風俗 デリヘル SMクラブ第129話、幕末自衛隊(その3)
西暦1859年(安政6年)、ペリー艦隊が最初に来航した浦賀の近くに、巨大な外国人居留地が建設された。そしてその居留地内に外国人相手の大規模な遊郭も開業した。これが横浜市の起源である。幕府は、この居留地内で、来訪する欧米人の性欲を発散させ、日本全国に被害が及ぶのを防ぐ策略だった。横浜近辺から若い女が集められたが、外国人相手と聞くと、恐ろしさのあまり嫌がる女も多く、数を揃えるために、浦賀奉行所管内の女牢に収監されている女囚も狩り出される事になった。
「あたしにも、御飯を食べさせて下さい・・・」
牧村真沙子(31歳)は、狭い牢内の床の上に這いつくばっていた。拷問によって両足が不自由になった真沙子は、歩行が困難で、牢内でも過酷なイジメの対象になっている。約5年間に渡る女囚生活で、真沙子の体は痩せ細り、幽鬼のような風貌だった。
「おらよっ」
同室の女囚の一人が御粥の入っていた土鍋を真沙子の方に押しやった。土鍋の中は空っぽで、わずかに御粥の残り糟が内側にこびりついているだけである。真沙子は、空っぽの土鍋に顔を突っ込むと、舌を伸ばして懸命にそれを舐めとった。
「飯を食ったら雑巾がけだよ。」
「はい」
真沙子は、最後の一粒まで御粥を舐め取ると、ボロボロに破けた雑巾を握りしめて床掃除を始めた。足が不自由なので四苦八苦しながら掃除する様を見て、他の女囚達が笑い転げる。時々、御尻や脇腹に、面白半分に蹴りを入れられては、はやし立てられた。
「ここもっと、ちゃんと拭けよ。まだシミが残ってるじゃないか!これって、お前のマン汁の跡じゃないの?」
「そう言えば、昨日、この場所でマンズリをやらせたんだっけ」
「雑巾で、シミが取れないなら、舌で舐めさせるよ」
「はい、すみません・・・ちゃんと拭きます」
真沙子は、プライドを踏みにじられ、屈辱を受ける事に、何も感じなくなっていた。その日、いつものように、真沙子が虐められていると、牢番がやってきた。
「お前とお前、それからお前・・・牢から出ろ」
名指しされたのは、いずれも若い女囚ばかりだった。その中には真沙子も入っている。
「お前達には、お上から、新しいお役目が与えられた。罪人の分際で、幕府のお役に立てる事を光栄に思え」
「どんな、お役目でございますか?」
名指しされた女囚の一人が不安気に尋ねた。
「外国人相手の遊郭で女郎として働いてもらう」
「が、外国人・・・と申しますと」
「うーむ、わしも詳しい事は知らん。エゲレスとかメリケンとか言う国から来た人間達だ。背が高くて、天狗みたいな顔つきをしておるらしい」
女囚達は、顔を見合わせ、恐怖に震え出す者もいた。真沙子は、床に這いつくばったまま考えた。
(明治維新まで、あと10年ぐらいかしら・・・時代はこれから大きく動く。近代国家の仲間入りをした日本は、日清戦争、日露戦争を勝ち抜き、太平洋戦争で敗北する。そして戦後の復興から21世紀へ・・・帰りたい、元の時代へ帰りたい・・・)
真沙子は、タイムスリップする前の生活を思い出して、とめどもなく涙を流した。千鶴と違って不老不死の肉体を持たない真沙子は、時間と共に、どんどん年をとり、どんなに頑張っても、日露戦争ぐらいまでしか、生きる事は出来ない。もう、二度と再び見慣れた電化製品や街並み、家族や友人を目にする事はないのだ。
(せめて、この時代に、一緒にタイムスリップした他の自衛隊員達に会いたい)
真沙子には、護衛艦『あらなみ』の沈没後、自分以外の仲間がどうなったのか消息を知る術がなかった。全員死んだのかもしれないと、真沙子は漠然と考えた。
甲斐の国、奥滝村を総本山とする千羽鶴教団は、幕末の不安定な世情を背景に、急速に信者の数を増やしていった。江戸、京、大阪など当時の日本の主要都市に、小さいながらも支部が設けられ、伝道師が派遣されて活発な布教活動が行われた。千鶴が説く、終末思想と宇宙人来訪の教義はそのまま、幕末と外国人の来訪に置き換えられて、この時代の人間に受け入れられていった。千羽鶴教団の信者は、在家信者と出家信者とに分けられた。在家信者は、今まで通りの職業につき、普通の生活をしながら、教団に寄付をしたり、自分の立場を利用して、教団に便宜を図ったりする。出家信者は、全ての財産を教団に寄付した後、己の体一つで教団のために奉仕をする。伝道師以上の階級には、出家信者しかなれない。教団施設で暮らす出家信者達は、教団が決めた通りの組み合わせで結婚をし、子供を産む。しかし、3年に1度、夫婦の組み換えがあり、教団に指示されるがままに、それまでの家族と引き離され、別の男女と結婚するシステムになっていた。こうする事によって家族の絆が希薄になり、教団の一員であるという自覚が増す、と教祖の千鶴が考えたのだった。教団内で生まれた子供は、共同で育てられ、幼い頃から、教義を教え込まれて次の伝道師となるのだった。
「あんた、年をとらないなあ」
教団のナンバー2である真鍋敏晴が千鶴に言った。教団を設立した時に40代前半だった真鍋は、今では50歳を超えてしまっていた。このところ老け込み方が激しいのだが、千鶴は相も変わらず20代の若々しい容姿のままである。千鶴は自分の存在に神秘性を持たせるために教団内では、不老不死だと名乗っていたが、まさかそれが本当の事だとは、誰も気付いていなかった。
「あたしは、不老不死なのよ。もう1900年ぐらい生きているかしら」
「冗談はよせよ。俺は、あんたと同じ21世紀の人間なんだぜ。そんな戯言、この時代の人間なら信じるかもしれねえけどな」
「あたし、ノストラダムスに会った事があるわ。織田信長にも豊臣秀吉にも・・・あなた知ってる?織田信長とインカ帝国最後の皇帝アタワルパ、それにジンギスカンや中国、三国時代の曹操が、全部同じ人間だったって?」
「ハッ、そんな馬鹿な事があるかよ」
「あたしは、実際にそれらの人物に会った事があるのよ。あれは間違いなく同じ人間の感触だった。生まれ変わりって言うのが、この世には実際にあるの」
「じゃあ、俺達が生まれた21世紀にも、織田信長や、ジンギスカンだった人間が、生まれ変わって、存在しているってえのか?」
「多分ね・・・」
確証はなかったが、おそらく存在するはずだと千鶴は思った。恐ろしく強い征服欲と権力欲、カリスマ性を持った、あの魂を持つ人間が21世紀に存在すれば、宇宙人に対抗する際に心強い味方になるかもしれない。そして、もう一人、気になる人物がいた。預言者ミッシェル・ド・ノストラダムスである。千鶴のアナルを犯す事に執着していたあの男は、恐らく千鶴と同じ不死者である事は間違いないのだが、いつ、どこで、どういう経緯で不老不死の肉体を得たのかは謎であった。生まれつきかもしれない。
(16世紀に、あの男に会ってから時間管理局の襲撃を受けなくなった・・・あの男は、時間管理局の存在を知っていた・・・ひょっとして神・・・まさか、アナルセックスが好きな神様なんているのかしら)
不老不死であるならば、ノストラダムスも21世紀の世界に生きているはずだ。ノストラダムスと、転生する魂を持つ人間の消息を掴む必要がある、と千鶴は考えた。
(教団の組織を全世界に広げよう。そうすれば組織の力で、捜索も容易になるはず)
千鶴は、将来、全世界に広がった教団施設の中で、信者達が、スワッピングや乱交セックスに狂う様子を想像して、一人ほくそ笑んだ。
西暦1862年(文久2年)、横浜の遊郭で女郎として働く牧村真沙子(34歳)をあるイギリス人の男が買った。真沙子が遊郭で外国人を相手に肉体を売り始めてから3年が過ぎていたが、他の女郎と違って外国人を恐れず、英語が喋れる真沙子はイギリス人やアメリカ人の客に大人気だった。
「ハロー、ナイス、トゥ、ミーチュー!」
英語で真沙子が声をかけると、男は驚いたようだった。
「マイ、ネーム、イズ、マサコ・マキムラ。ワッチュア、ネーム?」
「レノックス・リチャードソン」
男がぶっきらぼうに答えた。まだ20代のように見えるリチャードソンは、紳士の国の人間には似つかわしくなく、粗野な性格のようだった。
「ファック・ユー!」
リチャードソンは叫ぶなり、真沙子の体を組みしいてきた。荒々しく着物の前をはだけさせ、乳房にがむしゃらにしゃぶりつく。日本までの長い航海で女の体に飢えているのかもしれなかった。
「痛っ!」
乳首を噛まれて真沙子が叫び声を上げた。次の瞬間リチャードソンのビンタが真沙子の頬を叩く。
「シャラップ!モンキー、ジャップ!」
リチャードソンは日本人である真沙子を同等の人間だとは思っていないようだった。明らかに黄色人種を自分達より下等な野蛮人だと思っているらしい。真沙子に対する尊大な態度が、それを表わしている。犯されながら真沙子はレノックス・リチャードソンという名前に心当たりがあることに気付いた。
「あなた、日本で死ぬわよ。生麦村で、薩摩藩の大名行列の前を横切ろうとして、薩摩藩士に斬られて死ぬの」
ディープキスの最中に舌を抜いた瞬間、真沙子が英語で伝えた。リチャードソンは思いもかけない言葉を聞いて、キョトンとした。
「俺が死ぬだって?ジャップに斬られて?ハハハハハ、ジャップなど何人かかってこようが、銃で脅せばいい」
リチャードソンは自身満々だった。日本へ来る前、上海で散々中国人を脅してきたのだった。いくらイギリス人が無礼な振る舞いをしても、中国人の中で歯向かってこようと言う気骨のある者は居なかった。リチャードソンは、3回、真沙子のオマンコに精液をぶちまけると、大声で笑いながら遊郭から去っていった。
西暦1862年、8月21日。貿易商人チャールズ・レノックス・リチャードソンを含む4人のイギリス人が馬で遠乗りの最中に、薩摩藩主、島津久光の大名行列に遭遇。尊大な態度で、行列の前を横切り、土下座をしなかったために、武士達の手によって無礼打ちにされた。リチャードソンは死亡、他の3人も傷を負った。激怒したイギリス政府は7隻の軍艦を鹿児島湾に派遣し薩摩藩を攻撃する。これが世に言う『生麦事件』『薩英戦争』である。戦争は実際には引き分けに終わったが、和睦交渉で、薩摩藩と江戸幕府は、イギリスに賠償金を支払うはめになる。更に翌年、尊王攘夷派に主導された長州藩が、関門海峡を通過しようとした外国商船に砲撃を加え、米英仏蘭の4カ国連合艦隊の報復を受ける。『下関砲撃事件』である。そして、またもや幕府は、長州藩に代わって多額の賠償金を、外国に支払うはめになる。1864年、腹に据えかねた幕府は、長州征伐の軍を挙げた。日本の南端に位置する薩摩藩には手が出せないため、組みし易い長州藩から攻めようと考えたのだった。幕府の大軍に包囲された長州藩は、一戦も交えることなく降伏した。しかし、ここで世にも不思議な出来事が起こる。長州藩は、数人の家老を責任者として切腹させられただけで、実質的には何の処分も受けなかったのだ。理由はわからない。通説では、200年もの太平で堕落しきった幕府の役人が、長州藩のたくみな交渉術にはめられたのだと言われている。2年後、再び幕府は、長州征伐の軍を起こすが、その時すでに長州藩は、高杉晋作らの主導によって西洋式の軍備を固め、坂本竜馬の斡旋で薩摩藩と薩長同盟を結んだ後だった。
西暦1866年6月。久石千鶴は、千羽鶴教団の取り巻き達とともに、京の都にいた。教団の京都支部を視察するためである。平安京の外れに建てられた道場では、修業の名目の元に数十人の信者が、乱交セックスにのめり込んでいた。
「汚れた魂を解放するのだ。肉の欲望を心置きなく発散させるがよい」
信者の中には、公家や武家出身のものいる。教団では世俗の身分に関係なく、全員が平等な人間なのだった。
「教祖様。お耳に入れたい件が。」
使徒の称号を持つ、原田明人(元一等海尉)が千鶴に耳打ちをした。原田もすでにこの時代にタイムスリップしてから10年以上が過ぎたため、40代半ばである。
「なに?」
「鹿児島支部からの報告によりますと、我が教団に寄付をしようと言う薩摩藩士の中に、久石政光という武士がおります。これは、もしかして教祖様の御先祖では?」
千鶴は考えた。そう言えば、久石家の家系は、代々警察官僚か、公安関係者、もしくは軍人で、元をたどれば、明治維新の時に手柄を立てた薩摩藩士だったと聞いたことがある。
(戦国時代に、あたしの子孫だという忍者の兄妹と出会った事はあるが、今度は、御先祖様か・・・時間の流れとは不思議なものだな)
「そうかもしれないわ。鹿児島支部に連絡して、その藩士は、教団には引き込まないようにして。だって、あたしの先祖が千羽鶴教団に入ったっていう話は聞いたことがないから、ヘタをすると歴史を変えてしまうかもしれない」
「わかりました。でも、なんで、そう歴史にこだわるんですか?どうせ現代に戻れないなら、歴史が変わったっていいじゃないですか?」
「そう言う訳にはいかないのよ。宇宙人に復讐して、あたしの理想の未来を作るためには、歴史は変えてはいけないのよ。すくなくとも21世紀の直前まではね」
「うーん、21世紀か。懐かしいなあ。ノストラダムスの大予言、結局当たらなかったよなあ。何だったんだろう、あれは」
「あたしの予言は、当たるわ。2003年の夏に宇宙人が来襲するのよ。ネオガイアっていう惑星から、地球人を捕まえては、生体実験を繰り返す、とんでもない宇宙人がね!」
千鶴は、憎々しげに言ったが、原田は、宇宙人の兵器によって過去に飛ばされた事をそんなに嘆いていないようだった。他の自衛隊員達と同じく、教団で幹部の地位にある彼は、絶大な権力を誇り、信者の中から選び出した何人もの美女に、自分の子供を産ませている。3年間で夫婦を入れ替えるという教団規則は、幹部には適用されず、思う存分ハーレム状態を楽しんでいるのだ。千鶴が、京都支部で月日を過ごす間に、第二次長州征伐に向かった幕府軍が、史実通り長州藩に敗北した、という情報が伝わってきた。この時を境に長州、薩摩を中心とする倒幕同盟が、攻勢に転じ、時代は一気に大政奉還へと向かう。
1867年夏、近畿、東海地方を中心に『ええじゃないか騒動』が起こった。民衆は狂ったように着物を脱ぎ捨て、半裸で踊りながら、商人や地主などの裕福な家に上がりこみ、好き放題に略奪を行った。
「ええじゃないか、ええじゃないか!勝手に上がりこんで、飯食ったって、ええじゃないか!」
「ええじゃないか、ええじゃないか!金目の物、持って帰ったって、ええじゃないか!」
「ええじゃないか、ええじゃないか!金持ちの女を犯したって、ええじゃないか!」
「きゃああっ!やめてええっ!」
騒動は全国に波及し、止まる所を知らなかった。扇動しているのは、千羽鶴教団の信者達だった。
