第123話、北の挑戦

 

 島根県の沖合いに一隻の漁船が接近していた。漁船には半島の北にある朝鮮民族の独裁国家から来た人間たちが、乗っていた。漁師に化けているが、実は、全員、特務機関の工作員である。

「いよいよね」

船で唯一の女性工作員である朴秀姫(24歳)が、甲板で夜の海面を不安げに見つめながら呟いた。彼女は右手にアタッシュケースを持っている。これから彼女は仲間と共に日本に上陸するのだ。漁船から上陸用の小船が下ろされた。使い古されて錆び付いたその小船は、船殻に中国製のスクリューエンジンがついただけの粗末な代物である。二人の男性工作員と共に小船に乗り込んだ秀姫はエンジンを始動させ、漁船を離れた。彼女をここまで運んできた漁船は夜が明けるまでに日本の領海から離れるために猛スピードで遠ざかっていく。二人の男性工作員と秀姫を乗せた小船は、前方に黒く浮かび上がっている日本の海岸を目指して進んでいった。3人とも緊張のあまり、一言も言葉を発しようとしない。

(この任務を成功させて、汚名をすすがなくては!)

秀姫は3年前、自分にかけられた容疑を思い出した。当時、国家主席の身の回りの世話をする喜び組に所属していた秀姫は、サッカーの親善試合の応援団として南の資本主義国家を訪問した際、情報漏洩の疑いをかけられ、あやうく政治犯収容所に入れられる所だったのだ。たまたま、その時、女性工作員の候補を探していた特務機関に目を付けられ、工作員として訓練を受ける事と引き換えに、刑の執行を猶予された。その後、『招待所』と呼ばれる訓練施設で、拉致されてきた日本人から日本語や日本での生活習慣の教育を受けた。彼女にとって、今回の日本潜入は、初の任務である。

(こんな重大な任務を任されるなんて、光栄な事だわ。将軍様のためなら、命を投げ出しても惜しくはない・・・)

秀姫の両親は、生粋の労働党員である。秀姫の運んでいるアタッシュケースの中には、新型ミサイル『テポドンX』の誘導装置が入っていた。人工衛星を持たない祖国が、ミサイルを目標に、正確に着弾させるために開発した装置である。それを着弾地点に設置するのが、秀姫の任務だった。

(この誘導装置を、宇宙人に占領されている日本の都市、さざなみ市に設置する。そうすれば、『テポドンX』が、アメリカすら手が出せない宇宙人を直撃し、祖国の軍事力を世界に知らしめる事が出来る・・・)

国際社会から孤立し、瀬戸際外交を続ける祖国の首脳部が考え出した苦肉の策だった。上陸予定地点の海岸には、日本国内の協力者が迎えに来ている筈である。彼らが用意した自動車で、さざなみ市へ向かえばよい。一旦上陸に成功してしまえば、日本国内には高速道路の料金所の外には一切検問が無い、と聞いている。まさにスパイ天国だ。日本人は、1945年以来、半世紀以上もの平和に慣れ、すぐ近くに敵意を持った危険な国家が存在する事すら、夢にも考えていないらしい。

(日本人は、宇宙人に支配される哀れな民族だ)

秀姫はさげずむように、そう考えた。

 

 無事、砂浜に上陸した3人の工作員は、乗ってきた小船を海に押し流した。空の小船はいずれ海上保安庁の巡視船に発見されるだろうが、その頃には秀姫達が、日本のどこにいるのかは、わからないはずだ。

「アンニョンハシムニカ!」

迎えに来ていた協力者が、言った。3人は、代わる代わる握手をし、その協力者が乗ってきた自家用車に乗り込む。カーナビとカーステレオがついたその日本製の乗用車は、祖国のどんな高級車よりも乗り心地がよく、今まで秀姫が、見た事もないような代物だった。

「あなたの車ですか?」

「ええ、中古で買った安物ですが」

協力者は、何気なく答えた。秀姫は内心の驚きを悟られないように平静を装った。

「さざなみ市へは、6時間ほどで着きます。そこには、あなた方の活動の拠点となる隠れ家も用意してあります」

深夜の高速道路を、自動車は東へとひた走った。中国自動車道、名神高速、東名高速と乗り継ぎ、翌日の午後には、さざなみインターチェンジから、宇宙人の支配する町、さざなみ市へと入った。途中の高速道路では料金所を通っただけで、さざなみ市へ入る際も、偽造免許証を見せ、生態認証を取られただけである。カーラジオのニュースでは、日本海沿岸で、工作船が発見されたという報道はまだされていない。

(日本人は、甘いな。祖国よりも科学技術が進んでいる事は認めるが。しかし、それも50年前、我々から搾取した富を土台にして作り上げたものだ・・・)

秀姫は、子供の頃から、徹底して日本やアメリカを憎むような教育を受けてきた。事実、秀姫の祖父も植民地時代の抗日運動で命を落とした英雄である。3人の工作員は、1LDKのマンションへと案内された。協力者名義で借りられているこの部屋が、3人の活動拠点になるのだ。

「3人で住むには、狭い部屋ですが、我慢してください。複数の部屋を借りると足が着く危険が増えますし、何より日本では、家賃がムチャクチャ高いのです」

協力者は、言い訳するように謝った。部屋には、日本製の薄型テレビ、冷蔵庫、エアコン、乾燥機付の全自動洗濯機、タンス、食卓などの外、インターネットにつながったパソコンも完備されている。祖国では、考えらないような贅沢品ばかりだ。協力者は、3人に、それぞれ日本で使えるプリペイドカード式の携帯電話を手渡した。

「では、作戦の成功をお祈りします」

協力者が去っていくと、3人の工作員達は、嬉々として部屋に設置された日本製の電化製品を触り始めた。祖国の国民のほとんどは、国外に出る事はおろか、自分の生まれた村から出る事も許されずに一生を終える。スパイ活動とはいえ、日本に住めるのは、作戦に抜擢された工作員の特権だった。

 

 翌日から、3人の工作員は活動を始めた。アタッシュケースに入った誘導装置の設置に最適な場所を探しながら、さざなみ市の情報収集も行うのだ。秀姫は昨晩、同僚の工作員に言い寄られて辟易していた。狭いワンルームマンションで、喜び組に抜擢されたほどの若い美女と一緒に、寝食を共にすれば、健康な男なら、気持ちがどうにかならない方がおかしい。しかし、喜び組でも、歌やダンス専門の『歌舞組』に所属していた秀姫は、まだ処女で、今まで、男性に体を触らせた事は一度もなく、彼らのセクハラを手ひどく跳ねつけた。その後、二人の男性工作員は、代わる代わる、秀姫の肉体を想像しながらトイレでオナニーをしていたようである。その事もあってか、3人はバラバラに行動した。情報収集といっても、さざなみ市内を周り、カメラ付の携帯電話で写真を撮って、祖国にメールで送るだけである。素人の観光客でも出来そうな仕事だった。

(アンドロイドだわ)

時々、市内を巡回するアンドロイド兵や、スペーススーツを着たネオガイア星人の姿を見かける。服装は未来的だが、彼らの容貌は、地球の白人となんら変わりない。ネオガイア星人の中には、全裸の人間犬を散歩させたり、人間馬に引かせた馬車のような乗り物に、鞭を振るいながら乗っている者もいた。奴隷管理用の首輪を嵌めた、裸の地球人奴隷を連れ歩いている宇宙人の姿もある。地球人奴隷の人種は様々だったが、割合的には、日本人らしき風貌の、東洋人が一番多いようだった。

(ざまあみろ、日本人め!死ぬまで、宇宙人に奴隷として、こき使われるがいい。過去に我々の民族にしてきた苦しみを、今度は自分達が味わうのよ!)

秀姫は、爽快な気持ちだった。彼らの哀れな姿を携帯電話のカメラにバッチリと収める。日本人が虐待されているこの写真を、祖国の幹部達が見れば、大喜びをするに違いない。市内を、宛もなく、ぶらついていると、秀姫は異様な日本風の神社のような場所に行き当たった。

(なんなの、ここは?えーと『さざなみ大社』って日本語で書いてあるわ・・・神社って事?『いよいよ来月、第二回日本奴隷祭り開催予定!』だって・・・)

その神社は、出入り自由のようだった。秀姫の他にも参拝客らしき人影がチラホラと見える。何気なく、秀姫は、神社の奥へと入っていった。そして一番奥の本尊で、そこに祭られている異様な物体を目にして、秀姫は腰を抜かさんばかりに驚いた。

(バ、バケモノ!)

それは、数十人の裸の若い女をメチャクチャにつなぎ合わせた合生体だった。女達は全員日本人のようで、かなり長い間、ここに、こうして祭られているのか、表情は全員虚ろである。どことなく全体的に見れば、神輿のような形状だった。

「これが、御神体か。今年も『祭り』のパレードに出てくるのかなあ」

「そりゃ、そうだろう。神社の入り口に、今年もやるって、看板が出てたぞ」

「せっかく来たんだ。有難い御聖水を頂こう」

他の参拝客達の会話を、秀姫は耳をそばだてて聞いていた。参拝客たちは、次々に、御神体の傍らに置いてあったヒシャクを手に取ると、合生体を構成している美女の股間に差し伸べている。ヒシャクを差し出された、その部分を構成する美女は、チョロチョロとオシッコを股間から絞り出した。

「うまい!」

聖水を一気飲みした参拝客の男の一人が言った。

「本当にうまいのか?それオシッコじゃねえの?」

「馬鹿!御聖水と言え!これからも家内安全でありますように・・・ほらっ、お前も飲めよ!」

「いや、俺は遠慮しとく」

会話を聞きながら、秀姫も、好奇心に駆られ、一口、聖水を飲んでみようとヒシャクを手に取った。しかし、美女の股間から放出された聖水を口に含んだ瞬間、秀姫は思わず、ムセて吐き出した。

(ま、まずい・・・やっぱり、やめとけばよかった!)

秀姫は自責の念に駆られた。

 

 秀姫は、美女の合成体の姿を、携帯電話のカメラに収めた。そして、何気なく観察していると、数人の神主や、巫女が現れ、柄付ブラシや雑巾で合生体の体を洗い始めた。巫女の一人は、バケツいっぱいにドロドロの雑炊のようなものを入れてきて、オタマで美女の口から食べさせている。

「ねえ、そいつばっかりじゃなくて、あたしにも食べさせてよ!」

別の頭部が文句を言った。巫女が露骨に嫌な顔をする。

「誰に食べさせたって、同じでしょ。あなた達全員、血管がつながっているんだから」

「そういう問題じゃないわ。あたしもう、3ヶ月も何も食べてないのよ。ここに、ずっと安置されて、退屈で気が狂いそうなのよ。食べ物の味だって忘れそう・・・」

「そんなに、欲しけりゃあげるわ!」

巫女は、オタマで、すくいあげた雑炊を、文句を垂れている美女の頭からぶっかけた。

「ひっ!」

美女は、驚いたようだったが、手で髪の毛にベットリとついた雑炊を口に運んで、美味しそうに貪り始めた。

「退屈なら、オナニーでもしてな!」

食事係の巫女は、吐き捨てるように言った。秀姫は、日本語のその会話を聞いていたが、やがて御神体の傍を離れ、神社の別の社を見学した。別の場所では、コマイヌの代わりに、頭部をブルドックと入れ替えられた女や、豚頭の男、髪の毛の代わりに蛇を埋め込まれた女などが鎖で繋がれて、石の台座の上に座っていた。いずれもネオガイア星人の医学で改造された合成人間達である。彼らは年一回の祭りのパレードの時以外は、この神社で静かに暮らしているのだ。秀姫が、そんな彼らの姿を写真に取り、メールで本国に送りながら、アジトであるワンルームマンションに戻ると、同僚の男性工作員二人が、必死にテレビやパソコンのインターネットにかじりついていた。

「コマーシャルって面白いなあ。なんだか、よく判らないけど、面白いよ!」

「コマーシャル?資本主義社会の洗脳システムの事?そんなの見ているとあなたも、堕落した資本主義思想に犯されるわよ」

秀姫はたしなめた。もう一人は、インターネットでひたすらエロ画像を閲覧していた。

「やめなさいよ!本国に帰ったら報告するわよ!」

「固い事言うなよ、朴同志。日本にいる間だけさ・・」

二人の男子工作員は、秀姫の忠告に全く耳を貸そうとしなかった。

 

 さざなみ署の捜査課では、青山優作刑事(36歳)が、コンビを組んでいる同僚の中津絵里子刑事(33歳)に捜査資料を見せていた。二人とも、脳内にはネオガイア星人によってコンピューターチップを埋め込まれ、下半身は露出している。これが、さざなみ市名物のフルチン、フルマンポリスのスタイルだ。

「さざなみ市でのスパイ活動の取締まりを強化するようにと、総督府から命令が来た」

「強化?今更?すでに、やってるわ。今日も、北朝鮮の工作員3名が、市内に入り込んだという情報を掴んだし」

「どこからの情報だ?」

「さざなみ市へ入国する際の生体認証チェックで、提示された免許証が偽造だって判ったのよ。鑑識の所見は、こんな、幼稚な偽造免許で、堂々と入国してくる奴の気が知れん、だって」

