第91話、透明男

 

21世紀初頭の日本。宇宙海賊の襲撃で荒れ果てた、さざなみ市もようやく復興し以前 の姿を取り戻しつつある。日本政府よりネオガイア星人に割譲されたさざなみ市周辺は、地球で最も超科学の恩恵を受けている地域でもある。そのさざなみ市郊外の軍事基地内に、ウラノス博士の研究所があった。もともとウラノス博士の研究所は宇宙母艦オリンポスの内部にあったのだが、宇宙海賊との白兵戦で半壊してしまったため移転したのだ。 ウラノス博士の専門分野はDNA研究をふくむ人体生命学である。途中まで研究の進んだ不老不死実験に挫折した後も、豊富な地球人の実験体を使って様々な生体実験に取り組んでいた。
「実験体を一人用意してくれ」
ウラノス博士は資材部の担当者に通信機器を使って依頼した。ウラノス博士は常に一人で研究に没頭することを好むタイプなので、助手は使わない主義だ。
「男がいいですか?女がいいですか?年齢は?」
「年齢は若いほうがいい。といっても子供は駄目だぞ。男女はどちらでもかまわん」
「わかりました。すぐに適格者を選別し、捕獲します。30分後にはお届け出来るかと」
「頼む」
ウラノス博士の新しい実験の準備が整ったのだった。天野孝(22歳、無職)は自宅の部屋でインターネットに没頭していた。高校2年生の夏に不登校になって以来、引き篭もりを続けている。高校は自動的に中退になり、それ以後進学もせず、定職にもついた事が無かった。約5年間引き篭もりを続け、家族とも禄に会話をすることもない。声帯が退化してしまったような気がし、たまに声を出すとこもった声になる。もちろん友達もいない。いつまでこの生活が続くのか判らず、将来に対して漠然とした不安はあるが、毎日の生活に無感覚になり、抜け出すために何かをしようという気力も沸かなかった。孝は今日もパソコンに向かって、お気に入りの巨大掲示板サイトを検索し、時折書き込みをしたり、画像や動画を拾ったりしていた。

(今日は、いいオカズが拾えたでつ)

孝は掲示板に張り付いていたエロ動画を何本かダウンロードし、自分のパソコンのハードディスクに保存した。孝が一仕事を達成した満足感を感じながら、休憩するためにOAチェアから立ち上がろうとした瞬間、体全体が白い光輝に包まれた。
「な、な、な・・・・」
孝は叫び声を上げようとしたが、普段あまり声帯を使っていないため声にならなかった。孝の体はあっという間に、分子レベルにまで分解され、遠く離れたさざなみ市のウラノス博士の研究所内で実体に戻った。

「ど、ど、どこでつか、ここは!」
孝は腰を抜かしていた。自分の家から外に出たのは何週間ぶりだろう。孝はアンドロイドに取り押さえられ、ウラノス博士の実験室へと連れて行かれた。

「おお、到着したか。では早速実験にとりかかろう」
ウラノス博士は、純粋な科学者であり、研究目的で連れて来られた実験体の性別や容姿など気にしない。実験のため、アンドロイドに命じて孝の衣服を剥ぎ取らせ、全裸にさせた。

「な、何をするのでつか。」
「お前は、実験体だ。今度の実験は、人間の細胞組織全てを透明化し、目に見えない透明人間を作る実験だ。そこのDNA変換カプセルに入りたまえ」
ウラノス博士は全長2メートルほどのベッド型のカプセルを指差した。それは以前、久石千鶴が不老不死の肉体に変換された時に使われた物と同じ物だった。

「い、嫌でつ。恐いでつ。オナガイします。許して下さい・・」
「妙な日本語を使うやつだな。それとも自動翻訳機の調子がおかしくなったのかな? ・・・まあ、そんなことはどうでもいい。早く実験を始めよう」
アンドロイドは無理矢理、孝をDNA変換カプセルの中に押し込め、手足をカプセル内の拘束ベルトに固定した。
「心配するな。今回は比較的簡単な実験だ。不老不死実験ほどの苦痛はない。時間も一時間ほどで終わる」
カプセルの蓋が閉まるとウラノス博士は、パネルを操作して、透明人間化するためのプログラムを選択し、DNA変換装置のスイッチを入れた。カプセル内に紫色の磁場が充満し、孝の体の隅々にまで行き渡った。
「うぎゃあああああ!」
あまりの恐怖と苦痛に孝は絶叫し、オシッコをもらした。

 

一時間後、予定通り孝のDNA変換は終了した。ウラノス博士がカプセルの中を覗きこむと、一見してそこには誰もいないように見えた。
「実験は成功だ。実験体の体は完全に透明化した。」
ウラノス博士は歓喜し、アンドロイドに命じてカプセルの蓋を開けさせると、孝を引きずり出した。目に見えないので逃亡しないように細心の注意を払わなくてはならない。幸い孝はもともと、乏しい全ての気力を使い果たしてぐったりとしており、されるがままになっていた。
「副作用がないか、精密検査をしなくてはならん」
それから、2週間の間、孝は様々な検査を受け、体組織のデータを収集された。そして、全ての検査が終わると孝はウラノス博士に宣告された。
「実験は終了した。お前はもう、用無しだ。わしは親切だから、元いたところに返してやる」
「あ、ありがとうございまつ。で、でも、その前に、ぼ、僕の体を元に戻して欲しいでつ」
「それは無理だ。研究はまだそこまで進んでおらん。それにわしは、これから別の実験にと
りかからねばならん。このところ急に生体実験の研究依頼が増えてきおってな」
「そ、そんな・・・」

孝は、有無を言わさず転送機に入れられ、白い光輝に包まれた。そして孝が再び実体化したのは、自宅にある自分の部屋だった。2週間の間、行方不明になっていたわけだが、無職である孝の生活には何の支し障りもない。孝は洋服ダンスを開け、扉の内側の鏡を見た。やはり、何も映っていなかった。
(困ったでつ。これでは服を着るわけにもいかないでつ)
服を着ると透明人間がそこにいることがバレて大騒ぎになってしまう。幸い季節は夏なので全裸でも寒くない。もともとコミュニケーションの少ない両親に相談するわけにもいかず、孝は自室で3日間を過ごした。両親は孝が自宅に戻っていることにも気付いていないようだった。お腹が空けば、食べ物は冷蔵庫から勝手に持ち出して食べればよい。ただ問題は消化されるまで、胃のあたりに咀嚼された食べ物が透明化されずに、目に見えて残っている事だった。そして、自宅に戻って3日目、とうとう孝は外出することにした。
(透明なら家の外に出ても、他の人と会話しなくてもいいから、恐くないでつ。)
孝は全裸で家の外に出た。裸足なので足の裏が痛い。しかし、こんなに晴れ晴れとした気分で外出するのは数年ぶりのことだった。

