を派遣しよう。」

ヘリウムは、バルスーム世界での最強国家である。こういう事態が起こった時には、諸外国に先駆けてイニシアティブを取らなくてはならない。皇帝の命令は、直ちに実行に移されたが、現地から戻ってきた報告は絶望的だった。

「予想していたことだが、工場の防御壁を破ることが出来ん。一つしかない通用口は、内側からしか開けれんのだ。各国と連携し、数千隻の空中艦隊で集中爆撃を加えれば天井を破ることは出来るかも知れんが、それでは工場の施設に取り返しのつかない損傷を与えてしまうかも知れん・・・」

「何か、対策はないのですか!気圧がどんどん下がっています。科学者の計算では、あと3日で、バルスーム中の生物の生存が不可能になります」

タルドス・モルスとモルス・カジャックに、これ以上、やれる対策はないようだった。ジョン・カーターも会議には出席していたが、婿養子なので、あまり積極的に発言はしない。ジョン・カーターが憂鬱な顔で自室に戻ると、そこには、寝室奴隷の準一と、床磨き奴隷の大川先生が待っていた。

「あんたの出番だよ。ジョン・カーター」

大川先生が言った。

「えっ、俺?」

「そうだ。この事件は原作にもあったエピソードだ。少し発生する時期が早いが、それは、我々がこの世界に紛れ込んでいるせいだろう」

大川先生と準一から注がれる期待の眼差しに、ジョン・カーターは戸惑っているようだった。

「大気製造工場の防御壁は、外側からは、音声認識で開くようになっている。あんた、扉を開く合言葉を知っているだろう?以前、工場に滞在した時、科学者から聞いているのだろう?」

「・・・い、いや・・・知らん・・・」

「そんな筈はない。思い出してくれ。知っている筈だ」

「いや、やっぱり知らない」

大川先生と準一は唖然とした。原作と設定が変わっているのか

「まさか、俺達が、いるせいで・・・どうすんだよ、先生。このままだと、全員、窒息しちまうぜ!バッドエンドじゃねえか!」

準一が吠えた。長い奴隷生活にもかかわらず、熱しやすい性格は変わっていない。原作を熟知している大川先生も、どうしていいか判らないようだった。

「と、とにかく大気製造工場へ行こう。なにか方法が見つかるかもしれない」

ジョン・カーターは二人の奴隷を伴い、小型飛行艇で飛び立った。すでに気圧の低下で息苦しくなってきている。工場の防壁の前では、各国の特殊部隊がなんとか防御壁を破ろうと、死力を尽くして、様々な工作機械を使い、絶望的な努力を行っていた。

「なにか方法は、ねえのかよう!」

準一は、壁を叩いて叫んだ。為す術もなく2日間が過ぎた。古代の超合金で出来た防壁には、僅かに引っ掻き傷が刻まれた程度である。バルスーム全土に諦めムードが広がった頃、突然防壁の扉が内側から開いた。一同が唖然として見守る中、一人の薄衣をまとった少女がよろめき出てきた。2年C組の最上美登里だった。

「美登里!」

準一が駆け寄った。全身を脱毛された準一の姿を目にすると、美登里は泣き始めた。

「えーん、えーん。みんな死んじゃったよ!準一君・・・」

準一は、今にも倒れそうな、美登里の体をしっかりと抱きしめた。

「どうしたんだ?一体、何があったんだ?」

「科学者のお爺さんが、フェラチオが、やり易いようにって、あたしの歯を全部抜いちゃったの・・・」

美登里は、あんぐりと口をあけて見せた。歯は一本残らず除去されており、ピンク色の歯茎だけが残っていた。

「それで、あまりにも気持ちがいいからって、毎日毎日フェラをしたら、とうとうお爺ちゃん、心臓麻痺で死んじゃった・・・」

つまり、常駐していた老科学者二人は、年甲斐もなく女子高生二人とのセックスに、のめり込み、次々に腹上死したらしい。最初に一人が死んだ後、死因が、恥ずかしいので科学者ギルドへの報告をためらっていた所、二人目も死んでしまった。そしてメンテナンスが行われなくなった工場設備はすぐに止まり、緊急事態になったというわけだった。

「あたし、何があっても絶対に扉を開けちゃいけないって、いつもお爺さんに言われてたから・・・でも、監視カメラに準一君や、大川先生が映っているのを見て、つい、出てきちゃった」

美登里の顔は、歯を抜かれたためか、少し形が変わっていた。二人の傍らを、待機していた技術者たちが駆け抜けていく。これで、バルスームは救われるだろう。その時、突然、大川先生が叫んだ。

「準一!ジョン・カーターの体にしがみつけ!元の世界に帰れるかもしれんぞ!」

「えっ?」

「いいから、早く!このチャンスを、ずっと待っていたんだ!」

原作では、このラストシーンで、主人公が再び地球へ転送される事になっている。なぜ、転送されるのかは、説明はない。ジョン・カーターがそういう能力を持っている得異な人間である、という位のニュアンスだ。準一、美登里、大川先生の3人は、間の抜けたように突っ立っているジョン・カーターの体にしがみついた。

「準一、もといた世界を、頭の中にイメージするんだ」

「おいおい、何をする。どう言うことだ・・・」

3人に、まとわりつかれたジョン・カーターは抗議したが、その時、異空間への転送が始まった。

 

 準一が意識を失っていたのは、ほんの僅かの間の事だったらしい。目を開けると、薄暗い火星の空ではなく、見慣れた青空が広がっていた。地面は堅く、アスファルトのようだった。

(地球に戻ったのか・・・)

準一は立ち上がり、辺りを見回した。日本語で書かれた、コンビニ、銀行、ファーストフード店などの看板が見える。傍らでは、美登里と大川先生が、意識を取り戻し、立ち上がる所だった。

「やったぜ、先生。元の世界に戻ったぜ!」

「ジョン・カーターがいないわ」

気づいた美登里が言った。

「彼は、彼の世界へ戻ったんだろう。19世紀の南北戦争直後のアリゾナへ・・・もっとも、そこもバロウズの想像世界だけどな」

大川先生が言った。突然現れた、全裸の二人の男と、薄衣をまとっただけの少女に、通行人達は驚いているようだったが、わざわざ、立ち止まったり、話しかけてくる者はいなかった。みんな、何か別の事柄で頭がいっぱいで、3人にかまっている余裕はない、といった風だった。