「この機会に一気に信者を増やすのよ。来年には幕府は滅亡し、新政府が発足するわ。いよいよ日本が、近代国家に生まれ変わるの。そして、あたし達の未来へと繋がる!」
千鶴は、教団の組織を拡大する事に熱中していた。全国に信者はすでに3000人を超え、明治になれば教団組織を一気に海外まで広げるつもりだった。西暦1868年、鳥羽・伏見の戦いに敗れた幕府軍は、江戸城を無血開城し、薩長の新政府軍に明け渡した。この時、幕府の実質的な責任者であった勝海舟は、あくまで徹底抗戦を主張する幕府艦隊司令長官の榎本武揚にこう語った。
「今は、日本人同士で争っている時ではない。中国も、インドも、全世界は欧米の植民地にされてしまった。白人国家の支配下に入っていないのは日本くらいだ。君はダーウィンの進化論というのを知っているかね。人間は猿から進化したという最新の学説だ。欧米では、白人が最も進化した人種であり、黄色人種や黒人は下等な生物だという考え方が定着しつつある。この考えを覆すためにも、一刻も早く、日本は近代国家に生まれ変わらなくてはならないのだ」
そして、ついに天皇を中心とする明治政府が誕生した。ペリー来航から、わずか16年間の出来事だった。残念ながら、倒幕、維新の功労者、坂本竜馬、高杉晋作などは、日本の日の出を見ることなく、直前に暗殺、もしくは病気で他界していた。
明治維新に浮かれ騒ぐ、東京の下町の河原で、一人の年増の女郎がひっそりと春をひさいでいた。その女郎は足が悪いらしく、一日中あまり身動きもせず、ワラのムシロに座ったまま、時折、通行人に声をかけている。その哀れな女郎は、牧村真沙子(43歳)だった。4年前、老け過ぎたと言う理由で、遊郭を放り出され、以来、浮浪者同然の生活をしていたのだった。度重なる妊娠と堕胎で真沙子の子宮は傷つき、子供の産めない体になっていたが、それでも生活のためには、もはや本来の目的には使えなくなった形だけのオマンコで稼ぐしかなかった。
「ねえ、お兄さん、あたしを買ってよ。安くしとくからさあ」
「ああん?おっと、よく見りゃ、皺くちゃのババアじゃねえか。逆に金を貰ったって御免だね」
娼婦にとって、その言葉は、最大の侮辱だった。ほとんどの男は、真沙子の容姿を見ると、無視するか、吐き捨てるように暴言を吐いて立ち去っていく。それでも真沙子は客引きを辞めない。客が一人もつかなければ、そのまま野垂れ死んでしまうのだ。腹を空かせて、ひもじい思いをしている真沙子の前を、白装束を着た一団が、通りがかった。胸に鶴の刺繍をした彼らは、千羽鶴教団の信者達だった。
「ねえ、あたしを買ってよう・・・」
「牧村三尉じゃないですか!」
一団の中の年配の男が、突然叫んだ。真沙子が声の主の方を見ると、元哨戒ヘリのパイロットだった原田明人の姿がそこにあった。
「あ・・・原田一尉・・・」
真沙子の瞳から、とめどもなく涙が溢れ出した。18年もの間、見知らぬ時代で、苦難に耐えながら、一人で生きて来たのだ。不自由な足でヨロヨロと立ち上がると真沙子は、原田に手を伸ばした。
第130話、人妻肉伝説
西暦1999年6月、ボリビアの首都ラパスの郊外にあるネオナチスの本部を見下ろす丘に城山朋子(24歳)とヘレン・マンスフィールド(25歳)はいた。二人とも黒の皮のツナギを着ており、しなやかな身のこなしは黒豹のような印象をあたえる。二人は雑木林の影から、数百メートル離れた場所にある要塞のようなコンクリートの建物を双眼鏡で観察していた。
「恐ろしく、警戒が厳重ね。忍び込むのは自殺行為だわ」
ヘレンが言った。広大な敷地はコンクリートの塀と鉄条網で隙間なく囲まれており、黒服の男達が歩哨に立って巡回している。間違いなく彼らは、懐には銃を持っているのだろう。朋子も顔をこわばらせた。しかし、なんとしてでも、後輩の白木雪絵や拉致された他の日本人女性達を助け出したい。
「何か方法はないのかしら」
「ボリビアの警察はあてにならないわ。政府自体がネオナチスに買収されているようなものだから。ヘタをしたら捕まるのは、他国でスパイ行為をしているあたし達の方よ」
「どうすればいいの?このまま手も足も出せないの?」
「そうね。敵の本部に入り込めないのなら、逆に相手の組織の誰かを引っ張り出して、内部の情報を聞き出すしかないわね」
「ネオナチスのメンバーを、あたし達が誘拐するってこと?」
「ザッツ、ライト!でも、二人だけでは心元ないわ。この国には、ネオナチスの動向を監視するために、かなりの人数のモサドの情報部員が入り込んでいるから、彼らにも協力を頼みましょう」
灰色の瞳が冷静に、しかも鋭く輝いていた。ブラウンのロングヘアー、ノーブルな高い鼻と相まって女豹のような印象を受けるヘレンの美しさに、思わず朋子は見とれてしまった。
ネオナチス幹部、オットー・ドレスデン(48歳)はラパス繁華街のクラブで飲み明かし、店を出ようとした所を、モサドの工作員によって拉致された。泥酔していたオットーが目を覚ました所は、モサドのダミー会社の地下に設けられた尋問室だった。
「お目覚めかね、ナチスの殺人鬼君」
モサド工作員のベンジャミン・ゲラーが皮肉っぽく笑った。ベンジャミンの父親は子供の頃、両親とともにアウシュビッツに収容され迫害を受けた経験を持つ。その時、相当な資産家だったゲラーの一族のほとんどが、金歯まで引き抜かれ、ガス室送りにされたのだった。
「うっ、ここはどこだ・・・」
オットーは、飲みすぎたためか、頭の回転が鈍かったが、モサドに拉致された事を悟ると顔面蒼白になった。ベンジャミンの後ろには、黒のツナギを着た若い白人女性と東洋人女性が立っている。ヘレンと朋子だった。ベンジャミンは、注射器の針をネオナチス幹部の腕に注射した。
「我々は、お前達と違って拷問などという非人道的なことはしない。自白剤を打てば済む事だからね」
「う・・・薄汚いユダヤ人どもめ」
自白剤を注射されたオットーは悪態をついたが、数分すると顔の筋肉が弛緩し、洸萌とした表情になってきた。彼は天国のお花畑にいるような気分を味わっているようだった。
「ネオナチスの本部に、日本から輸出されてきた日本人女性がいるはずよ。知ってる?」
朋子がまず尋ねた。普段は愛くるしい瞳が怒りに燃え盛っていた。
「ああ、知ってる。大勢いるよ・・・」
質問された事を、抵抗する事もなくスラスラとオットーは答えた。
「彼女たちは、今何をしているの?」
「我々の慰みものにされているよ・・・彼女達のうち、ある者達は南米の奴隷市場で売られ、またある者達は、ジャングルにあるネオナチスの麻薬農場へ労働者の性欲処理のために送られる事になっている。そして、ごく一部の選りすぐりの女は、総統ヒトラー3世への贈り物として我々の本当の本部へと送られる・・・」
「何!どう言う事だ?ラパスが、ネオナチスの本部じゃないのか?」
ベンジャミンが目くじらを立てた。総統ヒトラー3世の居場所については、これまで様々な憶測がなされ、モサドでは、ラパス本部の奥深くに潜んでいる、という意見が有力だった。そのため、何人もの腕利きの暗殺者がラパス本部に送り込まれたのだが、今まで帰って来た者は誰もいなかった。
「その本当の本部とやらは、どこにある!」
ベンジャミンが、オットーの胸倉を掴んだ。さすがに、この情報だけは、喋ってはいけないと無意識が反発したのか、オットーの顔が、すさまじい苦悶に歪んだが、結局、自白剤の効果には勝てなかった。
「南極だ・・・」
「・・・なんだと・・・」
ベンジャミン、ヘレン、朋子を始めとして尋問に立ち会っていた者達は絶句した。自白剤を注射されている以上、オットーは、嘘はつけないはずだった。
片桐久美子(27歳)は、硬いコンクリートの上で目を覚ました。そこは、久美子の住居として与えられた狭い独房の中だった。全裸のままで布団もなかったため、体中の筋肉が硬直して節々が痛む。
(あ・・・夢を見ていた・・・マイホームのキッチンであたしが、夫の秀雄と娘の綾香のために朝食を作り、会社へ出勤する前の秀雄がリビングでくつろいで朝刊を読んでいる夢だったわ・・・)
久美子は、硬直した体をほぐしながら立ち上がった。子宮の奥にヒンヤリとした外気を感じる。久美子のオマンコは全開に広げられて陰唇が内腿の皮膚に縫い付けられているのだ。久美子は寝ている間は外していた総入れ歯を独房の隅に置いてあるバケツの水で濯ぐと口にはめ込んだ。もうすぐネオナチスの当番兵が朝食を持ってくる頃合だった。
「朝食だ、メス豚」
鉄扉の小窓から差し入れられた朝食は、チーズに牛乳、ウインナーと栄養満点のものだった。デザートには栄養ドリンクもついている。毎日過酷な調教を受けなくてはならないメス奴隷には、充分な栄養を採らせなくてはならないと、ネオナチスの連中は考えているようだった。久美子はまだ、違和感のある入れ歯でそれらの食物を咀嚼し、全て咽喉に流し込んだ。どんなに体調が悪くても食事を一カケラも残す事は許されない。奴隷の体力が衰える事を最も嫌っているらしい。その日の久美子の午前中は、ネオナチスの一般兵士達を歯茎フェラする事で費やされた。絶世の美女である久美子の歯茎フェラは兵士達の間で大人気なのだった。そして、再び栄養たっぷりの昼食を採った久美子は午後一番に幹部であるハインリッヒ・リヒターに呼び出された。
「グーテンターク、クミコ」
リヒターは、名残惜しそうに久美子のプロポーション抜群の肢体を眺めた。
「お前を含め、何人かの日本人女を総統閣下に献上する事になった」
「・・・」
久美子には、最初、それがどういう意味かは、判らなかった。
「今晩、総統のおられる秘密基地ヴァルハラへと移送される」
「綾香は?綾香も一緒なのですか」
「ヴァルハラへ行くのはお前だけだ。お前の娘は、わしがこのラパスの本部で育ててやる」
その言葉を聞いて久美子は、半狂乱になった。
「そんな・・・綾香を・・・綾香も一緒に連れて行かせて下さいっ!お願いします!なんでもしますから・・・お願い・・・」
「駄目だ。ヴァルハラへは余計な荷物は運べない。それに総統閣下は幼い子供には興味はないのだ」
「お願いします!お願いします!」
泣きじゃくりながら、懇願を続ける久美子を、リヒターは殴り倒した。
「うるさいぞ!奴隷の癖に付け上がりおって!下等人種に親子の絆など必要ない!お前ら有色人種は、ゲルマン民族の足元にひれ伏す、タダの豚に過ぎんのだ!」
「ひいいっ!綾香!綾香に合わせてっ!」
「連れていけ!出発まで独房に閉じ込めておくんだ。舌を噛むかもしれんから、入れ歯は取り上げておけ!」
ネオナチスの兵士が久美子を羽交い絞めにし、リヒターの前から連れて出した。入れ歯を外された久美子は、錯乱し、自殺をしようとしたが、柔らかい歯茎でいくら舌を挟んでも噛み切る事は出来なかった。
その日の夜、久美子は、他の4人の日本人女と共に、トレーラーの荷台に乗せられた。荷台には大型犬用の鉄製の檻が積み込まれており、久美子はその中の一つへ押し込まれた。かなり窮屈に体を折り曲げなくてはならなかったが、奴隷に文句を言う権利はない。他の4人の女達も、日本から輸出されてきた数十人の美女達の中でも、さらに選りすぐられたハイレベルの美女ばかりであったが、そのうちの一人は全身にハーケンクロイツのマークを刺青され、もう一人は、両腕を肩から切断された上に、顔面には、純金の太い鼻輪と耳輪を付けられ、胸の乳首は切除されて、代わりにダイヤモンドの大きな粒を埋め込まれていた。後の二人には身体改造は施されていないようだった。最後に見たとき麻薬中毒に苦しんでいた白木雪絵の姿はなかった。トレーラーの荷台は、5人の美女の他にも秘密基地ヴァルハラへと運ぶ様々な物資がコンテナに入れて詰め込まれ、圧迫されて息苦しかった。
(綾香ちゃん、必ず生き延びるのよ)
久美子は押し黙ったまま、ただそれだけを心に念じた。わずか3歳の我が子が、例え生き延びたとしても、今後ネオナチスに育てられ、どういう人生を送る事になるのかは、想像もつかなかったが・・・
トレーラーは、約1時間ほど走行し、停車した。檻に入ったまま荷台から下ろされた久美子は、そこが船着場である事に気付いた。
(海?・・・違うわ、潮の匂いがしないもの。それにボリビアは内陸の国よ。こんな短時間に海岸に出れるわけがない。)
眼前に広がっているのは、世界でもっとも高い場所にある湖、と言われているチチカカ湖だった。
(チチカカ湖だわ・・・チチ、カカ、コ、変な名前・・・)
その名前から、秀雄と自分、そして綾香を連想し、久美子は、不思議な気持ちになった。しばらくすると、水面が激しく波立ち、黒い巨大な金属の塊が、ゆっくりと姿を現した。それは、全長150メートルはあるかと思われる大型の潜水艦だった。船体にはハーケンクロイツのマークがペイントされている。潜水艦のハッチが開き、ネオナチスの軍服を着た水兵数人と、士官らしい男が姿を現した。タラップを降りてくる潜水艦の乗員達を、ラパス本部のメンバー達が敬礼をして出迎えた。
「御苦労。私が、ネオUボート、『U−2009』の艦長、アール・デーニッツだ。デーニッツ3世と呼んで頂いても構わんよ」
「デーニッツ3世閣下に敬礼!」
ネオナチスの兵士達は、いたって規律正しいようだった。
「時間が無い、なるべく早く出港したい。早速、積み込み作業にかかってくれ」
「ハッ!」
ネオナチスのメンバー達は、テキパキとトラックで運んできた物資を、潜水艦U−2009の貨物用ハッチから運び込み始めた。久美子達5人の日本人女性も、檻に入ったまま艦内に運び込まれる。潜水艦の艦内は、案外明るく照明されており、暗闇に慣れた久美子は、眩しさに目がくらむ。物資の積み込みにかかった時間は僅かに1時間ほどだった。ハッチを閉じた潜水艦は、夜闇に紛れて再び、暗い湖の底に潜行していく。秘密基地ヴァルハラを目指す、長い航海の始まりだった。
(どこへ行くのかしら)
久美子は不思議に思った。潜水艦は、チチカカ湖の湖底のトンネルを通って太平洋へ出た。そして一路、南を目指す。航海の間、女達は潜水艦乗員の性欲処理も行い、その時、久美子は、ある水夫から情報を聞き出した。
「チチカカ湖の湖底トンネルは、いつ誰が作ったかは判らないんだ。でも、第二次世界大戦の前からナチスの上層部はトンネルの存在を知っていたらしいよ。だからラパスにネオナチスのダミーの本部を置いたんだね。」
「トンネルは、誰かが作ったの?自然に出来たものじゃなくて?」
「そうさ。だって自然に出来たトンネルだとしたら、おかしいだろう。チチカカ湖の海抜は、標高3800メートルなんだ。普通なら湖水が全部、海に抜けちまうさ。人工的に何か、手が加えられているのさ」