孝は、5年前に通学していた高校へ行ってみることにした。同級生たちは既に卒業してしまっているだろうが、教師の何人かは残っているだろう。高校へ行くためには電車に乗らなくてはならない。駅へ向かった孝は、見えないと判っていても通行人たちの視線が気になってしょうがなかった。
(恥ずかしいでつ。ガクガクブルブルでつ)
孝は、自動改札機を通り抜ける事が出来ないので、駅員のいる改札口を抜け、駅のプラットフォームに降りた。プラットフォームでは電車を待つ女子高生達がたむろし、お喋りに夢中になっていた。
「あいつ授業中、あたしの顔、ずーっと見てんだよ。チョーキモイ。ムカつくー」
「だよねー。鏡見ろって感じー」
(ムカつくのは、お前でつ)
孝は近寄って行って、一番美人の女子高生にいきなり抱きついた。
「キャーッ!」
「どうしたの?」
「い、今、誰か、あたしに触らなかった?」
女子高生は驚いてキョロキョロしている。
「何、言ってんの?誰もいないって」

孝は、さらに女子高生の胸元に背後から手を伸ばし、両乳房を制服のブラウスの上か
ら鷲掴みにした。思ったより豊満な乳房で、とても柔らかい感触だった。
「キャーッ!」
「何、言ってんのさっきから!」
「だ、誰かがあたしの胸、つかんでるよー」
(女の子の体に触るのは生まれて初めてでつ。柔らかいでつ。気持ちいいでつ。・・・)
孝は女子高生の首筋に顔を近づけ、汗とリンスの入り混じった甘酸っぱい匂いを、夢中
で嗅いだ。勃起してきた股間のチンポを女子高生のお尻にスカートの上から押し付ける。
「ひっ!あ、あたしの後ろに、絶対、何かいるよ・・・」
女子高生は顔を真っ赤にしてパニックになっていた。やがて、プラットフォームに電車が
入って来て停車した。孝は我に帰って女子高生の体から離れ、電車に乗り込んだ。通勤
時間のラッシュアワーも終わりに近づいているため、車内はかなり空いていた。孝はOL
女子高生、女子大生など、若い女性を見つけると次から次へと痴漢行為を働いた。
(こんなにウマーな体験は生まれて初めてでつ。まさに天国でつ。逝ってよし、でつ)
体を触られた女達は、気味悪がっていたが、実際に孝の姿が見えないため、人目を憚っ
て、ひたすら我慢し、騒ぎ立てることはなかった。最後に孝は座席に座っている、上品な、
少しお高くとまったような雰囲気のするOLの顔にチンポをこすりつけ、顔面に精液をぶっ
かけた。孝の体から出た排泄物や分泌物も体外に出てからしばらくの間は、透明で目に見えない。OLの顔の化粧が、孝の透明の精液でくずれ、滲んだ口紅が尾を引いて、顔の下半分に溶け出した。OLは何が起こったのか判らず、動揺して顔を引きつらせていたが、暑さのせいで汗が化粧を溶かしたのだろう、と納得させると、バッグから手鏡とハンカチを取り出して、あわてて化粧を直し始めた。

(オイラがここにいる事、全然気付いていないでつねー)
孝は、必死で口紅を引き直しているOLを見ながら笑いが止まらなかった。孝は昔、通っていた高校にたどりつき、孝がイジメに合っているのを黙認していた教師を見つけ出した。

(本当は気付いていた癖に、黙っていたのは、ただ面倒だったからでつね。許せないでつ)
孝はその40代の男性教師の後をつけ回し、階段を降りる際に背中から足蹴にした。教師は階段を転げ落ち、全身を打撲したようだった。
(逝ってよし)
大勢の生徒や教師達が集まり、救急車で運ばれていく様子を、孝はすぐ傍で間近に見ていた。誰も孝の存在に気付かない。孝は女子生徒たちに散々猥褻行為を働くと、腹が減ったので学校を出た。商店街でお菓子やインスタント食品を盗み、物陰に隠れて貪り食べる。食物が消化されるまでは人前には出られない。透明人間になった孝の唯一のウィークポイントだった。孝は女子トイレに侵入して、何も知らない女性がオシッコやウンチをする所を観察したり、美人の女を見つけると尾行して自宅を突き止め、勝手に上がりこんで、浴室や寝室などで、女性の生活を観察したりした。
(女が、こんなに頻繁にオナニーをするものとは思わなかったでつね)
今まで性体験どころか、女性と付き合ったことさえない孝には驚きの連続だった。

天野孝が透明人間になってから数週間が過ぎた。もともと引き篭もりだった、孝の行動は日に日に大胆になり、エスカレートして歯止めが効かなくなっていった。ある日、孝は産婦人科に侵入し、診察室で若い妊婦が大股を広げて診察される様子をのんびりと観察していた。何人目かで、20代前半のまだ少女っぽい雰囲気のする妊婦が、看護婦に案内されて診察室に入ってきた。
(キターッ!オイラの好みの若妻でつ!)
診察台に座り、両足を広げて下半身を剥き出しにした若妻は、妊娠5ヶ月の少し膨張した下腹部を孝の目の前にさらした。
「初産でしたね。お子さんは順調に成長していますよ。CTスキャンで確認してみましょう」
「よろしくお願いします。先生」
若妻の妊婦は可愛らしく微笑みながら答えた。
(相手が医者とは言え、知らない男にオマンコをさらして、恥ずかしくないのでつかね?それにしても産婦人科の医者はうらやましいでつ・・・よし、こうなったら、オイラも診察してやるでつ)