「おい、準一、何か様子がおかしいぞ」

上空から爆音が聞こえ、見上げると自衛隊のヘリが飛んでいた。遠くから砲声のような音も聞こえてくる。準一は信じられないものを目にし、悲鳴を上げた。

「あっ、あれは!」

転送のショックで気が付かなかったのだが、道路は大渋滞のようだった。その中に数台の観光バスが数珠つなぎになっている。3人には見覚えがあった。2年前、バスツアーに行く途中の埼玉県立高校の生徒達を乗せたバスだった。

「俺達の乗っていたバスだ!」

前から3台目の3号車には、2年C組の生徒が乗っているはずだ。2年前の自分達がそこにいる。

(ジョン・カーターが時空間を跳躍する際に、俺達は無意識に、すべての始まりである、あの日をイメージしてしまったんだ・・・)

「と言うことは・・・」

予想通り、市街地の向こうに裸の巨人女の姿が現れ、突進してきた。

「まずい、逃げろ!」

3人は駈け出した。巨人女レアが時空砲を乱射しながら、手当たり次第に行く手を阻む物を消し去っている。時空砲から放たれた悪夢のような虹色の光が、渋滞している車列を舐め、2年C組を乗せた観光バスが消えていく様が、準一の視界の隅に見えた。

「きゃあああ!」

その時、躓いた美登里が、転んだ。準一が駆け戻り、彼女の体を支え、目の前に停車していた2年A組の乗っている5号車の後ろへと逃げ込んだ。

「何やってんだ。そんな所にいたら、また・・・」

大川先生が、声をかけ、バスの物陰から二人を連れ出そうとした時、レアの放った時空砲の第二斉射が、周囲を包みこんだ。

「うわああああ!」

3人は、絶叫し、2年A組を乗せた観光バスと共に、虹色の光に包まれ、再び奈落の底に落ちていった。

 

第146話、ホワイトデー

 

 2007年3月14日、早朝、本多文枝(28歳、高校教師)は目を覚ました。

(今日は、水曜日だったかしら。いよいよホワイトデーね)

憂鬱な気分で、布団を払いのけて起き上がった文枝は全裸だった。カーテンの無い窓に向けて大股を開き、日課であるオナニーを始める。表通りを歩く通行人が、チラチラと投げかけていく視線に興奮し、オマンコをグチョグチョに濡らした。

「あっ、あっ、いく、いくううう!」

ワザと声に出してオルガスムスを極めた。ヨガリ声は、薄い窓越しに表通りまで聞こえたに違いない。オナニーを終えると、ミニスカートとタンクトップを身に着け、ハンドバッグを持って、3畳一間の部屋を出た。先月、バレンタインデーにチョコを配ったアパートの住人達に、文枝の愛を受け入れる気持ちがあるのかどうか、確認に回らなければならないのだ。

「大山さん、おはようございます」

まず一人目の住人の部屋をノックした。50代で離婚歴のある無職の男である。まだ寝ているのか、なかなか出てこない。

「大山さん、大山さん!おはようございます!」

声のボリュームを上げ、何度も何度もドアを叩いて、やっと大山が顔を出した。

「あ・・おはようございます・・・何ですか、こんな朝早くに・・・回覧板ですか?」

大山は、寝ぼけていた。

「違います。あのう、先月、チョコをお渡ししたでしょう?返事が頂きたくって」

大山は、ポカンと口を開けた。何の事か判らないらしい。

「今日は、ホワイトデーですのよ」

「あ、ああ・・・」

やっと理解したようだった。まさか、文枝の告白を本気とは思わず、チョコをもらった事は、すっかり忘れていたようだった。

「あたしの愛を受け入れてくれますか?」

文枝は、大山の目をジッと見つめた。長年勤めた会社をリストラされて以来、不運続きの大山は、目の前に立っている美人教師の顔を見るとアドレナリンが出て、急に目が冴えて来たようだった。

「え、ええ、でも、そんな急に言われても・・・」

「どっちなんですか?ハッキリして下さい。受け入れてくれるのですか?」

「え、ええ・・」

大山は、しどろもどろの返事をした。文枝は、ハンドバッグから、自分の携帯電話番号を書いた紙と、部屋の合鍵を取り出して、手渡した。

「いつでも、あたしの部屋に自由に入ってもいいわ。あたしの体も、心も、あ・な・た・の・も・の」

文枝は、大山に抱きつき、唇にチューをした。

「じゃ、今日はこれで。・・・連絡、お待ちしておりますわ」

呆然とする大山を残して、文枝は次の住人の部屋へと向かった。合鍵は、昨日大量に、ホームセンターでコピーしてある。それを男達に配って歩くのだ。ボロアパートの一人暮らしの男性住人12人のうち、5人が文枝の愛を受け入れ、7人が高齢などを理由に拒否した。文枝は、愛を受け入れた男達全員に合鍵と携帯電話番号を渡し、彼らの求めに応じて肉体を開くことを約束した。

(これからは、忙しくなるわ。高原家での勤めも果たさなくちゃいけないし。スケジュール管理をしっかりしなくちゃ)

文枝は、自分の肉体が、アパート住人たちの性欲処理のための公衆便所になりそうな予感がした。

 

 「本多先生。今日もピンサロ嬢のような格好ですな。ここは、神聖なる教育現場ですよ」

学校に出勤した文枝は、毎朝の様に言ってくる教頭の嫌味を聞き流し、受け持ちのクラスのホームルームに出ると、まず黒板に、自分の携帯電話の番号と、メールアドレスをチョークで大きく書き出した。

「男子は、よく聞いて下さい。この前のバレンタインデーの日に、男子全員に、先生からチョコをあげましたよね。覚えてますか?」

「はーい、覚えてまーす」

「今日は、ホワイトデーです。バレンタインデーにチョコを受け取った人が、プレゼントしてくれた人に、返事をする日です。では、まず阿川君、起立してください」

「はいっ」

出席番号1番の阿川達弘が立ち上がった。背が低く、比較的大人しい生徒である。

「あなたは、先生の愛の告白を受け入れますか?」

「え・・・あ・・そ、その・・・」

阿川達弘は、真赤になってうつむき、それ以上話すことが出来なくなった。

「じゃあ、次、井上明君。あなたは、どうなの?」

出席番号2番の井上明は、長髪でスラリとした体型の、少し不良っぽい雰囲気の美男子だった。

「へへへ、そうだなあ、僕は受け入れちゃおっかなあ。愛を受け入れたら、先生とエッチも出来るんですか?」

「も、もちろんよ。先生の心も体も、自由にしていいわ」

「ヒュー!じゃあ、オッケーするよ」

「ありがとう、井上君」

文枝は、井上明の席に近づくと、起立している男子生徒に、ムチムチの体を押し付け、熱い抱擁とディープキスを交わした。クラス全体がどよめいた。男子が次々と立ち上がる。

「ぼ、僕も、オッケーします」

「俺も!」

「先生とヤレるんなら、俺も!」

クラスの男子生徒、18人中12人が手を挙げた。これで、アパートの住人と合わせて17人の男と同時に恋人宣言をしたことになる。

(体が持つかしら)