「ヴァルハラってどこにあるの?」
「南極の氷の下だよ。潜水艦でしか行けない場所にある。この潜水艦は原子力だから問題なく行けるけど、昔、第二次世界大戦中に、ディーゼルエンジンの潜水艦で、ヴァルハラと行き来するのは命懸けだったらしい」
久美子は、信じられない気持ちだった。その水夫は、軽い性格らしく、ペラペラとよく喋った。
「ナチスの探検隊が1930年代に、南極の氷の下に、巨大な空洞がある事を発見したんだ。その空洞の内部は、地熱の作用で春のように暖かく、当時のナチスは、どう考えても、それも、人工的に造られた空洞だという結論に至った。チチカカ湖のトンネルと同じようにね。そして、この事は最高の機密情報とされ、密かに秘密基地の建設が始められた。そこでは、地熱を利用した自給自足の農業プラントも設けられ、軍部が、いざという時の避難場所として使う計画だったんだ。そして、実際に1945年に敗戦が目前に迫ると、多くの軍人や、選び抜かれた生粋のアーリア人種である若いドイツ人男女が、Uボートで移住したんだよ」
「まさか、そんな事が、本当に・・・」
この数ヶ月、ヤクザによる誘拐、調教、人身売買、奴隷市場、身体改造と、ありえないような事件ばかりに遭遇していた久美子だったが、今度聞いた話は、さらに非現実的な事柄だった。
(ありえないわ。これは夢・・・そう、夢よ・・・目を覚ませば、買ったばかりのマイホームの寝室に、いつものように夫と綾香が寝ているはず・・・)
しかし、夢ではなく、目の前のドイツ人水兵はさらに話を続けた。
「ヒトラー総統とエヴァ夫人も、陥落寸前のベルリンから脱出し、南極の秘密基地へと移住された。現在の総統ルドルフ・ヒトラー閣下は、お二人の直系のお孫さんに当たるんだよ」
久美子が信じていた現実の世界が、音を立てて崩れ落ちていくような錯覚に襲われ、目の前の光景がボーッと霞み、目眩がして頭がクラクラとした。
原子力潜水艦での航海は、日本からボリビアに密輸された時よりも比較的に短かった。ネオナチスの潜水艦は、各国の偵察衛星からの発見を恐れているのか、ほとんど海面に浮上する事なく南下を続け、10日後には南極圏に到達した。久美子の閉じ込められている檻が置かれている貨物室は、空調が効いていて寒くは無かったが、乗組員の性欲処理の際に聞いた話では、艦外は氷点下の温度であるらしかった。潜水艦は、南極大陸の沿岸にそって西へと回り込み、ロス海からロス棚氷の下へと潜り込んだ。永久に溶けることの無い分厚い氷河の下を潜行し、その湾岸地形の一番奥にある、巨大な海底トンネルの入り口に到着した。これも、ナチスの発見以前に、何者かが、人工的に造ったトンネルであるらしい。数キロに渡る海底トンネルを抜けると、そこに広大な地底の港があった。
「目的地へ到着だ。積荷の荷下ろし作業を始めろ」
デーニッツ艦長の命令が、艦内のスピーカーから響き渡った。兵士達は、規律正しくテキパキと作業を始める。檻に入った久美子は、そのままクレーンで吊り上げられて港に陸揚げされた。
(ここが、南極なの・・・全然寒くないわ)
港のある空洞の内部は春のような暖かさだった。そこが、地底である事は間違いないようで、天上の岩盤が照明によってボーッと青白く照らし出されている。港には他にも数隻のUボートが停泊していた。港のある洞窟は、少なくとも数キロの幅はあるようで、かなりの広さのようだった。
「あの奥にスクラップの山が見えるだろう。あれが、第二次世界大戦後にドイツ人達をここに運んできた、昔のUボートの残骸さ」
あの、おしゃべりな水兵が、荷降ろし作業をしながら、わざわざ久美子に説明してくれた。5人の日本人美女が入れられた鉄檻は、フォークリフトで港の奥へと運ばれる。そして、地下通路を通って、総統ヒトラー3世のいる大本営へと輸送された。ヒトラー3世への謁見は、檻に入ったままで行われた。
「ハイル・ヒトラー!」
謁見の間に立ち並んだ親衛隊の将校達が敬礼をした。お馴染のワーグナーの曲が厳かに流れている。玉座に座っている金髪碧眼の若者が、ヒトラー3世ことルドルフ・ヒトラー(27歳)だった。
「よく来たな、劣等民族の女ども」
他人を見下した、恐ろしく尊大な態度だった。アイスブルーの瞳が攻撃的な強い光を放っている。金髪碧眼であるという事以外は、歴史の教科書で見たヒトラーの写真と瓜二つの容貌だった。久美子を含む5人の日本人女は、兵士達の手で檻から引き摺り出され、その裸体をヒトラー3世の前に晒した。
「黄色い肌の女にしては、まだマシな方か」
ヒトラー3世は身体改造を施された久美子ら3人を、しかめっ面で観察した。
「リヒターめ。相変わらず趣味が悪いな。特にその背中に豚の刺青をした女は最悪だ」
久美子の事を言われているようだった。趣味が悪い、と言われても望んでこんな体になったわけではない。しかし、久美子は、絶対的な権力を持つ独裁者を前に、言い返す勇気もなかった。次にヒトラー3世は、身体改造を施されていない残りの二人の女を眺めた。
「右から2番目の女。確かに美しいが、俺の趣味に合わん。生体解剖の材料に使え。それともアザラシの餌にでもするか?」
死刑に等しい宣告をされた、その女は、たちまち顔面蒼白になった。日本では、グラビアアイドルだったその女は、拉致され、長い霹靂の果てに、独裁者の気まぐれで命を失う事になったのだ。
「いやっ!解剖されるなんて、いやっ!」
日本語で叫び、逃げ出そうとした女は、次の瞬間、ネオナチスの兵士達に取り押さえられた。
「総統の御前で、見苦しいぞ!この劣等民族の女を解剖室へ、連行しろ」
親衛隊の隊長が指示をし、グラビアアイドルの女は、羽交い絞めにされて、連れ出されていった。ヒトラー3世は、さらに、渋い顔で話を続けた。
「お前達は、二度と、このヴァルハラを出る事はない。だから教えてやろう。このヴァルハラでは、誘拐されてきた世界中の様々な人種が、我々ゲルマン民族の足元にひれ伏して生活している。フランス人、スペイン人、ロシア人、中国人、インド人、日本人など、非アーリア人種全てだ。ユダヤ人はいない。やつらは絶滅させねばならんから、例え、奴隷としてでも、生かしておく事は出来ないのだ。ユダヤ人は、この地球を汚染する害虫だ。だが残念な事に第二次世界大戦で、我が祖父が敗北して以来、全世界はやつらに牛耳られてしまった!」
ヒトラー3世は、少し興奮しているようだった。久美子達は、大人しくその話を聞くしかない。
「共産主義、資本主義、銀行、株式会社、核兵器・・・この世の罪悪は全てユダヤ人が考え出したものだ。奴らさえ居なければ、世界中の人間はもっと平穏に暮らす事が出来るはずなのだ。もちろん、我がゲルマン民族に仕える奴隷として、と言う意味だがね。」
そこで、ヒトラー3世は深呼吸をした。
「もうすぐ理想の世界がやってくる。1999年の9月11日、『ラグナロック作戦』が発動され、我々は、全世界に対して宣戦を布告する。このヴァルハラには、50万人のドイツ人が暮らし、数々の超兵器が開発をすでに終えている。2ヶ月後には、この南極大陸に、世界の真の支配者がいる事を全人類が思い知るだろう!ワハハハハ!」
ヒトラー3世は高らかに笑った。この男は狂人ではないだろうか、と久美子は思った。
久美子は、ネオナチス幹部の一人であるヨハン・ゲッペルス、通称ゲッペルス4世(23歳)に与えられた。どうやら背中の豚の刺青が、ヒトラー3世の趣味に合わなかったらしい。もともと、生粋のアーリア民族である彼は、有色人種の女には、興味が無かったのかもしれない。ゲッペルス4世は、ナチスの宣伝相であったヨーゼフ・ゲッペルスの曾孫にあたり、現在、ヒトラー3世の腹心中の腹心と言われている。ラグナロック作戦の発案者でもある。
「僕は、南極に生まれ南極で育った。外の世界には行った事がない」
ヨハンは、自分の寝室で全裸の久美子を前にして語った。久美子の大きく広げられたオマンコを無遠慮にジロジロと眺めている。久美子は年下のドイツ人青年に対して、なんと答えて良いのか判らなかった。
「でも、外の世界の事は良く知っているよ。世界中に張り巡らせているネオナチスの犯罪シンジケートの統括にも、僕が関わっているからね」
「・・・・」
「現在、アメリカ、イギリスを始め主要国家の上層部は、全てユダヤ人の息のかかった人間によって掌握されている。政治、経済だけでなく科学、思想、文学の世界もだ。ノーベル賞は彼らのためにあると言っても過言ではない。今、ユダヤ人の影響を全く受けていないのは、中国とアラブ世界の一部ぐらいだ」
もともと、一介の専業主婦であった久美子には、ヨセフの言っている事の半分も理解できなかった。しかし奴隷である久美子は従順に、新しい御主人様の口上を、口を挟む事なく耳を傾けなくてはならない。
「ユダヤ人は、我々と同じ遺伝子を持つ人間ではないというのが、僕の結論だ。」
「どう言う事ですか?」
久美子が質問した。
「奴らは、人類から派生した突然変異種だ。そうでなくては奴らのズバ抜けた業績に説明がつかない。アドルフ・ヒトラー閣下は1920年代にその事に気付き、闘争を開始した。現生人類の尊厳を守るために・・・そして、その現生人類の頂点に立つのは、ユダヤ人ではなく、アーリア人の代表である、我がゲルマン民族でなくてはならない。」
「日本人は、どうなるのですか?」
「残念ながら君の属する黄色人種や黒色人種は、進化レベルが白色人種よりも、一段階劣る。だがユダヤ人のように有害ではないから、ラグナロック作戦の成功の暁には、我々の奴隷としての生存は認められるよ」
「そんな・・・全世界を相手に戦うなんて、勝てる筈が・・・・」
久美子が思わず呟いた言葉に、ヨハンの顔が怒りの形相に変わった。
「フンッ、何も知らない劣等人種め!この南極でナチスが発見したのは、ただの空洞ではない。ここには古代文明の遺産がゴロゴロと転がっている。それは現在の地球の科学レベルをはるかに凌駕するものばかりだ。というより、現在の地球の科学も、ナチスが戦前に古代文明の遺産を元に研究を進めていたものが、1945年の敗戦で、連合国の手に渡って実用化されたものに過ぎないんだよ!」
「古・・・古代文明?」
「そうだ、ムーとかアトランティスとか、いかに劣等民族のお前でも、名前くらい聞いた事があるだろう。古代文明の科学力は、その絶頂期には宇宙飛行も可能なくらいの水準に達していたようだ。我々ネオナチスは、遺産を解明しようと日夜、研究を続けているが、どうにか実用化に至っているのは、そのごく一部だけだ」
「ムー・・・アトランティス・・・そんな、子供じみた話を・・・」
「黙れ、劣等民族!我々は遺産を元に作り上げた超兵器を保有している。例え全世界の軍隊が相手でも、そんなものは、物の数ではない。我々が世界を支配した暁には、世界中に強制収容所を建設し、ユダヤ人や、その他の不満分子を一人残らずガス室送りにしてやるのだ!」
久美子は狂人の誇大妄想を聞いているとしか思えなかった。
「ええい、お喋りはこれまでだ。人体改造カルテには、お前の歯は1本残らず抜かれていて、歯茎フェラは絶品だと書かれている。そのために、総統から、お前の所有権を貰い受けたのだ。さあ、しゃぶれ、奴隷女!」
ヨハン・ゲッペルスは、ベッドに腰掛けたまま軍服のズボンを下ろし、屹立した若い肉棒を取り出した。久美子は今まで何人もの男にしてきたように、ヨハンの前に跪くと、総入れ歯を外し、肉棒を口に含んだ。久美子が肉棒の先端を舌で包み、頭を前後に動かして、柔らかい歯茎で、竿の部分のマッサージを始めると、ヨハンは快楽の余り、堪え切れずに呻き声を上げて、上半身をのけぞらせた。
第131話、不死者たち
西暦1923年、千羽鶴教団の教祖、久石千鶴はヨーロッパへと向けて旅立った。名目上は、教団のヨーロッパ支部を設置するための下見と言う事になっていたが、本当の目的は、一人の男を探し出す事だった。1853年に創始された千羽鶴教団は、その後急速に発展し、この時点で、日本国内に3万人を超える信者を獲得している。南米、北米、オーストラリアなどの海外にも小さいながらも支部を置き、布教活動を行っていたが、この先の歴史を知っている千鶴は、第二次世界大戦で、戦火に巻き込まれそうなヨーロッパ、中国大陸への進出は、今の所、行っていなかった。
(あの男に、もう一度会わなくては。ミッシェル・ド・ノストラダムス・・・宇宙人に対抗するためには、あの男の協力が必要だ)
千鶴は、日本の植民地になっている朝鮮半島から、満州鉄道、シベリア鉄道を乗り継ぎ、約3週間でフランスのパリに到着した。
(随分と文明も進歩したものね。400年前は、帆船で3ヶ月もかかったのに・・・ま、あと何十年かすれば、ジャンボジェット機で1日で行けるようになるんだけど)
パリのウォータールー駅に降り立った千鶴は、汽車からプラットフォームに降りるなり、一人の若い男に声をかけられた。
「久しぶりだね、383年ぶりかな・・・」
千鶴は心臓が飛び出るほど驚いた。その男はどう見ても20代の青年だったが、深い海の底のような落ち着いた眼差しと、神秘的なオーラを漂わせていた。
「あ・・あ・・・あなたは・・・」
1900年も生きて来て、大抵の事には驚かなくなっていた千鶴だったが、今度ばかりは別だった。これから広いヨーロッパでどうやって探し出そうかと、ずっと考えあぐねていた男が、到着するなり、いきなり目の前に現れたのだ。
「忘れたのかい?僕を探しに来たんだろう。ひょっとして、この前会った時は、もっと年配に見えるように髭を伸ばして変装していたから、わからないのかい?」
「ノ・・ノ・・ノストラダムス!」
「400年前は、そう呼ばれていたかな。僕は、時代に合わせて、いろいろな名前を使っているからね。レオナルド・ダヴィンチ、サン・ジェルマン伯爵、もっと前にはパプテスマのヨハネと呼ばれていた時もあったよ。今は単に『ミッシェル』と呼ばれている。」
「な・・・なぜ、あたしが来る事が判ったの?」
「ふん、愚問だな。僕は、予言者だからね。君が今日、この時間、この場所に来る事を予知するぐらい、朝飯前なんだよ。あれ以来、どうにも、君のアナルセックスの味が忘れられなくてね、わざわざ出迎えに来たと言うわけさ。どうだい、せっかくパリに来たんだ、凱旋門でも案内しようか?」
千鶴は、400年前とは、あまりに掛け離れたノストラダムスの印象に、言葉すら出なった。
千鶴とミッシェルは、凱旋門、エッフェル塔、ルーブル美術館などパリの名所を観光して周り、シャンゼリゼ通りの高級レストランで食事をした後、ミッシェルが宿泊しているホテルで落ち着いた。ミッシェルは、千鶴の肛門を求めてきた。