孝は妊婦に近寄り、オマンコに手を突っ込んだ。初産のためオマンコの入り口は狭く、なかなか奥に入らない。若妻はいきなりオマンコに異物感を感じて驚いていたが、何も見えないので、どう考えていいのか判らないようだった。
(ぬるぼ・・・なかなか入らないでつ。)
孝はムキになってグリグリと拳を押し込んだ。
「ひっ!」
さすがに若妻が悲鳴を上げた。
「どうかしましたか?」
医師が声をかける。
「い、いえ、別に・・・」
CT
スキャンが妊婦の下腹部をスキャンしていった。孝は、子宮のさらに奥に手を突っ込むことに夢中になっていて気付かない。若妻の妊婦は、声を出して騒ぐわけにもいかず、歯を食いしばって、下腹部に乱暴に押し入ってくる異物感に必死に耐えていた。
「なんだ、これは!」
CTスキャンの捉えた画像を見た医師が叫んだ。画像には下腹部に侵入している孝の手の骨の輪郭がうっすらと映っていたのだ。驚いた医師が、確認のために診察台の方に駆け寄ってきて、まじまじと覗き込む。若妻のオマンコは、孝の透明の腕によって奥の方まで押し広げられ、ピンク色の子宮の入り口までが剥き出しになって、ヒクヒクと蠢いていた。
「確かに、ここに腕の骨が・・・」
医師がつぶやき、孝は見つかった事に気付いた。
(あぼーん!まずい、逃げるでつ!)
孝は慌てて妊婦のオマンコから、愛液まみれの腕を引き抜くと、診察室から逃げ出した。

またある日、孝は衆議院本会議中の国会議事堂に侵入した。テロを警戒して恐ろしく厳重に警備されていたが、透明人間の孝には何の障害にもならない。
(ここは昔、小学校の頃、遠足で見学に来た記憶がありまつね。あの頃は、オイラにもリアルの友達がいたでつ・・・戻れるなら、あの頃に戻りたいでつ)
孝はセンチメンタルな気分に浸りながら議場へと入っていった。議場では内閣総理大臣をはじめとする各省庁の大臣達が、野党議員たちの執拗な攻撃を受けていた。
(ジジババがイパーイでつ。あまり楽しそうな所ではありませんね。おや、寝てるやつもいるでつ。この税金ドロボーめ!オイラが起こしてやるでつ!)
孝は、居眠りをしている議員達の頭をたたき、起こして回った。もっとも、引き篭もりのニートである孝は、生まれてから今まで税金など一円も払った事はない。
(オマイラの政治が悪いから、オイラは、いつまでたっても社会に出れないのでつよ!)何事にも無感動だった孝に、珍しく怒りの感情が湧いてきた。そうしている間にも、大臣達への質疑応答が続き、やがて一人の女性議員が代表質問へと立った。挑戦的な真っ赤なスーツを着たその女性は、日本女性新党の党首、千葉節子(41歳)だった。

(おや、美人の議員もいるのでつね)

孝は恐れ気もなく壇上へと上がって行き、間近でその女性議員を観察した。千葉節子は評論家出身の議員で、マスコミにも多く登場し、実年齢よりも10歳は若く見える抜群のルックスと、常にハキハキとした知的な答弁で、話題沸騰中の人物だった。数年前に立ち上げた日本女性新党は女性議員ばかりの政党で、現代社会における女性の権利を主張する過激なトークで世代を超えた女性票を集めていた。
「総理は、日本国民の人権を侵害するネオガイア星人との条約を撤回する意思はないのですか!」
節子は、声を荒げて総理大臣に噛み付いていた。総理大臣は宇宙人に降伏してからと言うもの、各分野での対応に追われ、やつれきっている。
「私は国民の安全と平和を守るために、彼らの申し出を受け入れざるを得なかったのだ。条約を撤回するつもりは、今のところ全くありません!」
総理の回答に野党議員たちから野次、ブーイングが飛ぶ。
「では、現に宇宙人の犠牲になっている国民に、政府として、今後どういった保障していくつもりなのか、御説明願いたい」
節子議員は引かなかった。
(生意気でつね、この女。なんとなく腹が立ってきたでつ!こうしてやるでつ)
孝は、質疑応答中の節子のスカートの下から手を入れ、パンティをまさぐって肛門に人差し指を突っ込んだ。

「うっ!」
節子は肛門に異物感を感じ、何が起こったのかのかと慌てた。しかし今は国会の代表質問中で、たとえ何があっても途中で中断することは出来ない。
「次に消費税の税率の件ですが・・・」
(なかなかしつこいでつね、この女)
孝は挿入した指で思いっきり節子のアナルをかき回し、指を引き抜いた。
(しまった、指の先にウンチが付いたでつ)
孝は黄色く汚れた指先を、必死で喋る節子の口元へと持っていき、唇に擦り付けた。
「ここに、道路公団が請求した予算の明細がありま・・・もごっ・・もごっ・・・」
節子はむせこみ、目を白黒させた。何が起こっているのか全くわからない。ウンチの香りが鼻孔を突いている。
「・・・失礼しました。道路公団の請求した予算の・・・」
孝は慌てている節子の様子が面白くてたまらなかった。そしてさらに、答弁中に尻に蹴り
を入れたり、顔面に平手打ちをしたりして楽しんだ。

 

第92話、祭り

 

さざなみ港の沖合いには20隻の宇宙艦が着水し、停泊している。いずれもネオガイア星宇宙軍に所属する大型戦闘艦である。さざなみ市を再占領し、日本政府を軍門に下したポセイドン提督は植民地総督府を再建したが、非常事態に備えて、決して自らの旗艦を離れる事はなかった。その旗艦の甲板上に日本政府の専用輸送ヘリが一機、舞い降りてきた。着艦したヘリから降り立ったのは外務省の随員を従えた日本の総理大臣だった。総理大臣はスーツ姿だったが、出迎えに来ていたポセイドン提督に、いきなり怒鳴られた。
「違う違う、そうじゃないだろう!何度言ったら判るんだ!会見に来る時は常に全裸で来るようにと通達してあるだろう。それにヘリから降りてもいいのは、お前一人だけだ!」
「わかりました。おっしゃる通りにいたします。提督閣下・・・」
総理大臣は、しぶしぶヘリに戻り、ネクタイを外してスーツとシャツ、パンツを脱ぎ全裸になった。そして外務省の随員達をヘリに残し、再び甲板に降り立った。
「そうだ。始めからその格好で降りればいいのだ。何度も同じ事を言わせるな。二度手間だろうが。あーん?」
総理大臣は老体をさらし、唇を噛んでうなだれている。照りつける猛暑の焼け付くような日差しが肌に突き刺さるように痛い。
(ううう。国辱だ・・・私はなんと言う時期に総理大臣になってしまったのだ。これでは、日本は諸外国の笑いものだ・・・)