文枝は戦慄を覚えた。

「では、黒板に書いた電話番号とメールアドレスをメモしてください。先生がんばりますけど、体が一つしかないから、連絡をくれた人から順番に予定を組んでデートします。希望者には、先生のアパートの合鍵を渡しますから、自由に遊びに来ていいわよ」

予想通り、女子生徒から不満の声があがった。

「先生、男子ばっかり、ずるいです」

「だってしょうがないでしょ。女子と付き合うわけにいかないでしょ」

高原玲華が、手を挙げた。

「はい、先生、提案があります」

文枝が、怯えた様子で、玲華の方を見た。この生徒は何を言い出すかわからない。

「何でしょう、高原さん」

「女子と恋人になるのが無理なら、召使いになってください。好きな時に携帯で呼び出して、ボコりますから」

文枝は、コブシを握りしめ、わなわなと震えた。額から汗が、ツーッと流れ落ちる。

「先生、どうしたんですかあ。顔色が悪いですよ」

玲華と仲のいい、別の女子生徒が言った。テミストクレスの命令とはいえ、そこまで教師の尊厳を失わなければならないのか。文枝は目眩がし、思わず教壇で倒れそうになった。

「わかったわ。女子も、あたしの携帯電話の番号をメモしてください」

「アパートの合鍵もくれるんでしょ」

「き・・・希望者には・・・ね」

「先生、よく聞こえないです。もっと大きな声で、ハッキリ言ってください」

文枝は、震える体を必至で抑え、平静を装いながら叫んだ。

「先生は今日から、男子の恋人、女子の召使になりますっ!これからは、アパートにも自由に遊びに来て下さいっ!」

クラス全員がどよめき、その日から生徒達は、完全に担任である文枝を、蔑むような眼で見るようになった。

 夕方、午後6時、学校での勤務を終え、ボロアパートに帰宅した文枝を、大山が待っていた。朝、手渡した合鍵で文枝の部屋に入ったらしい。

「あら、大山さん。いらっしゃってたの?」

「ええ、僕、無職なもので、退屈しちゃって。せっかく部屋の鍵も貰った事だし、お邪魔しようかなって。まずかったですか?」

「いえ、そんなことございませんわ。だって大山さんとあたしは、愛し合っている恋人同士なんですもの」

文枝は、自分の部屋の中を一瞥した。盗られて困るような物は何もない。仕事で使っているノートパソコンは学校の職員室に置きっ放しだし、銀行の通帳やクレジットカードはハンドバッグに入れて常に持ち歩いている。

「お腹、空きました?夕御飯、作りましょうか?」

「え、ええ」

文枝は、ハンドバッグを下ろすと、小型のワンドア冷蔵庫から食材を取り出し、料理を始めた。3畳一間なので、狭く、キッチンといっても小さなガスコンロが一つあるだけである。大山は、キッチンに立って料理をしている文枝の背後から、ミニスカートの中を覗き込んでいた。

(なんとムチムチした太腿だ。たまんねえ。どうして俺なんか恋人にすると言い出したのか判らねえが、女の体を拝むのは何年ぶりだろうか。女房と離婚して以来だ。しかもこんな若い女教師とヤレるなんてな)

大山は、ヨダレを垂らさんばかりの顔つきだった。昼間、一人で文枝の部屋に入り、思う存分、衣装ケースの下着を漁って、匂いを嗅ぎながらオナニーにふけったのだが、実物の女を目の前にすると、また頭が妄想でいっぱいになり、股間が勃起してきた。

「スパゲッティが出来上がりましたわ」

文枝は小さな折り畳み式のテーブルの上に、皿に乗った二人分のスパゲティを置いた。インスタント素材のものだったが、ミートソースがたっぷりかけられ、湯気が立ち上って美味しそうである。文枝も以前、結婚していた事があり、家事は手慣れていた。

「い、いただきます」

大山は、女が作った手料理を食べるのも久しぶりだった。貪るように食べ、食べ終わると文枝に、モジモジと話しかけた。

「あの・・」

「判ってますわ。大山さん、寂しかったのでしょう。これからは、あたしの体で慰めてあげますわ」

文枝は、大山の傍らに寄り添い、50代の中年男に身を任せた。大山は、文枝の放つ、女の匂いに興奮し、服の上から力いっぱい抱きしめた。

「あ・・・キスして」

文枝が、半開きの目で大山の顔を見つめ、桜色の唇をすぼめて突き出した。大山は、文枝の口元にしゃぶりつき、慌てたために歯が当たって、ガチガチと音がしたが、構わず舌を吸い上げた。キスをしながら、そろそろと右手をスカートの下に伸ばし、太腿から這い上がってパンティの中の茂みを指先で探る。女の割れ目から、ヌルっとした感触が伝わってきた。

「あ、ああ・・・いい」

文枝は、Bカップの貧乳を大山の胸板に押し付けてヨガリ声を漏らした。大山は無我夢中で女教師とのセックスに、のめり込み、50代だというのに、1回の射精では飽き足らず、2回も文枝に射精した。そして3回目を挑もうとした時、文枝の携帯電話が鳴った。

「ちょ・・ちょっと待って、大山さん。はい、もしもし」

電話の相手は、同じアパートに住む別の男からだった。この男も、今朝、文枝の愛を受け入れた男である。会って欲しいと言っていた。

「大山さん、ごめんね。ちょっと用事が出来たの。また今度ね。いつでも電話ちょうだい」

文枝は、ブラジャーとパンティを履き、洋服を着ると、乱れた髪の毛を整えて身づくろいをした。そして、大山を一人、自分の部屋へ残すと、呼び出しがあった別の男の部屋へと向かうために部屋を出て行った。

(何なんだ、あの女。ま、いいか。ヤレたんだし)

大山は、年甲斐もなく頑張ったせいか、急に眠気を催し、そのまま文枝の部屋で眠り込んでしまった。どうせ、無職なのだ。明日の朝、寝過そうが、構うことはない。

 