「北朝鮮だからな・・・すぐに捜査しよう」

「こいつは、どうするの?」

絵里子は、一枚の書類を指差した。それは、イギリスのMI6の情報部員の資料だった。

「チャールズ・モンドか・・・殺しのライセンスを持っているって言う伝説のスパイだな。母国イギリスでは、彼をモデルにしたスパイ映画のシリーズが大ヒットしている」

「女ったらしの情報部員よ。スパイ活動で関わりを持った女性とは、片っ端から肉体関係を結ぶ色情狂らしいわ。女性の敵ね」

そう言いながらも、イケメンのナイスミドルなイギリス人男性に、絵里子は、興味深々のようだった。

「殺しのライセンス、と言ったってイギリスが認めているだけだろう。他国でやればタダの殺人犯だ」

優作は渋い顔をした。その他にも、リチャード・ファーマーと言うCIA工作員や、中国、ロシアの情報部員もさざなみ市に入り込んでおり、その数は警察が掴んでいるだけでも、100人を超える。その事を思い出すと、優作は、コンピューターチップを埋め込まれた頭の芯が痛んだ。

「とにかく、情報を元に、聞き込みを続けよう。地道な捜査が大切だ。ヘレンを連れて来てくれ。出掛ける」

ヘレンと言うのは、人間警察犬に改造された白人女である。鼻に嗅覚センサーが埋め込まれており、人間の数万倍の嗅覚を持つ。彼女は、ムカデ星人襲来の際に、サイボーグ戦隊の一員として華々しい戦果を挙げた優秀なサイボーグだ。絵里子に檻から出されて、鎖に引かれて来たヘレンは、全裸で四つん這いの姿だった。

「ブヒー、ブヒー、ウーワンワン!」

ヘレンの脳には、豚と犬の行動パターンが刷り込まれている。優作は、早速、ビニール袋に入った、履き古されて片方しかない黒靴下を、取り出した。

「これはチャールズ・モンドが、行きずりの女とセックスをした際に忘れていった靴下だ。今日は、この靴下の匂いから、モンドを追跡しようと思う。嗅げヘレン、よーく、この匂いを覚えるんだぞ」

ヘレンはビニール袋から取り出された靴下の匂いを嗅ぎ、あまりの臭さに卒倒しそうになった。

「ブヒー、ブヒー、おげえええ!」

「顔を背けるんじゃない!ちゃんと嗅げ、豚犬!」

ヘレンは、涙ぐみながら、豚鼻に改造された鼻を靴下に押し付け、強烈な臭いを脳裏に刻みつけた。

「よし、出動だ!」

下半身丸出しの刑事、優作と絵里子は、鎖に繋がれた四つん這いのヘレンを連れて町へ出た。

 

 二人と一匹は、市内を半日間、歩き回った。しかしヘレンは、チャールズ・モンドの匂いの痕跡を見つけることは出来なかった。

「役立たずの豚犬!」

優作は、ヘレンの尻に蹴りを入れた。ヘレンのオマンコは常に発情しているために、だらしなく愛液を垂れ流している。ヘレンは悲しげに嘶いた。

「仕方がない。情報屋をあたってみるか」

優作と絵里子は、ある公園を訪れ、その片隅に立っているバラック立ての小屋の一つに声をかけた。

「おい、浮浪少女!いるか?さざなみ署の青山だ」

バラックから出てきたのは、薄汚れてボロボロのTシャツとジーパンを履いた少女だった。悪臭が漂い、やつれ果てている。

「何か、用?今日は、気が乗らないから、靴磨きは休みだよ」

浮浪少女、矢萩麻衣(21歳)はぶっきらぼうに言った。その目が、警察関係者への敵意で満ちている。

「お前、最近、噂じゃ、コソ泥も、やってるんだってなあ。パクってやろうか?あーん?」

優作は、弱いものをいたぶる快感に酔いしれて言った。

「ふん、証拠もない癖に・・・」

麻衣は、ひるまない。優作は、上着のポケットから、スパイ達の顔写真を取り出し、一通り、麻衣に見せた。

「こいつらを見かけなかったか?」

「見かけた、って言ったら、いくらくれる?」

「ちゃんとした情報なら500円やるぞ!その代わりガセネタだったら豚箱にぶち込んでやるからな!」

麻衣は、写真の中の一枚を指差した。それは、朴秀姫の写真だった。

「こいつ、知ってるよ。数日前から、あのマンションに出入りしている。一回、靴磨きをしたけど、日本語がなんだか変だった」

麻衣は通りの向こうにあるワンルームマンションを指差した。麻衣は、浮浪少女になる前は、進学校でもトップクラスの成績で、記憶力は抜群に良い。警察に情報を売る仕事も始めてから、不信な人間の顔は覚えるようにしていた。

「本当か?よし、他に手がかりもないし、あのマンションを張り込もう」

二人の刑事とヘレンが立ち去ろうとした時、バラックの奥から、異様な生物が這い出してきた。それは、ケーブル人間に改造された木之本恵美、(28歳)だった。

「う・・・ああ・・・ヘレン!お前は、ヘレン!」

恵美の肉体は、頭部と、両足がバラバラに切断され、ケーブルで繋ぎ合わされている。両足は、麻衣が、小遣い欲しさに、脚フェチの男に売り払ってしまったため、今では、頭部と腕の生えた胴体しか、残っていない。ちなみに、もう一人のケーブル人間、原田慶介は、完全に頭がおかしくなって靴磨きの仕事に使えなくなったため、半年前に麻衣が路地裏に置き去りにして、捨ててしまっていた。

「ブヒー、ブヒー・・・誰?」

「まさか、忘れたの!あたしよ、木之本恵美よ。あなたのせいで、無謀な作戦に巻き込まれて、こんな姿になってしまったのよ!」

恵美は、ヘレンを許す事が出来なかった。この女が、世界を救うためなら、あたし達の命なんて安いものよ、なんて格好を付けたセリフを言い出したために、こんな目に合わされる事になったのだ。

「あの時、あなた一人で宇宙人の船に突入すれば良かったのよ!あたしにとって、あたしの命は地球より重いのよっ!」

恵美は、ケーブル人間として生きた、この2年間、溜め込んでいた怒りを一気に爆発させていた。ヘレンはようやく、CIA工作員時代の、オリンポス特攻作戦の時の事を思い出したが、恵美に詫びる気にはなれなかった。今でも、自分の判断は間違っていなかったと思うし、ヘレンも、宇宙人の捕虜になった後、人間警察犬として屈辱に満ちた生活を送っているのだ。ヘレンは、無言で、冷たい視線を、地面に転がっている恵美の肉体に投げかけると、犬のようなしぐさで、前足を使ってライトブラウンの髪をかき上げ、片足をあげてオシッコをした。

「てめえ!人ん家の前で、何しやがる!」

麻衣が叫んだ。

「ほら豚犬、さっさと行くわよ!」

絵里子と優作に鎖を引っ張られて、ヘレンは小走りに走り出した。

 

 CIA工作員のリチャード・ファーマー(44歳)は、さざなみ市内にある高級ホテルに宿泊していた。今回の任務には、エスパーであるジョーイ・ファレル(22歳)とバーバラ・サンダース(23歳)も同行している。二人とも、超能力を見込まれてCIAにスカウトされたのだが、工作員としては新人で、今回が初任務だった。一応、アメリカ国内の秘密施設でスパイとしての、一通りの訓練は受けている。

「これが、この町に潜入している北朝鮮の工作員の顔写真だ」

リチャードはテーブルの上に、3人の東洋人の顔写真を並べた。男二人に女一人だ。女は若く、かなりの美人である。

「北朝鮮のミサイル基地を監視していた、わが国の偵察衛星が、ミサイル発射の兆候をつかんだ。どうやら、標的は、このさざなみ市らしい」

リチャードが説明した。ジョーイとバーバラは、初任務にはしゃいでいる。

「やらせておけば、いいじゃん。宇宙人とテロ国家が勝手にドンパチやってくれれば、面白いじゃん」

ジョーイが無責任な発言をした。バーバラは、写真の女の顔を眺めて、自分より美人かどうかを、品定めしている。

「そうもいかん。今、宇宙人を刺激するのは、まずい。我が国の反撃計画に支障が出る。まだ充分な準備が整っていないんだ。もし、今、地球と宇宙人の全面戦争になれば敗北する可能性が高い」

「宇宙人なんて、俺のスプーン曲げの超能力があれば、大丈夫だって!」

ジョーイは自信満々だった。

「とにかく、今回の任務は、この3人が持ち込んだ、テポドンXの誘導装置を破壊することだ。バーバラ、君の超能力で、この写真から、彼らの居場所を念写してくれないか?」

「いいわよ。なんだか、あたし、この朴秀姫って女に、個人的に興味が沸いてきたわ」

元ハリウッド女優であるバーバラは、この女に自分の美貌を見せ付けて、劣等感を味合わせてやりたい、という衝動に駆られた。写真に手を当て、精神を集中する。『カード当てのバーバラ』という異名をとる彼女の超能力は念写だった。バーバラが念写している間、リチャードは、アメリカの秘密基地に残してきた城山朋子の事を思い出した。朋子は今回の任務に参加したがったのだが、宇宙人に改造された肉体があまりにも、人目を引くために、断念せざるを得なかったのだった。

「ウーン、ウーン・・・・わかったわ!」

十数分後バーバラが、さざなみ市の市街地図の一点を指差した。

「ここに、この3人がいる」

「さすがだ、バーバラ。君の超能力は素晴らしい。」

リチャードが満面の笑みを浮かべて立ち上がった。

「今回の任務は、イギリスのMI6との共同作戦だ。MI6のチャールズ・モンドがすでに、この町に先行して潜入しているはず。まず彼とコンタクトをとろう。」

日本が、宇宙人の側についた今、イギリスはアメリカの最大のパートナーである。リチャードは、携帯電話を取り出し、チャールズ・モンドに電話をかけた。

 

 チャールズ・モンド(38歳)は2週間前からさざなみ市に潜入していた。イギリスの商社マンを装い、JAM航空の旅客機でさざなみ市に入国したのだった。地球の航空会社で、さざなみ空港に乗り入れを許可されているのは、去年、宇宙人に買収されて子会社になったJAM航空の旅客機だけである。チャールズは、ファーストクラスの座席で受けたスチュワーデスのセックスサービスを忘れる事が出来なかった。

(これからは、JAM航空を利用しよう)

と、異常なくらいの女好きであるチャールズは心に決めた。約12時間のフライトの間にチャールズは、搭乗していた6人のスチュワーデス全員とセックスをした。スパイという職業柄、現在も独身だったが、絶倫な精力だけは自身があった。さざなみ市に着いた後も、ホテルのスイートルームに宿泊して、本来の任務である情報収集を適当にこなしながら、一日のほとんどの時間をナンパに費やした。

「私、日本、初めてなのです。もし、よろしかったら、***まで案内してくれませんか?」

無知な外国人旅行者を装って、ターゲットに定めた女性に声をかける。

「すいません、携帯電話をなくしてしまったんです。番号を教えるので、呼び出し音を鳴らしてもらえませんか?・・・おっと、上着のポケットに入っていました。ありがとう」

と言って、着信履歴に残った相手の携帯電話番号をゲットし、しばらくしてから電話をかけたりする。

「先程はありがとう。ぜひ御礼がしたいです。イタリア料理でも、御馳走させて頂けませんか?」

成功率はそんなに高くない。しかし、根気よくやっていると、一日に最低一人は必ずヒットし、日本についてから、CIAのリチャードから連絡が来るまでの一週間の間に、14人の女性とセックスをする事が出来た。

『CIAのリチャード・ファーマーです』

電話がかかってきた時、チャールズはため息をついた。

(やれやれ、仕事か。面倒くせえな・・・)

『北朝鮮の工作員の居場所がわかりました。彼らと接触する前に、あなたとコンタクトを取りたいのですが』

「ああ・・・悪いが、ちょっと、今取り込み中でね。先に行っててくれ。後から、俺もいく・・・」

チャールズは、ナンパした女子大生とスイートルームでセックスの最中だった。

『そうですか、事前に、あなたと打ち合わせをしておこうと思ったのですが。』

「今、別の仕事で、どうしても手が離せなくてね。スマン」

チャールズは、場所だけ聞くと、いまいましげに電話を切った。セックスの最中に電話がかかってくる事が、この世で一番腹が立つ。チャールズは再び、ダブルベッドに裸で寝転がっている、茶色に髪の毛を染めた日本人女子大生の胸に顔を埋め、小ぶりのオッパイの先にある乳首を舌で転がし始めた。

 

 リチャードとバーバラ、ジョーイは、ワンルームマンションのドアの前に立っていた。これで、7件目である。バーバラの念写は、なかなか当たらず、その度に念写をやり直していた。

「ジョーイ、頼む」

「まかせてくれ」

ジョーイこと、『スプーン曲げのジョーイ』はドアノブを握り締め、思念を集中した。ここ数ヶ月で彼の超能力は大幅にレベルアップしている。

「きたきたきたきた!」

ドアノブを握ってうなり始めてから10分後、いきなり金属のドアノブが飴のようにグンニャリと曲がった。

「よし、突入だ」

リチャードが先頭を切ってマンションの部屋に飛び込んだ。3人の手にはサイレンサー付のオートマチック拳銃が握られている。部屋の中では、一人の東洋人の男がテレビにかじりついていた。

「誰だ!」

男は、侵入してきた3人の白人の姿に驚き、立ち上がって、とっさに身構えた。テコンドーの構えだ。

「お前、日本人じゃないな」

プスッ、プスッと音がして、リチャードの銃口から鉛弾が発射された。足を撃たれた朝鮮人の男は、床に倒れ込み、のた打ち回る。

「ヒギャアアアア!」

「お前、一人か?他に仲間は?誘導装置はどこにある?ジョーイ、バーバラ、部屋を探してくれ!」

他には部屋に、誰もいないようだった。荒事には慣れていないジョーイとバーバラが、ヘッピリ腰でタンスや押入れを開け、中のものを引っ張り出して誘導装置を探し回る。しかし、どこにもそれらしき物は発見出来なかった。