総理大臣はアンドロイド兵士にこづかれながら、ポセイドン提督の執務室に通された。どかっと椅子に腰を下ろしたポセイドン提督の足元に、総理は全裸で、忠実な犬のごとく四つん這いで這いつくばる。
「服従の挨拶だ。舐めろ」
ポセイドン提督は総理大臣の鼻先に銀色のブーツを突き出した。総理大臣は観念したようにブーツを両手でささげ持ち、靴底に舌を這わせていく。4ヶ月前にネオガイア星人と不平等条約を結んで以来、週に一度はこうしてポセイドン提督のもとに、変わらぬ服従の誓いを立てに来ているのだ。
「総理、舐め方がうまくなったじゃないか。あーん?」
「おかげさまで・・・」
ポセイドン提督は、愛想笑いを浮かべる、総理大臣の顔面に靴底をグイグイと押し付けた。総理の顔が苦痛にゆがむ。
「どうした、痛いのか?」
「い、いえ、とんでもない。閣下の靴底を舐めさせて頂いて、光栄至極にございます」
総理は悲鳴を上げる事も出来ずに耐え抜いた。やっとポセイドン提督がブーツを離した時には、総理の顔面にくっきりと靴底の跡が、内出血した痣となって残っていた。
「ところで、総理。今日の用件だが、実は、もうすぐ我々ネオガイア星人の調査船が地球を再発見して依頼、ちょうど2年目になる・・・」
「はあ・・」
「そこで、盛大に記念式展を行いたい」
総理大臣にはポセイドン提督の言わんとしていることがよくわからなかった。
「それは、おめでたい事で・・・」
「そこで、お前達、日本人も国をあげて、我々の奴隷となったことを祝うのだ。つまり、この式典を通じて、ネオガイア星人に対する忠誠心を、日本人の民族意識に叩き込もうと言うわけだ」
「・・・」
「祭りは、さざなみ市と東京で、同時に盛大に行う。詳細は追って指示するがな・・・いいか、我々の奴隷となった喜びを、国を挙げて祝うのだぞ。名づけて『日本奴隷祭り』だ」
総理の顔が青くなった。そして、またふっかけられた無理難題を、国会で議員達にどう説明したものかと頭を抱え込んだ。

 

さざなみ市立総合病院の特別病棟は、急にあわただしさを増していた。数日前に植民地総督府より、『奴隷祭り』のパレードに参加させるためのキメラを大量に生産するように依頼があったのだ。戦火の影響が少なかったこの病院は以前と同じように、今も業務を続けている。ネオガイア星より赴任してきた院長のアルキメデス博士は、宇宙拷問協会のメンバーで、病院自体も現在は協会の管理下におかれていた。連日のように、さざなみ総合病院の全ての手術室はフル稼働し、拉致されてきた地球人とさまざまな動物とを組み合わせた獣頭人身の化け物が作り出されていた。
「お願い、助けて、あたし、こんな姿になるのはいや!」
手術室に運ばれた若い女が泣き叫んでいる。女子大生らしいその女は首から上をブルドックと入れ替えられようとしているのだ。
「うるさいっ、大人しくしろ。後がつかえているんだ。祭りの日までに人数を揃えなければならん!」
女子大生は無理矢理アンドロイドに押さえつけられて手術台に固定された。手術は主に、ネオガイア星人の医師と医療用アンドロイドによって行われ、もともと、さざなみ病院に勤務していた地球人の医師たちは、助手として手術を手伝っている。地球の医学しか学んだことのない彼らは、ネオガイア星の医療技術を習得しようと必死なのだ。手術台の女子大生は医療用アンドロイドのレーザーメスによって首を切断され、隣の手術台の、同じく首を切断された大型ブルドックの頭部と有機接着剤を使って付け替えられた。あっという間にブルドックの頭部を持つ人間と、人間の頭部を持つブルドックという、2体のキメラが誕生した。

「ガルルルルゥゥ」
目を覚ましたブルドックの頭部が牙を剥き出して吠えた。
「暴れると困る。ブルドックの頭部には、脳内コンピューターを埋め込んだ方がいいかもしれんな」
医療チームのリーダーであるネオガイア星人の医師が指示し、ブルドックの脳に、外部からコントロールをするためのコンピューターチップが埋め込まれた。
「女の方はこのままでいいだろう。どうせ、こんな姿じゃ何も出来ん」
医師は残忍な笑みを浮かべた。この医師も宇宙拷問協会から派遣されてきた医師なのだ。
「ヒイイイイッ!ウソよっ!こんなの現実じゃない、夢だわ!」
首から下がブルドックになった自分の新しい肉体を鏡で見せ付けられた女子大生はあらん限りの力で絶叫した。

 

ブルドック女子大生に続いて、さらに改造手術は続いた。頭部を、豚の頭と付け替えられた、ある30代前半のサラリーマンは、脳自体も入れ替えられ、人間の人格を持つ豚頭人身の怪物となった。また、ある20代前半の派遣社員のOLは、全身に数十匹の蛇を埋め込まれて、蛇女と化し、あまりの自分の肉体の不気味さと恐怖で泣き叫び。発狂寸前まで追い詰められた。このように次々とキメラが生み出される中、さざなみ総合病院の地下に設けられた大手術室では、今回の祭りの目玉となる御神体の製作が行われていた。
「血液型は、同じもの同士を集めるのだ。その方が、拒絶反応が少ない」
ここでは、院長であるアルキメデス博士自らが陣頭指揮を取っている。
「ご心配なく、全員血液型がA型の女性ばかりを集めてございます」
地球人の財銭教授が慇懃に答えた。もともと頭脳優秀な医師である財銭教授は、当初からネオガイア星人に積極的に取り入り、今、もっともネオガイア星の医療技術を早くマスターしている地球人医師の一人だった。大手術室には日本全国から拉致されてきた50人あまりのA型の女性が全裸で整列させられている。みな10代後半から20代前半の美形ばかりだ。