文枝が、その晩、自分のアパートから歩いて5分の距離にある高原家に着いた時、すでに夜の十一時を過ぎていた。

「遅いじゃないか、奴隷6号」

テミストクレスが鷹揚に言った。奴隷6号と言うのは文枝の事である。1号は高原沙貴、2号は、篤志、3号は玲華、4号は良枝、5号は博和である。テミストクレスは、高原家のリビングで沙貴を人間椅子にしてくつろいでいた。

「すみません。御命令どおり、バレンタインデーにチョコを渡した男達を、恋人にしました。彼らのセックスの相手をしておりまして・・・」

「言い訳はいい。恋人が出来たからといって、奴隷の勤めが減るわけではないぞ。遅れてきた罰だ。良枝、奴隷6号を風呂で熱湯責めにしろ。その後で、俺様がたっぷりとお仕置きしてやる」

「はい、テミストクレス様」

裸にエプロン姿の良枝は、怯えた表情の文枝の髪の毛を鷲掴みにするとバスルームへ引きずるように連れて行った。

「先生、熱湯風呂を用意いたしますので、少し待っていて下さい」

良枝は、脱衣場に文枝を待たせると、蛇口をひねって湯船に熱湯を注ぎ始めた。水を混ぜずに、純粋に湯だけを注ぐ。文枝を責めると聞いて娘の玲華もやってきた。

「先生、裸にならなくていいわ。服を着たまま熱湯風呂に入るのよ。その方が面白いから」

10分ほどで、湯船は、いっぱいになった。文枝はミニスカートとノースリーブスを着たまま顔をこわばらせていた。バスルームにもうもうと湯気が立ち込めている。

「さ、入って下さい先生」

良枝が、うながした。文枝は、そろそろと浴槽の傍に歩み寄ると、片足を上げ湯面に、つま先を浸けてみる。

「アツッ」

慌てて足を引っこめた。

「先生、何やってるんですか。早く入って下さいよ」

玲華がサディスティックな笑みを浮かべて言った。16歳だったが、元々内に秘めていたドSな本性を、ここ数年の異常な屈折した生活で開花させていた。

「ええ」

文枝は、再び湯面に片足を下ろした。今度は一気に膝まで沈める。チリチリと皮膚全体に焼けつくような痛みを感じたが、気力で我慢し、湯船の底に足裏をつけると、体の重心を移して、もう片方の足も湯船に引き入れた。

「もう、本多先生。思い切りが悪いんだからあ」

文枝がゆっくりと、慎重に腰をかがめて、御尻を湯に浸けようとした時、背後に歩み寄った玲華が、渾身の力で文枝の両肩を押さえつけた。

「ひぎゃああああ!アツッ、アツイイイイイ!」

いきなり胸元まで熱湯に沈められた文枝が絶叫した。顔が苦痛と恐怖に引き歪んでいる。バシャバシャと湯を叩いて暴れたが玲華は力を緩めようとしなかった。

「ちょっと、先生、大人しくしてよ。あたしにまでお湯がかかって熱いじゃない!火傷したらどうするの!」

「アツイイイイ!助けて。もう無理!無理よう!」

「駄目です、先生。我慢してください。テミストクレス様の命令です」

良枝も玲華に加勢した。何とか熱湯から逃れるために立ち上がろうとする文枝を二人がかりで押さえつける。

「ひっ、ひいいいいい!」

服を着たまま文枝は、30分間湯船に沈められ続けた。のぼせあがって顔が、茹で蛸のように真っ赤になり、汗と湯気と涙でグシャグシャになった。そして最後に鼻血を流して気を失った。

(ざまあみろ、先公。あたしの家を家庭訪問したのが運の尽きなのよ。一生いたぶりぬいてやるわ)

16歳にして、三児の母である玲華は、もう、この先まともな人生を送れる筈もない。その欝憤を、自分より低い身分に置かれた担任の文枝をいたぶる事で晴らしているのだ。全身ずぶ濡れで、浴槽から引きずり出された文枝は、濡れた服を脱がされ、良枝と玲華の二人がかりでリビングのテミストクレスの前に運ばれた。

「ほう、いい色に茹で上がったじゃないか」

テミストクレスは面白そうに言った。文枝の全身は真っ赤である。

「おい、奴隷6号!いつまで寝てるんだ!」

テミストクレスは、文枝の頭を蹴とばした。気を失っていた文枝が目を覚ます。慌てて起き上がって土下座をしたが、全身の皮膚がヒリヒリし、自分の物では無いかのようだった。

「お許し下さいませ、テミストクレス様。私は私なりに一生懸命にお仕えしております」

「ふん。全然誠意が伝わってこんなあ。今夜は、高原家全員の足の裏と性器をお前の口で奇麗にするのだ。ついでに玄関に置いてある靴も全部、舐めて掃除しろ」

テミストクレスは3年余りに渡って、この一家を支配しているので、絶対権力者である王者の風格が付いてきていた。

「はい、誠心誠、御奉仕させていただきます。」

文枝は、クタクタだった。学校の仕事を終えて帰宅し、夕方からアパートの住人3人とセックスをしてからこの家に来たのだ。舌奉仕の後は、テミストクレスが直々に蝋燭責めを加えた。弱った皮膚に熱蝋が追い打ちをかける。いつもより苦痛度は倍に感じた。そしてその晩、文枝がようやく解放されたのは夜中の午前3時だった。舐め続けたために舌と唇が腫れ上がり、全身の皮膚が軽い火傷を負ってヒリヒリ痛む。冷たくなったずぶ濡れの服を身につけてトボトボと一人で家路についた。

(明日も仕事だ。早く寝よう)

と文枝は思った。長い長いホワイトデーの一日だった。

 

文枝は、翌日、睡眠不足のまま、学校での勤務をこなした。服装は昨日と同じ、ミニスカ、ノースリーブスである。1着しかないため夜の間に乾かしていた。そして、夕方、学校から退勤しようとした時、携帯電話が鳴った。

(誰かしら)

待ち受け画面を見ると、担任しているクラスの生徒である樫村絵梨香の名前が表示されていた。

「はい、もしもし」

『先生、遅いじゃない。仕事が終わるのを、ずっと待ってたのよ。すぐに校門前のガソリンスタンドの向こうにある公園に来て』

「わかりました」

文枝は、通勤用のマイカーに乗るのをやめ、学校から500メートルほど離れた場所にある市民公園を目指してトボトボと歩き出した。不安が胸をよぎる。樫村絵梨香は、美人なのだが、きつい性格で、受け持ちのクラスでは高原玲華についで、文枝の頭痛の種だった。樫村絵梨香は、間違いなくサディスックな性癖も持ち合わせているようだ。指定された公園の噴水の傍で、手ぐすね引いて待っていたのは、樫村絵梨香と、彼女の親友の芦田加奈子だった。加奈子は火をつけたタバコを銜えていた。