「どこへやった?ミサイルの誘導装置は?」

リチャードが、倒れている男の脇腹を何度も蹴った。肋骨が折れたのか、男は血を吐いているが、なぜか、せせら笑っている。

「・・・お、お前ら、何者か知らないが残念だったな・・・テポドンXの誘導装置は、すでに仲間が設置を終えている頃だ・・・将軍様、万歳!」

男は、奥歯に仕込んであった毒薬のカプセルを噛み砕いた。ガクッと首がうなだれ、絶命する。力の抜けた男の肉体には、もはや脈はないようだった。

「しまった!・・・バーバラ、もう一度念写だ。残りの二人の居場所を探してくれ!」

この男の話が本当だとすれば、いつミサイルが発射されてもおかしくはない状況だ。今、この瞬間にも、北の独裁国家では、発射ボタンが押されているかもしれない。バーバラが、念写のために、市街地図を開いて精神を集中していると、マンションの廊下からドタバタと人間の足音がした。

「ウー、ワンワン!」

犬の鳴き声を聞いて、振り返ったリチャードが見たのは、四つん這いの裸の白人女と、下半身を露出させた日本人の男女だった。

「動くな!警察だ。動くと撃つぞ!」

青山優作刑事が、叫んだ。手には命中率の悪そうなリボルバーを構えている。浮浪少女の情報を元に、マンションの前で張り込んでいたのだが、騒ぎが起こったため、踏み込んできたのだ。リチャードは、犬のように四つん這いになっている裸の女の顔に見覚えがあった。

「ヘレン!ヘレン・マンスフィールド!」

「ブヒ?・・・リ、リチャード!リチャード・ファーマー?」

ヘレンも気づいたようだった。二人は3年前まで、CIAでコンビを組んで仕事をしていた同僚だったのだ。小国の政権転覆や、クーデターの情報操作。要人暗殺、機密情報の奪取など、数々の困難な任務を共にこなしてきたベストパートナーだった。しかし、今のヘレンは脳内コンピューターを埋め込まれた、宇宙人の犬型サイボーグに過ぎない。

「ウー、ワンワン!こいつらアメリカのCIAだワン!」

「何、CIA?」

優作と絵里子が浮き足立った。リボルバーを構える手が震えている。平和な日本の警察官である二人が、百戦錬磨のCIA工作員に敵うはずがない。リチャードは、変わり果てたヘレンの痛々しい姿を見て、胸が痛くなった。

「ヘレン!なぜ、宇宙人の味方をする?」

「あたしの体は、改造されてしまっているワン。あたしの意思と関係なく動くブー」

やっぱりそうか、とリチャードは思った。保護した地球人サイボーグ、工藤明日香も同じ様な事を証言していた。

「ヘレン、こいつらをやっつけろ!逮捕するんだ!」

優作が叫んだ。ヘレンは命令には逆らえず、次の瞬間にはリチャードに飛びかかる。仕方なくリチャードはサイレンサーの弾を、ヘレンの体に撃ち込んだ。ヘレンの動きは一瞬止まったが、鍛え抜かれた精神力を持っている彼女は、銃弾を浴びても、顔をしかめただけで、悲鳴一つあげない。

「ジョーイ、バーバラ、ひとまず退散だ!」

リチャードは、オートマチックを連射しながら入り口を塞ぐ二人の刑事に突進した。

「おわあっ!」

優作は、撃ち合うために、リボルバーの引き金を引くが、実戦に慣れていないため、空しく、弾は天井にそれてしまう。

「キャアアアアッ!」

絵里子が、胴体に弾を受けて悲鳴をあげた。白いブラウスの胸元が血で赤く染まっていた。ゆっくりと絵里子は膝をつき、体が崩れ落ちていく。

「絵里子おおおっ!」

呆然として絶叫する優作の脇を、リチャードとバーバラが駆け抜ける。怒り狂った優作が、最後に駆け抜けようとしたジョーイに掴みかかった。

「お前ら、許さねえ。平和な日本で血を流しやがって!ここは外国の戦場じゃねえんだよっ!」

優作の怒りのパンチがジョーイの顔面にヒットした。それでも、気持ちが治まらない優作は、ジョーイの体をボロ雑巾のようになるまで殴り続けた。そして、疲れてわれに返ると、さざなみ署に携帯電話で連絡をした。

「・・・容、容疑者1名確保。犯人はCIAと判明。二人に逃げられました。こちらは刑事1名と警察犬1匹が負傷。至急、救急車を回してください。それから奥に死体が一つ転がっています、鑑識も回してください・・・繰り返します・・・」

優作の目に涙が溢れた。脳にコンピューターチップを埋め込まれ、宇宙人にコントロールされていても感情だけは残っているのだ。

 

 リチャードとバーバラは、マンションの近くに駐車してあった黒塗りのベンツに乗り込むと、猛スピードでスタートさせた。

「ジョーイが!」

バーバラが半狂乱になっていた。先程までの、スパイごっこの遊び気分は消し飛んでしまっている。ベテランのリチャードは冷静だった。

「今は、誘導装置を破壊する事が先決だ。ジョーイはその後で助けるしかない。バーバラ、走っている車の中じゃ、集中出来ないかもしれないが、ここで念写をやってくれ」

「わかったわ」

しばらくすると、リチャードの携帯電話が鳴り、出るとチャールズ・モンドからだった。

『おい、おいリチャード。今、どこにいる。俺をからかっているのか?言われた場所に行ったが、小学生の子供が一人で、お留守番をしているだけだったぞ』

チャールズは、バーバラが間違えて念写した最初の家へ行ったのだ。その時、後部座席で念者をしていたバーバラが歓声を上げた。

「やった、わかったわ!北朝鮮の工作員はここよ。えーと、市街地図では、さざなみ放送局のテレビ塔って書いてあるわ」

誘導装置はなるべく高い場所に仕掛ける方が、ミサイルの命中精度はあがる。その事を考えると、今度の念写の信憑性は、かなり高い。

「聞いたか、チャールズ。テレビ塔だ。今度はすぐに来い!こっちは仲間を一人やられたんだ!」

『わかったよ。そんなに怒るなって』

チャールズは、あまり気乗りがしないようだった。

 

 さざなみ署の取調室では、逮捕されたジョーイ・ファレルがボコボコにされていた。全身痣だらけで、口の端から血を流している。ハンサムだった顔も倍ぐらいに腫れ上がっていた。

「お前、CIAだろ、あーん?何の目的でさざなみ市に来たんだ?」

青山優作刑事が、暴力尋問を行っている。相棒の中津刑事が重症で、生死の境をさ迷っており、かなり荒れていた。

「CIA・・・何の事だ・・・僕は、観光でこの町に来ていただけだ・・・」

「うそつけ!」

また一発、優作が顔面を殴った。ジョーイの前歯が折れ、口元を押さえた手の間からゴボゴボと血が流れ出す。優作はジョーイの胸元を掴んで椅子から立ち上がらせると、リボルバーの銃口をジョーイの股間に押し付けた。

「いい加減に吐かねえと、ここが使い物にならなくなるぜ。お前のタマタマを一個ずつ握りつぶしてやろうか、あーん?」

「ひいいいいっ!」

そこが、新人工作員であるジョーイの限界だった。ジョーイは、さざなみ市に来た目的や、テポドンXの誘導装置の事などを、洗いざらい喋った。

「なんだと?誘導装置?弾道ミサイルには核を積んでいる可能性もあるだって?」

優作は考えた。この事はすぐに植民地総督府のネオガイア星人に知らせなければならない。おそらく、さざなみ市は2年前のようにエネルギーバリアで包まれる事になるだろう。優作は容疑者の供述を課長に報告すると、犬小屋からヘレンを引き吊り出した。リチャードに撃たれたヘレンだったが、弾はなぜか急所を外れており、血を失って貧血気味だったが、細胞回復促進剤で傷口は塞がっていた。

(リチャードがわざと急所を外してくれたんだワン)

とヘレンは密かに考えていた。

「豚犬!出動だ!絵里子を撃ったスパイどもを全員逮捕して、刑務所へ送ってやる!」

優作は、ヘレンを乗せて覆面パトカーを走らせた。

 

 さざなみ放送局では、その日も美人アナウンサーが、大股開きでニュースの原稿を読み上げていた。その収録が行われている放送局ビルを跨ぐ様に、高さ200メートルのタワーがそびえ立っている。ネオガイア星の技術をミックスして建造された、このテレビ塔からは、いつでも全世界のチャンネルを電波ジャックして、ネオガイア星人の意思を伝えるための放送を流すことが出来る。高さ150メートルの位置にある展望室の、吹き曝しの踊り場に、朴秀姫と、もう一人の工作員、高宗錫は、テポドンXの誘導装置を設置した。

「任務完了の報告を、本国に送るわ」

秀姫は携帯電話のメールを送信した。本国のミサイル発射基地では、燃料の注入を終えた弾道ミサイルが、発射ボタンが押されるのを今や遅しと、待っているはずだ。二人が、展望室に戻り、エレベーターで地上に降りようとした時、上がってきたばかりのリチャードとバーバラに鉢合わせした。

「あっ、写真の女!」

バーバラが思わず叫んだ。秀姫と宗錫はギクリとする。二人は、とっさに自分達の正体を知る者と出くわした事を悟った。リチャードは内ポケットのサイレンサーに手を伸ばしたが、秀姫と宗錫は身を翻し、展望室を後戻りすると外階段を駆け下り始めた。

「捕まえて、誘導装置を仕掛けた場所を吐かさなくては!」

「やっぱり、実物を見てもあたしの方が美人ね」

リチャードとバーバラが追いかける。階段の上からリチャードがサイレンサーを撃ったが、目標には当たらず、階段の骨組みに当たって、跳弾するだけだった。

「チャールズ!階段だ。挟み撃ちにしよう!階段を上がってきてくれ」

リチャードが携帯電話で、そろそろ、遅れて現場に到着するはずのチャールズに指示をした。

『階段?冗談だろ。この塔を階段で上がれってか』

「嫌なら、上がってこなくてもいい!下で待ち伏せしてくれ!」

リチャードはイギリス人の、やる気の無さに心底腹が立った。階段を駆け下りながら、リチャードは、ふと空の色がおかしい事に気付いた。

(エネルギーバリアだ。宇宙人が北朝鮮の攻撃計画に気付いたに違いない)

これで、さざなみ市が被害を受ける事はない。しかし、問題はそういう事ではなく、実際に攻撃が行われた場合の宇宙人の地球国家に対する反撃である。なんとしても、さざなみ市へのミサイルの着弾を阻止しなくてはならない。フラフラになりながら150メートルの階段を駆け下りた時、階下では、アルマーニのスーツを着たチャールズが、同じくフラフラになって息の上がっている北朝鮮の工作員を、悠々と取り押さえていた。

「俺は、殺しのライセンスを持っている。このまま、お前らを撃ち殺してもイギリスに帰れば、お咎めなしだ。どうだね。誘導装置をどこにセットしたか言うかね?」

「誰が、言うものか!将軍様、万歳!」

宗錫が、決死の覚悟で飛びかかろうとすると、チャールズはサイレンサーでためらいも無く、あっさりと宗錫を撃ち殺した。

「殺しのライセンスを持っている、と言っただろう。さあ、お嬢さん、どうするね。俺としては、女は殺したくない。特にあなたのような美しい女性はね。素直に白状してくれれば、これからホテルのスイートルームに連れて行って、今まで君が味わった事のないようなテクニックで可愛がってあげるよ」

「汚らわしい、資本主義の犬め。誘導装置は、展望室の外階段にセットしたわ。でも、もう遅い。さっき設置完了のメールを本国に送ったから!」

リチャード、バーバラ、チャールズの顔が真っ青になった。誘導装置がここにあると言う事は、弾道ミサイルはこの場所に落ちるのだ。

 

 北朝鮮北部のミサイル基地では、基地司令官が、平壌からの連絡を受けていた。電話の相手は、この国の最高権力者である。

「日本に潜入した工作員から、誘導装置の設置完了の報告がありました。弾道ミサイルへの液体燃料の注入も完了しており、テポドンXはいつでも発射出来ます。」

「核は積んだのか?」

「はい、弾頭には、ヒロシマ型の30倍の破壊力を持つ、水素爆弾を積み込んでいます。いかに宇宙人と言えども、無傷では済みますまい。我が国の国力を全世界に示す、またとないチャンスです。成功すれば5カ国協議も、有利に進むでしょう。ただ、核を落とせば、宇宙人だけではなく日本の国土にも相当の被害が出ると予想されますが」

「かまわん。日本人が、大戦中に我々の民族に加えた暴虐に比べれば、奴らの国が放射能にまみれようと、大した事ではない。逆に謝罪を要求してやればいい。奴らは、何を言われても、ひたすら謝る事しか知らんからな」

「計画通り、テポドンXと同時に、通常爆弾を搭載したノドン型ミサイル10発を発射します。日本の防空システムに対する目くらましです」

「うむ、作戦の成功を祈る」

北朝鮮の総人口は、公式発表では2200万人だが、長年に渡る飢餓と圧制、極端な軍事偏重政策のため、人口が激減し、現実には1000万人を切ろうとしている。まさに政権は、崩壊寸前だった。なんとかして5カ国間協議で譲歩を引き出し、外国から食料、物資の援助を受けなくてはならない。