「相変わらず、オマンコは黒ずんでいるね」
使い込まれ、クリトリスも切除された千鶴のオマンコは、ガバガバだった。御尻には、焼印の跡や古い鞭傷が縦横無尽に刻み込まれており、若々しく張り詰めた千鶴の肉体とアンバランスな印象を放っている。ミッシェルは、千鶴の肛門にローションを塗り込むと、指でほぐし、黒光りするチンポをゆっくりと打ち沈めていった。
「いい締り具合だ」
「アオッ」
千鶴は、喜悦に呻いた。あらゆるセックスを何千回となく営んできた千鶴は、アナルセックスにも慣らされている。
「あなた、一体いくつなの?」
バックスタイルで犯されながら、千鶴が尋ねた。
「あれ?400年前に言わなかったっけ?1万歳ぐらいかな・・・あんたは2000歳ぐらいだろう?」
「ええ、あたしは20世紀の日本で生まれたわ。あなたはどこで生まれたの?」
千鶴はさりげなく、この男の正体について聞き出そうとした。
「僕が生まれたのは、アトランティスだよ。聞いた事があるだろう?今では伝説だと思われているけどね」
「アトランティス!」
少し、千鶴は驚いた。てっきり、この男も、自分と同じく、未来から来たのだと勝手に思い込んでいたのだ。
「そうだよ。アトランティスの古代文明は実在したんだ。僕はそこで生まれた。当時、科学は今より恐ろしく進んでいてね。DNAの変換技術や、時間旅行の技術もすでにあった。もっとも、それを使用出来るのは一部の特権階級に限られていたけどね」
「あなたは、その特権階級だったの?」
「まあね。不老不死の肉体を得た、数少ない支配階級の一人さ」
「その文明は、どうして滅んだの?」
ミッシェルの表情が、少し翳りを帯びた。
「宇宙人に攻撃を受けたんだ。哺乳類を餌にしているとんでもない宇宙人が、太古の昔から、銀河系を支配してるんだ。文明を進歩させ、宇宙に進出したアトランティス人は、最初、大人しく彼らに従属していたんだけど、やがて人間が、もともと宇宙人によって品種改良された家畜に過ぎないと告げられると、誇り高いアトランティス人のプライドが耐えられなくなった。そして、ある時、地球で人間狩りを行っている宇宙人に抗議をしたら、彼らの種族と全面戦争になったんだ」
どこかで、聞いた話だと千鶴は思った。
「そして負けたの?」
「ああ、科学のレベルが違い過ぎたんだな。人間は、徹底的に文明を破壊され、原始時代へと戻された。支配階級で生き残ったのは僕だけさ。生まれつきの予知能力のお陰で、虐殺を免れた」
「宇宙人は、もうすぐ、また襲ってくるわ」
「ああ、知ってるよ。予知能力のお陰で、僕は、未来の事は全てわかるんだ」
「人間はまた、負けるの?」
「そうだよ。それが決められた運命なんだ。誰にも変更する事は出来ない。例え神でもね・・・」
ミッシェルは、背後から千鶴の両乳房を鷲掴みにし、首筋に舌を這わせた。
「もう一つ聞きたい事があるわ」
千鶴は、黒髪を振り乱して、のけぞりながら尋ねた。400年前とは違い、今日のミッシェルは、なんでも教えてくれるようだ。このチャンスを逃す手は無い。
「時間管理局について、あなた、何か知ってる?」
「ああ、あれか。よく知ってるよ。だって、あれは僕が設立したんだから・・・」
今度こそ、千鶴は驚いた。
「なんですって!」
「だから、僕が設立したんだよ。1万年前にね」
「1・・1万年前・・・・???・・・どう言う事?」
「時間管理局は、僕の予知能力を証明するために設立したんだ。僕の予言したとおりに未来の歴史が進んでいくのを監視するためにね」
「訳がわからないわ!」
「もう、なんで判らないんだ。アトランティスで、時間旅行の技術が開発された時、二つの理論があった。一つは、歴史は、あらゆる可能性の一つに過ぎない、という多元宇宙理論。そしてもう一つは、歴史は、決められた通りに動かなければならない、という運命宇宙理論だ。予知能力を持つ僕は、多元宇宙理論を受け入れる事は出来なかった。それは、僕の能力、存在自体を否定する事だからね。だから時間管理局を設立した。時間管理局の本部は、宇宙人に攻撃される以前の時代のアトランティス大陸にあって、僕がプログラミングした中枢コンピューターが管理しているよ。管理局員は、ほとんどが忠実なアンドロイドだし、彼らは永久に活動を続けるよ」
千鶴は、自分を執拗に付け狙っていた、イエスイと言う名の女性型アンドロイドの事を思い出した。てっきり、時間管理局の奴らも未来から来ているのだと、勝手に思い込んでいた。
「未来じゃなくて、古代から・・・」
「当たり前だろう。人類に未来はないんだ。未来から来れるわけが無いじゃないか。君は、今まで、僕の話を聞いていなかったのかい?」
千鶴は、軽いパニックに襲われて、吐き気がした。
数日後、パリの観光を満喫した千鶴とミッシェルは、ドイツへ向かう汽車に乗っていた。車両は一等車である。見かけは20代の二人は、外国旅行を楽しんでいるブルジョワ階級の若者のカップルにしか見えなかった。
「僕は、今、フランス政財界の黒幕と言われている。でも、僕自身企業を経営したり、何か権力を握っているわけじゃない。僕は、いつも一人さ」
「じゃあ、なぜ黒幕なの?」
「ヨーロッパ各国の政治家や、貴族、資本家などが、向こうから僕の予言を聞きに来るんだ。黒幕と言うよりコンサルタントみたいなもんだね。彼らは僕を神のように崇めているよ。だから、進んで僕にいろんな便宜を図ってくれる。このパスポートもフランス外務省が発行している正式なものさ。書いている生年月日や住所はデタラメだけどね」
「これから、ドイツへ行って何をするの?」
「今ドイツには、これからの世界史を動かしていくキーマンとなる二人の人間がいる。時間管理局風に表現すれば、A級歴史上人物ってとこかな」
「なんとなく、判るわ。一人はアドルフ・ヒトラーね」
「そう、正解。そしてもう一人は、君と同じ日本人だ」
「日本人・・・判らないわ、誰なの?」
「石原莞爾という青年軍人だ。今、ベルリンに留学している」
千鶴には、聞いた事があるような無いような名前だった。世界史の教科書にも出ていなかったと思う。そんなに有名な人物であるとは思えない。ベルリンで汽車から降り、その男の住むアパートへと千鶴は案内された。石原莞爾(34歳)は紋付袴という姿で、ボロアパートに住んでいた。
「ムッシュー、イシハラ。久しぶりだね」
ミッシェルは顔なじみのようだった。
「ああ、ミッシェル。君か」
どこか、人を食ったような、ひょうきんさを漂わせた男だった。
「そちらの方は?」
「僕の昔馴染みの友達でね。久石千鶴さんだよ。」
「久石千鶴・・・千羽鶴教団?」
「ええ、はじめまして」
石原莞爾は、じっと、鋭い目で千鶴を観察した。非常に興味深い人物を発見したかのような知的探究心に溢れた視線だった。
「どうだい?戦史の研究は進んでいるかい?」
ミッシェルが、からかうような口調で尋ねた。
「進んでいるよ。僕は、長年戦史の研究を進めているうちに、最近、ある結論に到達した」
「『世界最終戦争論』・・・だろ」
「くそっ、どうしてそれを!」
まだ誰にも発表していない研究成果を、先に言われて、石原莞爾は憤然とした。
「僕には、予知能力があるからね」
「・・・まあ・・・いい。僕の、研究によると、もうすぐ世界の最終戦争が起こる。戦うのは、白色人種の代表国家であるアメリカと、黄色人種の代表国家である日本だ。だが、残念ながら、この二国は国力が違い過ぎる。国力差を埋めるために、日本はまず中国大陸へ進出し、資源地帯を押さえなければならない。そして大陸から運ばれる資源を日本国内の工場で製品化し、アメリカとの最終戦争に備えるんだ」
「ふんふん、それで?」
「現在、世界は白人によって9割方、植民地支配されている。白人国家以外で、彼らと同等に戦う事が出来るのは日本だけだ。日本が中心となり、中国人、朝鮮人、モンゴル人、東南アジアに住む人々、全てを含めた大東亜共栄圏、五族協和の王道楽土を作り上げなくてはならない」
石原莞爾は熱弁をふるった。ミッシェルは冷ややかな笑いを浮かべていた。
「君は、それを実現させる事だろうよ」
(・・・だが、それは君の理想とは、掛け離れた結果に終わり、数百万人の人間が戦いの内に死ぬ事になる。それも、変えられない歴史の運命だ・・・)
その時、ドアが開いて、若いドイツ人女性が入ってきた。
「カンジ・・・お客様?」
その、どことなく淫靡なオーラを漂わせている女性は、石原莞爾が同棲しているドイツ人娼婦だった。
「今日の仕事はもう終わったのか?」
「ええ、今日は5人もお客さんがついたの」
「それはよかったな」
石原莞爾は、相変わらず飄々としていた。
千鶴とミッシェルは、数時間話し込んだ後、石原莞爾のボロアパートを後にした。そして今度は、ベルリン市街中心部のブランデンブルグ門の近くにあるストリートへと案内された。そこでは、一人のドイツ人の小男が街頭演説を行っていた。
「我が偉大なる祖国ドイツは、先の大戦で、アメリカ、イギリスの金権主義者に敗れた。しかし私は、ドイツ人は、世界で最も優秀な民族であると信じている!なぜなら、我々は、純粋なゲルマン民族の血統を保っているからだ!では、なぜ今、ドイツは苦難の道を歩んでいるのか!それは、全てユダヤ人のせいである。ユダヤ人は、我々の社会の裏に病原菌のように蔓延り、勤勉なドイツ人が生み出した、血と汗の結晶である成果を盗み取っているのだ!」
小男は、天才的な演説の才能を持っていた。壇上で熱弁を振るう彼の言葉に、数百人の、仕事に疲れきったドイツ人労働者達は引き込まれた。誰もが一心腐乱に耳を傾けている。
「あれが、アドルフ・ヒトラー?」
群集に紛れていた千鶴は、傍らのミッシェルに囁いた。
「そうさ。彼は、この時点では、国家社会主義ドイツ労働者党、という小さな右翼政党の党首にすぎない。しかし、彼の思想は世界を大戦の渦に巻き込み、数百万人の犠牲者を出す事になる」
「まさか、あなたヒトラーとも知り合いなの?」
「ああ、友達だよ。彼には、時々いろいろと助言している。僕の予言通りに歴史を動かして貰わないといけないからね」
千鶴は、ノストラダムスが書いた『諸世紀』の中にヒトラーに関する予言詩があった事を思い出し、その事についてミッシェルに尋ねてみた。
「400年前に書いた予言書には、彼の事をヒスターという名前で書いた筈だ。僕の詩はアナグラムになっていてね。その事実が実際に起ってからでないと、その時代の人間には判らないようになっているんだ」
「どうして?判っているのなら、そのまま書けばいいじゃない」
「相変わらず馬鹿だな、君は!起る前に判ってしまったら、歴史を変えようとする奴が出てくるじゃないか!でも僕は、自分が予言者であると言う事をアピールしたい。となると、アナグラムにするしかないだろう」
「じゃあ、あの1999年7月に世界が滅亡すると言う、予言も・・・」
「当然アナグラムさ・・・セプトマンスは、7月じゃない、9月だよ」
アドルフ・ヒトラーは、演説が終わると、取り巻きの党員達と共にナチス党の本部へ引き上げた。千鶴とミッシェルは後を追い、薄汚い建物の一室にある党事務所へ入っていった。
「やあ、久しぶりだね、ムッシュー、ヒトラー」
ミッシェルが気さくに声をかけた。
「ああ、君か。ミッシェル」
ヒトラーは、先ほど会った石原莞爾と同じく、1889年生まれの34歳だった。しかし、神経質そうな物腰と厳粛な態度は、石原莞爾とは正反対である。
「そちらの御婦人は?」
「日本から来た、マドモワゼル、チヅル・ヒサイシだよ」
アドルフ・ヒトラーは軽侮したような視線を千鶴に投げかけた。明らかに有色人種である千鶴を人間とは思っていない尊大さだった。千鶴はこの男の印象に心当たりがあった。
(この男、転生者だわ。織田信長やアタワルパと同じ印象を受ける・・・この男の魂と巡り合うのは、これで何度目だろう・・・)
千鶴は、追憶に引き込まれていった。この男は前世で、幾度と無く千鶴を捕らえ、過酷な陵辱を加えてきたのだった。その傷跡が不老不死の千鶴の肉体には、今も残っている。しかし、目の前の男には、その時の記憶は全く無いようだった。
「最近、調子はどうだい?」
「まずまず、だな。ナチス党の党員数も、俺の演説のお陰で3000人を超えた。これからミュンヘンで一騒動起こそうと思っている」
「ま、失敗するだろうな」
軽く言ってのけたミッシェルを、ヒトラーは怒りの形相で睨みつけた。
「そう怒るなよ。君は、いずれドイツの政権を握る事になるのだから。もしそうなったら、南極に探検隊を送ってみるといい。興味深いものを発見するよ」
「南極か・・・南極には病原菌がない。そこに何があるのか知らないが、俺の好みには、合いそうな土地だな」
「相変わらずの菜食主義者かい?」
「規律正しい生活にこそ、健全な精神が宿るのだ。君達にも野菜料理を用意させよう、待っててくれ」
ヒトラーは党員に野菜料理の出前を取るように命じた。ミッシェルは苦笑している。
「俺は、ユダヤ人こそが、世界を腐敗させている根源だと思っている。いずれは、奴らを一人残らず、この世から消し去りたい。まさか君もユダヤ人じゃないだろうな?」
疑い深そうな目で、ヒトラーはミッシェルの顔つきをジロジロと眺めた。ミッシェルの外見は、ラテン系のヨーロッパ人に近い。
「さあ、どうだかね」
ミッシェルは、答えをはぐらかした。1万年前、古い種族であるアトランティス人として生まれた彼は、地球上の人種問題など、どうでもいいようだった。千鶴とミッシェルは若き日のヒトラーと、野菜料理ばかりの晩餐を共にした。
西暦2006年11月、北アメリカ大陸のグランドキャニオンに対宇宙人の反撃拠点となる地下要塞が建設されていた。そこを久しぶりにアメリカ大統領が訪れ、要塞司令官のスペンサー・コールマン将軍が基地施設を案内した。
「ミッション5の進行具合はどうだ?」
大統領が、宇宙人迎撃プランについて尋ねた。
「どうにか進んではいます。しかし宇宙人の技術には解明不可能なシステムが数多く使われており、プランの実行は、まだまだ先になりそうです」
大統領とコールマン将軍はエレベーターに乗り、基地の最深部へと降りて行った。そこは広大な空洞になっており、1隻の、明らかに地球上の物ではない、巨大な宇宙艦が鎮座していた。宇宙艦の周りには数多くのクレーンや足場が組まれ、大勢の作業員が働いている。全長200メートルほど流線型のその宇宙艦は、かつてネオガイア星宇宙艦隊に所属していた高速巡洋艦『スパルタ』だった。
「捕虜にした宇宙人の技術者から得た情報で、どうにか空中を浮遊させる事は出来ます。しかし、今のところ、大気圏外に出る事など夢のまた夢です」