「駄目じゃない、高校生がタバコを吸っちゃ・・・」

文枝が注意すると、加奈子は逆切れした。

「うるせえんだよ!召使いの癖にっ!」

「加奈子、こいつに自分の立場を思い知らせてやりなよ。手を出しな、本多先生」

文枝は、おずおずと右手を差し出した。絵梨香がいきなり、文枝の差し出された手首をグイとつかむと、加奈子が、その手の甲に、銜えていたタバコの火を押し付けた。

「きゃあああああ!」

文枝は手を振り解こうとしたが、加奈子に手首を掴まれているため、振り払う事が出来ない。

「ふふふ、いい声で叫ぶわね。本多先生」

絵梨香は美しい顔にサディスティックな笑みを浮かべていた。目が、うっとりと潤んでいる。彼女は真性のS女だ。二人の女子高生は、文枝を公園の端の植え込みの方へ引っ張って行った。

「先生、ここで、オナニーしてよ」

「えっ!」

文枝は、火傷を負った右手の甲をさすりながら、公園を見回した。学校が近いためか、同じ学校の生徒や、子供を遊ばせている主婦の姿がチラホラと見える。

「でも・・・」

「御主人様が、召使いのあんたに、オナニーしろって言ってんだよ!言うことが聞けないの!」

絵梨香が、文枝の頬を平手で打った。従うしかない。そういう約束なのだ。文枝は、なるべく茂みの影になるように、しゃがみ込み、スカートの中に左手を入れた。いつもは右手でオナニーをするのだが、今は、火傷が痛くて動かせないのだ。文枝は、ミニスカートの下のTバックのパンティの隙間に指を入れ自分の肉の割れ目をまさぐった。

「おらっ、もっと足を広げろよ!」

絵梨香は、文枝のヒップを靴のつま先で蹴飛ばした。文枝は、股間の腱がはち切れそうになるくらい、両方の太腿を伸ばし、180度近く広げた。

「は、恥ずかしい・・・」

誰に見られているか判らなかった。その不安を麻痺させるため、激しく指を動かして、必死に意識を快楽に埋没させようと夢中になった。

「キャハハハ、馬鹿みたい」

絵梨香と加奈子は、腹を抱えて笑い転げた。

「もっと、声出せよ。イク時は、イクウウウって大声で叫ぶのよ」

「アン、アンッ、気持ちいい・・・イッ、イイイッ!」

文枝は、スリルと羞恥心に、かつて無い程、興奮し、オマンコから愛液を大量に滴らせた。公園にいる人々は異常を察知したようだったが、見て見ぬ振りをしている。たかが、女子高生の戯れに、注意して、ワザワザかかわるのも面倒だと思っているのだ。

「イクウウウウウウ!」

文枝は、しゃがんで大股を開いたまま、絶頂を迎えた。その瞬間、絵梨香が、文枝の横面に回し蹴りを入れ、文枝はオマンコに指を入れたまま、地面に蹴り倒された。

「キャハハハッ、最高!先公いじめるのって、最高!」

絵梨香は、サディスティックな喜びに、自分もジーンと体の芯が熱くなり、股間が濡れてくるのを感じた。

 

第147話、ファシズムの嵐

 

1940年6月、ドイツ軍の電撃作戦の前に、英仏連合軍はわずか40日間で壊滅し、フランスは降伏した。ヒトラーは、パリにペタン首相を首班とする傀儡内閣を作ったが、ロンドンに亡命したフランス第4機甲師団長のドゴール将軍が、大陸を脱出したフランス軍や、海外植民地に残った戦力をかき集めナチスドイツに対して徹底抗戦を叫んでいた。

「イギリスは和平を拒絶した・・・」

ヒトラーはベルリンにある大本営で幕僚達を前に、怒りを露わにしていた。

「私は、同じゲルマン民族の国家であるイギリスとは戦いたくないのだ。しかるに、チャーチルの犬め!」

ヒトラーは、怒りに我を忘れ、今にも、痙攣を興しそうだった。穏健派のチェンバレンに代わってイギリス首相の座に就いたチャーチルは、軍人上がりのためか、とにかく好戦的な男である。

「皆に問う。イギリスを屈服させるにはどうすればいい?」

ヒトラーが問うと、まず、グデーリアン上級大将が、手を挙げた。

「ドーバー海峡さえ渡ることが出来れば、私の機甲師団が、あっという間にロンドンを陥落させましょう」

「しかし、ドーバー海峡は、七つの海を制した世界最強の英国海軍が封鎖している。我がドイツの海軍力は潜水艦以外は、ゼロに等しい。機甲師団を乗せた輸送船団は、上陸する前に海上で全滅させられるぞ」

ヒトラーは、大いに憂いた。こればかりはどうにもならない。ヨーロッパ大陸は、ほぼドイツの支配下に入ったが、今からイギリス侵攻のために艦隊を建造しても、数年はかかるだろう。

「総統閣下、私にお任せ下さい。妙案があります」

意気揚々と、手を挙げたのはゲーリング空軍司令官だった。

「機甲部隊が海を渡る必要はありません。私の空軍の力だけで、猛爆撃を加え、イギリス全土を灰にして見せましょう」

ヒトラーはしばらく考えた後、にわかに顔が明るくなった。

「ふむ、やってみる価値はありそうだな。あの小生意気なチャーチルが慌てふためく姿が目に浮かぶぞ」

「実は、総統閣下、もう一つ良いニュースがあります。我が空軍の兵器匠で、例の南極の古代遺跡から発掘した設計図を基に、ロケット兵器を実用化する事に成功しました。もともとの設計図に比べればかなり原始的な代物ではありますが、フランスの西海岸から発射すれば、充分にロンドンを攻撃する事は可能です」

ゲーリングは得意満面で報告した。ヒトラーは感嘆の声を上げた。

「素晴らしい!よくやったぞ、ゲーリング。古代超文明の使っていた兵器を、我々の手で量産する事が出来れば、ナチスによる世界支配も現実味を帯びてくる。ゆくゆくは、アメリカ、ソ連、日本も我支配下となるであろう」