「今から、手術をはじめる。実験体の女達の内、20人に外をに向いて円陣を組み、がっちりと腕を組ませろ」
アルキメデス博士は助手達に指示を出した。指名された女達は恐怖にすすり泣きながらも、言われたとおり、押しくら饅頭のような体勢で円陣を組む。
「有機接着剤で全員の腕の接触面を接着するのだ。永久に離れないようにな」
アルキメデス博士の冷酷な言葉に女達の顔が恐怖に引きつった。しかし、アンドロイド兵士が銃口を向けているため、逃げたり抵抗したりすることは出来ない。地球人医師やネオガイア人の医師達は丁寧にブラシを使って女達の、隣の女と密着している部分の腕の皮膚に有機接着剤を塗っていった。この有機接着剤を塗ると、ほんの数分間で細胞同士が融合し、一体化して離れられなくなる。毛細血管や血管、動脈、静脈も繋がってしまうため、力づくで下手に離そうとすると、出血多量で死にいたる場合もある。助手達の作業が終わると、円形にスクラムを組んだ20人の女達は一つの生物と化した。
「残りの30人のうち20人は円陣の中に入って肩車をするのだ。なるべく大柄な女が土台になるのだぞ」

続けて出されるアルキメデス博士の指示で、まだ接着されていない20人の女が、癒着した女達の股下をくぐって円陣の中に入り、半分の10人の女が、残りの10人の女を一人づつ肩車した。そして肩車をした状態で、同じく有機接着剤で一生離れられないように皮膚を接着される。
「ようし、いいぞ。余った10人の女は飾りつけに使おう」
アルキメデス博士は芸術的なイマジネーションの喜びに浸っていた。接着されずに残った10人の女のうち、一番美人の女が先頭部分に突き出すように接着された。御神体のシンボルマークに抜擢されたのだ。残りはちょうど中央部分に塔のように四つん這いで人間ピラミッドを組まされ、一番上の女は逆さまにされて両脚を天に向けて突き出した状態で、土台の女に接着された。
「一番頂上の女は、常に両足を開いたり閉じたりするのだぞ。その方が、動きがあって見ていて面白い」
アルキメデス博士は完成した御神体を眺めて上機嫌だった。50人の女は融合し、一つの巨大な生物となったのだ。円陣の中で土台にされている女は肩にかかってくる重量と、周りの女の体温からくる、ムンムンとする熱気で、汗だくで苦痛に顔を歪め、怨嗟の声を上げている。その他の女達も、死ぬまで二度と肉体が分離出来ない事を説明され、絶望感にすすり泣いた。

『日本奴隷祭り』初日。改造人間達のパレードはさざなみ市の植民地総督府ビル前の広場を出発した。東京の国会議事堂までの150キロを数日間かけて行進するのだ。パレードが通る道路の交通は警察によって車両通行止めになり、沿道にはこの珍妙なパレードをひと目見ようと、大勢の見物客が全国から押し寄せた。もちろん全世界の報道機関によってテレビ中継され、外国からも観光客が集まっている。その中には日本を支配下においた宇宙人の情報を得ようとする各国の諜報機関員も、かなりの人数が入り込んでいた。
(なんてひどい事をしやがるんだ。これでは日本もおしまいだな・・・)
アメリカ人の観光客に化けたCIA工作員、リチャード・ファーマー(43歳)は心の中で毒づいた。しかし、顔の表情は一切動かさない。これまでも首から下を入れ替えられた夫婦をはじめ、ネオガイア星人の生体実験の餌食にされた犠牲者達を、数多く見てきている。同僚だったヘレン・マンスフィールドもネオガイア星人に捕まった後、生まれもつかない姿に改造され、そのまま行方不明になったと聞いている。
(宇宙人ども。やりたい放題出来るのは今のうちだ。合衆国では現在、宇宙人を撃退
するためのありとあらゆる可能性が模索され、準備がすすめられている)

リチャードが見物客に混じって考えにふけっていると、やがてパレードが行進してきた。先頭は、本場ブラジルから誘拐されてきた数十人のサンバダンサー達である。手首、足首、腰周りに派手な飾り物を付けていたが、乳房とオマンコは剥き出しで、絞り上げるように細いベルトが巻きつけられていた。そして全身に卑猥な刺青が彫りこまれている。やはりこれも全裸の音楽隊の、演奏にあわせて激しく踊る彼女達は、その肉体を、容赦なく撮影しようとする沿道の見物客のカメラやビデオカメラの前に、すすんで晒さなくてはならない。踊りながら、わざわざカメラの前に移動し、ポーズをとることを義務付けられている。「すげえ。こんなにいやらしい体を目の前で見るのは初めてだぜ」
「しっかり、撮っとけよ。ネオガイア星人サマサマだなあ」
自分達は被害にあっていない日本人見物客達は、島国根性丸出しで喜び、はしゃいでいる。今のところ宇宙人に誘拐され生体実験の材料にされる確率は、交通事故に合う確率よりかなり低い。サンバダンサーに続いて、動物の体と合体させられた改造人間達があらわれた。豚頭のサラリーマンや、蛇女のOL、ブルドック女子大生らも混じっている。人間の頭にブルドックのボディを持つブルドック女子大生は、首輪と鎖をつけられ、元のブルドックの頭部を持った自分の体に、引っ張られながら四足でチョコチョコ歩いていた。
「見ないでよ!見世物じゃないのよっ!」
ブルドック女子大生は涙ぐみながら、ゲラゲラと笑う沿道の見物客達に叫んでいる。
「そんな格好で何言ってんだ?どう見ても見世物じゃねえか!」
「ち、ちがうわ・・・あたし、人間よっ!」

ブルドック女子大生は鎖に引っ張られ、パレードの行進と共にリチャードの視界から消えていった。さらにパレードは人間馬車、軟体人間などが続き、最後に御神体が現れた。
(な、なんだこれは!)
さすがに冷静沈着なリチャードも悲鳴を上げそうになった。50人の若い全裸の女性を滅茶苦茶につなぎ合わせた、神輿のようなものが出現したのだ。全長10メートルほどのその物体からは無数の腕や足が伸び、さながら巨大な昆虫のようでもある。異形の体に改造された無数の女達の顔面からは涙が流され、真夏の直射日光に照らされて全身汗だくだった。水分の補給は全員に水を飲まさなくても、外側の数人に飲ませれば、癒着部分から血管が繋がっているために、全員に行き渡るようにはなっている。さすがに観光気分で囃し立てていた見物客たちも、度肝を抜かれて静まり返った。
「元の体に戻して・・・お願い、戻してくれたら、なんでもするわ・・」
「暑い、暑いのよ・・・でも離れられないの。あたしにも水を飲ませて・・・」
「いっそ、殺して・・・」
女たちが口々に怨嗟の声を念仏のように漏らしている。御神体の頂上では逆さまに接着された女の下半身がにょっきりと突き出し、白い足を開いたり閉じたりしてオマンコを晒け出していた。
(恐ろしい。なんて奴らだ。人間をオモチャだとしか思っていない・・・)
リチャードは込み上げてくる吐き気を必死にこらえた。