「サム、イ、イル、ヨン、(3,2,1,0)発射!」

基地司令官が、ミサイルの発射ボタンを押した。2006年、8月6日、17時14分。11基のミサイルは煙の尾を引き、日本海を越えて、さざなみ市へと飛び立っていった。

 

 総理大臣は、党本部で次期総裁選の候補者について、党の有力者達と協議中だった。そこへ、秘書官が慌てふためいて駆け込んでくる。

「何事だ!宇宙人でも攻めてきたのか!」

「宇宙人ではありません!北朝鮮が、我が国に向けて弾道ミサイルを発射しました!」

「馬鹿な!ミサイルだと・・・状況を詳しく説明しろ」

「はっ、発射されたのは、合計11基で、そのうち4基は、日本海沿岸で、海上自衛隊のイージス艦とパトリオットミサイルによって撃ち落とされました。しかし、残りの7発は、我が国の国土に着弾しました・・・」

「ど、どこに落ちたのだ・・・」

「正確な着弾地点と、被害状況については、現在調査中ではありますが・・・京都に1発、岐阜に2発、長野に1発、静岡に3発落ちました。防衛庁の見解では、弾道から推測して、さざなみ市を狙ったものかと・・・」

「さざなみ市・・・ま、まずい・・・北朝鮮め、余計な事を・・・宇宙人を怒らせたら、何をされるか判らんぞ・・・」

総理大臣は、宇宙人に加えられえた数々の虐待を思い出して身震いをした。土下座でネオガイア星人総督の靴の裏を舐めて、済む問題とは思えない。

「幸いにも、弾道ミサイルの精度は低く、宇宙人の占領地域に落ちたミサイルは一発もありません。しかし、京都の市街地に落ちたミサイルは、テポドンXと思われ、不発に終わったものの、核を積んでいたらしく、着弾地点一帯に、放射能汚染が広がっています」

「あわわわわ・・・最悪だ・・・すぐに自衛隊を京都に災害出動させろ。まだ撃ってくるかもしれん。全国に非常事態宣言を出せ。それから記者会見の用意だ。国民に平静を訴えねばならん」

総理大臣は、取り乱していた。もうすぐ任期が切れると言うのに、とんでもない事態ばかりが起こる。今すぐにでも、総理を辞職したいくらいだった。

 

 ミサイルの着弾による死者、247人。放射能汚染による被爆者を含む負傷者の数は1000人を超えていた。被害はテポドンXの落下した京都に集中している。

「総理、北朝鮮が声明を発表しました。」

総理官邸で事態の成り行きを見守っていた総理大臣の手に、秘書官が声明文のコピーを手渡した。

「なに、よこせ。・・・『我々は、地球を侵略しようとする宇宙人に正義の鉄槌を下さんとするものである。宇宙人の犬となり、国際社会を裏切った日本政府は、ただちに全世界に向けて謝罪するべきである』だと・・・なんで、ミサイルを撃ち込まれた日本が謝罪しなくてはならんのだ!無茶苦茶な理論だ!」

「北朝鮮ですからな・・・」

総理大臣が激怒していると、さざなみ市の植民地総督府と繋がっている、テレビ電話の呼び出し音が鳴った。

「ひっ・・・宇宙人だ・・・どうしよう。なんて言い訳すればいいんだ・・・」

「とにかく出てください、総理」

総理大臣が、震える手でテレビ電話の受信ボタンを押すと、冷酷なネオガイア星人、ピタゴラス総督の顔が映った。

「総理大臣、この攻撃は一体どう言うことだね?我々に逆らおうというのかね?」

「い、いえ、滅相もない・・・これは、別の国家が勝手にやった事です。我が国としても波打ち際でミサイル攻撃を防ぐべく、最大の努力は払ったのですが・・・」

「では、なぜ加害者である、その国が日本に対して謝罪を要求しているのかね?」

「それには、長い、今までの歴史的経緯が・・・」

総理大臣は、必死にピタゴラス総督に、朝鮮半島と日本の歴史について説明した。

「そういう事か・・・それは、実に面白い!」

「はっ?」

真性サディストであるピタゴラス博士の顔が輝いた。何か、楽しい事を思いついたらしい。

「日本は、マゾ国家だ。もっとミサイルを撃ち込んで頂くよう北朝鮮様にお願いしなさい。どんなに被害が出ても、撃ち込まれてくるミサイルを決して迎撃してはならん!」

「は?」

「言う事が聞こえなかったのか?さざなみ市の事は心配いらん。核攻撃をされても大丈夫なように、しばらくの間、またエネルギーバリアを貼っておく。それから、竹島の領有権を韓国様に渡しなさい。国民全部が、心の底から、謝罪するのだ。一億総土下座だ!生意気な事を言って済みませんと、世界に向けてマゾ国家宣言をするのだ」

「ええっ!そ、そんな・・・それでは日本の主権が・・・」

「心配するな。いずれ、地球は全て、我々ネオガイア星人のものとなる。それまでの、短い間のお遊びだよ」

通信が切れた。総理大臣は悩んだが逆らう訳にはいかない。相手は日本全土を灰にするだけの軍事力と科学力を持っているのだ。2日後、総理大臣は、急遽開かれた、国連の安全保障理事会に出席し、マゾ国家宣言を行った。

「北朝鮮様!もっとミサイルを撃ち込んでください!決して抵抗いたしません。経済援助も、技術提供もお望み通りいたします。どんどん我が国にお申し付け下さい。70年前の植民地支配の御無礼を、どうかお許し下さいっ!」

各国の国連大使が唖然として見守る中、総理大臣は北朝鮮代表の前で、手をついて深々と土下座をした。その日、8月10日は、一億総土下座の日として制定され、毎年、国民全員が、謝罪の気持ちを込めて一日中、朝鮮半島の方角に土下座をする事が義務付けられる事になったのである。

 

 チャールズ・モンドは、さざなみホテルのスイートルームで、捕虜にした朴秀姫をレイプしていた。クロロフォルムを嗅がせて、ここに連れてくるまでの間に、奥歯に仕掛けてあった毒薬を抜き取り、猿轡を噛ませて、自殺出来ないようにしてある。驚くべき事に秀姫は処女だった。

「驚いたね。君ほどの美女が、24歳で処女とはね。これも、お国柄のせいかな」

最初の日、チャールズが挿入すると秀姫は、苦痛に涙を流した。股間からは、血が流れる。しかし、巧妙なチャールズの舌技や指使いにかかって、秀姫はたちまち、快楽に身を任せるようになった。

「むぐぐぐぐ・・・・」

今では、あまりの快楽に涙を流している。伝説のスパイとして恐れられたチャールズのテクニックは半端ではなかった。

「あの日から、エネルギーバリアが解除されなくて、この町から、出たくても出られないんだ。退屈だから、たっぷりと君を可愛がってあげるよ」

3日3晩もの間、チャールズが秀姫の肉体に溺れていると、ある時、ホテルのドアを荒々しく叩くものがあった。

「乱暴なルームサービスだな」

憤慨しながらチャールズがドアを開けると、外には、下半身丸出しの男と、四つん這いで全裸の白人女が、立っていた。

「さざなみ署の青山だ!チャールズ・モンドだな?スパイ容疑と殺人容疑で逮捕する!」

チャールズは、とっさに蹴りを入れて、青山刑事の右手に握られていたリボルバーを弾き飛ばした。続けて、腹にパンチを浴びせる。

「ウー、ワンワン!」

額のドリルを回転させて、ヘレンが飛び掛ってきた。ドリルの先がチャールズの右肩を切り裂く。

「くっ・・・何だ、お前は・・・・あっ、その顔、見覚えがあるぞ。もしかして、CIAのヘレンか?」

豚鼻に改造されてはいるものの、それは紛れもなく、以前リチャードと組んでスパイ活動を行っていたヘレン・マンスフィールドだった。チャールズは世界中の有名な同業者の顔はほとんど知っている。

「ブヒー、ブヒー!」

チャールズは、襲ってくるヘレンに手刀を叩き込んで退けると、奥の部屋へ駆け込み、ドアをロックした。残念だが、朴秀姫は置いて逃げるしかない。急いでトランクからロケット付のベルトを取り出すと腰に巻きつける。それは、MI6の技術班が開発した、スパイ映画でお馴染みの、古典的な一人用の飛行装置だ。難点は、噴射の方向を間違えると大火傷を負う危険があることである。青山優作とヘレンが、ドアを破って入って来た時、チャールズは、地上15階の開け放たれた窓から、悠々と夜空に消えていく途中だった。

「くそっ!スパイ野郎め!味な真似を!」

優作は地団駄を踏んだ。

「容疑者1名、確保だブヒー」

ヘレンは、裸で、ダブルベッドに横たわり、連日のセックスに疲れてて、死んだように眠っている朴秀姫を発見した。

 

 逮捕されたジョーイ・ファレルは、簡易裁判で有罪判決を受け、さざなみ刑務所へと放り込まれた。

「新入りか。お前、アメリカ人だって?あたしもアメリカ人なんだよ。なかなか若くて、ハンサムな顔をしているから、あたしの管轄にしてやるよ」

丸裸にされて、直立不動の体勢で検査を受けているジョーイに、シンディ・スコットランド刑務官(23歳)が言った。シンディは、この刑務所では、もっとも過酷な刑務官として囚人達に恐れられている。

「アメリカ人なのに、宇宙人の仲間になっているのかい?」

折れた前歯の痛みに耐えながら、ジョーイが尋ねた。治療などしてもらえるわけがなく、剥き出しの神経が外気に触れるたびに、ズキズキと歯茎が痛む。夜も眠れず、憔悴しきっていた。

「うるさいっ!囚人の癖に、意見するのか!」

シンディは軍靴で、ジョーイの股間を蹴り上げた。

「うぎゃおおお!」

ジョーイは股間を押さえて、飛び跳ねる。

「宇宙人だろうと、なんだろうと、あたしにはこの仕事が天職なのさ。お前みたいな、無抵抗な囚人を虐待すると、胸がスーッとするんだ。」

短髪の女が、麻薬中毒患者のように目をキラキラさせている。どう見てもジョーイの好きな女性のタイプではなかった。

「暴力はやめてくれ。僕はこういうSMプレイみたいな事は、苦手なんだよ・・・」

「お前の趣味は聞いていない。おら、嫌なら、もっと泣き叫べ!」

シンディは、ジョーイの乳首を思い切り、爪を立てて抓り上げた。

「ぎゃおっ!」

「このまま、お前の乳首を捻り潰してやろうか?ええ?」

「ひっ、痛いよう!歯の治療もしてくれよう!」

「トイレットサービス!」

シンディは叫んだが、ジョーイは言葉の意味がわからず、ボーッとつっ立っていると、殴り倒された。

「オシッコを、口で受けろって言ってんだよ!」

「ひいいいっ、オシッコなんて飲めないよう」

シンディは、制服のズボンを少しずり下げると、仁王立ちのまま、剥き出しの股間を、跪かせたジョーイの顔面に押し当てた。

「1滴でも、こぼしたら、今日の食事は抜きだからね!」

シャーッと濃い尿が口の中に流れ込んできた。歯茎の剥き出しの神経に、オシッコの塩分が沁みて、強烈な痛みが、ジョーイの脳天を貫いた。

「あぎゃああああ!沁みるうううう!ごぼごぼごぼ・・・・」

痛みのあまり、のたうち回ったジョーイは、1滴どころではなく、半分以上、床にこぼしてしまった。

「てめえ!まじめにやれよっ!」

シンディはジョーイの髪の毛を掴み、顔面を荒々しく、オシッコのこぼれた床の上に叩き付けた。唇が切れ、床のオシッコに、赤い血が混じる。

(く、くそ・・・こんな奴、俺のハンドパワーで・・・)

ジョーイは、悔し涙を流したが、次の瞬間、鳩尾を軍靴で思い切り蹴り上げられて、気を失った。

 

 チャールズ・モンドのスイートルームで逮捕された朴秀姫も有罪判決を受け、さざなみ刑務所へ放り込まれた。

(刑務所と言ったって、祖国の強制収容所よりマシだわ。きちんと、食事も出るみたいだし)

秀姫の同僚の喜び組のメンバーで、情報漏洩の容疑で強制収容所に入れられた女達は、その後、悲惨な運命をたどったと聞いている。祖国の収容所では、満足な食料も与えられないために、囚人達は、敷地内の草や小動物、泥土などを食べて飢えを凌いでいるという。しかも、元喜び組のメンバーは飛び切りの美女達ばかりであるため、男子刑務官にどんな扱いを受けてるかは、想像に難くない。それを思えば、さざなみ刑務所などパラダイスだ、とタカを括っていた。

「お前か。ミサイルの誘導装置を仕掛けた女スパイってのは?」

ジョーイの拷問を終えて、休息を取ったシンディ刑務官が、秀姫の独房を覗きに来た。

「元喜び組だって?なるほど。東洋人にしちゃ、可愛い顔をしているじゃないか」

シンディの瞳が、サディスティックに輝き始める。この女は、人間を虐待する事に関しては、全く疲れを知らないようだ。秀姫はシンディを睨み返した。

「何があっても資本主義者には、屈しないわ」

「フン、強情張れるのも今のうちだ。お前には、拷問のスペシャルコースを用意しているからね。でも、まあ、あの、不死身の再生女のような拷問はさすがに無理だけど・・・」

秀姫は、シンディに引き立てられて拷問室に連行されると、グレーの囚人服を脱がされ、全裸にされた。

「この上にまたがれ!」

シンディが、三角木馬を指差した。木馬の尖った背中の部分には、以前の犠牲者が流した血が、黒く滲んで染みになっている。秀姫は恐れ気もなく、三角木馬に跨った。

「さあ、思う存分やるがいいわ。薄汚れたアメリカ人!」

「ちっ、生意気な!」

シンディの一本鞭が空を切った。秀姫のシミ一つない、綺麗な肌に赤い筋が刻まれる。秀姫は悲鳴を上げなかった。

「全然、痛くないわ」

平気な顔をしている秀姫に逆上したシンディは、狂ったように、何発も何発も鞭を浴びせかけた。打たれてから、しばらくすると、秀姫の肌に交錯した蚯蚓腫れが、網の目のように浮かび上がってくる。それでも、秀姫は歯を食い縛り、毅然とした態度を崩さなかった。