コールマン将軍は渋い顔をした。1年半前、宇宙海賊が日本に駐留するネオガイア星人を襲った時、ドサクサに紛れて米軍が、半壊して海に不時着していた『スパルタ』を接収したのだった。太平洋を曳航されてアメリカ西海岸まで無事たどり着いた『スパルタ』の船体は半年間、サン・ディエゴ海軍基地で秘密裏に修理され、どうにか空中浮遊が出来るようになると、このグランドキャニオンの地下要塞に移された。しかし、それ以上、技術的にはかばかしい成果は得られていない。
「この宇宙船が地球人の手で飛ばせるようになれば、大きな戦力になる。敵の母星を直接攻撃したり、宇宙に出て我々の同盟者となる宇宙人を探し出す事も出来るかもしれん」
大統領は、『スパルタ』の修理に大きな期待をかけているようだった。
「こういったタイプの宇宙船を量産出来れば、宇宙人と互角に戦えますな」
「そう言う事だ。しかし、気がかりな事がある。今回の中間選挙で共和党が負けてしまった。私の任期も、残り2年しかない」
「宇宙人との戦いは最優先です。そのくらい民主党も理解するでしょう」
「だといいがな」
大統領は、未知の金属で出来た『スパルタ』の船体を見上げて呟いた。
第132話、浮浪少女と呼ばれて
矢萩麻衣(21歳)は公園の隅にあるバラックの中で、小銭の入った空缶を握り締めた。
「たったこれだけかよ!」
地面をノロノロと這っているケーブル人間、木之本恵美(28歳)の顔面を蹴り飛ばす。恵美は、蹴られて唇を切り、口の端から血を流した。
「何よ!それは、あたしが1日中、お客様の靴を舐めて稼いだお金よっ。もっと欲しけりゃ、あなたも少しは働いたらどうなの!」
恵美が、悔し涙を流して言い返した。麻衣は、小銭をポケットに移すと、空缶を恵美の頭に投げつけた。カーンと小気味のいい音を立てて、額の真ん中に命中した。
「アハハハハ!命〜中〜!」
「くそっ!この性悪娘!」
「おらっ、稼ぎが悪いんだから、あたしの靴も綺麗にしなよっ!」
麻衣は、履き古したボロボロのスニーカーの先をグイグイと恵美の口にねじ込んだ。恵美は胴体に付いた両腕をバタバタとさせたが、切り離されてケーブルで繋がれた頭部までは手が届かない。
「あがががが・・・もう、死にたい・・・」
恵美は、観念してスニーカーを舐め始めた。日々の靴磨きの仕事のため、恵美の舌はドス黒く変色し、表面が硬化し始めていた。
「稼ぎが悪かったら、最後には、お前の胴体を売り飛ばすしかないんだからね」
「お願い・・・それだけは、やめて・・・」
恵美はボロボロと涙を流して哀願した。彼女の両足は、とうの昔に1本1万円で、脚フェチの男に売り払われてしまっている。胴体も失えば、生首しか残らない。麻衣は、ケーブル人間を虐めながら漠然と考えた。
(もうすぐ、また冬がくる。靴磨きのお金だけじゃ足りないわ。栄養を採って体力を付けておかないと、寒さで凍死してしまう)
それは、麻衣だけではなく浮浪生活を送る全ての者に共通した悩みだった。
(明日から、またウリでもやるか)
幸い、麻衣には若い女としての肉体がある。これを使えばいくらかは稼げるはずだ。次の日、麻衣は、ケーブル人間の恵美をいつもの場所に連れて行くと、『靴磨き、1回百円、お金はこの空缶に入れて下さい』とマジックで書いた看板だけを立て、その後、一人で町を徘徊し始めた。
「ねっ、そこのオッチャン。千円であたしのオマンコを見せてやるよ」
麻衣は通りすがりのサラリーマンに声をかけた。その男は、立ち止まりマジマジと麻衣の姿を眺めたが、ボロボロの服を着、ベットリと髪の毛に油がついて異臭を放っている浮浪少女に、顔をしかめた。
「しっしっ、あっちへ行け!警察を呼ぶぞ」
「なんだよう、ピチピチの若い女のアソコを千円で拝めるんだぜ、安いだろう?」
「お前の相手なんかしている暇はないんだ」
男は足早に歩き去って行った。麻衣はふてくされてペッと路上に唾を吐いた。
(ケッ、本当は見たいくせに)
麻衣は次々と通行人に声をかけていったが、誰にも相手にされなかった。通学途中の女子高生のグループが、そんな麻衣の様子を遠くから見てケラケラと笑っている。楽しそうに談笑している女子高生の姿を見る度に、麻衣は、楽しかった高校生時代を思い出すのだった。
(あんなに必死に受験勉強をしていたのに、結局、卒業も出来なかった・・・お父さんや、お母さんは、今もあたしの行方を探しているのかな・・・)
3年前、家出をし、それから人生が狂ったのだ。宇宙人によって、脳に埋め込まれたコンピューターチップのせいで、家に帰るという行動がブロックされてしまっている。時折、訳の判らない行動を勝手に体が取り始め、命の危険に晒される事も度々ある。その日も、午後2時を過ぎた頃、いきなり麻衣の体が、全力疾走を始めた。
「ひいいいっ!止まらないよう!」
恐怖に顔を引き吊らせながら麻衣は、さざなみ市の町を駆け抜けていった。通行人にぶつかり、罵声を浴びても止められない。赤信号を無視して車に跳ねられそうになる。限界を超えた運動のせいで、心臓がバクバクと鼓動し、肺が破裂しそうだったが自分の意思ではどうにもならないのだ。
「もうううう、いやああああ!」
麻衣の体は、営業中のレストランの中を駆け抜け、ウェイトレスにぶつかったり、食膳をひっくり返したりして大迷惑をかけた。
「待て!浮浪少女!逮捕だ!」
騒ぎの通報を受けた、さざなみ署の警察官達が追跡してきた。青山刑事と警察犬ヘレンの姿もある。麻衣の脳内コンピューターは人間業とは思えない素早さで逃走経路を瞬時に計算し、プロの警察官達を撒いていった。
(こんな事してたら、そのうち本当に豚箱に入れられちゃうよう!)
半ベソをかきながら走り回り、2時間以上が経過してやっと、麻衣の体が平常に戻った。
「ゼエ・・・ゼエ・・・ゼエ・・・ゼエ・・・」
汗だくになった麻衣は、呼吸困難で道端にひっくり返り、しばらくは起き上がる事も出来なかった。
フラフラになった麻衣が、公園の近くの、いつも靴磨きをしている場所に戻ると、薄汚れた全裸の恵美の胴体と頭部が、道端にひっくり返ったまま、ボンヤリと空を眺めていた。お金を入れる空缶を覗いたが1円も入っていなかった。
「てめえ!サボってやがったな!」
麻衣は激怒して、恵美の髪の毛を鷲掴みにし、頭部を空中に持ち上げた。
「サボってないわよ。朝から3人のお客様の靴を舐めたわ」
「じゃあ、なんで空っぽなんだよ!」
「一人目はお金を払っていかなかった。二人目は払っていったけど、三人目のお客が、そのお金を盗んでいったわ」
無抵抗なケーブル人間の恵美にはどうする事も出来なかったのだろう。激高した麻衣は、恵美の顔を平手打ちして、八つ当たりをした。
「くそっ!世の中、良心のある奴は、いないのかよっ!」
麻衣は、恵美の頭部を無造作に投げ捨てた。顔面をアスファルトに激突させて恵美が、ギャッと悲鳴を上げる。麻衣は、恵美をそのまま放置してトボトボと公園へ戻ると、噴水の傍で服を脱ぎ始めた。
(体を綺麗にしなくちゃ。清潔にすれば、男もあたしの体を欲しがるはずよ)
1年以上着続けている、擦り切れて穴だらけのTシャツとジーンズを脱ぎ、シミだらけのパンティも脱ぎ捨てる。そして全裸になった麻衣は、噴水の水に片足を浸した。
(冷たい!)
もう11月である。さすがに噴水の水も冷たかった。麻衣は、歯を食い縛り、ガタガタと震えながら、深さ30センチほどの浅い噴水に体を沈めていった。
「ねえ、ママあの人、噴水で泳いでいるの?」
公園のブランコで遊んでいた幼児が、母親と会話している声が聞こえてきた。
「世の中には、おウチが無い大変な人もたくさんいるのよ。ミサちゃんはおウチがあって良かったわねー」
「うん・・・」
麻衣は、その声が聞こえないフリをして体を洗い始めた。といっても石鹸やタオルがあるわけではない。手の平で体中を擦り、垢を落としていくのだ。数週間ぶりに洗った麻衣の体からボロボロと皮膚の残骸が剥がれ、澄んでいた噴水の水がたちまち泥のように濁っていった。麻衣は、ベタついている髪の毛も念入りに洗った。
(この際、服も洗濯しようかしら)
麻衣は先程脱ぎ捨てた服を手に取ると、噴水の水に浸し、手で揉み洗いを始めた。しかし、洗剤も何もないため、噴水の泥が染み込み、かえって全体的に茶色くなってしまった。麻衣は、噴水から上がると、全裸のままバラックの方へ歩き、天日干しにするため、バラックの傍の木の枝に服を引っ掛けた。
(ううっ、寒い!)
秋風が、噴水の水で冷え切った体にこたえた。
次の日、麻衣は乾いた衣服を身に付けると、気を取り直して再び街へ出掛けた。Tシャツとジーンズは噴水の泥で茶色っぽくなっていたが、獣のような悪臭は消えていた。麻衣は通りがかりの男に次々と声をかけていった。
「ねえねえ、オッチャン。1万円であたしとエッチしない?21歳のピチピチの体でサービスしてあげるよ」
しかし、見るからに薄汚い、浮浪者の女とセックスをしようという奇特な男は、なかなか現れなかった。十数人目に声をかけた日雇い労働者風の中年の男が初めて麻衣に興味を示した。
「1万円か、高けえなあ」
「じゃあ、大サービスで半額の5000円に負けとくよ」
「5000円?なら、家でアダルトビデオでも見てた方がましだ。もっと綺麗なネエチャンがいっぱい出てるからな。お前みたいな浮浪者は、病気を持ってるかもしれないし、ノミがいるかもしれん」
「昨日、ちゃんと体を洗ったんだ。病気もノミもいないよ。ねえ、オッチャン頼むよ。寒くなってきたから、暖かい服とか食べ物を買うお金がいるんだよう」
麻衣は必死に食い下がった。男の目がズルそうに輝いた。
「3000円なら払ってやるよ」
「3・・・千円・・・いいわ、わかった、それで手を打つよ。じゃあホテルへ行こう、オッチャン」
「ホテルだと?馬鹿言ってんじゃねえよ!ホテル代の方が高くつくじゃねえか。お前みたいな浮浪少女は、その辺の草むらで充分だ」
「・・・・」
男は、麻衣の手を取り、近くのドブ川へと連れて行った。道路の下へ潜り込んでいる部分がコンクリートのトンネル状になっており、人目を忍んでエッチをするには、もって来いのスペースになっている。男は、麻衣の穴だらけのジーパンの中に、肉体労働で角質化し、ザラザラになった手を滑り込ませてきた。
「あうっ・・・」
股間の割れ目に、太い指を入れられ、麻衣は小さな声を上げた。酒臭い口が、唇に押し付けられてくる。
「思ったより、張りのある綺麗な肌だな、ネエチャン」
「当たり前だよ。21だって言っただろ」
「ガリガリなのが惜しいがな・・・ま、まともな飯食ってねえんだろうから、仕方ねえか」
相手は40代の労務者風の男だったが、それでも麻衣の若い肉体は、一旦性欲に火が付くと、積極的に相手の体を夢中で求め始めた。麻衣にしても久しぶりのエッチだった。押し倒されて、横を向いた麻衣は、コンクリートのヒビ割れから生えている雑草を見つめながら喘ぎ続けた。
(あたしも、この雑草のように生きてやる・・・)
麻衣は、まだ21歳だ。最悪の状況に落ちぶれているとは言え、まだ人生の希望を全て捨て去るには若過ぎた。
その日の麻衣の稼ぎは、3000円だけだった。ケーブル人間、木之本恵美の1日の稼ぎは200円だった。
(これじゃ、駄目だ。全然稼げない・・・)
麻衣は悩んだ末に、ある決心をした。
(こうなったら、コソ泥でもやるしかない・・・)
売春をするのと、コソ泥をするのとでは危険度が全く違う。浮浪者である麻衣が路上で売春をしても、警察は見て見ぬフリをしてくれるが、一般市民に被害を与えたとなると容赦はされないだろう。それでも無事、冬を越すためには、ある程度のお金が必要だった。
(やるしかない)
麻衣は住宅街を歩き回り、空き巣に入れそうな家を物色した。住人のいる家はまずい。留守で、しかも鍵がかかっていない家はないだろうかと探し回り、ある一軒の家に目星を付けた。
(高そうな家だ。お金ありそうな感じ・・・)
麻衣が元々住んでいた矢萩家も、中流階級の上といったクラスの、広めの新築住宅だった。父親は大手企業の管理職で、教育熱心なホワイトカラーの家庭だった。今の麻衣にとって暖かい家庭での普通の暮らしは、夢の中の憧れでしかない。麻衣は、通りに人が居ない事を確認すると、鉄格子状の門扉を、そっと開け、家の敷地内に入った。正面玄関は鍵が掛けられていたので、グルリと回り込み、入れそうな勝手口か、窓が無いかを調べてみる。運良く、浴槽を乾燥させるためか、バスルームの窓が開きっ放しになっていた。
(やった、ビンゴだ)
麻衣は、窓枠によじ登りバスルームに侵入した。耳を済ませたが物音はしない。完全に留守のようだった。麻衣は緊張で体の筋肉がこわばり、咽喉がカラカラだった。忍び足で廊下に出て、リビングを探す。家の中は小奇麗に掃除され、よく整頓されている。見つけたリビングは、ダイニングキッチンと続きの間になっていて大型テレビやソファが置かれていた。
(金はどこにあるのかな・・・タンスかな・・・)
空き巣に入るのは初めてなので、さっぱりコツが判らない。とりあえずタンスの引き出しを片っ端から開けていく。しかし、出てくるのはガラクタのような小物品ばかりで、現金は見つけることが出来なかった。
(な、無い・・・)
次第に麻衣は焦り始めた。今にも、玄関のドアが開いて、住人が帰って来るのではないかと言う激しい妄想に襲われる。
(あった・・・)
ついに麻衣は預金通帳と印鑑を見つけ出した。急いでそれを、ジーパンのポケットに、ねじ込もうとする。その時、いきなり麻衣は頭の芯に鋭い痛みを感じた。
(くそっ、こんな時に!)
ランダムに作動する脳内コンピューターが、麻衣の肉体に干渉し始めたのだ。麻衣の口が勝手に開き、大声で歌を歌い始めた。
「迷子の迷子の子猫さん〜♪あなたのオウチはどこですか〜♪」
「誰じゃ・・・」
奥の間で眠っていた老婆が、ゴソゴソと起き出して来た。タンスの引き出しを開け、預金通帳を握り締めている麻衣と目が合う。
「ヒーッ!泥棒―っ!」
老婆が金切り声を上げた。
(やべっ)
麻衣がヘッピリ腰でリビングの窓を開け、家の庭へ飛び降りる。そこには、犬小屋があり、大型のシェパードが番犬として飼われていた。
「ワンワンワンワンワンワン!」
「きゃああああっ!」
逃げようとする麻衣の太股に犬が噛み付いた。パニックに陥った麻衣はメチャクチャに腕を振り回し、噛み付いた犬を引き摺りながら門の方へ進もうとする。モタモタしていると騒ぎを聞きつけた隣近所の住民達が、バラバラと集まってきた。
「空き巣だ。捕まえろ!」
「それより、早く警察に電話して!」
(嫌だ、豚箱には行きたくない!)