 

JAM航空のスチュワーデスである早乙女芹菜(25歳)と村上真知子(23歳)は、その日、非番だったため、連れ立って『祭り』の見物に出掛けた。JAM航空がネオガイア星企業の傘下に入り、乗客へのセックスサービスを強制されるようになってからというもの、疲労が以前にも増して激しくなり、二人とも、付き合っていた彼氏とも別れてしまって、今はフリーである。新宿のJAM航空本社近くの大通りはパレードの通過地点になっており、大勢の見物客がつめかけていた。屋台も多く出店されていた。
「おーい、そこのお客さん!女体ダーツはどうだい?」
中でもネオガイア星人の下請けで出店している屋台では珍妙な興行が行われていた。店主はどうみても日本人なのだが、植民地総督府の治外法権営業許可証を取得しており、コピーを店先に提示してある。つまり、このような店では日本の法律に縛られることなく、非合法な営業が自由に出来るのだ。その店の奥にはネオガイア星人に誘拐されて使い古されて、下取りに出されたヨーロッパ系の美女が大の字に貼り付けにされており、体にはマジックで丸い線が何重にも描かれ、得点が表示されている。すでに何十本もの矢がささった傷跡があり、おびただしい血が流れていた。
「スペイン人の美女を的に、人間ダーツをやってみないかい?」
「おもしろそうね」

真知子が興味を示した。最近、彼女は、仕事でかなりのストレスを抱え込んでいるようで、またとない絶好の鬱憤晴らしだった。
「いらっしゃい!お嬢さん達にはこっちの的の方がいいかな?」
屋台の店主が、店の奥にある別の的を指し示した。ハリウッドの映画俳優のような、白人の美男子が全裸で貼り付けにされている。
「フランス人のイケメン、ピエール君だ」
「あっ、あたしこれがいい、やるうう!」
真知子は興奮し、店主に500円玉を渡して、5本の矢を受け取ると、狙いをすませて次々と投げ始めた。
「チンチンに当てると大当たりだよ」
「あたし、絶対に当てるからね」
プスッ、プスッと金属の矢がピエールの下腹部周辺に突き刺さっていった。ピエールは歯を食いしばって恐怖と苦痛に耐え、悲鳴は上げない。
「えーっ!もう最後の一本なのぉ・・・」

真知子は深呼吸をして神経を集中し、今までよりも気合を入れて、力一杯投げつけた。風を切って飛んだ矢は、見事、ピエールの右の玉袋に突き刺さった。
「ギャーッ!」
ピエールは絶叫した。
「やったわ!芹菜」
真知子は歓喜して手を叩いて小躍りした。傍で見ていた芹菜は、さすがに的になっているピエールが可哀そうになった。突き刺さった矢のせいで彼の金玉は、使い物にならなくなってしまったかもしれない。
「一等賞だ、おめでとう!時価10万円のダイヤのネックレスをプレゼントだよ」
真知子は店主から賞品を受け取った。本当は原価200円のガラス玉のネックレスである。
「キャーッ、うれしい!」
大喜びする真知子とともに再び芹菜は『祭り』の雑踏の中を再び歩き始めた。

 

芹菜は人ごみの中で、ふと異様な音を耳にした。ギシギシという錆びた金属の擦れるような音だった。何気なく音のする方を振り返ってみるとボロボロのコートに身を包んだ浮浪者が体を引き摺るようにゆっくりと道路の片隅を歩いていた。金属音はその浮浪者が動く度に聞こえるようだ。
「どうしたの、芹菜?」
真知子は、ガラス玉のネックレスを首に巻いて有頂天になっている。
「なんでもないんだけど・・・」
新宿に浮浪者などいくらでもいる。だが、なぜか、芹菜はその浮浪者が気になり、立ち止まって、目で、その姿を追い続けた。
「あっ、あたし、あのクレープ食べたい。ちょっと買ってくるわね」
真知子が、クレープ屋さんの方に駆け出し、長蛇の列に並んだ。一方、芹菜が見ている浮浪者は、焼きぞばを販売している屋台の裏にこっそりと忍びより、残飯の入ったポリバケツを漁り始めた。
「こらっ!商売の邪魔だ。あっちへいけ!しっ、しっ!」
店主が怒りをあらわにして、犬でも追い払うかのように浮浪者を追い払おうとした。浮浪者は慌てて立ち去ろうとし、数メートル走った後、足がもつれて倒れた。ガシャンと金物が崩れるような音がし、はだけたコートの下から異様な金属の両腕と両足が、かい間見えた。

(な、なに、あれ?なんなの、義足??・・あ、あの顔、見覚えが・・)
垢と埃で黒ずんだ浮浪者の顔は、まだ若い女のようだった。
「工藤先輩?」
芹菜は倒れている浮浪者に駆け寄り声を掛けた。数年ぶりに自分の名前を呼ばれて見上げた浮浪者の女は工藤明日香(29歳、元JAM航空スチュワーデス、チーフパーサー)だった。
「だ、誰?」
「あたしです。早乙女芹菜ですよ。3年前、新人の時にお世話になった・・・」
「早乙女さん・・・」
明日香は思い出したようだった。明日香の顔面には無数の醜い傷跡が走り、唇の間からのぞく歯は、ほとんど欠けてしまっている。
「どうしたんですか?その体。いったい何があったのですか?」
「宇、宇宙人に誘拐されて、改造されたのよ。もうあたしの体は滅茶苦茶よ。生身の部分はほとんど残っていないわ・・・」
絶望に慣れた明日香は淡々と語った。芹菜は、明日香が2年前、シドニー行きのフライト中に乗客二人とともに機内から突然消失してしまった、ということは聞いている。