「お言葉ですが総統・・・現在、ソ連、日本とは軍事同盟を結んでおりますが・・・」

副総統のヘスが口を挟んだ。ヒトラーは、しかめ面をする。

「同盟など一時的なものに過ぎん。私が最終的に目指しているのはアーリア人種による世界支配だよ。それに最も邪魔になるのは、あの薄汚れたユダヤ人どもだ!」

ヒトラーの青年時代に何があったのは誰も知らない。ここまでユダヤ人を憎むからには、余程の事があったのだろう。

「ユダヤ人のDNAは、一片足りとも、この地球上に残してはならん。一分子残らず消滅させるのだ。私の全生涯をかけて、この問題に取り組む決意である」

「ハイル、ヒトラー!」

「ハイル・ヒトラー!」

ドイツ第三帝国を支える、幕僚達が唱和した。数千機の軍用機を使用した史上初の空の戦いが始まったのだ。

 

フランス西海岸に、急遽、無数の空軍基地が設営された。ドーバー海峡を越えてイギリス本土を空爆するのだ。数百機の爆撃機と、それを護衛する戦闘機の編隊が連日、イギリス南部の空を覆い尽くした。イギリス空軍大尉、デヴィット・マーダー(36歳)は、自分の飛行中隊を率いて、ロンドン上空に飛来するドイツ軍機を迎え撃った。

「くそっ!ハリケーンじゃ、歯が立たねえ!」

デヴィットの愛機ハリケーンは、旧式でスピードも遅く、ドイツのメッサーシュミットBF109に歯が立たない。目標である長距離爆撃機ハインケルに近付く事すら出来ないのだ。

「メッサーシュミットには構うな。ハインケルに機銃掃射を加えて離脱するんだ!」

デヴィットは部下に無線を送った。ドーバー海峡を越えてきたドイツ軍機は燃料の余裕が限られているため、ロンドン上空での滞空時間が短い。それだけが唯一の救いだ。部下のハリケーンが次々と、メッサーシュミットの餌食になって落ちていくが、救いに行く余裕はない。機体の性能が違い過ぎて、まともにやり合う事自体が自殺行為なのだ。デヴィットの隊長機と、わずか4機のハリケーンが、護衛のメッサーシュミット戦闘機をかわし、ハインケル爆撃機に肉薄した。すれ違いざまに機銃を浴びせ、そのまま上空に離脱する。付加のかかり過ぎたエンジンが異音を発し、今にも止まりそうだった。

(畜生!こんな機体じゃ、命がいくつあっても足りないぜ!一体、何機やられたんだ?早く、俺達にも最新鋭のスピットファイアを回せってんだよっ!)

デヴィットが上空で旋回すると、下方に、先程機銃掃射を浴びせたハインケルが、煙を吐きながら落ちていくのが見えた。

「やったぞ!スコア3ポイントだ!」

パイロットは、撃墜した機体の種類によってスコアを得る事が出来る。そして、そのスコアを貯めると、エースパイロットとして勲章がもらえるのだ。しかし、デヴィットは、勝ったと思った瞬間、心に隙が出来たようだった。

『隊長、後ろっ!』

突然、聞き取りにくい雑音に混じって、部下の無線が聞こえた。振り返ると真後ろにメッサーシュミットが張り付いている。次の瞬間、デヴィットのハリケーンは機体に後方からの機銃掃射を浴び、失速した。

(しまった・・・)

デヴィットは、脱出装置のレバーを引き、パラシュートで脱出した。

 

デヴィット・マーダーは、ロンドン郊外の病院のベッドの上で目を覚ました。右足の膝から下が、切断されて無くなっていた。

「パラシュートで降りてくる途中に、右足に銃撃を受けたのですよ」

看護婦が説明してくれた。その時、気を失ったようだった。

(これで、もう飛べないのか・・・)

デヴィットは愕然とした。戦争は、まだ始まったばかりである。ドイツ機甲師団が海を渡ることが出来ない以上、長期戦になるに違いない。デヴィットが入院している間も毎日のように空襲警報のサイレンが鳴り渡り、空からドイツ軍機のプロペラ音と爆弾を投下する音が聞こえていた。

(飛びたい、もう一度飛びたい・・・)

2週間が過ぎ、傷口も塞がってきた頃、入院中のデヴィットの元を一人のフランス人が訪れた。

「ボンジュール、ムッシューマーダー」

「誰ですか、あなたは?」

今まで、見た事もない男だった。遠い眼をした年齢不詳の男だった。

「ミッシェルと呼んでください」

(ミッシェル・・・ありふれた名前だ、偽名か?)

デヴィットは、なぜか直感的にそう思った。自分の名前も、あまり個性的ではないが。

「私に、何か用ですか?」

「実は、あなたの先祖には、時間旅行者がいるのです」

「は?」

デヴィットは、我耳を疑った。H・G・ウェルズのタイムマシンという小説は読んだ事があるが、あれは唯の空想科学小説だ。

「チヅル・ヒサイシと言う、20世紀後半に生まれた日本人の女です。大航海時代の直前、その時間旅行者の女は、あなたの17代前の先祖にあたる人物をスコットランドで、生み落しました」

「俺の先祖が日本人?一体、何を言ってるんだ?」

ふとデヴィットは、5年前に生まれた自分の息子の尻に、普通の白人には無い筈の蒙古班があった事を思い出した。

「つまり、あなたは時間流にとって異物なのです。しかし、もう削除する事が出来ない。あの女のDNAは全世界に広がってしまい、私の預言の一部となってしまった。歴史に深くかかわり、時間警察もヘタに手が出せなくなった」

「・・・・」

デヴィットは、どう答えていいのか判らなかった。

「これは、あなたへのプレゼントです」

ミッシェルと名乗る男は、持ってきたスーツケースから義足を取り出した。

「1940年には存在しない技術で作られた義足です。あなたの意志をセンサーが感知し、まるで本物の足のように動きます。表面もバイオ素材で作られているので、触っただけでは人間の皮膚と区別がつきません。これを装着すれば。あなたは、再び飛行機に乗る事が出来ますよ」

デヴィットは、訳がわからなかったが、とにかく、すがるような気持ちで、差し出された義足を、切断された右膝の付け根に装着してみた。すると、たちまち、永久に無くしたと諦めていた感覚が蘇ってきた。

「なぜ、これを俺に・・・」

「あなたは、近い将来、チズルの別の子孫と出会うでしょう。それは運命の連鎖です。未来は変えられない。しかし、最近、僕は、運命に逆らおうとする人間の意志も尊重しなくてはならない、と考え始めましてね。例えそれが、無駄なあがきで、最終的には、僕の予言通り、宇宙人に家畜化されると言う運命を変える事が出来なくてもね」

