第138話、火星の王女無残!

 

エドガー・ライス・バローズが描いた架空世界バルスームの赤茶けた荒野にある、古代民族の廃都では、緑色人の種族が盛大な祭りを行おうとしていた。緑色人種族の名を取ってサーク市と呼ばれる廃都の中央広場には、大勢の獰猛な4本腕の群集が集まり、何百年に一度、あるかどうかという見世物を見ようと詰めかけている。広場には、サーク族の伝統的な拷問器具がズラリと並べられていた。

「クックックッ、火星のプリンセスよ、覚悟をするがいい。拷問は長引くぞ。緑色人全てが、お前の美しい顔が苦悶に歪む様を見たがっているのだからな」

サーク族の皇帝、タル・ハジュスは下顎から生えた牙を剥き出しにして笑った。しかし、囚われのヘリウム帝国の王女デジャー・ソリスは恐怖のために叫び出しそうになるのを必死に堪え、あくまで毅然とした態度を崩さない。

「あたしが、どんな死に方をしたかを、もしヘリウム帝国が知れば、あなたの種族は一人残らずバルスームの地表から消されるわ」

「ふん、そんな脅しが私に通用すると思うのかね。お前のバラバラにされた死体は、こちらから、お前の父と祖父の元に送りつけてやるつもりだ」

タル・ハジュスの言葉にデジャー・ソリスは絶望した。昨夜一晩中、タル・ハジュスの緑色の巨根に犯され、オマンコもアナルも裂けてしまっている。しかし、これから彼女が受ける苦痛に比べれば、それも大した事ではないのだ。今回、栄誉ある拷問吏に任命されているのは、ロルクワス・トメルとタルス・タルカスだった。デジャー・ソリスは捕まった際に所持していた腕輪と王冠、首飾り以外は全裸で、広場の中央に引き出された。

「今から、憎っくきヘリウムの王女の拷問を始める。期間は一ヶ月間、最後には、彼女は無残な死体となって我々の足下に転がる事になるだろう」

ロルクワス・トメルが高らかに開会宣言をした。皇帝タル・ハジュスは特別席でその様子を眺めている。最初の鞭が、デジャー・ソリスの赤い柔肌に振り下ろされると、群集の間から大歓声が沸き起こった。

「殺せ!赤色人の女は殺せ!」

「卵の孵化機を破壊した罰だ。報いを受けさせてやれ!」

種族としての憎悪が、デジャー・ソリスのか細い身体一つに向けられていた。デジャー・ソリスは、なるべく悲鳴をあげて緑色人達を喜ばせまいと、歯を食い縛って振り下ろされる鞭に耐えた。やがて背中一面に蚯蚓腫れが刻まれた頃、タル・ハジュスが合図した。

「ヘリウムの王女殿下には、その程度では、生ぬるいようだ。失礼のないよう、もっと厳しい拷問器具を使って差し上げろ」

「ははっ!」

ロルクワス・トメルとタルス・タルカスは、デジャー・ソリスの身体を抱き上げ、まず1代目の拷問台に拘束した。胴体と両手両足首が固定され、ハンドルを回すと開脚していくという拷問器具である。タルス・タルカスがハンドルを回すと、デジャー・ソリスの両足が序々に広げられ、180度近くになると美しい顔に大粒の汗が浮かび始めた。

「うぐぐぐ・・・股の骨が外れる・・・」

宮廷舞踊で鍛え、身体は柔軟な筈だったが、開脚が180度を超えると骨がきしんだ。

「もう・・・それ以上は駄目・・・」

脚が逆X字型になるまで締め上げられたハンドルは、そのまま固定された。

「いい格好ですぞ、王女殿下」

張り切った股の腱が今にも切れそうである。パックリ開いたオマンコの割れ目には、昨晩のレイプで裂けた傷跡に血が凝固していた。ロルクワス・トメルが尖端にイボイボの付いた鉄棒をデジャー・ソリスのオマンコに押し当てる。緑色人の馬鹿力で一気に押し込むと、塞がっていた裂傷がまた開いた。

「ぎゃあああああ!」

絶叫が、火星の乾いた空気をつんざいた。

「そろそろ開口器具を噛ませた方がよいぞ。舌を噛んで死なれては元も子もない。」

「かしこまりました」

タル・ハジュスの指示で、タルス・タルカスがデジャー・ソリスの口に自殺防止用の轡をかませた。

「むごごごご・・・」

喋る事も出来なくなった王女は、とうとう目に涙を浮かべて、なんとか逃れようとするかのように、唯一動かせる部位である首を左右に振った。次にロルクワス・トメルが持ち出したのは、乳房圧搾機だった。鉄板2枚で、上下から乳房を挟んで押し潰すという単純な拷問器具である。ネジで締め上げていく仕組みになっている。容赦のない緑色人が、デジャー・ソリスの豊満な赤色の両乳房を絞り上げ、器具で押し潰した。乳房をペシャンコにされた王女は、恐怖と苦痛のあまり気を失った。

「おやおや、まだ、眠るのは早いですぞ」

ロルクワス・トメルの平手打ちで、すぐにデジャー・ソリスは目を覚ます。無我の世界に逃げ込む事は許されないのだ。

(このままじゃ、気が狂ってしまう・・・助けて、ジョン・カーター!)

白濁する意識の中で、デジャー・ソリスは無意識に、この前出会ったばかりの地球人の男の名を叫んでいた。

 

 拷問2日目、デジャー・ソリスは全裸に馬の手綱を付けられ、四つん這いでロルクワス・トメルの乗った戦車を引かされていた。昨日の拷問で傷ついた肉体は、背中が腫れ上がり、股関節がズキズキと痛んでいる。身長4メートル、体重200キロもある緑色人を乗せた戦車を引っ張るのは、並大抵の苦労ではなく、立ち止まる度に、背中に乗馬鞭が振り下ろされた。

「あうううっ!」

手足を必死に踏ん張り、前に進もうとする哀れなデジャー・ソリスを見て、緑色人の見物客達が大笑いをしている。宿敵である赤色人の王女が屈辱を受け、痛めつけられる様を見るのが愉快でならないのだ。四つん這いでノロノロと進む、デジャー・ソリスの身体は汗でびっしょりと濡れ、昨日の乳房圧搾機による拷問でひしゃげた巨乳が、胸の谷間でゆさゆさと揺れていた。

(いっそ、殺して!)

口に開口器具が嵌められているため、舌を噛むことは出来ない。食事も開口器具の穴から流動食を流し込まれ摂らされている。デジャー・ソリスは、昨日、見せ付けられた拷問メニューのびっしりと書き込まれたスケジュール表を思い出して暗鬱な気持ちになった。それによると、3週間目からは、彼女の肉体が徐々に解体されるように予定が組まれている。指を一本一本引き抜き、身体をゆっくりと寸切りにしていって、最終日の絶命で、祭りのフィナーレを飾る予定らしいのだ。火星一の美女が死に行く様を一目見ようと、全サーク族が入れ替わり立ち代り、拷問が行われている広場に集まってきている。

「ええい、もっと早く歩かんか!」

ロルクワス・トメルが、か弱い美女の、すでに内出血でボロボロの背中に鞭の雨を降らせた。

「ひいいいいっ!」

デジャー・ソリスは絶叫し、その場で脱糞した。朝の流動食に入れられていた下剤の効果だった。火星のプリンセスが野蛮な緑色人の群集の目の前で、悶絶して排泄する様に、あちこちから一斉に嘲笑や野次が飛んだ。

(お父様、おじい様、ヘリウムの大艦隊でこいつらを皆殺しにして!)

ヘリウム帝国の数千隻を誇る空中艦隊は、強力である。しかし、遊牧民である緑色人は荒野に散らばり、得意のゲリラ戦を展開するに違いない。赤色人が、緑色人を完全に殲滅する事が出来ないのは、過去の歴史からも明らかだった。

(ジョン・カーター!あたしを、ここから助け出して!)

再び、デジャー・ソリスは地球人の男の名を心の中で叫んだ。

 

 その頃、ジョン・カーターと2年C組の面々は、閉じ込められている建物の中で、脱走計画を立てていた。

「なんとしても、解体ショーが始まる前に、私のプリンセスを助け出さなくてはならん!脱走はそれからだ」

ジョン・カーターは、脱走の前にデジャー・ソリスを救出する事を譲らなかった。片田準一は、顔をしかめた。

「拷問をやっている広場は、緑色人で溢れてる・・・救出は無理だって。それよりも、やつらが、拷問ショーに夢中になっている間に、俺達だけでズラかろうぜ」

「それは、絶対に駄目だ!」

ジョン・カーターは言い張った。大川先生が、準一に耳打ちをする。

「いくら言っても無理さ。あいつは、デジャー・ソリスにホの字なんだ。そう言うストーリーなんだよ」

「しかしよう、先生。逃げるなら今がチャンスだぜ。モタモタしていたら全員あいつらに嬲殺しにされちまうぜ」

すでに、女生徒のほとんどは、緑色人にレイプされ、ひどい拷問で重傷を負ったり、死んでしまったものもいる。

「あわてるな、片田君。ジョンは主人公なんだ。いずれは、ヘリウムの王子になって火星の大元帥と呼ばれるようになる。ここは、あいつの意見に従った方がいい。」

「でも、原作のストーリー通りに、事が運ぶかどうか判らねえじゃないか。俺達が来たせいで、おかしくなっているんだろう?」

「ああ、まあな。だが、いずれにせよ、生き延びて元の世界に帰る方法を探さなくてはならん」

大川先生は、エドガー・ライス・バローズの熱狂的な愛読者であり、火星シリーズ、金星シリーズ、ペルシダーシリーズ、ターザンシリーズなど、子供の頃から全巻所有し、何度も読み返しては、ストーリーや世界設定を細部に渡るまで熟知していた。

「今、私が、プリンセス救出に手を貸してくれるよう、ソラを説得している所だ」

ジョン・カーターが言った。ソラというのは、彼らの世話がかりの緑色人女である。

「プリンセスを救出して、彼女の故国へ無事、送り届ける。そして、私は彼女に求婚するのだ!」

主人公は熱く語った。

「おいおい、そんなにうまく、事が運ぶのかよ。あいつは玉の輿に乗るつもりだぜ。どこの誰ともわからない、別の星から来た男が、いくら命を助けたからって、一国の王女と結婚出来るのかよ?」

準一は懐疑的だった。

「それは、大丈夫だ。これは理屈じゃない。そう言うストーリーなんだ」

大川先生は請合った。

 

 拷問3日目、デジャー・ソリスの肉体は、手足を捻じ曲げられ、アクロバットのような姿勢で、拷問台の上に拘束されていた。右手首と左足首を背中で重ね合わせるように縛り上げられ、右足首は顔の前面に持ち上げられ、鎖で首輪と連結されていた。そして、唯一自由な左手の指に、タルス・タルカスが1本つづ針を打ち込んでいく。爪の間に刺し込まれる針の痛さには想像を絶するものがあり、1本突き刺さる度にデジャー・ソリスは開口器具の奥から獣のような悲鳴をあげた。

「ひぎゃあああっ!」

5本の指全てに針が突き刺さると、今度は、顔面に針が通され始めた。長さ30センチ程の細い針が、デジャー・ソリスの美しい頬に刺し込まれ、口腔内を貫通して反対側の頬から針先が突き抜ける。何本も何本も刺し込まれるとデジャー・ソリスの顔は髭の生えた猫のようになった。