「宇宙人???・・・実は、あたし達の会社も今、宇宙人に乗っ取られて大変なんです」
芹菜はとりあえず、明日香を新宿のJAM航空本社ビルの近くにある自分のワンルームマンションに連れて帰ることにした。

 

5日間に渡る『日本奴隷祭り』最終日。隅田川で人間花火が盛大に打ち上げられた。はるばる、さざなみ市から行進してきたパレードも、本日、ゴールの国会議事堂前に、到着する予定である。河川敷にずらりと並んだ全裸の女体のオマンコとアナルに直径10センチの火薬入りの筒がねじ込まれ、はるか上空に向けて打ち上げられるのだ。打ち上げ台にされた女達は点火される際にその顔が、恐怖に引きつり、悲鳴を上げた。
「ひいいいいいっ!」
花火職人が、次々に導火線に点火し、女たちの絶叫とともに、花火が盛大に打ち上げられていく。この光景はテレビ局によって全国に向けて放送されており、お茶の間に流されていた。
「人間ネズミ花火だ!」
「きゃあああっ、熱いっ、熱いっ、早く、とってよおおおっ!」
全身に無数のネズミ花火を巻きつけた全裸の女が、熱さと恐怖のあまり、火花を散らし、キリキリ舞いをしながら河川敷を走り回っていた。
「ギャッハッハッハッハッ!」
堤防の上から見物客達が大笑いしている。同じ日本人であるのに、宇宙人の侵略を受けていることなどすっかり忘れ果てている。群集に紛れ込んでいる外国の諜報機関の人間達は、そんな日本の一般市民の様子を冷ややかに眺めていた。また、大気圏外から、大空に打ち上げられる花火や祭りの様子を、観察しているものもいた。
「地球人たち、やけに浮かれていやがる」

小型宇宙船のコクピットのモニターを眺めているのは宇宙人グレイの密猟者、ギ・アン・ガスとその仲間達だった。惑星ア・ムーで銀河警察に逮捕された後、刑務所での一年間の刑期を無事終了し、シャバに出て来たのだった。
「久しぶりのハンティングですね。隊長」
ゴ・オイ・モイはわくわくしているようだった。
「務所でのクローン人間の肉は、食い飽きましたからね」
その時、探知機器担当のグレイが報告をした。
「隊長、地表にネオガイア星人の大型戦闘艦、20隻を確認しました」
「なんだと、この惑星はグレイの自然保護地区だぞ!軍隊の駐留は協定違反じゃないのか?」
「まあ、我々も密漁者ですから、大きな事は言えませんが・・・」
「くそっ、さすがにこれでは手が出せん。最近、この宙域では、宇宙海賊との戦闘があったばかりだと言うし、銀河警察のパトロール艦が張っているかもしれん。」
「では、今回は、ハンティングはやめて置きますか」
「うん、そうだな、仕方がない。それにしてもネオガイア星人ども、浮かれやがって腹が立つ。そうだ、嫌がらせをしてやれ。例のものを地上に転送して暴れさせてやろう」
「例のもの?・・ああ、あれですか。面白そうです。やってみましょう」
グレイの密猟者達は地球人ハンティングが出来ないことに、心底腹を立てていた。

 

夜空に花火が打ち上げられ、ポンポンと小気味良い音が響く中、改造人間たちのパレードが新宿の大通りを千代田区の国会議事堂方面へ向けて練り歩いていく。ほとんど休息することもなく150キロを踏破してきたパレードの参加者達は、フラフラで憔悴しきっており、今にも倒れそうなものばかりだった。沿道の見物客たちは数日前からテレビ中継されている、御神体をひと目見ようとカメラ付携帯電話やデジタルカメラを持って、待ち構えている。そして、ようやくパレードの先頭が見えてきた時、突然、道路の真ん中に白い光輝が輝き、一体のサイボーグ戦士が実体化した。半分機械化された禍々しいその姿は、グレイの密猟者によって改造された、古代日本の英雄ヤマトタケルだった。以前戦闘で吹き飛ばされた下半身は、機械に置き換えられ、足の代わりにキャタピラが取り付けられている。まるで小型戦車のような形状だった。
『思いっきり暴れろ!浮かれている地球人とネオガイア星人どもに恐怖を与えてやるのだ!』
衛星軌道上からの司令に、ヤマトタケルはゆっくりと右腕を上げた。
「ロケットパンチ!」
肘の部分から腕が分離し、群衆の中に叩き込まれる。直撃を受けた見物客十数人が血反吐を吐いて薙倒され、たちまち辺りは大パニックになった。
「パルスレーザー!」
ヤマトタケルの体に埋め込まれた様々な武器が群集に向かって浴びせられる。パレードのサンバダンサーや改造人間たちも散り散りになって逃げ出した。

 

工藤明日香は早乙女芹菜のマンションでテレビを見ていた。お風呂で、芹菜に体を洗ってもらい、さっぱりしている。服も新しいロングコートを貸してもらい改造された痛々しい体を隠していた。芹菜はあまりにも惨たらしい明日香の体を見て気分が悪くなり、寝込んでしまっている。
「工藤先輩、これからどうするんですか?」
布団の中から芹菜が尋ねた。
「わからないわ。行くところもないし、こんな体では、仕事をすることも出来ない。かといって死ぬ気にもなれないし・・・」
「・・・・」
あまりにも変わり果てた明日香の肉体に、芹菜は慰めの言葉を思いつくことすら出来なかった。肉体の半分以上を機械化された明日香の体は、メンテナンスもなく、自力で動いているのが不思議なくらいだったのだ。
「もうすぐ、この体も動かなくなるような気がするわ。この頃、錆びがひどくって、だんだん動きが鈍くなってきているの」
「どこか、診てくれるお医者さんとか、いないかしら・・・」
「地球の病院じゃ無理だと思うわ。でも心配しないで、明日には出て行くから。やっかいをかけてごめんね、早乙女さん」
「そんな、遠慮しなくてもいいですよ、先輩。あたし、今、彼氏しないから、しばらくいてくれても・・・」
その時、テレビの画面にニュース速報が入った。

『たった今、入ったニュースです。祭りで賑わう新宿区の路上に突如、異様な物体が現れ、祭りに来ていた見物客多数を殺傷している模様です。犠牲者は数百人にのぼり、警察が制止に当たっていますが、混乱はまだ続いているそうです。では、現場からの映像を御覧下さい』
画面が切り替わり、映し出されたのは、逃げ惑う見物客を殺傷する、小型戦車のような戦闘用サイボーグ、ヤマトタケルの禍々しい姿だった。
「あっ、こいつは!」
明日香は叫び声を上げた。
(健吾を殺した奴だ!)
忘れたくても忘れる事は出来なかった。一緒に誘拐されて改造され、辛く苦しい戦いを幾度も共に戦った、最愛のサイボーグ戦士、中山健吾を殺した張本人だった。あの時の事は脳裏に焼付いている。明日香はすっくと立ち上がると、無言で芹菜のマンションを出ようとした。
「先輩、急にどこへ行くんですか?」
「ありがとう、早乙女さん。さようなら、もう会う事はないと思う」
「ちょ、ちょっと・・・」
明日香はマンションの階段を降りると、ポンコツのボディが許す限りの全速力のスピードで事件現場へ向けて走り出した。
(殺してやる!殺してやる!健吾の仇だ!)