「あんたの言っている事は、よくわからない。でも、この足は有り難く頂いておくよ」

デヴィットの顔に、撃墜されてから、すっかり消えていた生気が戻っていた。

「マーダー大尉。もう、あなたと会う事は無いでしょう。僕はこれから、アメリカへと渡ります。歴史が予言通り動くように、監視しないといけないのでね」

謎めいた言葉を残すと、ミッシェルは、去って行った。

 

 イギリス首相チャーチルは、ロンドンの首相官邸で、自由フランス亡命政府を立ち上げたドゴールと面会していた。

「インドシナ半島のフランス植民地は日本軍に奪われました。しかし、アルジェリアを始めとするアフリカ植民地には、ドイツの軍門に下るのを潔しとしないフランス軍部隊が数多く残っています。彼らを輸送するために輸送船団を貸して頂きたい」

ドゴールの要求をチャーチルは、渋い顔ではね付けた。

「駄目だ、駄目だ。今のイギリスに、そんな余裕はない。本土防衛だけで手一杯なのだよ!アメリカのルーズベルト大統領にでも頼みなさい」

「それが出来れば苦労はしません。アメリカは中立の立場を取っています。これからは、いかにしてアメリカを戦争に引きづり込むかを考えなくては・・・いっその事、第一次大戦の時のように、Uボートが間違ってアメリカの客船を沈めてくれれば、ラッキーなのですが」

ドゴールとチャーチルは、アメリカの参戦を心待ちにしていた。ルーズベルトも出来ればドイツに宣戦を布告したいようだったが、それにはアメリカ国民を納得させるだけの口実が必要だ。

「いずれにせよ、ドイツ、イタリア、ソ連、日本の枢軸国に対して、イギリス1国で戦い抜くのは不可能だ。もし、アメリカが参戦する前にドーバー海峡を突破されれば我々の負けだよ」

「ソ連と、日本は仲が悪いようですが」

「もともと日本は、米英寄りだからね。なぜ、ドイツと同盟したのか不思議でしょうがない。情報部の報告によればカンジ・イシハラという男が、しきりにアメリカとの最終戦争論を唱え、軍部の意思決定に強い影響を与えているらしい」

「ヒデキ・トウジョウでは無いのですか?」

「どうも、日本人の国民性と言うのはよく判らん。イシハラとトウジョウは、政敵らしいが、イシハラの意志が、集団の方向性を決め、トウジョウもそれに従って行動しているらしい」

「よく判りませんな。所詮、見かけは近代国家とはいえ、進化の遅れた日本人など、集団生活を送っている猿に近い人種と言うことですかな」

その意見には、チャーチルもドゴールも賛成だった。

 

モスクワでは、共産党の独裁者スターリンが、様々な報告書に目を通していた。今、ソ連は、革命以来の危機にさらされている。私有財産を取り上げ、全ての生産活動を国営農場や国営工場に転換したため、生産力が落ち、大量の餓死者を出している。明らかにこの時点で社会主義は、破綻していたのだが、スターリンは、不満分子を次々と処刑し、恐怖政治で国民や軍部の不満を押さえつけていた。

「マルクス、レーニンの思想を世界に広めなくてはならん。資本主義の次には、必ず社会主義の時代が来るのだ」

ヒトラーとの同盟は間違っていなかった。バルト3国はソ連の軍門に下り、極東では日本からの軍事的圧力を弱める事が出来た。対フィンランド戦争では完全な勝利を収めることは出来なかったが、領土の一部を割譲させた。

「それにしても、小癪なのは、日本だ。東洋のサルめ。いつの日か、連邦の衛星国にして共産化してやるぞ」

ノモンハン事件で捕虜にした日本兵はシベリアで強制労働させている。日露戦争で敗れた屈辱は晴らさなくてはならない。スターリンは、後のKGBの前身にあたる秘密警察のベリヤ長官を呼び出した。ベリヤ長官は、スターリンの腹心だった。

「日本に送り込んだスパイからの新しい情報はあるか?」

「いえ、日本の軍上層部では、未だに我々ソ連と一戦交えるか、南進して東南アジアの資源地帯を抑えるかで意見が分かれているようです。満州国に駐留の陸軍はソ連に対する敵愾心が強く、海軍のヤマモトや、ミカドは、米英と戦う事を極度に恐れているようです。」

「それでは、北進して、対ソ連戦に進む可能性が高いと言うわけか」

「そうとも限りません。独ソ不可侵条約、日独伊三国同盟によって間接的に、日本とは同盟を結んでいる形になっています。この外交上の枠組みが崩れない限りは、日本は身動きが取れますまい」

「アジアの猿国家が、戦局のキャスティングボードを握っているというわけか…忌々しい!」

「しかし、猿だけに、うまく操れば戦争を有利に導く事が出来ます・・・ゾルゲには引き続き日本の動きを監視させます。まさか、東京在住のナチス党員が、我々ソ連共産党のスパイだとは、さすがに気付きますまい」

「クックックッ・・・馬鹿な奴らだ」

スターリンは、鼻の下に蓄えた見事な鬚を指で触りながら笑った。盟友ヒトラーのチョビ鬚よりは、余程立派だと思った。

 

 デヴィット・マーダー大尉は、退院するとイギリス空軍に復帰した。

「大丈夫かね。右足切断の重傷と聞いていたのだが?」

上官は、訝しげに訪ねた。

「はい、最新の義足を付けております。飛行機の操縦にも差し支えはありません」

デヴィットは、飛んだり跳ねたりして見せた。その様子を見て上官は、復帰の許可を出した。戦闘機は、イギリス中の工場がフル稼働で生産を続けており、それに乗るエース級パイロットはいくらでも必要なのだ。デヴィットが与えられたのは、念願の最新鋭戦闘機スピットファイアだった。

(これで、メッサーシュミットと互角にドッグファイトがやれる!)

デヴィットには、以前にも増して闘志が蘇っていた。早速、与えられたスピットファイア飛行中隊を率いて、飛来するドイツ軍編隊の迎撃に舞い上がった。

「メッサーシュミットを狙え!ハインケルは、ハリケーン中隊に譲ってやれ!」

デヴィットの部下達は散開し、各々の判断でドッグファイトを始めた。地上と異なり大空では、パイロット個人の力量だけが物を言う。大量殺戮兵器の進歩に伴い、陸上戦では失われた勇者の世界が、ここにはあるのだ。デヴィットは、1機また1機と確実にメッサーシュミットBF109だけを狙って撃ち落としていった。

(機体の性能が同じなら、俺は誰にも負けん!)