「おごごご・・・助へて・・・こんなに苦しむのなら、いっそ一思ひに殺ひて・・・・」

デジャー・ソリスは涙を流して哀願したが、それで哀れみを感じるような緑色人ではない。地球人とほぼ同じ身体的、精神的特徴を備えている赤色人とは違い、緑色人はあきらかに、より獣に近いモンスターなのだ。彼らは、火星の古代民族が遺伝子を改良して造り上げた戦闘民族の子孫なのかもしれなかった。午前の針責めの後、しばしの休息時間がとられ、午後からは、生爪剥がしの拷問だった。デジャー・ソリスの美しい指先の真珠のように艶のある爪が11枚ペンチで挟まれ、引き剥がされていく。どのような残虐行為にも、緑色人の心には一辺の同情心も生まれないらしく、観客は喜ぶばかりである。

(地獄だ・・・この世の地獄だ・・・)

自殺する事も出来ないデジャー・ソリスにとって、悲鳴をあげ、涙を流し、心の中で白馬の騎士が、助けに現れるのを祈る事が、彼女に出来る全てだった。そして、その日の夕方、手足の爪が全て剥がされた時、とうとう、待ちに待った助けが現れた。

「ジョン・カーター推参!私のプリンセスよ、助けに参りましたぞ!」

元南軍騎兵大尉のジョン・カーターが、群集の向こう側から、長剣を振りかざして跳躍してきた。火星の重力は地球の3分の1であるため、地球人は軽く10メートル以上ジャンプする事が出来るのだ。緑色人の頭上を跳躍してきたジョン・カーターは、拷問されているデジャー・ソリスの傍らに降り立ち、ロルクワス・トメルとタルス・タルカスに切りかかった。

「ジョン・カーター、今まで、お前の事を友達だと思っていたんだがな!」

拷問道具を捨てたタルス・タルカスが抜刀し、ジョンの剣を受け流しながら悪態をついた。

「今でも、友達さ。だが、それとこれとは別なのだ。私は、プリンセスを救出しなくてはならん」

ジョン・カーターの後から、片田準一を始めとする2年C組の男子生徒も跳躍してきた。手には、裏切りの説得に応じたソラが調達してきた剣やピストル、ライフル銃が握られている。生徒達は、剣を持った緑色人戦士に銃弾を浴びせかけた。

「掟破りの地球人どもめ。このバルスームで、剣を構えている相手に、銃を使うとは卑怯千万な振る舞いなのだぞ!」

「知るか、そんなもん」

準一は、ピストルで緑色人戦士を射殺していった。他の男子生徒がデジャー・ソリスを拘束されている拷問台から解放する。彼女の爪を剥がされた手足は血まみれで、顔には針山と開口器具が付けられたままだったが、外している暇はなく、そのまま数人がかりで担ぎ上げてジャンプした。

「逃がすな!地球人どもを射殺しろ!」

見物席の緑色人皇帝タル・ハジュスが怒鳴った。激しい銃撃戦で、緑色人戦士や、2年C組の男子生徒が、次々に死体となって転がっていく。ジョン・カーターは原作通りの凄まじい戦い振りで血路を切り開き、街外れの、ソラとの合流地点にたどりつた。そこには、逃走用の馬が20頭余り用意されており、ソラと愛犬ウーラ、大川先生をはじめ、度重なるレイプと拷問で傷ついたバスガイドの桑田直美や、クラス委員長の最上美登里、その他の2年C組の女子生徒達が待っていた。重傷で動けない女生徒で、仕方なく置き去りにしてきた者も何人かいる。

「急げ、封鎖される前にサーク市を出るんだ!」

ジョン・カーターがわめいた。表情が生き生きとしている。この男は、荒事が3度の飯より好きらしい。8本足の火星の馬に、それぞれ跨った男子生徒が、女子生徒を一人づつ鞍の前に乗せて走り出す。ジョン・カーターはデジャー・ソリスを、準一は美登里を、大川先生は直美を乗せていた。女たちは、いずれもレイプと拷問で傷ついていた。

「南へ80キロほど行けば、ヘリウムへ通じる水路がある。そこまで一気に駆け通すのだ!」

ジョン・カーターの馬が先頭を切って走り、遺憾なくリーダーシップを発揮している。さすがは、主人公だと準一は少し見直した。準一が、不慣れな馬を操りながら、身体をピッタリと、前に座っている美登里に押し付けると、柔らかくて心地よかった。

「片田君・・・あたし、こんなの、もう嫌。あたし達、元の世界に帰れるのかしら・・・」

美登里が小さな声で呟いた。

「さあな。わからねえよ」

もし戻れたとしても、準一自身、平和な日本で、将来への漠然とした不安に苛まれながら、死んだような日常生活を送りたいのか、それとも、この戦乱の渦巻く火星で、ジョン・カーターのような冒険をやり続けたいのか、自分の気持ちが判らなくなっていた。

 

 サーク市からの逃避行は困難を極めた。サーク族は、全力を挙げてヘリウム王女を捕らえるために追撃部隊を繰り出し、火星の荒野を徘徊する別の緑色人部族の襲撃もかわさなくてはならなかった。

「おい、ジョン・カーター。いつになったら水路にたどり着くんだ?」

準一が先頭を走る馬上のジョン・カーターに尋ねた。

「もう、とっくに着いていていても、いい筈なんだがな・・・途中で何度も緑色人の襲撃を受けた。その時、方向を間違えてしまったのかもしれん」

「おいおい、しっかりしてくれよ主人公!このままじゃ、怪我をしている、女の子達がもたねえよ」

女子生徒達は、半死半生の状態だった。逃避行の途中で傷が悪化して死んでしまった者もいる。デジャー・ソリスも拷問で受けた傷の治療を受ける事も出来ずに、馬上で揺られながら苦しんでいた。

「私が行方不明になったので、今頃、ヘリウムの空中艦隊が、火星の表面をくまなく捜索している筈です。うまく、そのうちの1隻に発見されれば・・・」

うな垂れているデジャー・ソリスが言った。どうにか、顔面の開口器具と針は、取り除かれたが、爪を剥がされた手足の指や、背中の鞭傷は、火星の砂埃のせいで化膿してきている。

「おいっ。あっちに建物が見えるぞ!」

男子生徒の一人が叫んだ。地平線の彼方に、分厚いコンクリートの壁に覆われた巨大な建造物が見えた。

「あ・・・あれは、大気製造工場です!」

デジャー・ソリスが言った。

「大気製造工場?」

「そうです。この火星の大気は、あの工場で人工的に造られているのです。もし、あの工場がなんらかの事故で停止すれば、この星の生物は数日間で全て死に絶える事になります。工場自体は、太古の昔より、どこの国家にも所属しない中立の科学者ギルドによって運営されています」

「中立なら、あたし達を助けてくれるかも」

美登里が、わずかな希望をこめて呟いた。

「しかし、あれが大気製造工場だとすると、私達は、ヘリウムとは全く正反対の方角に来てしまった事になります。地理的には、ゾダンガの近くにあるのですから」

ゾダンガとは、ヘリウムとは必ずしも友好的ではない赤色人の都市国家だ。

「ゴチャゴチャ言ってる場合じゃないぜ。このままだと俺達は野垂れ死にしちまう。とにかく、あそこで休ませて貰おうぜ。科学者がいるのなら傷の手当もしてくれるんじゃないか?」

「そうだな」

一行は、大気製造工場の一つしかない門を叩いた。しばらくして門扉が開き、一人の赤色人の老科学者が現れた。

「何か用かな?」

「緑色人に追われているんだ。助けてくれ」

ジョン・カーターが頼んだ。老科学者は、一行を観察していたが、ボロボロのブレザーを着た女子生徒やバスガイドの直美、半裸のデジャー・ソリスを見ると好色そうな光を目に宿した。

「助けてやってもいいが、見返りはあるのかね。見たところ、赤色人でも緑色人でもないようだが」

「俺達は、地球から来た。こちらのお方は、ヘリウムの王女殿下だ。助けて頂ければ、ヘリウム帝国から莫大な謝礼が出るぞ」

ジョン・カーターが言った。老人は、皮肉そうな笑みを浮かべる。

「生憎、わしは、バルスームの全生命を育む大気製造工場の管理人でね。金には困っておらんし、政治的には中立だ。ヘリウムに恩を売る必要もないのでな」

「では、何が望みだ?」

「そうさなあ。望みがあるとすれば、久しくこの工場から出ておらんので、少々退屈しておってな。特に、最後に女を抱いたのは、いつだったか」

「・・・つまり、女を抱かせろと?」

「単刀直入に言うと、そう言う事じゃな」

老人の要求に一行は、げんなりとした。しかし、水や食料、体力も限界に来ている。

「あたしでよければ・・・」

美登里が、言った。全員を助けるためには、誰かが犠牲になるしかなかった。

「あたしも」

「あたしも」

女子生徒が次々に名乗り出る。もとの世界では、僅かな小遣い欲しさに援助交際をしていた者もおり、彼女達にとって、命が助かるなら男とセックスするくらいなんでもなかった。

「では、入りたまえ」

一行は、厚さ7メートルもあるコンクリートの門をくぐって大気製造工場の中に招き入れられた。

 

 大気製造工場で、一行は、怪我の治療を受けた。さすがに科学者ギルドが運営する施設だけあって最新の医療設備が揃っており、デジャー・ソリスをはじめ女達の傷は、みるみるうちに完治した。この施設は、たった二人の科学者によって運営されているらしく、女子生徒達は、約束通り科学者二人のセックスの相手をした。

「極楽じゃ、極楽じゃ」

ピチピチの女子高生に囲まれてハーレム状態の赤色人科学者は、日夜色欲に狂い、御満悦のようだった。

「こんなにモテたのは百年ぶりじゃのう」

赤色人の寿命は、約千年である。見かけは、地球人とそっくりだが、内臓の配置が少し違い、卵生なのだが、なぜか地球人との交配は可能なのだ。一行は、1週間ほど滞在し、傷も治ったので、ヘリウム目指して出発しようとした。

「大変世話になった。そろそろ出発しようと思う」

ジョン・カーターが言うと、老科学者は首を振った。

「それは困る。この大気製造工場の秘密が外部に漏れては困るのだ」

「しかし、我々は、いつまでも、ここに留まり続けるわけにはいきません」

「理由がもう一つある。教えてやろう、ゾダンガが、ヘリウムと開戦した。王女捜索のために、ヘリウムの艦隊が出払っている隙を突いたらしい。いずれにせよ、今、ヘリウムに入国する事は出来んよ。諦めたまえ」

ジョン・カーターと科学者は、大論争となり、揉めに揉めた。そして最後に科学者が折れた。

「わかったよ。ただし、条件がある。女を二人残していってくれ。この広大な工場を男二人で永遠に運営するのは、寂しすぎるんじゃ。それが、嫌なら、ここから出す事は出来ん」

ジョン・カーターは、2年C組の面々と相談する事にした。

「あたしが、残ります」

まず、最上美登里が進み出た。彼女にとって危険に満ちた火星の荒野をさすらうよりも、分厚い防護壁に守られた大気製造工場で、なに不自由なく暮らすのが、一番安全に思えたのだ。

「いいのか、最上?」

準一が、顔面蒼白になっていた。この世界に転送されてからの苦難に満ちた冒険で、美登里に惹かれていた事に、たった今、気付いたのだ。

「ええ・・・片田君、今までありがとう。元気でね。いつか元の世界に戻れたら、また会えるかも」

美登里ともう一人の女子生徒が志願し、一行は、無事、大気製造工場を後にする事になった。2年C組のメンバーは、観光バスごと、この世界に転送された時よりも半分の数に減っていた。

「いざ、ヘリウムへ」

サーク族の元を逃げ出した時とは違い、今度は、水も食料も充分に持っていた。地図や薬の備えもある。全て、女子生徒二人の身体と引き換えに科学者から施してもらった品々だった。馬上の旅は、順調に進んだが、そのまま平穏に終わるはずもなく、3日目に上空を飛行する空中戦艦の1隻が、一行を発見し降下してきた。