 

事件現場では、警視庁の機動隊が出動し、逃げ惑う祭りの見物客達を、必死に避難誘導していた。ヤマトタケルに対しては、発砲許可が出され、SATがライフルで狙撃したが、ヤマトタケルの装着している超合金製の装甲服によって、弾が跳ね返され、全く歯が立たなかった。
「俺は、ヤマトタケル、大和の国の第二王子だ!蛮族ども、この神剣、草薙の剣で皆殺しにしてくれよう!」
わけのわからない事を口走りながら、ヤマトタケルは、キャタピラを軋ませて、群集の中を突進していった。本人は1500年もの間、冷凍保存されていたことに気付いておらず、グレイに催眠暗示をかけられ、錯乱した頭の中では、まだ大和朝廷のために、熊襲や蝦夷を相手に、征服戦争を行っているつもりらしい。ジュラルミンの盾を構え、ヤマトタケルの行く手を阻もうとした機動隊の列は、あっけなく跳ね飛ばされて蹴散らされ、小回りが利かないために、もたもたと逃げ遅れていた御神体が、格好の標的となった。
「そっちじゃないわ。右回りに回転してよ!」
「回転するのは時間がかかるのよ!それよりも、このまま後ろ向きに走りましょう」
「そんなの無理だって!」
「もう!どうしてみんなバラバラに動こうとするの!」
数十人の女で合成された御神体はパニック状態になり、統率された動きが取れずに、ただ口々にわめきながら、同じ場所で、無数の手足をバタバタさせているだけだった。

「キャーッ、あいつ、こっちに向かって来るわ!」
御神体を構成する一人の女が叫んだ。ヤマトタケルの右腕から発射されたロケットパンチが御神体に叩き込まれ、直撃をうけた部分の女の体が破裂して飛び散った。
「ぎええええっ!」
癒着した部分から全ての構成員に神経細胞も繋がっているため、一人が受けた苦痛は全員で味合わなければならない。内臓が破裂する、恐ろしい痛みに、御神体を構成する女全員が、断末魔のうめき声を上げた。
『そいつらは、この馬鹿騒ぎのシンボルマークのようだ。目障りだから、背中の大型ミ
サイルで一気に吹き飛ばしてしまえ』
グレイからの命令が、耳の後ろに埋めまれた通信機から聞こえた。ヤマトタケルは宇宙艦も一発で破壊できるほどの威力を持つ、背中の大型ミサイルの標準を御神体に向けた。
「助けてえええ!」
「あたし、まだ死にたくないよう!」
すすり泣く女達目がけて、ミサイルを発射しようとした瞬間、背後からガチャガチャと言う、ガラクタを引きずるような、けたたましい音がして、ヤマトタケルは振り返った。

「死ねええええ!健吾の仇ーっ!」
下半身が機械で、上半身が生身の明日香が、突進してきた。ロングコートは途中で脱ぎ捨て、グロテスクな体が剥き出しになっている。ヤマトタケルはとっさに防御しようとして体をねじり、ミサイルはあらぬ方向へ発射されて、高層ビルを破壊した。
「死ねっ!」
明日香は改造された右腕のマジックハンドで、ヤマトタケルを殴りつけようとしたが、装甲服に当たって、逆に、あっけなく折れ飛んでしまった。復讐の怒りに正気を失い、なおもヤマトタケルに体当たりをしようとする明日香は、あっさりとねじ伏せられ、地面に倒れたところを、キャタピラで轢き潰された。明日香の金属の左足はグシャッと壊れて、本物のガラクタになった。
『そんなガラクタ、放っておくのだ。シンボルマークの合成体が逃げていくぞ』
グレイからの指示でヤマトタケルは、御神体を再び追いかけ始めた。ようやく御神体の構成員達は同じ方向へ進むことに成功し、わさわさと無数の手足を動かして、遠ざかっていくところだった。数十メートルほど追いかけると、今度は、御神体とヤマトタケルの間に、事態を聞いて転送されてきたネオガイア製の戦闘用アンドロイド数体が立ちふさがる。ヤマトタケルは、アンドロイド部隊のレーザー銃による集中砲火を受けて、さすがに立ち止まらざるを得なかった。

『引き上げだ。戦力差がありすぎる。それに、もたもたしていると、銀河警察が来るかもしれん。俺達はシャバに出てきたばかりだから、まだ捕まりたくはない。さすがに今すぐ、刑務所に戻るのは御免だ』
ヤマトタケルの姿は出現した時と同じように、忽然と消えうせた。後には、無数の死体や負傷者、破壊された車や、割れたガラスの破片などが散乱し、惨々たる有様だった。左足を破壊された明日香も、立ち上がる事が出来ずに、道路上に横たわっていた。生身の上半身からはおびただしい血が流れている。
(ああ、あたし、このまま死ぬのね・・・やっと死ねるわ。健吾、死んだら、あの世でもう一度、あなたに会えるかしら・・・)
明日香が、ようやく訪れた平穏に、穏やかな笑みを浮かべ、そのまま、永遠の眠りにつこうと目を閉じた時、傍らに一人の男が早足に近寄って来て声をかけた。
「工藤明日香さんですね。私はCIAのリチャード・ファーマーというものです。あな
たを保護します。御同行願いたい。」
リチャードは、返事のないぐったりとした明日香の体を抱え上げると、近くの有料パーキングに止めてある、黒塗りのベンツの後部座席へと運び込んだ。

 

 

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