「やるじゃない。あなたには、もっと激しい拷問が必要なようね」

シンディは、拷問室の隅にあったバケツ2杯に、満杯になるように、水を入れシンディの両腕に持たせた。

「ぐうっ!」

バケツの水の重量で、三角木馬の尖端が、ギリギリとさらに強く、股間に食い込んでくる。秀姫の股間の皮膚が裂け、血が流れ始めた。

「腕をもっと上げろ!下げるんじゃないよ!もしバケツを落としたら、今日の食事は抜きだよっ!」

秀姫は、ありったけの力を振り絞って両腕のバケツを持ち上げた。腕の筋肉が、限界以上の力を出しているため、プルプルと痙攣している。すぐに腕の感覚が麻痺してきた。

「どうした、女スパイ?もう限界か?」

「こ、これくらいの事で・・・・」

秀姫は精神力を振り絞った。全身から汗がびっしょりと、したたり落ちる。そこへシンディが容赦なく鞭を叩きこんできた。

「ぎゃうっ!」

とうとう秀姫が悲鳴を上げた。しかしバケツは落とさない。

「キャハハハハ!こんなに責め甲斐のある女は、あのマゾ女以来だよ!」

新しいオモチャを手に入れたシンディは、歓喜の声を上げた。秀姫への虐待は、まだ始まったばかりだ。

 

第124話、人妻肉輸出

 

 1999年5月下旬、肉奴隷となった片桐久美子(27歳)とその娘、片桐綾香(3歳)を乗せた貨物船が横浜港を出港した。表向きは、ボリビアのドイツ系商社が所有する貨物船という事になっている、その船には、日本から外国に輸出される電化製品や、電子部品の入ったコンテナが山積みされている。しかし、その最下層の船室には、広域暴力団、真藤組によって拉致された日本人の美女達が、すし詰めにされていた。

「綾香ちゃん。お母さんが付いているから心配しないで」

久美子は怯えている幼い娘を抱きしめた。久美子自身も、目の前で夫を嬲り殺しにされたショックから立ち直っておらず、顔は数日間泣き晴らしたために、目蓋が大きく腫れ上がっている。さすがに綾香は、服を着せられていたが、久美子自身は、赤褌を腰に着けただけの裸で、背中には、卑猥な豚の刺青が浮かび上がっていた。

(がはははは!その褌は、餞別や。どこの国に売られるか、判らんけど、せいぜい長生きしいや、奥さん。)

別れ際の、真藤組長の言葉を思い出し、久美子は激しい怒りと、絶望感を感じた。

(ほんの1ヶ月前までは、こんな事になるなんて想像もしなかった・・・もう、夫もいないし、あたし達は、この先いったい、どうなるの・・・せめて綾香だけでも、この悲惨な運命から助けたい)

3歳の綾香は状況が、判らないらしく怯えてはいるが、健気にも泣き喚いたりはしない。唯一のオモチャである熊のヌイグルミを大事そうに抱え、一日中、ヌイグルミに話しかけて遊んでいる。それが、久美子にとって、せめてもの救いだった。片桐母娘の周りには、同じく誘拐されてきた全裸の美女たちが絶望感に打ちひしがれて座り込んでいた。いずれも、10代後半から20代の容姿端麗な女達で、人ごみの中で見かけても、ハッと目を引きそうな美女ばかりである。女子大生、OL、人妻、モデル、女教師など職業も様々だったが、人並みはずれた美貌を持っていたために、運悪く、真藤組に目を付けられて拉致されたのだ。彼女たちの中からはシクシクとすすり泣く声や、時折、自分の運命を呪う悪態も聞こえてきた。その中には、ドイツ語通訳の白木雪絵(21歳)の姿もあった。シャブ漬にされた彼女の体は、見る影もなくガリガリに痩せ細っており、骸骨のようだった。船に積み込まれてから、シャブを与えられていない雪絵は、出港してから数日間、ずっと禁断症状に苦しんでいた。

「寒い・・・寒いよう・・・お願い、薬をちょうだい・・・雪絵のお尻にシャブ浣腸をして・・・」

雪絵は船室の隅にうずくまって一人で苦しんでいる。他の女達は、気味悪がって誰も近付こうとしない。久美子は、真藤組の事務所で最初に、この女性を見た時、もっと初々しく、女子大生のように見えた事を思い出した。

「ああっ!虫が!虫が体の中を這い回っている!助けてえええ!」

突然、雪絵が発作を起こしたように暴れ始めた。自分で自分の腕や腹を掻き毟り、皮膚が破れて血だらけになる。周囲の女達は、恐怖に引きつった顔で、後ずさりし、距離を取って雪絵を遠巻きにした。雪絵は、全身の血管の中を小さな虫が無数に這い回っているような掻痒感に、気が狂いそうになっていた。

「薬!薬を頂戴!何でもするからああああっ!」

30分以上、雪絵がわめき続けていると、船室のドアの鍵が外から開けられ、一人の船員らしき男が入ってきた。

「ねえ、あたしに薬を頂戴!どんなに恥ずかしい事でもするからああっ!」

雪絵が必死の形相で、男の足元にすがりついた。

「静かにしろ!大人しくしないと、海に叩き込むぞ!」

男はいきなり雪絵の顔面を殴りつけた。そして床に倒れ込んだ胴体に、何度も蹴りを入れる。ぐふっ、と鈍い声を発して、雪絵は気絶し、ようやく大人しくなった。

「世話を焼かせやがって」

日本語が堪能なその男は、日系ボリビア人のカルロス・オオタ(34歳)だった。日本人の移民と、インディオとスペイン人、そして第二次世界大戦後、南米に亡命してきたドイツ人の全ての血を引く混血である、その男は、この船に乗り組んでいる女体輸送の責任者だった。表向きはドイツ系商社の社員であるが、ネオナチスの構成員でもある。

「いいか、お前ら!この船は二日後にマカオに到着する。そこで奴隷市場が開かれ、お前達の半分は売られるだろう。残りは、南米にある我々の本部に連れていく。それまで、揉め事を起こさずに大人しくしておけよ!」

カルロス・オオタは、吐き捨てるように、そういい残すと、叩き付けるようにドアを閉め、船室から出て行った。その言葉を聞いた女達はざわめき、すすり泣きの声が、一段と大きくなった。

 

 船室での生活は単調だった。トイレは船室の隅にあるバケツで交互に済ませ、食事は、一日一回、運び込まれてくるドロドロのスープのようなものを手ですくって貪り食べる。まさに密輸される獣と同じ扱いである。女達は、何人かづつ船室から連れ出され、海水シャワーで、汗にまみれた体を洗った後、代わる代わる船員たちのセックスの相手をする。輸送中に商品を犯してはいけない、という規定はないらしい。

「綾香ちゃん、お母さん行ってくるわ。いい子で待っててね」

自分の番が来た久美子は、綾香を、親しくなった元バスガイドだという女性に預けると、船員に連れられて船室を出た。この船の乗組員は、ボリビア人やペルー人が多いらしくスペイン語で会話をしている。ドイツ系の血を引く人間は、例のカルロス・オオタだけのようだった。久美子は3日ぶりにシャワーを浴びた。

「俺が洗ってやるよ」

カルロス・オオタが、衣服を着たままシャワー室に入ってきて、素手で、海水シャワーを久美子に浴びせながら無遠慮に肌を撫で回した。

「たまらないねえ、この感触。オッパイとオマンコも洗ってやるよ。足を広げな」

言われた通りに久美子が両足を開くと、カルロスの指が股間の割れ目に滑り込んできた。ぞくぞくするような嫌悪を感じたが、久美子は目をつぶって、カルロスの欲望が満足するのを待った。

「面白い刺青だな。ペニスをおっ立てた豚かい?よくもこんなものを背中に彫ったな」

冷やかすようにカルロスが言った。

「真藤組の方々に彫って頂きました。メス豚の私には、ピッタリの刺青でございます」

従順である事だけが、久美子の生きる術だった。カルロスは久美子の体の洗浄が終わると、自分専用のプライベートキャビンに連れていって、美しい人妻の肉体をベッドに組み敷いた。商品である女を、奴隷市で売却するまでに、なるべく多く抱いておきたい。横浜港を出港してから、カルロスが商品の女を抱くのは5人目だった。他の非番の船員たちも寸暇を惜しんで同様の行為に励んでいる。

「むぐぐぐ・・・」

カルロスの情熱的なディープキスに、久美子は息が止まりそうになった。

「ハァ、ハァ、ハァ・・・・ねえ、教えて。あたし達、マカオで売られるの?」

久美子は、募ってくる不安に耐え切れずに、カルロスに尋ねた。

「ああ半分くらいはな。だが、奴隷市場はマカオだけじゃない。南米にも市場があるんだ。それにお前は、ボリビアにある本部に連れて来い、と上から言われている。ハインリッヒ・リヒター閣下が随分とお前の事を気に入っているらしい」

「綾香は?綾香はどうなるの?」

「さあな。・・・俺の仕事は、女体の輸送だけだ。取り敢えずは、本部まで連れて行って、それから、お前たちが、どうなるかは知らん。ただ、リヒター閣下は恐ろしいサディストだ。お前にとっちゃ、マカオで売られちまう方が幸せだろうよ」

久美子は不安と恐怖で胸が張り裂けそうだった。

「どこに売られても構わないわ。でも、綾香とはずっと一緒にいさせて下さい!」

「それは、リヒター閣下次第だろうな」

久美子の哀願に、カルロスは冷たく答えるだけだった。

 

 貨物船は予定通りマカオに入港した。奴隷市は水上カジノの特別会場で行われる。裏の社会の恒例行事として、マカオ行政府にも黙認されている。この日、大量の日本人女性が売りに出されると言う情報を聞きつけて、東南アジアやアラブ、アフリカから多くの大富豪や、権力者が集まった。経済大国である日本の女性は、アメリカや西ヨーロッパの先進国出身の白人についで人気があるのだ。買い手として会場に来ている権力者の中には、日本からのODAを受け取っている発展途上国の人間もかなりいた。

「日本の経済援助資金からクスねた金で、日本女性を買う。これが、また、たまらんのだよ。わかるかね?」

ある東南アジアの国の政府高官が、にやけた顔で側近に言った。ODAを本来の目的に使わず、分配する前に自分達の懐に入れているのだ。国民のほとんどが貧しい暮らしをしていても、彼らはプール付の豪邸に住み、外車を乗り回している。鎖で繋がれ、全裸で四つん這いになった日本女性達は、人種も様々な外国人に取り囲まれ、羞恥に顔を赤らめていた。

「日本人女の肌は、白人と違って張りがある。それがいい」

「そうかのう。わしには、固すぎるがのう」

「うーむ、同じ、黄色人種でも、栄養失調で育った我が国の女とは大違いだ。肉付きが違う。子供の頃から、いいものを食べて育ってきた証拠だ」

買い手達は、思う存分、オマンコに指を入れたり、胸やお尻を撫で回して、値札に書かれた金額に見合うだけの価値があるのかどうかを確かめた。支払いはマカオの通貨ではなく米ドルで決済される。女達の首から下げられている値札には、法外な金額が書き込まれていたが、選りすぐりの美人ばかりである日本女性達は、次から次へと飛ぶように売れていった。

「歯を全部抜いて、フェラチオ奴隷にしよう」

「わしは、日本女のダルマが欲しかったんじゃ」

「俺のウンチを喜んで食うように調教してやるぞ。ヒヒヒ・・・」

アラブ人の石油王や、アフリカの軍事政権の高級軍人、華僑の貿易商人などが嬉々として日本女性を購入していった。貨物船で久美子が親しくなったバスガイドも、某産油国王室の代理人に買い取られた。だが、一人だけ売れ残った女がいた。麻薬の禁断症状で苦しむ白木雪絵である。

「ねえ、あたしを買って。お願い・・・お薬をくれるんなら誰でもいいから・・・ねえ、あたしを買い取って・・・」

雪絵は必死で、腰を振ったり、オッパイを自分の手で、下から持ち上げたりしてアピールをした。しかし、彼女には、以前の、美しかった面影は全くなく、ガリガリにやせ細って、しかも掻痒感から逃れようと、自分の体を掻き毟ったために、体中、傷だらけだった。この有様で、目の肥えた富豪達の中から、買い手が付くはずもなかった。

「ちっ、売れ残りか。こいつも南米に連れてくしかねえな」

奴隷市の様子をオブザーバーとして眺めていたカルロス・オオタは、苦々しく舌打ちをした。

 

 マカオの港には3日間滞在しただけで再び、貨物船は出港した。日本から運ばれてきた美女たちの数は半分に減っている。貨物船の次の目的地は南米で、赤道直下の太平洋をひたすら東へと航海を続けた。

「ママ、暑いよう」

綾香が、久美子に訴えた。美女達がすし詰めにされている船倉には、エアコンなど完備されているはずもなく、恐ろしい蒸し暑さである。女達は汗びっしょりの全裸の肉体を床に横たえ、朦朧とする意識で、ひたすら脱水症状と戦っていた。時折ペルー人の船員がバケツに水を入れて持ってくると、美女達は先を争うようにバケツに群がり、手の平ですくい上げて水を飲んだ。