「ヘリウムの戦艦かしら」

桑田直美が、期待を込めて言った。しかし、目を凝らして見上げていたデジャー・ソリスが絶望的な表情で、首を振った。

「違うわ、あれはゾダンガの紋章よ」

着陸した戦艦から、バラバラと銃や剣で武装した大量の赤色人兵士達が降りてきた。多勢に無勢で為す術もない一行を包囲する。ジョン・カーターは長剣を抜き放ち、王女を背中に徹底抗戦の構えを示したが、勝算がないのは明らかだった。

「これは、これはデジャー・ソリス殿下ではありませんか?こんな所でお目にかかるとは、私とは、よくよく御縁があるようで」

指揮官らしい男が言った。

「サブ・サン王子!」

デジャー・ソリスは、その男とは、宮廷の外交パーティで何度も会った事があった。ゾダンガの第一王子で、不遜にも火星一の美女と言われるデジャー・ソリスに求愛した事もある。一般に火星の国際社会で、ゾダンガ王室はヘリウム王室よりも格下と見られており、求愛は、デジャー・ソリスにとって、迷惑極まりない事だった。

「行方不明の王女が、こんな所にいらっしゃるとはね」

「サブ・サン王子。私をヘリウムに送り届けて下さい。そうすれば、父や祖父は、あなたとあなたの国に感謝するでしょう」

「残念ながら、ヘリウムとゾダンガは現在交戦中でね。しかも我々が優勢ときている。ヘリウムの双子都市は、あと一月も経たないうちに陥落すると言うのが、大勢の見解です」

ジョン・カーターは二人のやり取りを聞き、この王子はデジャー・ソリスの何なのかと勘繰り、嫉妬に気が狂いそうになった。

「私のプリンセス・・・」

ジョン・カーターがすがるような思いでデジャー・ソリスの顔を横目で見て、呟いた時、サブ・サン王子が配下の兵士に号令をかけた。

「全員、捕虜にしろ!ただし王女殿下は丁重に扱え。傷物にしては我妻として迎えられんからな!」

ゾダンガ兵は動き出し、2年C組の生き残りと、ジョン・カーター、デジャー・ソリスは、戦う術もなく、あっという間にゾダンガ人の捕虜となった。

 

第139話、ヒトラーと愉快な仲間たち

 

1938年3月、ベルリンの総統官邸では、ドイツ第三帝国総統、アドルフ・ヒトラー(48歳)が、オーストリアを併合するためにウィーンへ進駐したドイツ軍地上部隊からの報告書を読んでいた。ナチス・ドイツの強力な軍事力の前に怖気づいたオーストリアの首相は、戦う事なく併合文書に調印し、ドイツは、一人の死者も出さずにオーストリアを手に入れた。

「我がドイツもオーストリアも、元はと言えば同じゲルマン民族の住む国だ。一つの国家である事が自然の道理なのである」

ヒトラーは、鼻の下の髭を撫でた。手鏡を見ると、今日も見事に七三分けが決まっている。全てにおいて几帳面なヒトラーは、髪の毛1本乱れていてもイライラして落ち着かない。ヒトラーが秘書にレコードをかけさせ、ワーグナーの名曲に聞き入っていると、執務室の扉がノックされ、副総統であるルドルフ・ヘスが入ってきた。

「ハイル・ヒトラー!」

ヘスが、踵をカチリと合わせ、右手を上げてナチス式の敬礼をする。背筋をピンと伸ばし、寛いだ雰囲気はどこにもない。

「総統閣下、南極探検隊が、どえらい物を発見しました」

「どえらい物?下品な言い回しは、止めたまえ。」

「失礼いたしました、総統閣下!」

「で、何かね、それは?」

「それが、どうやら南極のロス棚氷の地下に巨大な空洞が見つかったそうです。しかも、報告によると、それは人工的に造られた物ではないかと」

「人工的・・・一体、誰が・・・」

ヒトラーは、謎のフランス人ミッシェルの言葉を思い出した。彼に南極を調査するように薦めたのは彼なのだ。今回ナチスの探検隊が調査した地域は、ミッシェルに指定された場所だった。

「古代の超科学文明の遺跡ではないか、と探検隊の隊長が言っています」

超科学文明、という言葉にヒトラーは惹かれた。アトランティス、ムーといった伝説の大陸の名が脳裏に浮かぶ。

「超科学・・・なにか、その証拠のなる様な物が発見されたのかね?」

「信じられない事ですが、その遺跡の保存状態は良好で、見つかった装置類の中には悠久の時を超えて、今だに稼動しているものもあるそうです。我々の想像を超えるような武器や飛行機のようなものまで大量に保管されていたと、報告書には書いてあります」

ヒトラーは、椅子から転げ落ちそうになる程驚いた。そして興奮のあまりブルブルと身体を痙攣させ始めた。

「な・・・な・・何と言う事だ。すぐに、もっと大規模な調査隊を送るのだ。その超科学文明の遺産とやらを持ち帰り、科学者に分析させろ。超科学を我がドイツの軍事力に応用するのだ!」

「はっ、ハイル・ヒトラー!」

極秘のうちにUボートの艦隊が編成され南極へと送られた。3ヵ月後に戻ってきた、その調査隊はさらに驚くべき事実を持ち帰った。南極の地下には数十万人を養うほどの広さの空洞と施設があり、円盤状の乗り物や人型ロボット兵器、ロケット砲、小型コンピューターなどが、ぎっしりと詰まっていたのだ。調査隊は、象形文字で書かれた設計図も数多く持ち帰り、その中には原子爆弾を作る基礎となる数式の書かれた物まであった。

「すごい・・・」

ドイツ北部の軍港で、Uボートが持ち帰った品々を目の当たりにしたヒトラーは、息を呑むばかりだった。

「総統閣下。いっその事、その南極の空洞を、我々の秘密基地にしてはどうでしょう?」

宣伝相のヨーゼフ・ゲッベルスが提案した。

「うむ、私も今、それを考えていた所だ。これらの科学力を我が物にする事が出来れば、ナチス・ドイツによる世界征服も夢ではなくなる。その暁には、不浄なユダヤ人どもを一人残らず絶滅させてやれる」

ヒトラーは興奮していた。1920年代に敗戦と世界恐慌でドイツ国民が苦しむ中、ユダヤ人の資本家達だけが、ドイツ人労働者を肥やしにして暴利を貪っていたのだ。正義感の強いヒトラーにとって、到底、許す事は出来ない。

(ユダヤ人を全ての公職から追放し、経済活動を禁止させる。もちろん自動車の免許証も取り上げる。ドイツ人と結婚してユダヤ人の汚れた血を混ぜ合わせようとする者には、去勢処置をする法案を通す。いや、こんな事では生ぬるい。いっその事、一箇所に集めて毒ガスで皆殺しにしてやろうか)

ヒトラーの妄想は広がった。すでにドイツ国内では、その一部は実行されつつある。しかし、ユダヤ人を地球上から完全に抹殺するためには、全世界をナチスの支配下に置く必要があった。

(本当は、猿に近い日本人や、怠惰なラテン民族であるイタリア人とは、同盟などしたくはないのだがな。まあ、いずれやつらも利用価値が無くなれば、我がゲルマン民族の足下に跪かせてやる)

ヒトラーは、最終的な野望を成し遂げるためであれば、一時的に共産主義者とも手を組むつもりだった。味方だと思わせて置いて、利用価値がなくなった頃に、一気に攻め込むというのも、一つの作戦だ。ヒトラーが本当に同盟したいと思っているのは、同じゲルマン民族の国であるイギリスとアメリカだった。

(だが、問題は、この二つの国が、もっともユダヤ人の影響下にあると言うことだ。)

ヒトラーの頭の中では、世界征服へ向けての具体的な軍事戦略が出来上がりつつあった。

 

 翌年、1939年の3月、ドイツ軍は、チェコスロバキアへ軍を進めた。オーストリアの時と同じく、強大な軍事力を誇るヒトラーの脅迫に、チェコスロバキアの大統領は戦わずに降伏した。

「占領地のユダヤ人を徹底的に迫害するのだ。ユダヤ系企業の資産は没収し、ユダヤ人は、女子供にいたるまで、一目で判るように『ユダヤ』と書いたマークをつけさせろ」

ヒトラーのユダヤ人に対する憎しみは、凄まじかった。ドイツの支配地域内では、公衆電話や、電車、バスなどの公共機関をユダヤ人が使用する事を禁止され、ユダヤ人医師や弁護士は、職業資格を剥奪された。ユダヤ人の子供が学校に登校する事も禁止され、ユダヤ人が経営する商店には営業禁止令が出された。徹底した弾圧に、資金のあるユダヤ人は次々とナチスの影響力が及ばない外国へ脱出して行ったが、取り残された大多数の貧しいユダヤ人達は為す術もなく、ゲットーと呼ばれるユダヤ人居住区に押し込められたり、ナチスの決めた理不尽な禁止事項に違犯した者は容赦なく逮捕されて、強制収容所に送られた。イギリス、アメリカ、フランスなどの自由主義諸国は、非人道的なヒトラーの政策を非難したが、各国の国民は強大な軍事力を持ったナチス・ドイツとの戦争を望まず、ヒトラーは、軍事行動を伴わない非難を無視し続けた。

「ゲーリング、新兵器の開発状況はどうかね?」

ヒトラーは、総統官邸を訪れた空軍司令官のヘルマン・ゲーリングに尋ねた。

「南極の遺跡より持ち帰った設計図を元に、ロケット兵器、ジェットエンジンの開発は順調に進んでいます。間もなく実用化が可能になるでしょう。しかし円盤型の飛行機械の方は、はかばかしくありません。動力部の構造が我々の理解を、はるかに超えています」

「ふむ・・・核分裂を応用した、新型爆弾の方はどうかね?」

「それが・・・」

ゲーリングが言葉を詰まらせた。その続きは、言い難そうだった。

「実は、研究チームの科学者の中にユダヤ人が紛れていたようで、研究成果の一部を持ち出し、国外に逃亡した可能性があります・・・」

「なんだと!」

ヒトラーが、執務室のデスクを叩いた。以前、ヒトラーが始めてドイツで政権を握った頃、ナチスを嫌ってアメリカに亡命した、アルバート・アインシュタインと言う名の天才的なユダヤ人科学者がいた事を思い出した。

(奴が、もしあの設計図を見たら、アメリカが先に原子爆弾を開発してしまうかもしれん!・・・E=MC2乗か。くそっユダヤ人め。共産主義を提唱したカール・マルクスもユダヤ人だ。フロイトも、ロスチャイルドも・・・どいつもこいつもユダヤ人ばかりだ!)