麻衣は、力尽くで、犬を引き離そうとした。ジーパンが引き裂け、牙が食い込んでいた皮膚から激しく出血する。シェパードは鎖に繋がれているため、それ以上麻衣を追いかける事が出来ず、噛み千切ったジーパンの布切れと、麻衣の太股の皮膚の一部を咥えて、空しく吠え続けた。
「うぐっ・・・・オラオラ、どけよ、お前ら!」
麻衣は泣きながら、集まって来た人間達を突き飛ばすと、血だらけの足を引き摺って逃走した。ただの少女とは思えない、脳内コンピューターに操られた素早い動きだった。どうやら麻衣の脳に埋め込まれたコンピューターは、麻衣を生かさず殺さず、ひたすら窮地に追い込んで、苛め抜くためだけにプログラミングされているようだった。
(畜生!足が痛いよう!)
麻衣は、町中を走り回り、クタクタになってようやく、コンピューターチップの命令から解放された。そしてボロ屑のように疲れ果てて、バラックに戻った麻衣は、盗んできた預金通帳を開いて、狂喜した。
(すごい!通帳残高が、300万もある!これだけあれば・・・)
麻衣は、高価な衣服を買い、レストランで腹一杯食事をしている自分を想像した。しばらく、足の大怪我も忘れて有頂天になっていたが、浮浪者である麻衣が、他人の通帳を銀行に持っていけば、実際、その場でどうなるかと言う事には、全く気付いていなかった。
第133話、芸人
清純派女優として売出し中の成瀬美咲(23歳)は、所属するプロダクションの社長に呼び出された。
「何か、御用ですか、社長」
美咲は、ゴールデンタイムのトレンディードラマにも何度か出演した事もある、見た瞬間、ハッと息を呑むほどの美人女優である。色白の肌と長い黒髪が、清純派というイメージにピッタリだった。
「実は、君の今後のタレント活動について相談しようと思ってね」
プロダクションの社長は言いにくそうに切り出した。反論される事を恐れているようだった。
「と言いますと?」
「せっかく、女優として人気が出てきたところを申し訳ないのだが、ここら辺で方向転換してみてはどうかと思うんだ・・・・お笑い芸人にね」
「は?お笑い芸人?」
美咲は耳を疑った。冗談にしか聞こえなかった。
「さざなみテレビという放送局を知っているだろう。例の宇宙人の息のかかった放送局だ。そこに所属するプロデューサーが君をプロデュースしたいと言って来たんだ」
「そんな、嫌です!来年には映画の出演も決まっていますし、ドラマも何本か出演依頼が来ています。それなのに、お笑い芸人だなんて・・・その話は、断ってください!」
美咲は、必死で抗議した。キャンペーンガールから芸能界入りし、今年、やっと女優として脚光を浴び始めて来たのだ。
「断れんのだよ。それが出来れば苦労はしない。断れば、植民地総督府を通して事務所に圧力がかかるだろう。君のためにもならない」
社長は懸命に美咲を説得しようとした。さざなみテレビから多額のリベートを貰う約束になっている。逆に拒否すれば、行政から圧力がかかり、事務所自体の存続が危うい。社長は数時間かけて説明し、なだめたり脅したりしたが、結局、美咲は首を縦に振らず、最後には、植民地総督府の命令書を突き付けなくてはならなかった。それは、2005年に日本政府との間で結ばれた条約の、『宇宙人への実験材料の提供義務』と言う項目に基づいていた。対象者は、拒否すれば日本国内で指名手配され、警察に追われる事になる。美咲は、泣く泣く、今後は、お笑いタレントとして活動します、という契約書にサインをし、プロデューサーと会うために、マネージャーと共に、さざなみ市に向かった。そして、さざなみテレビの本社ビルで、プロデューサーに挨拶をした。
「はじめまして、成瀬美咲です」
「ほう、まさに清純派路線まっしぐらって感じだね!」
プロデューサーは、宇宙人ではなく日本人のようだった。手渡された名刺には斉藤大介と書かれていた。30代後半で浅黒く、髭を伸ばした蛇のような目つきの男で、美咲は生理的な嫌悪感を感じた。
「僕は、お笑いタレント専門のプロデューサーでね。この頃は、お笑い芸人もネタだけではなくて、キャラクター作りが重視されるようになってきた。キャラとギャグが当たれば売れるんだよ」
「はあ、でもあたし、女優志望だったんで、お笑いとか、そういうの全くセンスがなくって・・・プライベートの友人にも、あたしの冗談は面白くないって言われてますし・・・」
美咲は、なんとか断りたいという希望を捨て切れないでいた。
「ハハハ、大丈夫だよ。僕がプロデュースするんだ。センスが無くっても絶対売れるよ。僕の言う通りのキャラクターを創ればね」
「キャラクターですか?」
「今まで、お笑いで当たったのは、女子プロキャラ、スケバンキャラ、ラッパー、サムライなどで、他にも、ありとあらゆるキャラクターが試行錯誤されている。中でも去年、一世を風靡したのはハードゲイキャラだ。残念ながら、コスチュームの切り替えと、本当はゲイではないと言う事が知れ渡って、消えていったがね・・・。そこで君にはハードマゾ芸人というのをやってもらいたい」
「ハ、ハードマゾ芸人・・・」
美咲は絶句した。嫌な予感がした。
プロデューサー斉藤による美咲のキャラ創りが始まった。美咲は、斉藤のデザインした衣装を着るように強制された。
「こ、これを着るのですか?」
「そうだよ」
「でも、これ衣装って言うよりは・・・」
それは、ピンク色のエナメル素材で出来たラバースーツだった。胸の部分と股間の部分が切り抜かれていて、乳房とオマンコが搾り出されるようになっている。
「こんなの着て、テレビには出れません!」
「心配ない。猥褻物陳列罪にならないよう、君のテレビ出演に関しては、治外法権条約の適用を申請してある。ゴチャゴチャ言ってないで、早く着たまえ!」
仕方なく美咲は、試着室で、衣装に着替えた。カーテンを開けると屈辱のあまり、顔が真っ赤に火照り、体中がブルブルと震え出した。
「いいねえ、いいねえ、その表情!視聴者もグッと来るよ、きっと」
斉藤は絶賛した。美咲は、犬用の赤い首輪をつけられ、手足には、鉄球つきの鎖がぶら下がった金属の枷もはめられた。
「乳首と、ラビア、クリトリスにピアッシングをした方がいい。耳タブと唇にもね」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
美咲は慌てた。それでは体に穴を開けることになる。そこまで人体改造されるとは聞いていない。
「甘い事を言ってちゃ駄目だ。キャラ創りは、徹底的にやらないとね。今時、中途半端な演出じゃあ、視聴者に見透かされちまうんだよ」
斉藤は、聞く耳を持たなかった。ベテランのメイクさんが呼ばれ、美咲の体に次々とピアッシングが施されていく。
「あっ!イタッ」
一度にこれだけの穴を開けられると、数箇所の痛みに同時に耐えなくてはならず、相当な精神力が必要だった。クリトリスにピアッシングされた際には、美咲は思わず絶叫してしまった。
(つ・・・痛い・・・女優のあたしが、ハードマゾ芸人だなんて・・・しかも、いくらキャラ創りとはいえ、こんな肉体改造まで・・・)
美咲は、昨日まで絶好調だった自分の芸能人生が、確実に狂っていくのを感じた。
「いいねえ、いいねえ、でも何か足りないような気がするなあ」
斉藤は、ピアッシングの苦痛を懸命にこらえている美咲の姿を眺めながら、必死に、自分のイマジネーションを模索しているようだった。
「そうだ、鼻フックをした方がいい。視聴者は、元々の君の美貌を知っているから、それが歪められているのを見ると、たまらなく興奮すると思うよ」
「え・・・鼻フック・・・ですか」
美咲は、もはや、反論する気力を削がれていた。メイクさんのなすがままに鼻フックを付けられ、ノーブルな鼻が、豚のように上向きに歪められる。鏡で自分の顔を見せられた美咲は、こんな顔を公共の電波に乗せるのかと思うと、発狂しそうだった。
「い、嫌・・・こんな顔で、全国に放送されるのは、嫌・・・」
「なぜ?どうして?・・・まさにハードマゾだよ。おいしいよ、絶対ウケるよ!」
斉藤は、はしゃいでいた。
「あと、体中に卑猥な落書きをした方がいい。出演する番組とかネタに合わせてマジックで書き込めば、司会者も突っ込んでくれるよ!」
美咲には、ウケるためには、何でもするという、お笑い芸人の世界は、さっぱり理解出来なかった。
「次は、ギャクを練習しなくちゃな。僕が、いくつか考えたから、やってみてくれ」
斉藤は、美咲に、ギャクを走り書きしたノートを手渡した。それを、読んで美咲は、冷や汗をかいた。
「これを、あたしがやるのですか?」
「当たり前だろ。君のために僕が不眠症になりながら考えたんだ。ま、大体が、他の芸人のパクリだけどね」
美咲は、ノートに書かれている文章を声に出して読み上げた。
「・・・見ての通りのハードマゾです。いじめられると感じちゃうの・・・あたしのホッペを叩いてみて。(パシッ)。あおおっ、とっても快感、濡れてきちゃった・・・」
「本番では、もっと気持ちを込めて、大げさに身振り手振りをしながら叫ぶんだ。あおおおっ!てね」
「これって、パクリじゃ・・・」
「気にしない、気にしない。これで流行語大賞も狙うぞ!」
美咲は、暗澹たる気持ちになった。
お笑い芸人に転向した成瀬美咲の、デビュー番組が決まった。話題のお笑い芸人が、順番にネタを披露していくという、シンプルだが高視聴率を稼いでいるエンターテイメント番組である。楽屋でも舞台裏でも美咲は、他の出演者たちから好奇と、好色の入り混じった視線を浴びた。
「あれって、女優の成瀬美咲だろ?なんで彼女が、今更お笑いなんだ?」
「さあ。それよりも何なんだ、あの格好は?放送出来るのかよ」
芸人達がヒソヒソ話をしている。美咲は、いたたまれない気持ちになった。やがて、若手お笑いタレントを紹介するコーナーで、美咲の出番が回ってきた。舞台裏からステージに登場した美咲は、大げさなパフォーマンスでアピールした。
「見ての通りのハードマゾでえーす!スレイブピッグHMって呼んでください。殺す以外は何をしてもいいわよっ!」
美咲は、満面の笑顔で決められたセリフを叫んだ。マイクを握った関西芸人の司会者が歩み寄ってくる。
「えらいもんが、出てきよったなあ。なんやこれ、鼻毛出てんぞ」
司会者が、美咲のフックで上向きに吊られた鼻の穴を覗いて言った。美咲はぶしつけな突っ込みに面食らったが、アドリブで返した。
「あたしの鼻毛抜いて下さーい」
「ええんか、ほな、抜くぞ」
司会者は、美咲の鼻の穴に親指と人差し指を突っ込み、ブチッと鼻毛を引き抜いた。
「あおおおっ!快感!濡れてきちゃった!」
「コラ、濡れてきたや、あれへん」
美咲は、司会者にパシッと後頭部を叩かれて突っ込まれた。大爆笑が客席から沸き起こる。ウケているようだった。
「あーあ、こんなもんジャラジャラと引き摺りよって、重たないんか?」
司会者は大げさに、美咲の手足に付いている鎖と鉄球を指差して尋ねた。
「重いです。歩きにくいです」
美咲が答えると、失笑が客席から漏れてくる。
「お前、人にいじめられて、うれしいんかい。変態やの」
「はい、美咲はハードマゾでっす」
「あ、こいつ、本名言いよった」
美咲は、あわてて口を押さえる。その仕草に再び笑いが取れた。
「そんな、ハードマゾの美咲さんに、これは俺からのプレゼントや」
司会者が上着のポケットから、用意してきた洗濯バサミを二つ取り出し、美咲の乳首に一つずつ挟んでいった。ズキンズキンと激痛が美咲の脳天を突き抜ける。
「あおおお!」
「おっ、また、喜んどる。しょうのない奴やな。放送出来へんがな、こんな芸人」
「もっと、いじめて〜ん」
美咲が体をくねらせた。リアクションも身についてきていた。
「今日は、収録が終わるまで、乳首にその洗濯バサミを挟んでなさい。ネタもそのまま、やるんやぞ!」
「わかりました・・・」
司会者がステージの裾に引っ込み、美咲のネタ見せが始まった。客席に向かってステージ中央に立ち、スポットライトで照らし出される。
「この前、学校で体育の時間に縄跳びしてたらね。急に自分の体を縛りたくなっちゃったの。それで先生に、縛っていいですかって聞いたの。そしたらね、先生が怒ってね・・・『縄跳びは、そんな事に使うためにあるんじゃない、こうやって使うんだ』って、鞭にして叩かれちゃったのよ!あ〜ん快〜感!」
美咲は、色っぽく身をくねらせた。しかし、客席はシーンとしたままだった。スベったのだ。美咲は、物凄い焦りを感じたが、なんとか平静を装い、次のネタにいく。
「この前、休みの日に遊園地に行ったのね。そしたらメリーゴーランドがあったから、係りの人に、三角木馬はないですか?って聞いたの。そしたらね。『お前が馬になって、回ってれば』だって。あーん快〜感!」
客席からは、物音一つしなかった。またスベったのだ。美咲は、最後のネタに全てを掛ける事にした。
「スベっちゃって、ゴメンナサイ!美咲は、自分で自分をお仕置きしま〜す」
と言いながら、体中に大量の爆竹を巻きつけ始めた。そして導火線にライターで火をつける。スベリ続けた美咲は、このまま本当に吹っ飛んで、消えてしまいたかった。
「きゃああああ!怖いいいい!」
美咲は自分で、叫び声を揚げた。台本に書かれていたセリフだったが、恐怖は本物だった。パンパンパンと爆竹が体中で連続して爆発し、美咲は弾かれたようにキリキリ舞いして倒れた。その顔が本物の恐怖と苦痛に引きつり、涙ぐんでいた。
「あーん快〜感・・・これじゃ、お仕置きじゃくて、ご褒美だったわ!」
オトした積もりがオチなかった。お笑い芸人にとって、シラけたスタジオの冷たい空気が、一番強烈なお仕置きだった。
スレイブピッグHMの芸名で、お笑い芸人に転身した成瀬美咲に、次々とバラエティー番組から出演依頼が来た。ギャグのセンスは全く評価を受けなかったが、美貌の女優が、突っ込まれて頭を叩かれたり、醜態を晒して恥も外聞もなく笑いを取る姿に、視聴者は大喜びだった。出演したコントでは、ハリセンで顔面を強打された挙句に水槽に叩きこまれ、全身ずぶ濡れになりながらギャグを連発した。
「あ〜ん快感!もっと、いじめて!」
「殺す以外は、何をしてもいいわよっ!」
「あたしは、薄汚いメス豚ですぅぅ。」
このような美咲のセリフは、たちまちテレビの影響を受け易い小中学生達の間で、モノ真似が始まり、全国の教育委員会で問題になった。この大ブレイクに、仕掛け人のプロデューサー斉藤は上機嫌だった。