「どうか、子供に水を飲ませてやってください」

久美子は哀願した。女達の中で子連れは久美子だけである。他の女達は全裸だったが久美子だけは赤褌を締めており、背中に刺青を彫っているため、特異な目で見られていた。元看護婦だと言う女が、見かねて、バケツから水をすくい、綾香に飲ませてくれた。

「ありがとうございます!この御恩は一生忘れません!」

久美子は、地獄のような状況下での他人の暖かい気持ちに、思わず感激して涙がこぼれた。

「この有様で、何も御礼は出来ませんが、どうか、この褌だけでも受け取って下さい」

久美子は腰から、唯一の所有物である赤褌を外そうとした。

「いらないわ、そんなもの」

看護婦は、あっさりと断った。今度の航海は長かった。地球を半周して、この星の裏側まで行くのである。もだえ苦しんでいた白木雪絵も、ようやく禁断症状が治まって正気に戻ってきたようだった。

「あなたドイツ語の通訳だったんでしょ?」

久美子が雪絵に話しかけた。雪絵とは、真藤組の事務所の地下室で、何度もレズプレイを強制された仲である。

「そうよ。あたし、子供のころ何年間か、ドイツに住んだ事もあるの」

「ねえ、あたしにドイツ語を教えて。これから連れて行かれるところはネオナチスの本部らしいのよ。ドイツ語を覚えておけば、生きていくために役立つと思うの」

「いいわ。ここじゃ特にやることもないし。あたしも何かしてなくちゃ、気が狂いそうだし」

その日から、雪絵が教師になってドイツ語のレッスンが始まった。教材も何もないため思うように、はかどらなかったが、それでも久美子は、カタコトなら理解し、喋れるようになった。元々久美子は、頭も良く、学歴も偏差値の高い短期大学を卒業している。他の女達も集まってきて、全裸の女達は暑苦しい船倉で、ドイツ語を学習して時間を潰した。

「何だ、お前ら。何をやっているんだ!」

当直の船員から通報を受けたカルロス・オオタが、女達が集まって何かたくらんでいるのではないかと疑い、船室に入ってきた。

「何?ドイツ語の勉強だと!」

「はい・・・」

「ふんっ、マカオで売れ残ったお前が、先生だと?笑わせるじゃねえか!」

カルロスが、雪絵の髪の毛を鷲掴みにし、引き立てた。

「いやっ、痛い、離して・・・」

「生意気だ。ヤキを入れてやる。」

カルロスは、全裸の雪絵を連れて甲板に出た。太平洋のど真ん中で島影一つなく、どの方向を見回しても、水平線が広がるばかりである。よく晴れた青い空には入道雲が浮かんでいた。雪絵は、カルロスにビニール製の太縄で後手に縛り上げられ、荷物の積み下ろしに使われているクレーンの先に吊るされた。

「他の女達は商品だから、体に傷つけるような事は出来んが、売れ残りのお前には、どうせ商品価値はない。痛めつけても問題はないだろう」

カルロスの右手には、一本鞭が握り締められていた。ヒュッと風を切る音ともに鞭が雪絵の裸体を襲う。華麗な鞭裁きだった。

「こうやって、見せしめに女を一人半殺しにするんだ。そうすれば他の女共が大人しくなって航海が平穏無事に終わる。俺の仕事は、商品を無事に目的地に送り届ける事だからな」

カルロスは、笑った。この男は、スペイン語、英語、日本語、ドイツ語に堪能で、ネオナチスの人身売買部門で重宝されている。鞭が何度も何度も振り下ろされ、雪絵のガリガリの肉体に深い鞭傷が、何本も何本も刻まれた。

「ぎゃうっ!ぎゃううっ!・・・・あなた、無抵抗な女をいたぶって、そんなに楽しいの!」

雪絵が叫んだ。禁断症状が抜けたため、以前の気丈な性格に戻りつつある。正体を隠してはいるが、実は彼女は、ネオナチスの内情を探るために送り込まれた、日本の公安庁の潜入調査官なのだ。

「楽しいさ。特にお前みたいな、ユダヤの資本主義思想に犯された劣等民族をいたぶるのは最高だね。ゲルマン人こそ世界を支配するのに、最もふさわしい。その他の劣等民族は、我々の足元に跪くのだ・・・・もっとも俺は、混血だから純粋なドイツ人ではないがね」

ネオナチスの一員であるカルロス・オオタは、その事に少なからず劣等感を持っているようだった。

「いい運動になった」

一時間もの間、鞭を振り続けたカルロスは汗だくになり、冷蔵庫から出してきた良く冷えた缶ビールを、うまそうにゴクゴクと飲んだ。雪絵の体は、全身至る所の皮膚が裂け、ボロボロになっている。カルロスは、仕上げに、太平洋から組み上げたバケツいっぱいの海水を、雪絵の体に頭からぶっかけた。

「きゃあああああっ!助けてええ、しみるよおおお!」

全身の傷に塩水がしみて、雪絵は絶叫した。吊り下げられたまま、海老のように悶え、空中で跳ね回る。

「わっはははは!もうすぐスコールがくる。一日中、そこでそうしているんだな」

カルロスはそう言って、迫りくる入道雲の方向へ缶ビールの空き缶を投げ捨てた。ポチャンと海面に空き缶が落ちる。ネオナチスのメンバーであるカルロスは、海が汚れる事など全く気に留めない。彼が甲板から去ってしばらくすると、予告どおり貨物船は、スコールの真っ只中に突入した。

(息、息が出来ない・・・)

叩きつけるような集中豪雨だった。日本で降る雨とは比べ物にならない激しさである。雨水が雪絵の鼻や咽喉、その他体中の穴という穴に侵入し、目を開けることすら不可能だった。

(うっ・・・苦しい・・・でも負けないわ。陸地につけば、逃げる機会もあるはず。日本でも、きっと城山先輩達が、あたしの行方を追っているはずよ・・・)

雪絵の精神に、公安調査官としての正常な思考が戻りつつあった。

 

 長い航海の末、貨物船が南アメリカ大陸の西海岸に到達したのは、1999年の6月中旬だった。ネオナチス本部のあるボリビアは内陸の国で、港を持たないため、一旦ペルーの港に陸揚げされ、そこから陸路でボリビアに向かうのだ。ペルーの海岸線に沿って南下する貨物船の甲板では、カルロスが、女達に最後の日光浴をさせていた。

「いいか。港に着いたら、お前達はコンテナに詰め込まれて、そのままトラックで一気にボリビアに運び込まれる。その間、太陽を見る事は出来ないから、今のうちによく日光浴をしておけ。」

女達の足には、万が一海に飛び込んで逃げられないよう、片足に鎖が結び付けられている。久美子は綾香を抱きかかえながら、胸いっぱいに潮風を含んだ空気を吸い込み、太陽の光を浴びた。

(本当にこれが、お日様の光を浴びる最後って事にならなければいいけど)

久美子は、どうしようもない胸騒ぎを感じた。その時、遠くを見ていた綾香が小さな叫び声を上げた。

「ねえママ、あれ何?」

綾香が指差した方角を振り向いた久美子は、海岸に面した丘に描かれている巨大なサボテンの絵を発見した。しかし、それが何なのか、最初、久美子には判らなかった。

「これって、ひょっとしてナスカの地上絵・・・」

裸の美女の中の誰かが言った。気付いていなかった他の女達も、全員が陸地の方角に目を向ける。

「ナスカの地上絵・・・あたし達、そんなに遠くまで来たのね」

日本から拉致されてきた女達は、改めて自分達が運ばれてきた距離の長さを思い知った。久美子も、その名前だけは知っていた。

(実物は、はじめて見た・・・ナスカの地上絵・・・宇宙人が描いたとかって言われている絵だわ。そう言えば、1999年の7の月に地球が滅亡するって言う、ノストラダムスの大予言なんてものもあったわね・・・)

予言通り、地球なんか滅亡すればいい、と久美子は思った。そうすればこの悪夢のような肉地獄から抜け出す事が出来る。もともと平凡な専業主婦で、そういった超常現象には全く興味もなかった久美子だったが、ナスカの地上絵を目の当たりにして、宇宙人は実在するのかもしれない、という不思議な気持ちに捉われた。

 

翌日、船はペルー領内のカマナの港に入港し、久美子達は、夜陰にまぎれてコンテナに詰め込まれ、トラックの荷台に乗せられた。コンテナの中は、ぎゅうぎゅう詰めで、道が悪路のため、ひどい揺れようである。しばらくして、一人の女が乗り物酔いで吐いた為、密封されたコンテナの中はひどい悪臭が立ち込めた。

「オエッ、オエエ・・・・」

匂いに誘発されて、次々と他の女達も吐き戻した。綾香が泣き始める。

「ママ、臭いよう!」

「我慢するのよ、綾香ちゃん。もう少しの辛抱よ」

もう少し、とはどれくらいなのか、久美子にも検討もつかない。しかし、そう言って綾香を慰める以外に久美子に出来る事は何もないのだ。

「久美子さん、頑張ってください。きっと、助けは来るはずです」

雪絵が久美子を励ました。全身に船上で付けられた痛々しい鞭傷が刻まれているが、元々の彼女の性格なのか、すっかり精神的な強さを取り戻している。この状況下で、雪絵のその確信めいた希望が、どこから来るのかと、久美子は、ふと不思議に思った。二日後、トラックは国境を越え、ボリビアに入った。チチカカ湖を回り込むと首都ラパスはすぐである。そのラパスの郊外の私有地に、要塞のようなネオナチスの本部があるのだ。広大な敷地の中に建てられたその施設は、建前上は、ドイツ系多国籍企業の、製品開発のための研究所という事なっている。鉄条網と塀で囲まれた施設内部で何が行われているのかは、外からは、全く伺い知る事が出来ない。ボリビア政府は、ネオナチス系の企業から多額の経済援助を受けたり、息のかかった政治家が内部に多数いるため、彼らの活動を黙認するしかないのだ。ボリビアだけではなく南米の他の国々も、程度の差こそあれ、ほぼ同じ状態であると考えて良い。第二次大戦後の亡命ドイツ人によって結成された、ニュルンベルク騎士団と呼ばれる秘密結社は、南米を根城とし、表裏の社会を問わず、現在、世界中に犯罪ネットワークを張り巡らせている。日本から連れてこられた女達はトラックから下ろされると、ホールのような部屋に連行された。そこにはハーケンクロイツの旗が飾られ、旧ドイツ軍の軍服をきた将校や、兵士達が整列していた。

「ヒトラー3世閣下の肖像に敬礼!ハイル、ヒトラー!」

壇上のネオナチス幹部、ハインリッヒ・リヒターが叫んだ。久美子には、以前自分を拷問した、その男に見覚えがあった。

「ハイル・ヒトラー!」

「ヒトラー3世閣下万歳!」

軍人達が右手を上げて口々に叫ぶ。しかし、この場所には、その噂に聞く総統、ヒトラー3世自身はいないらしい。

「よく来たな、劣等民族日本人の女達。お前達は、生きて外の世界に出られることは、2度とないであろう。わがゲルマン民族、そしてヒトラー3世閣下のためにお前達の肉体を捧げるのだ。」

その言葉を皮切りに、ハインリッヒ・リヒターが演説を始めた。ホールにはワーグナー作曲の『ワルキューレの騎行』の、厳粛な音楽が流れている。リヒターは、いかにゲルマン民族が優秀であるか、ユダヤ人に乗っ取られた現在の国際情勢が、いかに憂うべく事態であるのかを、とうとうとまくし立てた。おそらく、何度も同じ内容の演説を行っているのであろうが、規律正しいネオナチスの軍人達は身じろぎ一つしない。

「いいかね、諸君!世界滅亡の時は近い!その時、我々の温存していたラストバタリオン(最後の部隊)が混乱した世界を席捲するであろう。そしてその世界滅亡のキッカケとなる引き金は、我々が引くのだ!」

リヒターが締めくくると、軍人達の拍手喝采が沸き起こり、割れんばかりにホールに木霊した。久美子、綾香、雪絵、その他の連行された日本人女性達は、その異様な雰囲気に呑まれ、自分達の運命も忘れ、あっけにとられて見とれていた。

 

 公安調査官の城山朋子(24歳)は、成田空港のロビーで飛行機の出発時刻を待っていた。これから、JAM航空の夜間フライトの便で南米に向かうのだ。真藤組内部の情報提供者から、拉致された美女達が、ネオナチスに引き渡され、1ヶ月前に横浜港から船で積み出され、南米に向かったと言う情報を掴んだのだ。片桐久美子と白木雪絵もその中に含まれていた可能性が極めて高い。その後、CIAやICPO(国際警察刑事機構)からも情報提供を受け、ボリビア共和国の首都ラパスにあるネオナチス本部に、美女達が連行されたのではないかという結論に至った。

『課長!南米に行かせて下さい!』

その結論が出た時、朋子は、課長の長谷川武宏(44歳)に直訴した。

『公安調査庁は、警察ではないのだよ。あくまで情報収集と分析が専門だ。荒事には向いていない。強引な事をやって、その事が表沙汰になっては困るのだ・・・』

『しかし、このままでは白木調査官が!』

執拗に食下がる朋子に、とうとう長谷川課長が折れた。

『そんなに言うなら、情報収集のための海外出張という名目で行きたまえ。現地で手助けになるように、CIAにも話を付けてやる。だがもし、何かトラブルがあっても、現場の君が独断で暴走した、という事にして処理をする。いいな』

『はい、わかりました。ありがとうございます、課長』

朋子は、内心、部下に対する課長の冷たい態度に、怒りを感じながらも礼を言った。

(雪絵を助け出さなくては!)