ヒトラーは急激に襲ってきた怒りの余り、身体が痙攣して卒倒しそうになった。

「おのれ、地球を汚す害虫め!私の全存在と人生を賭けて、地球上から一人残らずユダヤ人を抹殺してやる!そしてアーリア人種が頂点に立つ、千年王国を築き上げるのだ!ゲーリング、原子爆弾の開発は、最優先で急がせろ。何があってもアメリカに先を越されてはならん!」

「ハイル・ヒトラー!」

ゲーリングは引きつった表情で、ナチス式の敬礼した。

 

 目前に迫った世界征服戦争への準備と、ユダヤ人絶滅計画の推進に追われているヒトラーの元を、ある日、一人のフランス人青年が訪れた。総統官邸の正面玄関に、突然ふらりと現れたその男は、ミッシェルだった。

「閣下!不審な男を捕まえました。総統の数十年来の友人だと言っておりますが、それにしては若く、スパイではないかと思われます」

報告に来た親衛隊の将校から、人相風体を聞いたヒトラーは苦笑いをした。

「スパイではない、彼を通したまえ。本当に彼は私の友人なのだ。彼をもてなすために、菜食料理を2人前、至急、用意してくれ」

「はっ、ハイル・ヒトラー!」

将校は、直角に動く機械のような動作で敬礼し、命令を実行するために出て行った。やがて執務室に案内されて来たミッシェルは、ビジネスマンのようにスーツを着込んでいたが、数十年前に、浮浪者の宿泊施設で、最初に出会った時と同じく、20代の若さを保っていた。

「久しぶりだね、アドルフ。南極で見つけたものは君の趣味に合っていたかい?」

「ああ、素晴らしいよ。今、科学者達に研究させている。しかし、あれは一体何なんだ?私の部下は古代文明の遺跡だとか言っているが」

「まあ、そんなものかな。誰が残した物かなんて、どうだっていいじゃないか。肝心なのは、君が、あれを使って、世界大戦を始める事だよ」

「わかっている。おそらく後1年以内に準備は整うだろう。私が総統に就任してから、たった5年しか経っていないが、その間に荒廃していたドイツは不死鳥のように蘇った。大都市は新たな都市計画の下に整然と区画整理され、高速道路が各都市を結んでいる。ドイツ国内から失業者はいなくなり、各家庭では、自家用車を買い、家族で海外旅行に出掛ける事が出来るだけの経済的余裕を持たせる事が出来た。第一次世界大戦で壊滅した軍隊も再建し、我ドイツの誇る機甲部隊と空軍は、現在、世界一の戦闘力を保有している」

ヒトラーは誇らしげだった。短期間にここまで内政を充実させた政治家は、歴史上、他に類を見ない。

「まさに、救世主だな」

ミッシェルは皮肉っぽく言った。二人の談笑しているテーブルへ、官邸付きの一流シェフが調理した菜食料理が運ばれてくる。

「ところで、今日は、どう言った用向きかね?」

「君にまたアドバイスをしようと思ってね」

「ほう」

ヒトラーは、彼の言葉を一言も漏らすまいと、耳をそば立てた。20代で浮浪者生活を送っていた時から、ミッシェルには様々な人生の助言を受けていたのだ。

「今度のアドバイスが最後になるよ。もうすぐ戦争が始まり、僕はドイツに入国出来なくなるからね」

「そんな、寂しい事を言わないでくれ。何なら、このままドイツに留まればいい。政府内に、君のために重要なポストを用意させるよ」

「いや、いい。僕にはやらないといけない事が、他にも山程あるんだ。いいかい、南極で発見した地下の空洞に大規模な居住区を造り、理想の遺伝子を持ったドイツ人の若い男女を数万人、送り込むんだ。あの空洞は地熱を利用し、作物が栽培出来るような仕組みになっている。元々が宇宙からの攻撃に備えてシェルターとして作られた施設だからね」

「宇宙からの攻撃???」

「そう、だがそれは、考えなくていい。君には関係のない事だ。だが、君の孫に当たる人物が、もう一度人類の歴史に大きく関わってくる時が来る。その時のために、南極の地下に、君の第三帝国の戦力の一部を温存するんだ」

「うーむ、よく判らんが、他ならぬ君のアドバイスだ。その通りにしよう・・・君のお陰で、私は総統になり、ドイツを復興する事が出来たのだからな」

ヒトラーはグラスに注いだワインで、ミッシェルと乾杯した。人類史上稀に見る、冷酷無常で、孤独な独裁者は、この謎に満ちた男の前でだけは、心を開き、心の底から安らぎを得る事が出来るのだった。

 

第140話、バレンタインデー

 

2007年、2月14日、水曜日。高原家の長男である篤志(18歳)は、いつものように、通っている公立高校に登校した。自宅では、全裸で犬小屋に繋がれている篤志も、登校時は学校の制服の着用を許される。

(もうすぐ、卒業だ。とうとう3年間、友達は一人も出来なかった・・・)

篤志は、クラスで、いじめの対象にされていた。中学3年生までは、成績優秀で友達も多く、明るい性格だったのだが、ある日、突然、自宅にネオガイア星人の中年男が居候を始めてから、彼の性格もすっかり変わってしまった。自宅では、犬としての扱いをうけ、食事もろくに与えて貰えないため、すっかり性格が捻じ曲がってしまったのだ。学校でも、いじめを受けている時以外は、誰とも口を利かず、彼が通ると、暗いオーラが辺りに漂う。影のように、教室に入って自分の座席に座ろうとすると、いつものように座席はひっくり返されており、机の表面は、カッターナイフで、彫り込まれた罵詈雑言でデコボコだった。『死ね!』『犬人間の机』『オナニー、篤志のチンコ』『ウンコ喰い野郎』などと言う文字や、性器やウンコマーク等の卑猥な図柄が、一面に彫り込まれている。全てクラスメイトが、この1年間に、ふざけて彫り込んだものだった。無言で机と椅子を元の位置に戻し、座ろうとすると、椅子の真ん中にシャープペンシルが突き立てられている事に気付いた。篤志は座る前に外そうとしたが、シャープペンシルは、椅子の天板の裏側から穴を開けて突き通されているようで、簡単に外す事は出来なかった。

「おい、篤志、そのまま座れよ」

一人の男子生徒が声をかけた。クラス内にいくつかあるグループの、リーダー格の男子生徒だった。いつも篤志を虐める際には、率先して音頭を取っている。なかなかのアイデアマンで、篤志を虐めるための方法を考え出すのが得意のようだ。

「・・・」

「座れって言ってんだよ。犬だから、人間の言葉が判らねえのかよ!」

「どう・や・って・・・」

滅多に喋らない篤志は、たまに口を動かすと声が篭ってしまう。

「そのシャープペンを、お前のケツの穴に刺せば、座れるだろう?」

男子生徒達は、そう言って笑い転げた。話の内容を聞いて、御喋りに夢中になっていた女子生徒達も興味津々で、様子を伺い始める。このクラスでは篤志に対するいじめは日常茶飯事で、もっとも鬱憤の晴れる、楽しい遊びなのだ。

「座れよ!」

再三言われて、篤志は椅子の上に中腰になると、ゆっくりと腰を下ろし始めた。天井に向けて屹立しているシャープペンの先がズボンの布地を破り、パンツも貫いて肛門に突き刺さる。

「うっ!」

篤志が小さく呻いた。これ以上、腰を沈めるのが恐ろしい。

「何やってんだよ、トロくせえ!」

男子生徒の一人が、篤志の両肩を後ろから、全体重をかけて押さえ込んだ。

「ぎゃあああっ!」

篤志は、一気に腰を落とし、肛門を貫く鋭い痛みに絶叫した。

「あははは!」

その場に居合わせたクラスメイト全員が大爆笑した。

「おらっ!」

男子生徒達が、次々に、青ざめている篤志の身体をワザと揺さぶったり、蹴りを入れたりする。直腸をシャープペンシルでえぐられる恐怖に、篤志は泣き出した。

「こいつは、面白い、今月のベストアイデア賞、決定だな。篤志、そのまま授業を受けるんだ。これから毎日よう」

篤志は絶望感に自殺したくなった。

(どうして、俺ばっかり、いじめられるんだ・・・どうして、あいつらの誰かじゃなく、俺が・・・)

担任の先生は、助けてくれない。見て見ぬフリをするばかりか、一緒になって、からかう時もある。机に彫り込まれた悪戯書きを指摘して、「モノを大事にしない奴は禄な大人にならないぞ」と言って篤志を叱ったりもする。篤志は机の上に顔をうつ伏せ、ひたすら、すすり泣いた。

 

 午前中の授業が終わり、昼食の時間になった。購買部へパンやジュースを買いに行く生徒もいるが、1円の現金も持たせて貰えない篤志は、教室で家から持ってきた弁当を食べるしかない。弁当箱を開けると、昨日の高原家の晩御飯の食べ残しらしい残飯が詰まっていた。

(昨日は、クリームシチューだったのか)

もちろん、弁当箱に入っている残飯は元の料理の原型など留めていない。両親や、妹の玲華、姉の沙貴、居候のテミストクレスが食べ残したものを、ゴチャ混ぜにして入れてあるだけだ。魚の頭や尾ひれ、骨なども混ざっている。それでも、今日は、オシッコやウンチで味付けされていないだけマシだった。

(うまい、うまいよう・・・)

昨日は家族に忘れ去られて、食事抜きだったため、空腹に苛まされていた篤志が、残飯を美味しそうに食べていると、一人の女生徒が席から立ち上がり、篤志の傍らにやってきた。手には、綺麗に包装されてリボンのついた小箱を持っていた。

「高原君、今日は、バレンタインデーでしょう。あたしからのプレゼントよ、受け取って」

篤志は信じられない気持ちだった。生まれてこの方、バレンタインデーにチョコレートを貰った記憶などなく、ましてやイジメの対象になっている自分にチョコをくれようなどと言う女の子がいるとは思えなかった。

「あ・り・が・・とう・・・」

篤志は、篭った声で礼を言うと、チョコレートを受け取った。

「開けてみて、高原君。あたしの手作りの特製チョコレートよ」

クラスでも、もっとも美人な女の子が、優しそうに微笑んでいた。

「う・・うん・・」

篤志は恐る恐る、包み紙を開けた。クラス中の視線が二人のやり取りに注がれている。箱を開けると、手作りらしい、少し形のいびつな、黒いチョコレートが3粒入っていた。

「食べてみて」

篤志は、一つ摘み上げ、口に運んだ。口に入れ、少し舌の上で転がしてから噛み砕くと、なんとも言えない苦味が口中に広がった。

「どう?美味しい?」

「う・うん・・でも、ちょっと・・苦い・・」

「だって、あたしのウンチだもん」

その言葉を聞いた途端、篤志は、吐きそうになった。口中にウンチの味が広がっている。

「おげえええ!」

「吐いちゃダメよ、せっかく、あたしが上げたんだから。よく味わってから、飲み込むのよ」

女生徒はイタズラっぽく笑いながら言った。篤志の慌てる様子を見て、教室中が大爆笑に包まれる。

「バーカ、ひっかかりやがった!」

「お前がチョコなんか貰えるわけねーだろ」

「身の程を知れ」

クラス全員で仕組んだイタズラだった。篤志は一瞬でも舞い上がり、女生徒を信じた自分が呪わしかった。

「ほら、あと二つもちゃんと食べなさいよ!」

女の子の顔が、般若のような形相に変貌していた。篤志は涙ぐみながら、残り二つの粒も口に入れると、ウンチの塊を全て嚥下した。

「食べ終わったらちゃんと、お礼を言うのよ。あたしの足にキスしながらね!」

「うっ・・ううっ・・・」

篤志は、肛門からシャープペンシルを引き抜きながら立ち上がると、チョコをくれた女生徒の足元に跪いた。そして上履きのシューズに口漬けをする。

「チョ・・チョコレートを・・頂き・・ありがとう・・ございました・・・」

女生徒はペッと唾を篤志の顔面に吐いた。

「バレンタインデーキッスよ。舐め取りなさい」

「う・・うう・・」

その後、篤志は、クラスの女生徒全員から、同じようにチョコを受け取ることになった。ウンチのチョコレートを口一杯に頬張る篤志を、男子生徒達が、からかった。

「よっ、色男!モテモテじゃねえか。クラスの女の子を独り占めってか」

「うらやましいぜ、高原」

「残さず食べろよ。せっかくのチョコなんだからな」

「篤志のくせに」

篤志は、クラス全員の女子のウンチを腹一杯食べ、靴にキスをして回った。

 

 高原沙貴(21歳)は、大学の授業が終わると、アルバイト先であるファッションヘルスに出勤した。

「おはようございます」

沙貴の平日の出勤時間は、夕方17時から夜の10時までである。沙貴は狭い店のロッカー室で制服のセーラー服に着替え、髪型をポニーテールに変えた。そうすると21歳だが、充分女子高生に見え、ロリータ風の可愛らしいルックスになる。セーラー服と言ってもアニメのコスプレに近いデザインで、実際こんな制服を採用している学校はありそうもない代物だ。