「いいねえ、いいねえ、美咲ちゃん。僕の言った通りだろう。今や日本中が君に注目しているよ!」
「え・・・ええ。そうですね・・・」
美咲は言葉を濁した。確かに知名度は上がったが、芸能界で美咲が目指していた自分の理想像とは、あまりも掛け離れた姿だった。もともとプロ意識と責任感の強かった美咲は、オファーのあった仕事は完璧にこなしているが、お笑い芸人としてテレビに登場するのは苦痛以外の何者でもなかった。しかし、そんな美咲の思いとは裏腹に、しばらく経つと画面に登場するだけで笑いが取れるようになり、オフの日に街を歩いていても、一般人に指を差されてクスクスと笑われるようになった。
「あ、ハードマゾの成瀬美咲だ。」
「スレイブピッグよ。アハハハ、マゾのくせに買い物をしているわ。今日はコスチュームを着ていないのね」
「当たり前だろ、いくら芸能人でも、あんな格好で街を歩けるかよ」
「ビンタしたら喜ぶかしら」
街中で、いきなり、知らない人間にビンタされる事も、しばしばだった。特に、テレビと現実の区別が付かない小中学生が、いきなり美咲に暴力を振るって来たりする事がよくある。自分のファンに対してキレる事も出来ず、もともとサービス精神の旺盛な美咲は、反射的にギャグを連発して、ファンをさらに喜ばせてしまうのだった。
「あーん快感。もっとぶって!」
「アハハハハ、テレビと同じだ」
出演するクイズ番組では、美咲だけが、間違えるたびに司会者からビンタされ、罵倒された。
「あの、スレイブピッグさん?ひょっとして、殴られたいからワザと間違えてるんじゃないでしょうね?」
「そんな事ありません」
「でも、あなたのアソコは濡れているんでしょ」
「はい、少し・・・」
「見せてみなさい。」
解答者席から立ち上がり、くり抜かれたコスチュームの股間部分をカメラの前に晒す。ラビアのピヤッシングリングを両側から引っ張って広げられた美咲のオマンコに司会者が指を突っ込んで捏ね繰り回し、ネットリと愛液のついた指先をカメラの前に突き出して、アップで映した。
「少しどころじゃないよ、これ・・・わっ、臭え!」
指先の匂いを嗅いだ司会者が、大げさに驚いてみせる。美咲は、顔を赤らめ、撮影スタッフや共演者達から笑いが起る。しかし、他の出演者達は、美咲ばかりがアップでカメラに抜かれるため、あまり良い気分ではないようだった。
また、美咲は、食べ歩きのグルメ番組にも出演した。まず、共演者のデブタレントが美味そうに名物料理を平らげる。それの様子を物欲しそうに、指を咥えて眺めていた美咲にも、後から同じ品が運ばれてくる。しかし、運んできた料理人がいきなり、ワザとらしく躓いて料理を床にブチまけてしまうのだ。
「あーあ、もったいない。どうすんのこれ、スレイブピッグちゃん?」
「あたし、食べます!」
美咲が床に這いつくばり、犬のような姿勢で料理を口に入れようとする。
「じゃ、僕がもっと美味しく味付けしてあげるよ」
デブタレントが、履いていた革靴の裏で料理を踏みにじった。美咲が悲しそうな眼差しでカメラを見上げる。
「どう、美咲ちゃん。これぐらいでいいかな?」
「あーん、美咲はメス豚ですぅぅ・・・グチャグチャに味付けして頂いた、お料理を美味しく頂きますぅ」
「せっかく、ご主人が料理してくれたんだ。残さず食べるんだぞ」
「はーい」
美咲は、手を使わずに、ドロ混じりの料理を涙ぐみながら貪った。
「美味いか?」
「はい、塩味がピリッと効いていて、とっても美味しいですぅぅ。思ったより舌触りがよくって、海の香りがします。でも泥がペッ、ペッ・・・」
デブタレントが、四つん這いになっている美咲の尻に蹴りを入れた。
「コラッ、そんな事言ったら、御主人に失礼だろっ!」
「しゅいましぇーん」
哀れな美咲の姿に、お茶の間は大ウケだった。また別のバラエティー番組では、カメラの前で何度もオナラをさせられた。それは、ミス・オナラコンテストと言うコントだった。
「音が小さいっ!ダメだよ、それじゃあ。イモを食えイモを!」
コーチ役の芸人の指図で、皿に山盛りの焼イモが運ばれてくる。美咲はそれを完食しなくてはならない。汗を流しながら、口いっぱいにイモを頬張り、胸を叩いて無理矢理水で流し込む姿で、視聴者の笑いを取ろうと言うのだ。
「もう、これ以上、食べれませぇぇん・・・」
「ダメダメ、全部食べなきゃ、いいオナラが出ないよ!」
コーチ役に叱咤されて、ようやく完食した美咲が、カメラの前に御尻を突き出し、オナラをしようと力む。やがてプスっと小さな音がもれる。
「うわっ、くっせえ。でも音が小さ過ぎるね。もっとイモを食べなきゃ」
再び山盛りの焼きイモが運ばれてきて、美咲の顔が青ざめる。オナラの出し方に、いろいろと難癖を付けられ、これを延々と繰り返すのだ。また別の番組では、動物園の、ワニのいる池の上を綱渡りさせられたりした。
『そこで、オシッコをもらせ』
無線機のイヤホンを通じてディレクターが指示をしてきた。美咲は、いつものハードマゾのピンクのコスチュームで、命綱を付けずに、ロープにしがみ付いている。そんなに腕力がある方でもなく、もし、池に落ちれば冗談では済まない。
(う、腕が痺れるぅ。手に力が入らない・・・でもオシッコしなきゃ)
美咲のプロ根性は、筋金入りだった。さすがに顔からタレントスマイルは消えていたが、ワニが蠢く池の上でぶら下がったまま、ゆっくり膀胱を緩めると、くり抜かれたコスチュームの股間からチョロチョロとオシッコが流れ落ちた。
「オ・・・オシッコ漏らしちゃった・・・」
「おお!ハードマゾが恐怖の余りオシッコを漏らしています!」
司会者が、大げさにはやし立てる。
「オイしいなあ!」
「ここで、池に落ちたら、もっとオイしいで」
ギャラリーの関西芸人が、ウケ狙いだけの無責任な発言をしている。冗談じゃない、と美咲は思った。眼下では、池に流れ落ちたオシッコの匂いで、ワニがざわめき始め、バシャバシャと水面を叩いた。美咲は生きた心地もしなかった。
「あーん快〜感!・・・でも、こわいよー」
美咲の、真に迫った情けない声に、お茶の間は大爆笑だった。
第134話、火星の女奴隷
2006年4月、埼玉県内にある公立高校2年生を乗せた観光バスが、小田原市内で渋滞に巻き込まれ、立ち往生していた。
「まだ、動かねえの?日が暮れちまうよ」
3号車の一番前の席に座っていた2年C組の片田準一(16歳)が、バスガイドに不満を漏らした。本当なら、とっくに、日帰りバスツアーの目的地である小田原城に到着している時間だったのだ。バスガイドと、運転手の顔が焦り始めている。そろそろトイレ休憩をしないと、我慢が限界にきている女生徒もいる。いくら渋滞とはいえ、2時間以上も全く前進しないのは異常だった。
「おい、あれを見ろ、自衛隊のヘリコプターだ!」
窓を開けて首を出していた男子生徒の一人が叫んだ。退屈しきっていたC組の生徒達は一斉に窓から空を見上げる。雲一つない晴天の空を自衛隊のヘリが3機、編隊を組んで低空飛行をしていた。
「おっ、すげえ、AH1S、コブラだ!」
ミリタリーマニアの男子生徒が歓声を上げてはしゃいでいる。バスの運転席では、バスガイドの桑田直美(22歳)がバス会社の事務所に携帯電話で交通状況を確認していた。
「えっ、戦争?自衛隊の道路封鎖?・・・小田原は危険だからUターンして東京方面に引き返せ、と言ってます」
運転手が困った顔をした。
「Uターンと言ってもこれじゃなあ」
道路は対抗車線も全て、乗用車で埋め尽くされており、とても観光バスがUターン出来る状況ではなかった。困り果てて、どうにも出来ないまま、さらに30分あまりが経過した頃、遠くから爆発音が聞こえてきた。ヘリのプロペラ音や、ジェット機の衝撃波まで伝わってきてバスの窓がブルブルと震える。爆発音には、砲声も混じっており、しかも次第に大きくなって来るようだった。
「おい、戦争だってよ」
「怖い・・・」
泣きそうになりながら震えている女生徒もいる。
「大丈夫だ、安心しなさい」
担任の男性教師が宥めたが、安全だと言う根拠は何も無く、男子生徒達も不安気な顔色を隠せなかった。
(ふん、こんなぐらいでガタガタ震えやがって。みんなダラシないぜ)
片田準一は、心の中で級友達をあざ笑った。剣道部に所属している準一は、血の気が多い性格で、砲声を聞いてむしろ、心が浮き浮きするのだった。
(おもしれえ。こんな事件に実際に出会うのは、生まれて初めてだ)
一番前の席に座っていた準一が、必死に砲声の聞こえてくる方角を眺めていると、やがて信じられない物体が現れた。身長20メートルの巨人の女が、バズーカ砲のような武器を構え、空中から自衛隊のヘリに攻撃されながら、観光バスの方へ突進して来たのだ。
「きゃあああ!」
女生徒が悲鳴を上げる。さすがの準一も動揺した。
「化け物だ!」
その物体、巨人女レアは、時空砲を構え、血路を開くために引き金を引いた。照射された虹色の光は2年C組の乗った観光バスの周辺を包み込み、溢れる光の中で、準一は体中の細胞がバラバラに分解されるような苦痛を感じた。
「うわあああ、助けてくれええ!」
「嫌だ。死にたくない!」
「きゃあああ、オシッコがもれちゃう!」
バス中に響き渡る生徒達の悲鳴を聞きながら、準一の意識は、薄れていった。
「う・・・うーん」
準一は目を覚ました。どれくらい気を失っていたのかは検討もつかない。死んではいないようだ。バスの座席から立ち上がり、フロントガラスから外の風景を見た準一は驚いた。
「こ、これは・・・」
空は夕焼けのように真っ赤だった。そこは、小田原市内ではなく、荒涼たる岩石がむき出しになった荒野が、地平線にまで広がっていた。草木は一本も見当たらない。準一は息苦しさを感じた。空気が薄いようだ。しばらく呆然としていると、やがて他のみんなも起き出してきた。バスガイドの桑田直美が、外の様子を確かめるために、乗車口の扉を開けバスから降りた。
「きゃっ、体が軽い。何か変だわ・・・ここは、一体どこなの?」
準一もバスから降りてみた。そして歩こうとすると、体が風船のように地面から数十センチも浮き上がるのを感じた。
「うわっ!何だここは!」
他の生徒達も降りてきた。みんな驚き、騒ぎ、ざわめいている。
「重力が少ないんだ。ここは、地球じゃないのかもしれない。」
担任の理科教師、大川伸介(32歳)が言った。
「地球じゃないって、どう言う事だよ?」
「空気が薄いし、重力が少ない。それに植物が1本も見当たらない。別の惑星と考えるのが当然だろう」
「そんな馬鹿な・・・」
「おウチに帰れるの・・・」
一人の女生徒が泣き出した。
「携帯電話が通じません」
バスガイドの直美が、バス会社と連絡を取ろうとしたが、電波が圏外のようだった。
「これからどうすれば・・・」
一行は、立ち往生し、どうする事も出来なかった。バスを走らせようにも、舗装されていない岩石地帯では、走行する事は困難だった。幸いバスツアーのために、各自弁当と、水筒を持参しており、当面の空腹はそれで満たす事が出来た。やがて夜が訪れ、冷え込んできたが、運転手がバスのエンジンをかけ、空調で暖房したため、その夜は無事バスのシートで眠る事が出来た。トイレはバスの停車している周辺の岩陰で済ませるしかない。次の日、弁当も水筒も食べ尽くした後、為す術もなくバスの周辺で身を寄せ合うように、空腹を抱えてブラブラと過ごしていると、遠くに砂塵が上がるのが見えた。
「おい、向こうから、何かが来るぞ」
「助けが来たのかな」
「おーい!おーい!こっちだよう!」
生徒達が手を振り始めた。準一は舌打ちをした。
「馬鹿!ここは、地球じゃないんだろ!あいつらが、俺達に危害を加えるつもりだったらどうする!」
一団が近付き、その姿がハッキリと見えてくるにつれ、生徒達は一転して押し黙った。それは、異様な姿をした騎馬武者の一団だったのだ。
「ひっ、化け物だ!」
四本足の馬に、身長4メートルはある巨人達が跨っていた。緑色の皮膚をした巨人は明らかに地球人ではなく、その証拠に腕が4本ある。馬も巨人も、口には獰猛な牙が生えており、どう見ても友好的な種族のようには見えなかった。それぞれ、甲冑をつけ、ライフル銃や剣で武装しているようだった。
「う、宇宙人だ!殺されるぞ!」
「逃げよう!」
「逃げるって、どこへ?」
まごまごしている間に、緑色の巨人の一団は観光バスを遠巻きに包囲した。生徒達は、観光バスの車内へ逃げ戻り、座席に身を埋めてガタガタと震えるしかなかった。
「ここが、どこか判ったぞ・・・」
担任の大川先生が低い呟いた。
「ここは、火星だ・・・と言っても我々の知っている火星じゃない。それなら気圧が低すぎて、全く呼吸が出来ないはずだ。信じられないが、ここはバルスーム。アメリカの作家、エドガー・ライス・バローズが20世紀初頭に大ヒットさせた、冒険ファンタジーの世界だ」
「どう言う事だよ、先生!」
準一が食ってかかった。平成生まれの準一が、古い海外のSF小説など読んだ事があるはずも無い。
「どう言う事かは、判らん。しかし、我々は、バスごと別の世界に飛ばされた。それも、別の場所や、時代ではなく、一人の作家が考え出した、架空の世界だ。・・・最新の物理学によると、宇宙は『ゆらぎ』から始まったという。完全な無から、いきなりビックバンが起り、120億年前に恐ろしいスピードで膨張を開始しらしい。つまり、『ゆらぎ』というのは別の次元の生物の意識が、イマジネーションを働かせた瞬間だったのかもしれない」
「先生、何を言ってるのか、さっぱりわからねえよ!」
「つまりだ。我々の元いた世界も、所詮、時間も空間も全く概念の違う、誰かが考え出した空想の産物だったのではないのかと・・・判りやすく言うならば、それを神と呼ぶのも、やぶさかではない。ならば、エドガー・ライス・バローズの創造したバルスーム世界が実際に存在していても、おかしくはない」
「だから、なんだってんだよ!あいつら、襲ってくるぜ!」
準一が、叫んだ瞬間、バスの窓が割れ、銃弾が雨あられと撃ち込まれてきた。
バスの中に悲鳴が飛び交ったが、幸い全員がシートに身を伏せていたために傷を受けた者はいなかった。しかし、一斉射撃が止み、剣を握った緑色人戦士がバスの昇降口を破って車内に押し入ってくると、まず逃げようとした運転手が胸を貫かれて殺された。
「キャーッ、人殺しいいい!」
バスガイドが悲鳴をあげる。噴出した鮮血が床を赤く染めた。