朋子は使命感を感じた。情報提供者によると雪絵は、真藤組でシャブ中毒にされ、裏ビデオに出演させられていたらしい。調査庁には逮捕権限がないため、うかつに踏み込む事が出来ないまま、彼女達が海外に輸出されるのを見過ごしてしまった。すでに女達の大部分が、マカオで競売にかけられてしまったと言う噂もある。ふと、朋子が空港ロビーに置かれているブラウン管テレビの画面に目を向けると『果たしてノストラダムスの大予言は当たるのか?』という題材の討論番組が放映されていた。

『核燃料を積んだ木星探査機のカッシーニが、地球に落ちてくるのです』

『いや、違う!イタリアのベスビオ火山が9月に爆発するのだ!』

『9月?7の月じゃないんですか?』

『君は、何を言っとるのかね、今更!7はセプト、つまりセプテンバー・・・9月の事だ。これはアナグラムになっているのだよ!』

『なぜそんな事が、あなたに判るのです?』

『だって、預言書にそう書いてある・・・』

番組は、大物コメディアンを司会に、出演者が、肯定派と否定派に分かれて討論するという構成だった。この時期、この種の番組は、世間の関心も高く、高視聴率を稼いでいるようだ。

(人間に未来を予言出来るはずなんてないわ)

朋子は、少し興味を引かれたが、今はそれどころではなく、腕時計を見て立ち上がると、キャスター付の旅行カバンを引き摺って搭乗ゲートの方へ向かった。

 

 久美子達がネオナチスの本部に連行されてから1週間が過ぎた。久美子は、娘の綾香と引き離され、連日ハインリッヒ・リヒターによって激しい拷問と調教を受けた。リヒターは、特に針責めと電流責めが、お気に入りのようだった。

「ひっ、ひいいいっ!お願い、もうやめて・・・」

久美子は、金切り声を上げて哀願した。久美子の体中に、毎日、極太の長針が打ち込まれ、至る所が、穴だらけになっている。針責めに慣れたリヒターは致命傷になるような急所を傷つけるようなヘマはせず、巧妙に苦痛と恐怖だけを久美子に味合わせて楽しんでいる。いつもリヒターは、久美子の全身を針山に変えた後、針の先に電極をつけ、通電させるのだ。

「ぎゃうううううう!おげええええ!」

かなり強烈な、致死量ギリギリの高電圧を流され、久美子の体がブルブルと痙攣した。目の玉が飛び出しそうになるくらい目が見開かれ、弛緩した口から舌が飛び出している。連日の電流責めで、久美子は体の震えが止まらなくなり、自分の意思とは関係なく、オシッコを漏らしたり、肺が突然収縮して呼吸困難になったりしていた。

(このままじゃ、体が、おかしくなってしまう・・・)

久美子は、責められながら涙をボロボロと流した。引き離された綾香の事も心配でならない。

「ヒヒヒ、日本人にしては、良いメスだ。いくら責めても責め足りない。すぐには殺さずに、もっと過酷な拷問にかけてやりたい」

拷問しながら、リヒターが呟いている。雪絵にドイツ語を習った久美子は、どうにか彼の言葉を理解する事が出来た。

(こんな目に合うなら、いっそ殺してよ!)

恐怖に駆られている久美子の口に、リヒターがグンニャリとしたチンポを押し込んできた。久美子は、必死にしゃぶろうとするが、電流責めのため、顎がガクガクと震えて、うまくしゃぶる事が出来ない。

「ふーむ、歯が邪魔なんだな。歯を全部引き抜いて、歯茎フェラチオが出来るようにするか」

リヒターは、全身に針が刺さったままの久美子を、椅子に縛り付けると、開口器具を口に咬ませた。一人で抜歯するのは骨が折れそうなので、軍医を呼ぶ事にする。エルンスト・シュナイダー軍医(42歳)が、早速、医療器具を携えてやってきた。彼も、ハーケンクロイツのマークの入ったネオナチスの軍服を着ている。

「抜歯拷問ですか?久しぶりですな。麻酔はどうします?」

「当然無しだろ。歯を引き抜かれて苦しむ様子も楽しまんとな」

久美子は、恐怖に失禁した。両手両足は、椅子に縛り付けられ抵抗することも出来ない。

「あががあああ・・・やめへ・・・」

開口された咽喉の奥から、久美子が必死に声を絞り出した。

「おや、この女、ドイツ語が判るのですか?」

シュナイダーが尋ねた。

「ああ、少し判るようだな。では、一本目、私からいくぞ」

リヒターは、様々な医療器具の中からペンチを取り上げた。それで、久美子の前歯の片方を挟み込む。そして力任せに引っ張った。

「ああああああ!」

久美子が絶叫した。しかし、なかなか、歯は抜けない。

「くそっ、日本人の歯はなんて丈夫なんだ!」

リヒターが悪態をつき、渾身の力でペンチをねじると、ポキッと音がして久美子の前歯が折れた。

「あぎゃあああ!」

歯茎からドクドクと血が噴出した。

「歯茎を傷つけないように気を付けて下さいよ」

シュナイダーが軍医の立場から注意した。外気に触れた歯茎の神経が、恐ろしい痛みを久美子にもたらす。あまりの激痛に、脳の神経が焼切れそうだった。

「では、2本目は私が・・・」

リヒターとシュナイダーは、代わる代わる久美子の歯を、前の方から順番に引き抜いていった。全く虫歯の無かった久美子の、真珠のような白い歯が、引き抜かれた後、血にまみれてビーカーの中に入れられていく。現実から逃避しようと、何度も久美子は失神したが、その度に電気ショックで起こされた。奥歯はさすがに、ペンチでは抜けなかったため、電動式のドリルで削る事になった。

「いっそ、ころひて」

久美子はドイツ語で哀願した。

「いずれはな。だが、まだ駄目だ」

リヒターは、冷酷に言い放つと回転するドリルの先を、久美子の、限界まで開かれ、出血した鮮血に溢れかえっている口腔の奥へと近づけた。キュイイイインという神経を逆撫でするような機械音と共に、奥歯のエナメル質が削られていく。歯が粉末となって口の中に飛び散り、久美子は、顔を真っ赤にして涙を流した。

「動くんじゃない!我慢するんだ!」

頭が動かないように、シュナイダーが両手で後ろから挟みこんでいる。久美子が暴れて、ドリルが咽喉に突き刺さりでもしたら、死んでしまうかもしれないからだ。久美子は抜歯拷問が行われている間、絶叫し続けたがネオナチスの本部では、こんなのは、日常茶飯事の出来事なので、誰も気に留めようともしないようだった。リヒターとシュナイダーは熱中して作業を続けたが、久美子の歯が全て無くなるのに、2時間以上かかった。二人のドイツ人が疲れて、ソファに腰かけ、葉巻に火をつけて休憩している間も、久美子は狂ったように絶叫し続けた。歯を失った久美子の顔は、下半分がクシャッと潰れたような感じである。

「これでは、せっかくの美貌も台無しですな」

「総入れ歯を作ってやってくれ。この顔では責め甲斐がない」

「わかりました。」

「だが、その前に、この女にかき氷を食わせてやろう」

リヒターは当番兵に冷蔵庫から氷を出し、かき氷を作って持ってこさせた。そしてそれをスプーンで、開口器具を外された久美子の口に押し込んでいく。歯の無い久美子は、いくら必死に口を閉じても、押し込まれる氷を拒む事が出来ない。痛めつけられた歯茎の神経をさらに、冷たい氷が刺激した。

「ぎゃああああ!出ひて!氷を口から出ひて!」

久美子は縛り付けられた椅子の上で、のたうち回った。

「わはははは!下等民族め、もっと苦しめ!本当の地獄をこれから味あわせてやるぞ」

リヒターとシュナイダーは高らかに笑った。

 

 朋子は、ボリビア共和国の首都ラパスの空港に降り立った。ロサンゼルス、メキシコシティを経由する長いフライトだった。アンデス山脈の高原地帯に建設された都市ラパスは、標高3600メートルの高度にあり、空気が薄い。

(6月だというのに、寒いわ)

南半球は秋である。朋子は、酸欠と時差ボケに目眩を感じながら、タクシーでホテルへと向かった。そこでCIAのエージェントと落ち合う約束になっているのだ。フロントでチェックインし、指定された部屋へ入ると、そこには栗色の髪の、若い白人女性が待っていた。

「ミス・シロヤマ、久しぶりね」

女は、ヘレン・マンスフィールドというCIAのエージェントだった。以前、朋子は、ワシントンでの情報交換会で会ったこともある。彼女は、ハーバード大学出のエリートで、情報工学の博士号を持ち、まだ25歳の若さだったが、数々の工作活動で名を上げていた。

「久しぶりです、ヘレン」

朋子は、このアメリカ人女性が嫌いではない。しかし、ややアメリカへの愛国心が強すぎる所が鼻につく。

「あれ、リチャードは?」

「彼は、まだボリビアに到着していないわ。別の仕事で今ヨーロッパにいるの」

リチャードというのはヘレンの相棒のCIAエージェントである。

「別の仕事ですか?彼が、ネオナチスについての詳細な情報を提供してくれるって聞いていたのですが」

「心配しないで。情報なら、あたしが代わりに預かってきたから。彼は今、ヨーロッパでミッシェルという男のことを調べているの。ひょっとすると彼はネオナチスと何か、関わりがあるかもしれないって」

「ミッシェル・・・何者なんですか?」

朋子は、その名前を聞くのは初めてだった。

「フランス政財界の黒幕、と言われている男よ。でも彼が、今、どこに住んでいて何歳で、出身地がどこか、など全てが謎に包まれている。判っているのは、彼の性別が男で、かなり以前からフランスの政財界を操っており、彼について外国の情報機関が調べようとすると、フランス政府から、相当な圧力がかかるという事実だけ・・・」

「その彼が、ネオナチスと手を組んでいると・・・」

「それが、手を組んでいる、という訳でもなさそうなの。でも、ナチスドイツの時代から関係があるという噂が・・・」

「ってことは、かなりの高齢ですね。彼の年齢は80歳以上って事ですよね」

「ところが、彼に会った人物の話では、20代に見えたという証言がある」

「それは多分、本人じゃなくて、代理人じゃないのでしょうか」

「かもね。とりあえず、リチャードが来る前にラパスで、出来るだけ情報を集めましょうか」

「ええ、ネオナチスの本部と言うのを見てみたいわ。多分あたしの後輩がそこに捕まっているはずなの」

ヘレンは、顔を曇らせた。

「ネオナチスの本部は、恐ろしく警戒が厳重よ。研究所ということになっているけど、実態は軍事基地に近いわね。そこから助け出すとなると簡単にはいかない。総統ヒトラー3世を暗殺しようとして、イスラエルの諜報機関が、何人も工作員を送り込んだけど、誰も帰って来なかった」

「ヒトラー3世・・・」

その名前は、公安庁の機密文書で読んだ事がある。

「ルドルフ・ヒトラーことヒトラー3世。1945年のベルリン陥落の際、南米に脱出したアドルフ・ヒトラーとエヴァ・ブラウンの血を引いていると言われている。彼についての情報も極めて少ないの。彼は、ネオナチスによる世界征服を企てており、南米のどこかに、ラストバタリオンと呼ばれる秘密の軍隊を隠していると公言している。」

「でも、いくらなんでも、そんな軍隊を隠していれば、偵察衛星ですぐに発見されるんじゃ・・・」

「そうね。これは、ただのハッタリだとCIAの専門家は、分析しているわ」

ヘレンは、日本の公安庁の情報収集能力の低さを心の中で馬鹿にしていたが、顔には出さなかった。

 

 久美子は、抜歯拷問を受けてから1週間もの間、剥き出しになった歯茎の神経がズキズキと痛んで、ろくに眠る事も出来なかった。その間も休む事なくリヒターの激しい拷問調教を受け続けなくてはならない。リヒターは、抜歯拷問の翌日から、久美子に歯茎フェラを強要した。

「うう、たまらん、この感触。まさにヴァルハラ(天国)にいるようだ!」

ほどよい固さの歯茎が、リヒターの屹立したチンポを念入りにマッサージしているようだ。歯茎フェラの初心者である久美子のテクニックはつたなく、たどたどしかったが、それでも通常のフェラチオでは味わえない感触を堪能することが出来た。剥き出しの歯茎の神経を、チンポに擦り付けている久美子は、激痛に涙を流しているが、その歪んだ顔がさらにリヒターの嗜虐心を刺激する。ものの3分も経たないうちにリヒターは射精した。

「もう一回だ。久美子」

62歳という年齢にもかかわらず、リヒターは久美子の歯茎フェラの虜となった。歯茎の痛みをこらえて、久美子が再度、縮んでしまったチンポを口に咥える。激痛のあまり、発熱して意識が朦朧となり、今にも気を失いそうだった。その日、合計3回リヒターは射精し、久美子は精液を飲み下した。

「ふう、さすがに疲れた。しかし黄色人種の女にしては絶品じゃな。お前の肉体をもっと切り刻んでやりたくなった」

ある日、リヒターはインターホンで軍医のシュナイダーを呼んだ。

(こ、今度は、あたしの体に何をしようというの!)