「沙貴ちゃん。早速、予約が入っているよ。すぐにお店に出て」

髭面の店長が言った。沙貴はこのファッションヘルス『レモンエンジェルズ』では、指名ランキング、1位なのだ。

「はい」

沙貴は、控え室を抜けてホールに向かった。控え室には5,6人の風俗嬢が雑誌を見たり、携帯電話でメールを打ったりして待機していたが、出勤して、いきなり指名の入った沙貴に、チラッと羨ましそうな視線を投げかけた。ホールで沙貴を待っていたのは、月に一度は必ず来る、40歳くらいの、うだつの上がらない男だった。小学校の先生だと言う話だったが、独身の上、彼女いない暦40数年の素人童貞で、眼鏡をかけ、小太りで、髪の毛が後退しており、油ギッシュだが、いつも妙にオドオドしているという常連客だった。

「いつも、指名してくれてありがとう。これ、あたしからのプレゼントよ」

沙貴は用意していたチョコレートを手渡し、チュッと唇にキスをした。店で実施しているバレンタインデーイベントの営業用のチョコなのだが、小学校の教師は本当に感動したようだった。

「ありがとう、沙貴ちゃん・・・これからも、ずっと沙貴ちゃんに会いに来るよ」

沙貴は、感激している中年男の手を取ってプレイルームに入った。

「さ、服を脱いで一緒にシャワーを浴びましょう」

「う、うん」

男は恥ずかし気に服を脱ぎ始める。パンツも脱いで全裸になった男の身体は、腹が出て醜く、体中の脂肪が弛んでいて、服を着ていた時よりも一層見苦しかった。

「どうして、眼鏡を外さないの?」

「だって、僕、近眼だから・・・眼鏡を外すと沙貴ちゃんの裸が、ハッキリと見えないんだよ」

シャワー室でも眼鏡を外そうとしない、中年男の醜い体を、沙貴は隅々まで、シャワーのお湯で洗い流した。綺麗にしておかないと、これから自分が、チンポをしゃぶらないといけないのだ。亀頭を沙貴の指先で洗われながら、男はディープキスを迫ってきた。唇を合わせ、執拗に舌を絡めてくる。沙貴も嫌がらずに、積極的に相手の舌を吸う。手を抜かない、と言うのが、指名ランキングで上位にあがる一番の秘訣なのだ。沙貴は薬用液で、男に、うがいをさせて口の中を殺菌すると、濡れた男の体に付いた雫をバスタオルで拭き取り、ベッドへと誘った。

「今日は、どういう風にする?最初は、あなたから責める?」

「う、うん」

男は、ぶよぶよした肉体を押し付けてきた。薬用液で殺菌したものの、男の息がタバコ臭い。男は沙貴の乳房を舌で舐め回し、御尻を手の平で嬉しそうに撫でた。

「オマンコ舐めてもいいかい?」

「ええ」

沙貴は男が舐め易いように股を開いて、腰を突き出した。男の手が、柔らかい秘肉の割れ目をまさぐり、続いて舌が押し入ってきた。

「あっ、ああっ!」

沙貴は腰をビクンとさせ、感じているフリをした。大げさに感じて見せるというのも、客を喜ばせる秘訣の一つだった。男は、長い時間、執拗に、沙貴の割れ目とクリトリスを舐め続けた。余程、沙貴が好きなのだろう。20分以上、男はオマンコだけを舐め続け、本当に沙貴はイッってしまった。

「ああっ!」

イッた後、尚も舐めるのを止めない男に、沙貴が声をかけた。

「疲れたでしょう。今度は、あたしが責めましょうか?」

「う、うん」

激しい行為の割には、男は言葉が少なかった。元々あまり女性との会話が得意ではないのだろう。沙貴は、男の性格などには気にせず、仰向けになった男の股間に顔を埋めると、チンポを口に銜えてしゃぶり始めた。仕事なので、時間内にヌキさえすればいいのだ。通常、60分コースが、指名料込みで2万円なのだが、バレンタインデーの特別イベントのため、同じ内容で1万5千円である。そのうち指名料の2000円と残りの金額の半分が、沙貴の実際の手取りなのだ。この世界は完全な歩合制である。店長によると、最近急に、この業界にも価格破壊が起き、一昔前に比べると格段に料金が値下がりしたのだそうだ。それでも、沙貴にとって時給数百円の普通のアルバイトをするよりも、数段稼ぎが良かった。沙貴が大学に通う傍ら、風俗でアルバイトを初めて、約3年になる。毎日、何本もの男のチンポをしゃぶっているので、その舌裁きは達人の域に達しており、その気になれば、生真面目な小学校教師の男など、わずか数分でヌケるのだが、それでは時間が余ってしまう。沙貴は、男が射精しそうになる度に、口を離して一旦、男根の憤りを冷却し、収まってくると、また銜えた。何度も寸止めで、射精を焦らされた男は、次第に我を忘れていった。あっさり抜かないのも、人気を保つための秘訣である。長い時間をかけて、終了時間5分前に、タイマーのアラームが鳴り出す直前、沙貴は男を射精させた。もちろん口内発射で、外には一滴もこぼさない。射精してグッタリとし、強烈な快感の余韻に浸っている男のチンポを、沙貴はウェットティッシュで綺麗にした。

「何か飲む?コーラ?コーヒー?もう一度シャワー浴びる?」

「いや、シャワーはいい。コーラが欲しい」

「ちょっと、待っててね」

全裸にタオルを巻いた沙貴が、冷蔵庫から、よく冷えたコーラを紙コップに入れて持って来た。慌ててコーラを飲み干し、服を着た男に、沙貴はお別れのチューをした。

「好きよ。また沙貴に会いに来てね」

「必ず来るよ。僕、独身だから、妻に見つかって怒られる心配もないし」

「今日は、ありがとうございました」

沙貴はホールまでキッチリ男を見送った。最後まで見送る・・・これも大事な心がけである。取り敢えず、指名客を一本こなした沙貴は、シャワーを浴び、念入りにボディソープで体を洗った。客の男が病気を持っていないとも限らない。万が一の事を考え、念には念を入れて体を洗う。控え室に戻った時、店長に、もう次の指名が入っていると告げられた。

「沙貴ちゃん、大人気だね。ほら、頑張って。今月もランキング上位に上がらなくちゃ」

早く次の客に付かせようと店長が、おだてながら急き立てた。正直、沙貴は少し休憩を取りたかったが、指名なら待たせるわけにもいかない。高原家の家計に少しでも多くのお金を入れるため、沙貴は働かなくてはならないのだ。平日は1日平均3本から4本、土日祝日は6本から8本のチンポを銜えるのが沙貴の仕事だった。

「お待たせしました」

セーラー服の皴を直し、準備が整った沙貴を、ホールで待っていたのは、30代半ばの、暴力団員風の客だった。この男も、よく沙貴を指名し、プレイ中に、禁止されている本番行為を強要する常習犯だった。沙貴は少し怖かったが、そんな態度はおくびにも出さず、ニッコリ笑って、バレンタインデーのチョコを手渡すと、男の手を取り、再びプレイルームへと向かった。

 

 本多文枝(28歳、高校教師)は、午前0時前に自宅のボロアパートに帰宅した。今日も高原家で調教を受け、先程やっと解放されたのだった。3畳一間の狭い部屋には、カーテンは無い。先日、文枝の生活ぶりを点検しに来たテミストクレスによって取り外され、使用禁止にされたのだ。そのため1階にある文枝の部屋は、外から丸見えである。このアパートには塀もないため、道路を歩く通行人からも、部屋の中が、よく見えた。しかも、部屋では全裸生活を強要されているのだ。文枝は、部屋に入ると衣服を脱いだ。暖房器具が何もない部屋は耐え難いほど寒く、文枝はガタガタと体を震わせながら、粗末な折りたたみ式のテーブルを片付け、布団を敷いた。入浴は、調教の後、高原家で済ませて来ている。文枝は、鞭跡だらけの体を布団に包み、凍えそうになりながら眠りについた。

(明日はバレンタインデーだわ。アパートの人達や、クラスの生徒にチョコを配らなくっちゃ・・・)

それも、テミストクレスからの命令だった。全員に本気で告白しながらチョコを配れ、と言う命令だ。翌朝、文枝は、いつもより少し早く目を覚ますと、全裸でお湯を沸かし、コーヒーとパンを食べた。毎朝決まって、アパートの前を通る通行人が、歩きながら文枝の部屋を覗いていく。彼らにとって、堂々と全裸で生活する露出狂の若い女の部屋を覗く事が、毎朝のささやかな娯楽なのだ。朝御飯を食べて、便意を催してきた文枝は、ミニスカートとタンクトップだけを手早く身につけると、部屋を出て、アパートの共同トイレへと向かった。このアパートには和式の便器が一つあるだけである。毎朝、アパートの住人がトイレの前で長蛇の列を作っている。住人は、ほとんどが男ばかりで、女性は文枝と、身寄りのない70代の老婆の二人だけだった。若い女性が住むには、あまりにも生活環境が悪いのだ。男達は、文枝の姿を見かけると嘗め回すように、そのエロチックな肢体に視線を這わせた。手足の縄で縛られた跡や、鞭傷を好奇心丸出しで、興味深そうに眺める。文枝は恥ずかしくて、顔から火が出そうだった。

「おい、じいさん、早くしろよ。後がつかえているんだぜ」

「う・・うーん。もう少し待ってくれ」

薄い扉の向こうから、老人の力む、喘ぎ声が聞こえてきた。住人達が1日のうちで、もっともイライラする場面だ。数人が入れ替わり立ち替わり、便器のある個室に入り、ようやく文枝の順番になった。文枝の後にも数人の男が、イライラしながら順番を待っている。便器の底面には、前の男の排泄したウンチのカケラが少し、流れずに、こびり付いており、鼻がもげそうになるような、強烈な匂いも残っていた。いつもの事だが、文枝は、吐きそうになって顔をしかめながら扉を閉め、スカートを捲り、和式便器に跨った。そして、まず溜まりに溜まっていたオシッコを、シャーッと音を立てて勢い良く放尿する。続けて、ブヒッとオナラを漏らし、ブリブリッとウンチを捻り出す。その音と匂いは、薄い扉を隔てて並んでいる男達に丸聞こえだった。

「ウッ、ウーン・・・アアッ、アアッ・・」

下腹部に力を入れると、自然に喘ぎ声が口から漏れてしまう。その声は、なんとなく色っぽく聞こえ、外の男達はニヤニヤとした。文枝が、トイレットペーパーで肛門とオマンコを拭き、水洗レバーを引いて、排泄物を水で流してから、個室を出ると、住人達がジロジロと食い入るように、文枝の顔を見た。

「お先に失礼しました。次の方どうぞ」

文枝は、恥ずかしくてたまらなかった。次に個室に入った男は、思う存分、文枝の排泄物の残り香を嗅ぐのだろう。

(さあ、これから出勤する前に、アパートのみんなにチョコレートを配らなきゃ)

自室に戻り、化粧をして、いつものミニスカ、ノースリーブスに着替えた文枝は、昨日買っておいたチョコの入った紙袋を持って、1件1件、アパートの部屋を回る事にした。衣服は、洗濯物を干している際に、よく盗難に会うため、かなり数が少なくなっている。