「た、助けてくれ!命ばかりは助けてくれ!」
全員が声を限りに、命乞いを始めた。剣を構えた緑色人が次々に車内に押し入ってきたが、4メートルの巨体が天井につかえて窮屈そうだった。運転手に続いて、さらに二人の生徒が血祭りに上げられたが、緑色人戦士は、泣き叫ぶ生徒達を見て、相手に戦意が無い事を悟り、それ以上殺すのをやめた。その代わり、獰猛な唸り声を上げ、身振り手振りで全員にバスから降りるように促した。こうしてバスガイドの桑田直美と2年C組の面々は、火星の荒野を俳諧する、凶暴な緑色人の捕虜となったのである。
緑色人の小部隊に引き立てられた一行は、荒廃した都市へと連行された。それはバルスーム世界がもっと豊かな惑星だったころの古代民族が築いた都市の廃墟だった。遊牧民に近い生活を送っている緑色人の集団1000人あまりが、現在、この廃都に住み着いているのだ。生徒達は、古い崩れかけた建物の一つに詰め込まれ、厳重に監視されながらバルスームの言語を教え込まれた。
「やつらは、恐ろしい種族だ」
大川先生が囁いた。彼はエドガー・ライス・バローズの火星シリーズを子供の頃に、熱中して読んだ事があり、内容も良く覚えていた。
「俺達を、すぐに殺さず生かしておくのは、彼らの祭りの時に一人ずつ拷問して楽しむためさ」
「最悪じゃないか」
準一は真っ青になった。こんな、訳のわからない空想の世界で、ムザムザ死ぬ気にはなれない。教師役の緑色人の女からバルスーム語を覚えるにつれ、彼らがサーク族と呼ばれる部族の一支族である事がわかった。この支族を率いているのはロルクワス・トメルという王と副首領のタルス・タルカスという残忍な男だった。王の上位には、彼らをさらに束ねている皇帝がいるらしい。女生徒達は、顔が綺麗な順番に彼らに呼び出され、辱めを受けた。
「黄色人種は、北極にしかいないと聞いていたんだがな」
タルス・タルカスは、その日の夜の相手に選んだ、クラス委員長の最上美登里(16歳)に言った。下顎から牙が上に向かって生えている恐ろしい形相に、美登里は震え上がった。
「あ・・ああ・・乱暴にしないで下さい」
「その怯えた顔がたまらなくいいぞ。俺達、緑色人は血を見るのが何より大好きなんだ」
タルス・タルカスは美登里の乳房に噛み付いた。牙を胸に深々と突き立てる。鮮血が噴出し、タルス・タルカスは口中を真っ赤にして血の味を楽しんだ。
「きゃあああ、痛いっ!」
美登里は、苦悶と恐怖に顔を歪ませた。いたわる気持ちのカケラもないセックスだ。タルス・タルカスの60センチはあろうかと思われる太い緑色のペニスが、力任せに股間に突き立てられる。
「ぎゃああああ!・・・こんな太いの、無理です!」
処女膜を破られるどころの話ではなかった。文字通り股間が引き裂け、大出血した。
「もっと、血を流せ!」
緑色人の男は、血を見れば見るほど興奮するようだ。いたわりの気持ちなど微塵もなく、己の欲望を果たす事だけが目的なのだ。タルス・タルカスが欲望を放出し終わった時、美登里は全身から血を流し、出血多量で気を失っていた。緑色人は、血と精液にまみれ、ボロ雑巾のようになった美登里の体を、他の生徒達が監禁されている建物に投げ戻した。
「おい、最上!大丈夫か!くそっ、ひでえ事しやがる」
準一は、はらわたが煮え繰り返る思いだった。
「野崎さんが連れていかれたまま、帰ってこないの。心配だわ」
「きっと、拷問されて殺されたんだ・・・」
「そんな・・・」
絶望に打ちひしがれた生徒達は、嗚咽するばかりだった。
2年C組の面々が凶暴な緑色人の捕虜になって数日した頃、新たに捕まった別の一人の捕虜が連れて来られた。男はアメリカ人らしく英語で話しかけてきた。
「私は、バージニア生まれの元南軍の騎兵大尉で、名前は、ジョン・カーターだ。君達も地球人かね?」
「僕達は、日本人です」
準一はカタコトの英語で答えた。その男は、20代後半から30代前半のハンサムな白人青年で、生き生きとした表情と、自身に満ち溢れたオーラを発していた。服装は、ほとんど半裸に近い状態で、わずか腰の回りに、緑色人の子供が身につける装身具を装着している。
「日本?聞いた事が、あるような無いような国だな・・・まあ、いい。私は、アリゾナの洞窟から、いきなり、この世界に瞬間移動されたんだが、君達もそうかね?」
「え、ええ、まあ、そんな感じです」
準一は、この溌剌としたアメリカ人とは気が合いそうだった。火星シリーズの愛読者であった大川先生は目を丸くしていた。
「すごい!昔、読んだ小説と同じだ!本物のジョン・カーターが目の前にいる!」
「先生、この人を知っているのかよ」
「知っているもなにも、このお方こそ、この物語の主人公だ!」
準一は、わけが判らなかった。この荒唐無稽な世界が、空想の世界なのは、間違いないのだろうが、現実にクラスメートが何人も死に、女生徒の半数以上が緑色人にレイプされて半死半傷の状態なのだ。それから、さらに数日が過ぎ、準一や、ジョン・カーターが屋外で強制労働をさせられていると、この荒れ果てた廃都に1隻の飛行艇が墜落してきた。危険な敵がいる事も知らずに、都市の上空を通過しようとしたところを、緑色人が対空砲火を加え、略奪目当てで撃墜したのだった。飛行艇の乗員は、徹底抗戦の構えをしたために、ほとんどが殺され、生き残った若い女一人だけが捕虜になった。女は、火星に住む別の人種、地球人とそっくりな赤色人種の女だった。
「どえらいものを、手に入れた。この女はヘリウム帝国の王女だぞ!」
タルス・タルカスとロルクワス・トメルは大喜びだった。赤色人の国家は、緑色人の天敵なのだ。
「ヘリウム帝国から、身代金がたっぷり搾り取れますぜ」
「いや、公開拷問をした方が面白いかもしれん」
「いずれにせよ、これだけの獲物だ。皇帝陛下に献上して、どうするかは、判断に任せよう」
ヘリウムの王女は、デジャー・ソリスという名前で、赤い肌に黒髪を持つ、神秘的な容貌をしていた。火星一の絶世の美女だという評判らしい。全裸に紫の薄絹をまとい、頭と首、手足に装身具だけを付けている。どうやら、この世界ではあまりキチンとした衣服を着るという習慣がないらしい。緑色人戦士に引き立てられていく絶世の美女の姿を、遠目に眺めるジョン・カーターの目が釘付けになり、あきらかに興奮しているのが見て取れた。
「なんて、綺麗な女なんだ。あんな美しい女は、今まで見たことが無い・・・惚れたかも」
ジョン・カーターという男は、非常な面食いで、しかも思い込みが激しく、すぐに一目惚れをする性質らしかった。
「俺は、あの女を手に入れるぞ」
ボソボソと英語で呟いているのが、傍らの準一にも聞こえた。そして、翌日、2年C組の生き残りとジョン・カーター、そしてデジャー・ソリス達捕虜は、サーク族の皇帝陛下に献上されるために、廃都を出発した。護送する部隊を率いているのは、副首領のタルス・タルカスである。なぜか、ジョン・カーターは、この緑色人の副首領に気に入られているようで、捕虜の中でも、なにかと特別扱いを受けているようだった。一方、デジャー・ソリスは、監視役に選ばれたサルコジャという緑色人女性に苛め抜かれていた。
「肩を揉みな」
3メートル近い巨体の4本ある腕の一つの肩を、デジャー・ソリスが揉み始めた。しかし、か弱い手で、懸命に力を入れても、岩のような緑色人の筋肉をほぐす事は出来なかった。
「力が弱いんだよっ!」
サルコジャは、デジャー・ソリスの顔面を殴りつけた。美貌が恐怖に歪む。
「無礼な仕打ちはやめて下さい!私は、ヘリウムの王女です。私をもし、無事に逃がしてくれたなら、あなたには、莫大な褒美が送られるでしょう」
「うるさいよ。そんな事をしたら、あたしが裏切り者になるじゃないか!このメス狐め、たぶらかすんじゃないよっ!」
さらに、サルコジャは絶世の美女を足蹴にした。
「あたしのマンコを舐めな。皇帝陛下に献上するまで、体に傷を付けちゃいけないって言われているけど、それ以外なら何をしてもいいんだ!」
デジャー・ソリスは、筋肉質な緑色人女性の股間に顔をうずめ、舌を伸ばした。水の乏しい火星で、長い間、風呂にも入っていないサルコジャのオマンコは、獣のような匂いがした。
「う・・げほっ、げほっ!」
「てめえ、何、ムセこんでんだよ。あたしのオマンコに奉仕しながら、自分の手でオナニーしてみな」
デジャー・ソリスは、舌を必死に動かしながら、右手を自分の股間に伸ばし、クリトリスをまさぐった。生き延びるために、今は屈辱に耐えるしかない。
(もし、無事、脱出出来たら祖父と父に頼んで、ヘリウムの強力な飛行船団で緑色人を一人残らず絶滅させてやるわ)
彼女は赤色人国家の中でも最強の、誇り高いヘリウム王室の一族なのだ。サルコジャの愛液に口元を濡らしながらデジャー・ソリスは心に誓った。
しばらくすると、ジョン・カーターは2年C組とは別行動をとるようになった。なんでも、緑色人の族長を、1対1の正々堂々とした決闘で倒し、その地位を手に入れたらしい。殺せば、相手の地位が手に入るとは、つくづく野蛮な風習だ、と準一は思った。
「おい、お前、あたしの飼い犬の相手をしろ」
捕虜の世話係であった緑色人女ソラが、バスガイドの桑田直美に言った。長い監禁生活で、直美の着ている制服はくたびれ、やつれ果てている。ソラが連れてきたのは、体長は、1メートル余りだったが、十本の足と獰猛な牙を備えた恐ろしい動物だった。
「愛犬のウーラよ。今まで、逃亡しようとした何人もの捕虜を噛殺してきた、優秀な戦闘犬よ」
「あたしにどうしろと?」
直美は怯えていた。捕まって以来、何人もの女生徒が嬲り物にされて、面白半分の拷問で命を落としている。
「ウーラは、今、盛りが付いていてね。あなたにセックスの相手をして欲しいの」
「ひっ・・・」
直美には、火星の犬が化け物にしか見えなかった。
「嫌なら、もっと別の拷問を考えてあげようかしら」
「や、やります。犬とセックスします」
直美は、半ベソ状態だった。自分でスカートの裾をまくりあげ、ストッキングとパンティを下ろす。準一、大川先生他、生徒達は黙って見守るしかない。逆らえば殺されるのだ。下半身を晒し、ウーラにそっと抱きついた直美の体は、ガタガタと震えていた。
「そんなに怯えていたら、噛み付かれるわよ。もっと堂々と犬をリードしなくちゃ。全くジャスーム(地球)から来た人間は意気地がないわね」
そう言われても、化け物とセックスしなくてはならないという恐怖を抑えるのは、生易しい事ではない。直美は、震える手でウーラの背中を愛撫し、獣のペニスを手でしごいた。
「お願い、噛まないで・・・優しくしてあげるから」
哀願しながら、そっと直美はウーラのペニスを自分の股間に導いた。しかし、挿入した瞬間、ガブリとウーラが直美の右肩に噛み付いた。
「ひぎゃあああ!」
直美が絶叫した。その様子を見てソラは牙を剥き出しにして笑った。火星の緑色人というのは心底、残忍な性質らしい。
「ほら、痛がってないで、最後までウーラをイカせなくちゃ。でなけりゃ、あなたを殺すわよ」
「ひいいっ、死にたくない・・・」
直美はバスガイドの制服を血で染めながら、腰を動かした。しかし、恐怖のあまり失禁してしまう。
「ガルルルルル!」
ウーラが吼えた。
「あはははは!」
ソラが、高らかに笑う。準一は怒りの余り、今にも緑色人女に、飛び掛りそうになったが、必死にこらえた。まだ、その時ではない。大川先生の話だと、もうすぐジョン・カーターがデジャー・ソリスを連れて脱走を図る筈だと言うのだ。その時にこそ、脱走のチャンスが巡ってくる。今は、何があっても、こらえなくてはならなかった。幸い、直美は噛まれて重傷を負ったが、死に至る事はなく、ウーラとのセックスを無事に終えた。
数十日間の旅の後、捕虜を連れたタルス・タルカスの率いる部隊は、サーク族の本拠地である廃都へと到着した。そこには、全サーク族3万人の頂点に立つ、緑色人皇帝タル・ハジュスが君臨していた。ヘリウムの王女デジャー・ソリスを謁見したタル・ハジュスは大興奮だった。
「これは、愉快だ。あの傲慢なヘリウム帝国の王女が、我が手の内にあるとはな!このような快挙が、ここ数百年来あったであろうか。わしは、ヘリウムから身代金を搾り取るよりも、お前の美しい顔が、拷問に歪むところを見る方が千倍も楽しい。それも、ゆっくりと何ヶ月もかけてだ。覚悟するがいい、拷問は、長引くぞ。あっさり殺してしまっては、赤色人に対する、我々の気持ちが納まらんからな!群衆の面前で、サーク族が知っている限りのありとあらゆる責め苦を加えてやる。」
デジャー・ソリスは身のすくむ思いだった。天敵である種族の憎悪が、自分一人の体に向けられているのだ。
「だが、せっかくだ。殺す前に、今晩は、お前の肉体をとことん味わうとしよう。バルスーム一と言われた絶世の美女の肉体を!」
デジャー・ソリスは全裸で立たされていた。緑色人が、赤色人を犯しても子供は生まれないのだが、変質者であるタル・ハジュスはそんな事はどうでもいいらしい。デジャー・ソリスは王女らしく、毅然とした態度を保っていたが、タル・ハジュスに腕を捕まれると為す術もなくその場に組み敷かれた。緑色人の4本の腕が、それぞれ、デジャー・ソリスのか細い両手両足を押さえつける。タル・ハジュスが長い舌でペロリとデジャー・ソリスの美しい顔を舐め上げた。
「無礼者!」
「強がっていられるのも今のうちだ。火星のプリンセスよ」
その頃、デジャー・ソリスを救い出そうとしていたジョン・カーターは思わぬ事態で足止めを食らっていた。ソラから譲り受けた愛犬のウーラが、すっかり気に入ってしまった直美の肉体から離れず、引き離すのに、手間取っていたのだ。
「ウーラ!私には大事な用件があるのだ。早くその女から、離れてついて来きてくれ!」
「クーン、クーン・・・」
ウーラは、なかなか直美から離れようとしない。直美は体中を噛まれて、血だらけで泣きじゃくっている。
「どうか、ウーラよ、聞き分けてくれ。私の王女様を助けにいかなくてならんのだ!」
その様子を、準一と大川先生は、呆れて眺めていた。
「なあ、あいつ本当に主人公なのかよ!」
「ああ、間違いない。しかし、ひょっとすると、我々がこの世界に紛れ込んだせいで、原作のストーリーに若干、影響が出ているのかもしれん」
「どうすりゃいいんだ?あいつ抜きで脱走計画を立てるか?」
「まあ、待て、もう少し様子を見ようじゃないか」
準一は、舌打ちをした。