義足の調子も良好だった。違和感がほとんどない。どういう技術で作られ、なぜあの男がくれたのかは謎のままだったが。その日、飛来したドイツ軍機は、ほぼ全機が撃墜された。このバトル・オブ・ブリテンと呼ばれる人類史上初の航空戦では、後になればなるほど、ドイツ軍の損耗率が増えていく。原因は、ドイツ軍機のイギリス上空での滞空時間の短さだった。デヴィットの飛行中隊が帰投しようとした時、空の彼方から高速で飛んでくる奇妙な物体を目撃した。

「何だ、あれは!」

後部から煙の尾を引き、プロペラ機にはありえない速さで、天空を横切った円筒形の物体は、放物線を描きながらロンドン市街へと落ちて行った。スピットファイアをもってしても迎撃することは不可能なスピードだ。それは、ナチスドイツが開発した世界最初の弾道ミサイル、X1ロケットだった。

 

1941年、2月。陸軍中将に昇進したエルヴィン・ロンメルは、ベルリンの大本営へと呼び出された。

「ロンメル将軍。新しい任務だ」

ヒトラーが直々に説明した。ヒトラーは、国民に絶大な人気のあるこの将軍を、ひどく気に入っている。

「2個師団を率い、アフリカへ渡ってもらいたい」

「アフリカですか?」

ロンメルは、その言葉でおおよその察しがついた。北アフリカでは同盟国のイタリア軍が、イギリス軍に追い詰められ窮地に落ちいっていると聞いている。

「ムッソリーニめ。我がドイツに泣きついてきよった」

「イタリア軍は脆弱です。エチオピアでは戦車部隊が原住民に敗北したと聞いています」

「ラテン民族は怠け者で、戦争には向いておらんのだ。と言って同盟国を見捨てるわけにもいかん。いつまで経ってもイギリスは屈服しないし、それに実は、もうひとつ大きな作戦を計画中なのだ」

ヒトラーは、思わせぶりな口ぶりになった。

「といいますと?」

「今は、言えん。実施されれば、世界中が驚くような作戦だ・・・とにかく、君はアフリカへ行ってくれ」

「ハイル・ヒトラー!」

ロンメルは、長距離爆撃機ハインケルに搭乗し、ベルリンから地中海を超えて北アフリカのトリポリへと向かった。現地では、事前にイタリア半島経由で輸送されていた2個師団がすでに、指揮官の到着を待っていた。

「フリッツ・バイエルライン中佐であります」

ロンメルを出迎えたのは、彼の右腕となる副官だった。

「どうだね。戦況は?」

「イタリア軍は、碌に戦いもせず、退却に退却を重ねています。全くやる気がないようです。」

「国民性の問題だな。」

ロンメルはイタリア軍の司令官に挨拶に行った。戦況が最悪だというのに、イタリア軍の司令官は、一流シェフに豪勢なイタリア料理を作らせ、悠々と年代物のワインを傾けていた。身には、一流ブランドの高価そうな靴やサングラス、アクセサリーを着け、お洒落にも相当気を使っているようだった。

「やあ、どうだね。君も一杯!」

典型的な、陽気なイタリア人だった。

「いえ、勤務中ですので。ところで今後の作戦計画なのですが、まず、ベンガジ、トブルクと攻略し、最終的にはアレキサンドリアを目指そうと考えております」

ロンメルの提案に、イタリア軍司令官は驚いて腰を抜かしそうになった。

「馬・・・馬鹿な事をいっちゃいかん!そんなの無理に決まっているだろう!イギリス軍に反撃をすれば、どれだけの戦死者が出るか判らんじゃないか。君、よく考えたまえ。こんなアフリカの砂漠で、無理して戦っても大勢に与える影響は殆どないんだよ!」

「そんなことはありません。アレキサンドリアを抑えればスエズ運河を使用不能に出来ます。イギリス最大の植民地であるインドと、イギリス本国を分断すれば、戦局を枢軸国の有利に導く事が出来ます」

「無理だって!無理だって!」

イタリア軍の司令官はどうしても戦いたくないようだった。ロンメルはアフリカの戦場を分析する傍ら、ベルリンのヒトラーに連絡を取り、ムッソリーニを通じてアフリカでの作戦の主導権を握れるように手を回した。

「バイエルライン。いよいよイギリス軍に反撃をしかけるぞ」

「腕が鳴りますな」

イタリア人ではなく、規律正しい勤勉なドイツ人士官と接していると、ロンメルはホッとするのだった。1941年、3月。突如としてドイツ軍2個師団は、反抗に出た。イタリア軍も嫌々ながら後詰めを務める。戦法は、ポーランド戦、フランス戦で勝利した時と同じ方法で、まずスツーカ爆撃機が、敵陣地に猛爆撃を加え、その後戦車を主体とする機甲師団が混乱した敵陣地の中央突破を図るのだった。すぐにベンガジは陥落し、第二目標であるトブルク前面で、救援に来たイギリス軍の主力と激しいぶつかり合いになった。

「味方の火力が不足しております!」

バイエルライン中佐が、ロンメル将軍に申告した。顔に焦りの色がある。しかしロンメル将軍は余裕の表情で笑っていた。

「フフフ・・・私にとっておきの秘策がある。いいか、対空砲を横にして敵の戦車を狙うのだ」

「は?対空砲を横に撃つのでありますか?」

バイエルラインは唖然とした。そんな事は考えもしなかったのだ。

「そうだ、とにかくやってみたまえ。対空砲を水平に撃った時の威力は凄まじいぞ」

「は、はっ・・・」

副官は、ためらいながらも各部隊に支持を出して回った。結果は、圧倒的だった。高空を狙うために設計された対空砲は、照準も貫通力もヘタな対戦車砲よりもズバ抜けていた。この意表をついた戦法に、押し寄せるイギリス戦車は片っ端から撃破され鉄屑と化した。戦闘終了後、勝利に酔うロンメル将軍の元にベルリンからの暗号電文が届いた。

「何ということだ・・・」

電文に目を通したロンメルの顔色が変っていた。

「どうなされたのですか?閣下」

「ドイツが、ソ連に侵攻を開始した・・・」

「えっ、どういうことでありますか?ソ連とは独ソ不可侵条約を結んでいたはずでは?」

「それが、開戦直前に、わが国の方から一方的に破棄したようだ」

「それって、裏切り行為ではありませんか!」

本国から遠く離れたアフリカの砂漠で、二人は呆然とするばかりだった。

 

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