「おはようございます」

文枝が一人目の部屋をノックすると、会社をリストラされて離婚し、ローンが払えず持ち家も手放した50代無職の、浮浪者寸前の、一人暮らしの男が出てきた。

「何ですか?私に何か用ですか?」

「大山さん。あたし、このアパートに引越して来た時からあなたの事が好きでした!」

文枝は、ハート型のチョコレートを差し出し、テミストクレスに強要されたセリフを言った。男は、目をパチクリとさせ、何を言われたか、よく判らないようだった。

「は・・はあ?」

「もし、あたしの愛を受け入れてくれるのなら、3月14日に返事して下さい。そうすれば、あたしの心も体も、あ・な・た・の・も・の」

文枝は、そう言って男の唇にチューをした。有り得ないセリフを口にし、痴態を演じなければならない自分に、屈辱のあまり気が狂いそうだったが、これから同じ事をアパートの住人の男全員にしなくてはならないのだ。呆然とする男を残して、ドアを閉めると、文枝は隣の部屋をノックした。

「おはようございます・・・」

 

 アパートの住人全員にチョコレートを配っていたため、文枝は、学校への出勤が、すっかり遅くなってしまった。

「すみません、遅れました!」

息を切らせて職員室に駆け込んで来た文枝を、朝の職員会議中の教師達が白い目で睨む。2月だというのに、生足で、肩の生肌も露出している文枝に、教頭先生が目くじらを立てた。

「本多先生、そんな格好で、寒くないんですか?最近、いつも同じ服ですけど、他に洋服は持っていらっしゃらないのですか?」

「え、ええ、この服が、とても気に入ってますの。大丈夫です、寒くはありませんわ。子供は風の子ってね・・・まず、教師が見本を見せなくっちゃ」

文枝が、苦しい言い訳をした。

「そういう事を言っているのではありません。ここは学校ですよ。そんな、あられもない格好で、思春期の生徒を、いたずらに刺激されては困るのです」

「そんなに派手でしょうか?」

「今にも、スカートの裾からパンツが見えそうじゃありませんか!それに、その胸元も!」

「このくらい普通ですわ」

押し問答だった。教頭に何を言われても、文枝はこの格好で仕事をしなくては、ならないのだ。

「朝のホームルームが始まります。今日のところは、もういいですから、早く受け持ちのクラスへ行って下さい」

「はい」

文枝は、出席簿と、生徒に配布する連絡用紙と、チョコレートの入った紙袋を持って、担任している1年A組へと向かった。一人ずつ男子生徒に、愛の告白をしながらチョコレートを渡さなくてはならないのだ。教壇に立った文枝は、男子から順番に出席を取り始めた。

「皆さん、おはよう。では、出席を取ります。男子には、先生から素敵なプレゼントがあるので、名前を呼ばれたら前に出て来て下さい。阿川達弘君」

「はい」

名前を呼ばれた男子生徒が立ち上がり、席を立って教壇の前に進み出て来た。文枝がハート型のチョコレートを手渡し、生徒の両手をギュッと握る。

「阿川君。先生、前からあなたの事が好きだったのよ。もし、先生の気持ちを受け入れてくれるのなら、3月14日に返事を頂戴。そうすれば、先生は、あ・な・た・の・も・の」

文枝は男子生徒の唇に、チュッとキスをした。キスされた生徒は真っ赤になり、クラス中がどよめいた。

「静かに!この事は絶対に内緒にするのよ。先生が生徒にキスしたなんてバレたら大変な事になるからね」

「せ、先生・・・僕・・・」

阿川君は、どう答えて良いか、判らないようだった。

「阿川君、もういいわよ、席に戻って。次、井上明君」

出席番号2番の井上君が進み出て、文枝の告白を受けた。

「先生、どうせなら、もっと激しく抱き合ってよ。キスも、舌を絡めて濃厚にやってよね。いつも先生が、男とやってる様にさ」

下品な野次を飛ばしたのは、高原玲華だった。文枝はキッと玲華の方を睨み、引き吊った表情を浮かべたが、テミストクレスと同様、高原家の人間の命令には、逆らえない事になっている。

「井上君、好きよ。愛してるわ」

文枝は、男子生徒の体を抱きしめ、ネットリと舌を絡めて、熱い抱擁を交わした。

「ヒュー!ヒュー!」

男子も女子も囃し立てた。

「次、宇野慶介君」

文枝は、男子生徒全員に、順番にチョコを渡して、愛の告白を行った。すると女子から不満の声が上がった。

「先生、男子ばっかりで、女子は何も貰えないのですか?」

「ええ、だって今日は、バレンタインデーです。女子にはチョコはありません」

「そんな、不公平です。本多先生が、男子とキスしたって、校長先生に言いつけちゃおっかなあ」

「ま、待って・・・でも、チョコはもう無いのよ」

「じゃあ、現金でいいわよ。一人500円ずつでいいわ。それから、あたし達、女にキスされても嬉しくないから、代わりに、スカッとするように、1発ずつ、先生を殴らせて」

提案したのは玲華だった。ここ数年の家庭環境の悪化のため、性格が、かなり悪くなっている。

「い、いいわ。お金は、今無いから、後で持ってくる・・・じゃあ、今から、名前を呼ぶから、一人ずつ前に出て来て、先生を殴っていいわよ。では、まず、芦田加奈子さん」

「はい」

女生徒は、気合を入れて席を立ち、教壇の前に進み出た。

「顔、殴ってもいいですか?」

「いいわよ。好きな所を殴って」

バチン!と良く響く音がして、強烈な平手打ちが、文枝の頬を襲った。目の前に火花が飛び散り、脳震盪を起こしそうになる。

「つ、次、江藤麻理さん」

文枝は、次の女生徒には、強烈な腹パンチを叩き込まれた。

「ゲホッ・・・次、樫村絵梨香さん」

そして、高原玲華の順番が来た。

「先生、覚悟してね」

玲華は、ペッと、文枝の顔面にツバを吐きかけると、左手で髪の毛を鷲掴みにし、右手で往復ビンタを始めた。そして、爪先で、向う脛を蹴り飛ばしてから、膝頭を文枝の腹部に叩き込んだ。

「うっ・・・一人、1発の約束じゃ・・・」

「先生だからって、固い事、言わないの」

文枝の体はサバ折りになり、胃の中の物を吐き散らしながら崩れ落ちた。

「今日は、このくらいに、しておいて上げるわ」

「う・・むぐぐぐ・・・次、戸田志穂さん・・・げぼっ」

文枝のバレンタインデーの断末魔の苦しみは、これからだった。

 

第141話、テーマパーク

 

2007年3月、さざなみ市の植民地総督府で高級幹部達による定例会議が行われていた。議題は、観光事業の推進である。

「私は、もっとネオガイア星本国や、その他の惑星からの観光客を地球に呼び入れたいのです」

発言したのは、地球に支店を持つ民間企業の代表であるソロングループの地球支社長、クセノフォンだった。今回の提案は、彼からのものだった。

「岩石生物のネオガイア勢力圏への侵攻は、こう着状態のままです。ああ言った生命体ですから、固まったまま、何年何ヶ月も、じっと動かないというのは、慣れているのでしょう」

地球駐留軍の総司令官であるペルセウスが、現在の軍事状況を説明した。

「日本政府は、いたって従順で不平等条約も順守しています。総理大臣は代わりましたが、前政権の政策路線を踏襲しています。新しい内閣の一部の閣僚には、我々を批判するような発言をする者が出ましたが、総理に謝罪させました。また、地球上の他の国家も、現在の所、我々に対して攻撃を仕掛けて来ようという動きはありません」

「情勢は、安定していると言う訳か。もっと外宇宙に対して、地球のPRをした方がいいのかもな」

ピタゴラス総督が言った。科学者出身の、この総督は、軍事や経済についてはあまり口を出さず、その分野を担当するブレーンに任せ切りである。

「具体的には、ソロン社が、さざなみ市にテーマパークを作る認可を頂きたいのです」

「テーマパーク?」

クセノフォンの言葉に出席者全員が、興味を示した。

「ええ、地球人や、その他の地球の生物を集めた動物園を作ってメインにします。その他、グレイ出身の観光客のためには、人間牧場も作り、合法的にハンティングや試食も出来るような施設を開設します。」

「グレイは、この星を自然保護地区に指定している。それは、マズイんじゃないか?」

「だからこそです。彼らを懐柔するためにも、我々の管理下で地球をオープンにするのです。もちろん彼らだけがターゲットではありません。地球人を食べてみたいという、他の異星人も受け入れます。また、ネオガイア星人向けの、地球人拷問ショーも、いくつかのパビリオンで常時開催します」

ネオガイア星人の勢力圏以外では、人間を食料として大量に養殖している宇宙生物がいくつかある。彼らは、肉食の非ヒューマノイド型生物で、人間は、彼らの食卓に彩りを添える食材なのだ。

「テーマパークの企画、構想には、地球人の協力者にも参加して貰います。我々だけでは、地球人の生態や、風俗はよく判りませんので」

「それなら、うちの局に、うってつけの人材がいるよ。プロデューサー斉藤と言う男だ。」

さざなみ放送局のイソップ局長が推薦した。

「面白そうだから、やってみたまえ。必要な敷地は提供する。地球人労働者も、自由に使って構わん」

こうして、テーマパークの建設計画が、始まった。

 

 ピタゴラス総督によって用意された敷地は、さざなみ市の北部に広がる山林を切り開いた丘陵地帯だった。宇宙港や、JRさざなみ駅から、直接乗り換えで、連絡出来るモノレールの専用線も建設される。日本全国から日雇い労働者が集められ、アンドロイドや自動工作機械に混じって突貫工事に加わった。建設資金は、植民地総督府によって印刷された日本紙幣で賄われる。これらのニセ札は、本物よりも精巧に出来ており、地球人の技術では見分ける事が出来ない。また、仮に見分ける事が出来たとしても、宇宙人に対して意義申し立てをする勇気は日本政府にはなく、財務省はインフレと日本通貨の信用不安が、拡大する危険に怯えるばかりだった。

テーマパークの施設や設備の工事が、ほぼ終わりに近付いた頃、そこに見世物として展示される人間達の捕獲が始まった。人間達は、さざなみ市外の日本国内から、超法規的な召集令状によって強制連行された日本人と、衛星軌道上の宇宙船から、瞬間物質転送機で誘拐されてきた外国人達である。いずれも容姿の整った若い男女が大半を占めており、日本国内では、宇宙人による若者の連行が、少子化に拍車をかけて社会問題になりつつあるのも、お構いなしである。テーマパークの中核である動物園には、まず西半分に普通の地球上の生き物が集められた動物園が作られ、東半分には、様々な人種を分類して檻に入れた、人間動物園が作られた。さらにその人間動物園も、過半数を占める日本人は職業別に分類され、制服を着たまま、職場環境をパロディ的に再現した檻に展示された。例えば、キャビン・アテンダント(旧名スチュワーデス)とプレートが付けられた檻の中には、旅客機の客席とコクピットが再現され、強制連行された本物の、航空会社に勤務していたスチュワーデスとパイロットが制服のまま展示された。プレートの下の説明文には、年齢、スリーサイズ、本名、性向などが、日本語とネオガイア星語で書かれ、見物客が読めるようになっている。ネオガイア星の本国にある動物園がそうであるように、檻の中に入っている人間には、飼育係からの食事は与えられず、檻の前を通る観客にアピールして、餌を貰わなければならない。自分の食い扶持は自分で確保しなくてはならないのだ。他に、学校の教室を再現した檻には、女教師と高校生が展示され、病院の診察室を再現した檻には、ドクターと看護婦が展示された。他に銀行、オフィス、レストランなど様々なバージョンの檻が作られた。