久美子は青ざめ、凍りついたように顔をこわばらせた。すでに久美子の肉体は、背中にオス豚の卑猥な刺青を彫られ、歯を全部失い、体中の神経は電流責めでガタガタにされている。これ以上何をしようというのか。

「お呼びでございますか、リヒター閣下」

医療カバンを持ったシュナイダーが入室してきた。

「うむ、今度は、この女のクリトリスの包皮を切除する事にした」

「包皮切除でございますか?しかし、それだけではありきたりですね。ユダヤ人の女などは、生まれた時から割礼している者もいます。」

「では、どうすればいい?軍医殿に何か名案はあるか」

「例えば、そうですなあ・・・常にこの女のクリトリスが外気に触れるように、オマンコの小陰唇と大陰唇を広げて、内腿の皮膚に縫い付けてみてはどうでしょう?」

「それは、名案だ。この女は、毎日、子宮の奥の奥までさらけ出して、生活するというわけだな」

「その通りでございます」

早速、久美子は手術用の開脚台に乗せられた。

「ヒイイイイッ!もうやめて!久美子の体を、これ以上傷つけないで!」

久美子は日本語で叫んだが、リヒターとシュナイダーには理解出来ないようだった。

「この女、なにやら叫んでいますが」

「放っておけ。劣等民族の言語など耳触りなだけだ」

シュナイダーは糸で久美子のクリトリスを吊り上げると、投光器のアームに結びつけた。充血して肥大したクリトリスが千切れんばかりに引き伸ばされる。

「ああ・・・痛い・・・苦しい・・・」

シュナイダーは指でクリトリスの包皮を摘み上げると、慎重にメスを入れた。やはり麻酔無しである。

「きいいいいいい!」

久美子は、秘部を切り裂かれる鋭い痛みに、反射的に腰をビクッビクッと動かそうとする。

「動くんじゃない!誤ってクリトリスも切ってしまうではないか!」

シュナイダーが叱責した。

「ほう、この女、大事な部分を切り刻まれて濡れておる。相当なマゾ女だな」

手術の様子を覗き込んでいたリヒターが言った。度重なる責めを受け、確かに久美子は痛みを感じると股間を濡らすようになっていた。それは、精神崩壊を防ぐために、人間に本来備わった、自己防衛本能と言えるかもしれなかった。切り取られた包皮は、焼き鳥の皮肉のようだった。

「自分の肉体の一部だ。この女に食わせてやれ」

リヒターが悪魔のような命令を出した。歯の無い久美子の口をこじ開け、シュナイダーが指でつまんだ皮肉を口腔内に落とし込む。あまりの気持ち悪さに久美子は吐きそうだった。

「呑み込め。吐き出すなよ」

久美子は、血の味がする自分のクリトリスの包皮を、ありったけの精神力を振り絞ってゴクリと呑み込んだ。悪魔の手から逃れるために、死にたい、と思ったが今となっては舌を噛む事すら物理的に不可能である。シュナイダーは大陰唇の片方をつまみ、糸が付いた縫い針を突き刺した。

「ぎゃっ!」

そして貫通させると、糸で引っ張って最大限に引き伸ばし、内腿の皮膚に深く縫い付ける。合成繊維で出来た糸は体内に入っても腐る事はない。シュナイダーは何度も何度も、返し縫をし、左右の小陰唇と大陰唇を、パックリと開いた状態で放射状に、皮膚に縫い付けた。リヒターが懐中電灯で、無残に開かれた久美子のオマンコの奥を照らしてみる。

「おおっ、子宮の入り口まで丸見えだぞ。ピンク色の内壁が蠢いている様も、エロチックでなかなかいい!」

年甲斐もなくリヒターは、手術の出来映えにはしゃいでいる。久美子は、サディスト達に、自分の肉体を持て遊ばれる屈辱と恐怖に、いっその事、殺して欲しいと心の底から願った。

 

 

 雪絵は、ネオナチスの本部に連行された後、再び麻薬を打たれていた。

「やめて!もう麻薬はイヤッ!やっとの思いで中毒から抜け出したのにいいい!」

雪絵は暴れまくったが、ネオナチスの屈強な兵士の手で取り押さえられ、右腕の静脈に注射針を打ち込まれた。南米のジャングルにはネオナチスの運営する麻薬栽培農場が無数にあり、先進国に輸出される前の安価なシャブがいくらでも手に入るのだ。再び、雪絵は中毒患者に逆戻りし、クスリを貰うためなら、どんな恥ずかしい事でも自分から懇願するようになった。

「お願い!何でもするからあ・・・クスリ、ね、クスリを頂戴!」

「おい、こいつ何でもするんだってよ。なあ、何をさせる?」

ネオナチスの兵士達が面白がって様々な命令を出した。

「そうだな。そこでオシッコをしてみな」

「はいっ!」

雪絵は、命じられるままに、しゃがみ込むと、コンクリートの上にオシッコをした。

「うわっ、ホントにしやがった・・・きたねえ、床が汚れちまった。自分で綺麗にしな。一滴残さず、口で、すするんだ」

「はいっ!」

雪絵は四つん這いになり、床にこぼれた自分のオシッコに口をつけ、ズズズズと音を立ててすすり上げた。

「薬中の人間のションベンには、薬が混じってるそうだ。どうだ、それで満足か!」

「はい・・・でも・・・お注射の方が・・・」

雪絵は、注射針の跡だらけの両腕を兵士の前に差し出した。

「贅沢な奴隷女だぜ。薬が欲しけりゃ、もっと俺達を楽しませるんだな!ほらっ、床にまだションベンが残ってるぜ、しっかり舐めな」

兵士は、軍靴の踵で雪絵の後頭部を踏みつけ、顔を床に押し付けた。白いふくよかな雪絵の頬が埃とオシッコにまみれ、押し潰された。

「うぐぐ・・・」

十数分後、ようやく、床が綺麗になった。

「おせえんだよ!もっとテキパキとやりな。」

「すみません」

「次は、自分で自分の顔を百回ビンタしな。大声で、自分で数えながらだぞ」

「はいっ!1・・・」

パシッと雪絵は自分で自分の頬を平手で叩いた。

「駄目だ!声が小さいし、叩き方が弱すぎる。もっと手加減せずに、力一杯やるんだ!」

「はいっ!2っ!」

ピシャッと先程より大きい音がした。

「まだだ!弱すぎるって、言ってるんだよ!」

「3っ!4っ!」

雪絵は左右の手で交互に自分の頬を、力任せに叩き続けた。頭がクラクラし、ボーッとしてくる。30過ぎまで数えた時点で、軽い脳震盪に襲われ、思わずよろめいた。

「何やってんだ!もう一度最初から、やり直しだ!」

「はいっ、1っ!2っ!3っ!・・・」

雪絵は、今度は、よろめかないように、気合を入れて必死に足を踏ん張りながら、自分の顔を殴り続けた。頬は真っ赤になり、やがて浮き出した毛細血管が破れて内出血し、紫色に変色する。もともと雪のように色白だった肌の部分との、コントラストが鮮明だった。

「99っ!100っ!」

最後まで数え終えた時、雪絵の両頬は、風船のように腫れ上がっていた。

「ギャハハハ、いい面になったぜ!」

「そろそろクスリを下さい・・・お願いします・・・」

雪絵は土下座をして懇願した。

「甘いんだよ。これぐらいの事でクスリが貰えると思っているのか!次は、自分の陰毛に、ライターで火をつけな」

「はいっ!」

雪絵は渡されたライターを、震える手で発火させ、股間の陰毛に火をつけた。陰毛は、焦げ臭い匂いを立てながら、勢いよくパチパチと燃え盛ったが、麻薬で感覚が鈍くなっている雪絵には、不思議と何の恐怖心も沸かなかった。逆に、赤い火が幻想的ですらあった。

(あ・・ああ・・城山先輩・・・きっと助けに来てくれるわよね・・・)

雪絵は火を見つめながら、麻薬に犯され、混濁した心の奥底でボンヤリと考えた。

 

 抜歯拷問から2週間が過ぎ、やっと久美子は歯茎の痛みに慣れ、眠れるようになった。総入れ歯も完成し、シュナイダー軍医から渡されたそれを口に嵌めると、やっと普通の食事が取れるようになった。それまでは流動食しか食べる事が出来なかったのだ。久美子は、常に外気に当てられているクリトリスとオマンコの穴が、風が吹いただけでも刺激され、じくじくと蜜が溢れ出すのをどうする事も出来ない。当然、普通に歩いただけでも相当の刺激がある。

「ああ・・・ああーん・・・あーん」

ネオナチスの兵士に引き立てられて歩いている時も、久美子は切ない声を漏らし、身を捩じらせている。全裸をさらす事には慣れ始めていたが、衆人にオマンコの奥と、剥き出しのクリトリスを常に晒して生活するというのは、どうしようもない屈辱だった。

「は、恥ずかしい・・・」

通りすがりのネオナチスの兵士や、他の女奴隷に秘部を見詰められる度に、久美子は、羞恥のあまり顔を背ける。日本から連行された他の美女達も、かなり酷い扱いを受けているようで、貨物船の中で綾香に水を飲ませてくれた、あの元看護婦も、人間犬に改造されて、別のネオナチスの幹部に、首輪で散歩をさせられていた。彼女の両手両足は、肘と膝で切断されて、金属の筒を嵌め込まれており、その、変わり果てた姿を見た時、久美子はショックで卒倒しそうになった。

「早く歩け。劣等民族のお前が2足歩行をしようなどとは、笑止千万!獣に近い、この姿の方が、はるかにお前の本質に近いのだぞ!」

鎖を引いているネオナチス幹部が、軍靴を彼女の白い背中の上に乗せて、グリグリと踏み躙っている。人間犬に改造された彼女の顔は、絶望感からか、蒼白になっていた。

「ワオーン!」

「そうだ。言葉もお前には必要ない。忠実な犬として、我がゲルマン民族の足下に跪いておれば良いのだ。ガハハハハ」

「ワオーン!」

悲しげに元看護婦の女は、か細い声で吼えていた。女達の一部はジャングルに点在する麻薬農場へ、労働者の性欲処理のために送り込まれたとも聞いている。そこには南米で拉致したインディオやメスティーソの女も性奴隷として働かされており、彼女達に混じって性欲処理に励むという事だ。また別の女達は、ヒトラー3世の元に送られたとも、言われている。久美子は、本部に侵入したモサド(イスラエル諜報機関)の工作員が捕まり、拷問受けている際に、リヒターの口からその事を聞いた。

「残念だったな。お前達が狙っているヒトラー3世陛下は、この本部にはおらん!」

「では・・・どこにいるのだ・・・どこに隠れているのだ・・・」

裸にされ、天井から吊るされて激しい拷問を受けたその工作員は、肉魁同然で、すでに廃人と化していた。

「冥土の土産に教えてやろう。陛下は、ラストバタリオンと共に秘密基地『ヴァルハラ』におられる。そこで、ラグナロックの時を一日千秋の思いで待ち焦がれておられるのだ」

「・・・ヴァルハラだと・・・それは、どこにある・・・」

「それは教えられん。だが、ラグナロックの開始の日はすでに決まっている。1999年、9月11日だ。我がネオナチスが、傲慢なるユダヤ人の傀儡国家であるアメリカ合衆国の中枢部、ニューヨークとワシントンを直接攻撃する」

「・・・なに・・・」

「お前達ユダヤ人が作り上げた、資本主義の殿堂であるウォール街と、ペンタゴン、そしてホワイトハウスを同時に壊滅させる。この作戦で、世界は震撼し、我がネオナチスによる新時代が開けるであろう。その時、陛下はラストバタリオンと共に秘密基地ヴァルハラを出撃し、混乱する世界を席巻するのだ」

「・・・世迷い事だ・・・成功するはずがない・・・」

「そんな事はないさ。現代社会のシステムと言うのは、お前達が考えているより極めて脆いのだよ。特に内側からの攻撃にはね・・・おっと、喋りすぎた。そろそろ冥土へ旅立って頂くとするかね」

リヒターは久美子に合図した。弱りきった工作員を久美子に処刑させようと言うのだ。

「殺す前に、お前の歯茎で、最後の射精をさせてやりなさい」

「はい、リヒター閣下」

久美子は総入れ歯を外すと、モサド工作員の縮みきったチンポを咥え込んだ。ゆっくりと歯茎でマッサージを始めると、たちまちムクムクと膨張を始める。

「あ・・うう・・・」

死ぬ寸前の工作員は、今まで味わった事のないような快楽を味わった。天にも昇る気持ちだった。

「せいぜい我慢したまえ。射精が終われば死ぬ事になるのだから」

しかし、男は、堪え切れずに、わずか1分で射精した。久美子はゴクリと放出された精液を飲み下し、立ち上がると、細腕で工作員の首を絞めた。

「む・・くく・・・俺が死んでも必ず、仲間達が、お前らナチスの亡霊を・・・一人残らず・・・世界の果てまでも追い詰めて抹殺してやる・・・ぐふっ」

男は息絶えた。手を離した久美子はクタクタに疲れていた。もうこれで、命令されるがままに、罪のない人間を、何人殺したのだろう。一番最初に殺したのは自分の夫だった。

(ああ、あなた・・・あの時、あたしも舌を噛み切って一緒に死んでおけば良かった・・・)

久美子は心の底から後悔した。あの時は、残された綾香の身が心配で死ぬ決断が着かなったのだ。しかし、ネオナチスの本部へ連行されて以来、すぐに綾香と引き離され、今では娘が生きているのかどうかすらも判らない。その事を、リヒターを始め、様々な人間に何度も尋ねてみたが、誰も答えてくれない。今の久美子にとって、マイホームに住む平凡な主婦だった3ヶ月前が、遠い昔の、夢の中での出来事のように思われた。

 

 

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