「いかがですか?」

このゾーンの企画を担当した、さざなみTVプロデューサーの斉藤大介が、視察に来たクセノフォンと、テーマパーク館長のディオゲネスに感想を聞いた。

「うーむ、彼らは、この檻の中で子供を産み、育てるのかね」

「そうです。彼らは人間ではなく、動物なのですから。子供が生まれて、数が増えれば他の惑星の動物園にも輸出します」

「その場合、例えば、スチュワーデスという学名の動物として輸出するのか」

「そうです、学名ヒト科スチュワーデスです。雄は、ヒト科パイロットですが」

檻の中に入れられた様々な職業の人間達が、聞き耳を立てて、不安そうに三人の会話を聞いている。強制連行から日が経ち、反抗する気力も無いようだったが、自分達の今後の運命が心配でたまらないらしい。日本人の職業別ブースと隣り合わせで、外国人ブースがあった。そこには、民族衣装を着せられた様々な国の人間達が展示されていた。アメリカ人、ロシア人、中国人、インド人、エジプト人、フランス人、ドイツ人、朝鮮人、ケニア人などが、それぞれの国の代表的な建築物のミニチュアを、猿山に見立てて建てられた檻の中で暮らしている。例えばエジプト人の檻の中にはピラミッドとスフィンクスのミニチュアが置かれ、アメリカ人の檻の中には、ハリウッドの丘を背景に、自由の女神のミニチュアが建っている。

「各国のイメージは、私の独断と偏見で造り上げました」

斉藤大介が言った。どうせ見に来るのは、外宇宙からの旅行者なので、細かい部分にクレームは付けまい。各檻の近くには、餌を売る自動販売機があり、観光客はそこで餌を買って、檻の中の人間に与えるのだ。

「餃子は中国人に、ハンバーガーはアメリカ人に与えなくていけません」

「決まっているのかね?」

「一応・・・もし、インド人に牛肉の入ったハンバーガーを与えても、彼らは食べようとしないでしょう」

「地球人の食性は、難しいな」

クセノフォンとディオゲネスは、動物園を出て、人間牧場エリアに入った。そこの企画担当者は、ネオガイア星から招かれた、人間料理のカリスマシェフ、バッカスである。彼は長年、宇宙人グレイのために人間料理を考案し続けて来た、その道のベテランだった。人間牧場には、数百人の裸の若い男女が放牧されていた。

「なぜ、彼らは四つん這いなのかね?」

クセノフォンが、バッカスに尋ねた。

「特に意味はありません。牧場だと言うので、彼らに四足歩行を強制させました。二足で立って歩いているのを見つけたら、即、食材に使うと脅してあります」

放牧されている人間は、男よりも女の比率の方が高いようだった。それは、乳を搾り取るためらしく、巨乳の若い女ばかりが集められている。放牧されている人間同士のセックスは自由で、比率の少ない男は、種付けのために一日中セックスに励まなくてはならない。家畜に落とされた人間達の大半は日本人で、悲しげな瞳で、柵の外を通りかかる見物客や、作業員を見つめていた。バッカスが、二人のネオガイア星人に、牧場に隣接する建物を指差した。

「あそこが、人間料理を楽しむためのレストランです。ハンティングした人間を、そのまま、客の要望に応じて、私が調理します。もっとも利用客は、グレイや非ヒューマノイド系の異星人ばかりでしょうが」

クセノフォンとディオゲネスは、最後に拷問ショーのパビリオンや、闘技場、人間馬レースなどが行われる予定の、エリアを訪れた。このエリアの一角には、さざなみ大社も移設され、2年前の『日本奴隷祭り』の際に造られた御神体や、改造人間達もテーマパーク内に移されて来ている。館長のディオゲネスは、上司であるクセノフォンに説明した。

「改造人間達には、風船や花束を持たせてパーク内の各所に立たせ、案内人をやらせます」

改造人間とは、ブルドックと頭を付け替えられた女子大生や、豚頭のサラリーマン、無数の蛇を頭部に埋め込まれたOLなどの事である。

「あと、数十人の女の合生体である御神体には、一日中パーク内を、音楽隊と一緒にパレードさせます」

「まずまずだな。何とか、来週のオープンにも、間に合いそうだ。すでに我社の旅行代理店が、銀河中で地球観光のキャンペーンを行っている。楽しみだよ」

「この事業は、必ず成功するでしょう」

ディオゲネスは、請合った。

 

 計画の発案から約2ヵ月後、テーマパークは無事オープンに漕ぎ付けること事が出来た。事前の宣伝活動により、宇宙からは大量の観光客がやってきた。そのほとんどは、ネオガイア人の居住する星系から来た人間型の宇宙人で、わざわざ招待したにもかかわらず、宇宙人グレイの姿はほとんどなかった。地球に私用で立ち入る事は、グレイの法律で禁止されているのだ。その代わり銀河中に居住する、さまざまな異形の生物が地球観光にやってきた。ナメクジ型生物、ゴキブリ型生物、クラゲ型生物の他、どういうルートで渡航して来たのか、ネオガイア星人と交戦中のはずの岩石型生物や、宇宙海賊百足星人の姿まである。

「いいのですか、彼らを地球に入れて?」

宇宙港からの報告を聞いたペルセウス長官が、ピタゴラス総督に確認した。

「構わん構わん、硬い事を言うな。民間人として入国して来るなら、問題無いじゃろう。みんなで地球人を辱めようじゃないか。ギャハハハハ!」

ピタゴラスにとって、拷問以外の事に、細かいこだわりは無いようだった。

「そうですか。とにかく不測の事態が起きないように警備体制だけは、万全を尽くします」

「ああ、頼むよ」

軍人のペルセウスには納得のいかない部分もあったが、総督の決めた事に、敢えて意義を唱えるつもりもなかった。テーマパークの警備には、アンドロイド兵士や民間の警備会社のガードマンの他、さざなみ市の警察官達も動員された。青山優作刑事と、ゾンビ人間の深津絵里子刑事、警察犬ヘレンも会場内のパトロールに加わった。

「ちぇっ、なんで俺がこんな仕事を!」

青山刑事は、不満気だった。深津刑事は、一旦殉職し、ゾンビとして復活して以来、無口である。警察犬のヘレンは、見事なプロポーションの肢体を人目に晒しながら、四つん這いで地面の匂いを嗅ぎ、異常が無いか、絶えず周囲に気を配っていた。オープンが、日本のゴールデンウィークの真っ只中とあって、外宇宙から来た異星人の他に、全国から集まってきた日本人や、海外からの外国人観光客の姿も多く、むしろ地球人の客の方が多いくらいだった。彼らは、運悪く悲惨な境遇に落とされた同胞の姿を見物し、あざ笑うために来ているのだ。

「あのう、拷問ショーは、どこでやっていますか?」

家族連れの日本人観光客に道を聞かれ、優作はキレた。

「俺は、案内人じゃねえ!そんな事は、あいつに聞け!」

優作は、風船を持って立っている豚頭の男を指差して怒鳴った。家族連れは謝罪し、逃げるように立ち去っていった。

 

 さざなみ市在住のネオガイア星人、クリトン(10歳)も母親のダフネに連れられてテーマパークへ遊びに来ていた。ペットの女犬、森宮千夏(30歳)も鎖で首輪を引かれながら、飼い主の御供をしている。

「パパも一緒に来れば良かったのにね」

「お仕事だからしょうがないのよ」

クリトンは、まず人間動物園を回った。

「ねえ、この動物、メスはスチュワーデスで、オスはパイロットって言うの?どうしてオスとメスで名前が違うの?」

クリトンが素朴な質問をした。ダフネは困った顔をする。

「さあ・・・ママもよく判らないわ。それにメスは、本当の学名はキャビン・アテンダントって言うそうよ。スッチーって愛称で呼ばれる事もあるんですって」

「へえ、凄い。そんなに、たくさんの名前を持っているんだ。ねえ、スッチーに餌をあげてもいい?」

「いいわよ」

ダフネは100円玉をクリトンに手渡した。このテーマパーク内では、宇宙からの観光客も、日本の通貨に両替して使う事になっている。クリトンは近くの自動販売機でセンベエの束を買い、檻の鉄格子に近付いて、1枚ずつ檻の中へ、そっと差し出した。

「ほら、スッチー、お食べ」

檻の中にいた2匹のJAM航空の制服を着たスチュワーデスが、先を争うようにセンベイを掴もうとした。

「ちょっと、何するの、これ、あたしの物よ!」

「違うでしょ!あの子は、あたしにくれたんでしょ!」

2匹は奪い合うように、クリトンの手からセンベエをひったくると、取っ組み合いの喧嘩を始めた。

「ひ、ひえええ・・・怖いよう」

クリトンは、その迫力にすっかり腰を抜かしてしまった。

「怖くない、怖くない、大丈夫よ。動物は、檻の中からは、出て来れないんだから」

ダフネは、なだめたが、クリトンには、もう残りのセンベエを動物に与える勇気は、どうしても沸いて来なかった。

 

 人間牧場には、様々な形態の異星人が詰め掛けていた。肉食のライオンに似た生物、猛禽類の鳥人生物、カマキリ型生物、知能を持った食虫植物などである。彼らは、ヨダレを垂らさんばかりの思いで、囲いの中で牧草を食べている全裸の男女の群れを眺めていた。牧草は人間の食用に品種改良された草である。

「美味そうだ。あのメスの白い腿肉がたまらん」

「丸焼きにして、骨までしゃぶりたいぜ」

「地球人の血は、塩味がするそうだ。早く喰いてえ」

モンスターにしか見えない異星人たちが、ヒソヒソと話しているのを聞いて、家畜化された人間達は生きた心地もしなかった。見物客とコミュニケーションが取れるように、柵には等間隔で、様々な宇宙言語に対応する自動翻訳機が取り付けられている。

「まずは、絞りたての乳でも飲むか」

2本足で歩くライオンのような宇宙人が、牧場に隣接するブースにある乳搾りコーナーに入った。そこには、5匹の若い日本人の女が鎖で繋がれており、並んでいる客に順番に乳搾りをさせている。いずれも選りすぐりの巨乳の女ばかりだ。

「1名様ですか」

「そうだ」

「500円です」

ライオン型のウラド星人は、横柄な態度で、係員に金を払ってコップを受け取り、1匹の女に近付いた。女は怯えきった目をウラド星人に向けた。

「ど、どうぞ、絞って下さい」

両手で自分の巨乳を持ち上げて突き出す。ウラド星人は剛毛に覆われた手で乳房を鷲掴みにすると、爪を立てて揉み始めた。

「痛いっ!お、お願い、優しくして・・・」

「フン、家畜の分際で、俺様に馴れ馴れしく話しかけるんじゃねえ!」

鋭い爪を突き立てられた乳房から、ツーッと幾筋もの血が流れた。女は妊娠している訳ではなかったが、飼育係に乳を大量に分泌する薬品を投与されているため、揉まれる度に乳首から、シャーッ、シャーッと勢い良く母乳が噴出し、コップに注ぎ込まれた。

「お砂糖は、どうなされますか?」

「いらん、このまま飲む」

ウラド星人は、満タンになった乳を、一気にグイッと飲み干した。

「思ったよりマズイな」

不機嫌そうに、ライオンのたてがみが揺れ、女は怯えた。

「ひっ・・・も、申し訳ございません」

「ペッ!

ウラド星人は、地面にツバを吐き捨てるとその場を去っていった。

 

 また、人間牧場に隣接するハンティングブースでは、カマキリ型生物が、全裸の人間のカップルを追い回していた。そのカップルは、結婚したばかりの本当の夫婦で、幸せ一杯に新たな人生を踏出そうとした所を、日本の警察に連行され、人間牧場に連れて来られたのだった。

「いやああ!誠司さん、助けて!」

「夏帆!畜生!俺達は家畜じゃねえ!人間だ!」

男は女を背中にかばい、大ガマを振り回しながら迫り来るカマキリ型生物に怒鳴った。しかし、無機質なカマキリの複眼からは何の感情も読み取れない。2本の触覚と左右に動く尖った口が不気味に蠢いている。じりじりとカップルは囲いの隅に追い詰められていった。大勢の観客が、柵の外から、事の成り行きを観光気分で眺めている。

「くそっ!」

男が、決死の覚悟でカマキリ型生物に襲いかかった。しかし、ヒュンとカマキリの右の大ガマが一閃し、男の頭部がスパッと一瞬で切断されて地面に落ちた。

「キャアアアア!誠司さん!」

女があらん限りの声で絶叫した。体が硬直して、その場から、動く事も出来ずに立ち尽くし、恐怖の余り股間からチョロチョロとオシッコを垂れ流す。やがて、カマキリ型生物の大ガマが再び一閃し、女の左腕が肘から切り落とされた。

「うぎゃああっ!」

女は、衝撃で、その場に倒れこみ、傷口から溢れ出した大量の血液を地面に吸わせた。カマキリ型生物は、切り落とした女の左腕を、尖った口に咥え、ムシャムシャと食べ始める。

「地球人の肉は柔らかい。生でも、なかなかの味だぞ」

カマキリ型生物は、左右のカマで嬲るように、まだ生きている女の手足を少しずつ切断し、最後に悶え苦しむ女の腹を、縦一文字にかっさばいて内臓を引き摺り出し、完全に絶命させた。この光景を見て、観客の非ヒューマノイド系の異星人達からは、羨望の声が上がったが、ネオガイア星人や地球人からは、逆に悲鳴をあげて卒倒する者も出た。係員が、殺戮に満足しているカマキリ型生物に説明をした。

「レストランでお待ち下さいませ。この2匹を、只今より一流のシェフが調理いたします。本日、全てお召し上がりになられない場合は、残りは冷凍して宇宙宅配便で御自宅にお届けいたします」

「そうしてくれ、さすがに一度に2匹は食べ切れん」

「お父さん、カッコ良かったよ」

ハンティングを終えたカマキリ型生物は、二人の子カマキリと、カマキリ夫人を伴い、指定されたレストランへと入っていった。

 

 非ヒューマノイド型宇宙人向けのレストランでは、異様な姿をした異星人たちが、地球人を素材にした料理を楽しんでいた。鷲の様な頭部をした猛禽類型生物の団体客が、地球の各人種の食べ比べをしている。

「白人は、脂肪分が多いな。ブヨブヨしていて歯ごたえがない。食べ続けると胸がムカムカしてくるよ」

「コレステロールも多そうだ」

「それに比べて、黒人の肉は固過ぎる。見てみろ、この筋肉を。ゴムを食っているみたいだ」

「黒人の肉は、もっと長い時間、煮込んだほうがいい。ダシをとるには最適かもしれんが」

「となると、やはり、美味いのは日本人の肉か」

「そうだな、程よく脂が乗っていて、しかも筋肉も柔らかい」

「後で、土産に日本人の肉を買っていこう。母星のやつらに、地球旅行は面白かったと教えてやらんといかんからな」

猛禽類型生物が、羽毛を逆立て、人肉について熱く語っている、その隣のテーブルでは、知性のある食虫植物が、人間のオスの精液をオーダーしていた。ウェイトレスに連れられてやってきた全裸の日本人の若い男は、テーブルの上によじ登ると、大股開きでしゃがみこみ、右手でチンポをしごき始めた。チンポの周りの陰毛は綺麗に剃り上げられている。

「あっ、ああっ・・・」

食虫植物の花弁が揺れ、緑色のチューリップのような開口部が、男の股間にパックリと口を開けて向けられた。食虫植物は、男の射精する精液を、一滴漏らさず、受け止めようとしているのだ。

『マダカ?早クシロ』

音声の発声器官を持たない、知性のある食虫植物が、テレパシーで男をせかせた。

「もう、ちょっとです・・・申し訳ございません・・・」

男は焦り、右手で、チンポをしごくスピードを速めた。しかし、焦れば焦るほど萎えてくる。

『ドウシタ・・・マダカ』

「すいません・・・」

男は泣きそうになった。グロテスクな食虫植物を目の前にして、勃起を維持することさえ難しいのだ。

『出ナイナラ、金返セ』

「ひっ・・・もう、少しです・・・」

男は泣きそうになった。客からレストランにクレームが付けば、この役目から外されるかもしれない。そしたら、他の仲間達と同じように、即、屠殺されて、彼の肉体は、切り刻まれて皿の上に乗る事になるだろう。この役目を勤め上げる事は、彼にとって、いわば命の保証なのだ。

「あっ、いくっ、いくうううう!」

男は無理矢理、搾り出すように射精した。白い液が飛び散り、食虫植物の開口部に吸い込まれていく。射精が終わると開口部は一旦閉じ合わされ、しばらくして、また開いた。

『ウマイ・・・モウ一杯ダ』

「はっ、はい!」

ただの家畜である男は、客の注文に逆らう事は出来なかった。朝から連続しての射精で、疲れ果てていたが、必死に萎えた気持ちを奮い立たせると、芋虫のように縮んでしまったチンポを、きつく握り締め、再び擦り始めた。自分の命をかけたオナニーなのだった。

 

 やがて日が暮れ、テーマパークは、あちこちに装飾された色とりどりのイルミネーションの輝きに包み込まれた。動物園の本当の動物達は、夜の訪れと共に眠りに付いたが、人間動物園の人間達は、完全に閉園する夜中の12時までは、休む事を許されない。次々に入れ替わり立ち代り、来園する見物客を楽しませなくてはならないのだ。

「ねえママ、あのメスの看護婦、ウンチしてるよ」

「まあ、本当ね。臭い、臭い」

各檻の中には、便器が一つしかなく、排泄の様子が、良く見えるようにワザと鉄格子のすぐ前に設置されている。衛生状態を保つために水洗式だったが、洋式だと良く見えないので和式になっていた。檻の中の人間達は、糞尿を撒き散らさないためには、どうしても人目に晒されながら、そこでウンチやオシッコをするしかない。親子連れの目の前で、若いメスの看護婦が白衣のスカートを捲り上げ、パンティを下ろして便器に跨り、太いウンチを捻り出していた。その光景を見て見物客達は、顔をしかめた。

「看護婦も、動物だから仕方ないのよ」

「ふーん・・・あっ、ママ、あっちの檻を見て」

看護婦の隣の檻では、メスのキャリアウーマンとオスの課長が、デスクの上で服を着たまま、肉体を絡めてセックスを行っていた。来園者へのサービスのため、なるべく大勢の見物客が集まってきたら、セックスやオナニーをするように飼育係から指示されているのだ。

「あっ、あっ・・・課長!もっと激しく、奥まで突いて!」

「うっ、松山君、私は毎日仕事もせず、部下の君と、こんな事をしていていいのかね?」

「ハァ・・ハァ・・ああっ・・・いいのよ、だって、あたし達、もう、課長とキャリアウーマンっていう名前の、ただの動物なんですから・・・あっ、気持ちいい・・・」

人前で、激しく抱き合うオスとメスに、周囲の見物客達は、侮蔑の視線を投げかけていた。

「あの動物、何か言ってるよ、ママ」

「見ちゃダメ、放って置きなさい。さあ、もう行きましょう。メインストリートでパレードが始まるわ」

メインストリートは、動物園エリアと牧場エリア、拷問ショーの行われているパビリオンのあるエリアの、ちょうど真ん中を南北に通っていた。拷問ショーのパビリオンからは、1日中絶え間なく、拷問される男女の絶叫が、パビリオンの外まで響いている。行進して来たパレードの先頭は、全裸音楽隊だった。その音楽隊は、某有名音楽大学から強制連行して来たオーケストラのメンバーで、持ち運びの出来ない大型の楽器は、別の人間が四つん這いになり、その背中に担いで行進していた。その後に、昼間、テーマパークの各所で道案内をしていた改造人間が続く。彼らの後には、全裸に極彩色で、派手な地球の観光名所の図柄や、「ようこそ、地球へ」といったような内容の宣伝文句を刺青をされたり、全身に光り輝く蛍光塗料を塗ったピヤスや、イルミネーションの装飾を埋め込まれた男女だった。パレードの最後は、メチャクチャに繋ぎ合わされた若い女の複合体である、例の御神体だった。

「ハクション!寒くなってきた。もう、俺、帰ってもいいかな」

パレードを見ながら、警備に疲れた青山刑事が呟いた。ネオガイア星人が決めた、さざなみ署の服装規定で、彼の下半身はフルチンのため、夜の寒さが堪えるのだ。地面を四足で、這っている警察犬のヘレンは、全裸に慣れてしまったのか、文句一つ言わずに、険しい顔を、観光旅行者達に向けていた。ふと彼女は、その中の一人に、注意を集中した。

(あっ、あれはリチャードだワン!)

それは、かつて、ヘレンが、CIA時代にコンビを組んでいたリチャード・ファーマーだった。カメラを首に下げ、観光客の振りをして人込みに紛れている。一緒に連れている相棒の女にも見覚えがあった。去年の夏の、ミサイル騒ぎの時にもいた女だ。

(エスパー女もいるワン。名前は確かバーバラ・サンダース・・・二人で情報収集をしているに違いないワン)

ヘレンが、ネオガイア星人に捕まって犬型サイボーグに改造されるまでは、リチャードの相棒は自分だった。それを思うとヘレンは、ハリウッド女優ばりの美貌を誇るバーバラに激しい嫉妬を感じ、また現在の自分の境遇が悲しくなった。

「青山刑事。あそこにスパイがいるワン」

ヘレンが泣きそうな気持ちになりながら、それでも現在の職務に忠実であれと、主人に警告したが、青山優作は面倒臭そうだった。

「スパイ?そんなもん、ほっとけ。スパイなんぞ、さざなみ市には、いつでもウジャウジャいるぞ。別に捕まえるのは、今日じゃなくてもいいだろ。俺は、早く家に帰って風呂に入りたいんだ!」

青山刑事は譲らなかった。彼は、警察官としての責任感のカケラもない、仕事に不真面目な男なのだ。ただの犬であるヘレンには、主人である青山刑事の決定に逆らう事は出来なかった。

 

 夜も更け、閉園時間が迫るとテーマパークの出口付近にある土産物店は、買い物客でごった返した。普通の地球名物の置物や彫刻などの土産品の他、異星人向けに人肉ハムやソーセージも売っている。生きた人間をそのまま売っている売場もあった。店頭に、全裸で鎖に繋がれ、怯えた表情の男女が、異形の宇宙人達に物色されている。人間を買って帰る目的としては、ネオガイア星人は、セックス奴隷にしたり拷問して楽しむためであり、非ヒューマノイド系の宇宙人にとっては、ペットとして飼ったり、食用にしたりするためだった。

「ねえ、人間飼ってもいいでしょ?」

リス型宇宙人の子供が、両親にねだっていた。

「生き物はダメだ。この前買った『足無し蛸』も、お前が毎日、餌をちゃんと、やらないから、1週間で死んじゃったじゃないか」

「だって、あれは・・・えーん、今度は、ちゃんと世話をするからあ。ねえ、パパいいでしょ」

駄々をこねる息子に、とうとう父親が折れた。

「しょうがないなあ、1匹だけだぞ・・・オスとメスどっちがいい?」

「うーん、メス。子供を産むかもしれないから。いっぱい増やして友達にあげるんだ」

「わかった、わかった。こいつでいいな。おーい、このメスを一匹くれ」

販売員の男が笑顔で応対した。

「はい、お買い上げ、ありがとうございます。こちらへ住所を書いてください。人工冬眠サービスのクール宅配便で、指定して頂いた惑星の御自宅までお届けします」

長い黒髪の日本人の娘は、悲しげな目つきで、リス型生物と販売員の間で、自分の売買契約が結ばれる様子を見つめていた。

 

 

 

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